【感想・ネタバレ】太宰治全集(4)のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

きりぎりす
きーんとするくらいの純を求めて、純なるもの意外は全て偽物とした、徹底した無垢。妻から夫への手紙という形をとる事で、本人が希求する理想を説くのではなく、最も近い他人が弾劾する、厳しい眼差しで語られる。
最も無垢は希求するのではなく、あるがままにそこにある、というだけで、希求している時点で無垢ではない。(ドストエフスキーみたい。)ここでの無垢を、太宰は白痴と言ったりしますが。
私も、こんなきーんとした、穢れのない、白痴のような無垢に、ずっと憧れているのです。自意識、という、自分を保護し進歩させ、そして汚すものにずっと苦しめられてきた。
太宰の正直と徹底した理想主義であるが故の激しい自己嫌悪、自己嫌悪を通じた自己愛。こんな不器用な人間だから愛されるのだなぁと思います。

風の便り
2人の書簡を通して、木戸の欺瞞と井原の純を描いています。きりぎりすと同様に、生まれ持った無垢、無垢故の正しさを体現する井原に打ちのめされ、彼らしく前進に向かった欺瞞に満ちた自己愛の権化である木戸。最初から最後まで自己愛と欺瞞で埋め尽くされ、自己愛・欺瞞故のヒステリーが読者を苛立ちとそして甘い共感へ誘います。この甘い共感という欺瞞に多くの読者は苦しめられ、故に太宰を皆が愛す要因なのではないでしょうか。
1人の作家の全集を読み通すということはこんなにも面白いものかと感動しています。読み通すことで、作品誕生の文脈を理解し、作品自体への見方が変わります。人間失格は、私の人生の節目に読み返して、都度異なった目線や感情が生まれてきたものですが、この全集を読み通した先で人間失格を再度読んだ時、どんな感覚が生まれるのか、今からとても楽しみです。

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2024年04月28日

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