あらすじ
夜ごと火星に行く夢を見ていたクウェールは、念願の火星旅行を実現しようと、リコール社を訪れるが……。現実と非現実の境界を描いた映画化原作「トータル・リコール」、犯罪予知が可能になった未来を描いたサスペンス「マイノリティ・リポート」(スピルバー グ映画化原作)をはじめ、1953年発表の本邦初訳作「ミスター・スペースシップ」に、「非(ナル)O」「フード・メーカー」の短篇集初収録作ほか、全10篇を収録した傑作選
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Posted by ブクログ
「トータル・リコール」・・・クウェールがリコール社を訪ねて、架空の記憶パターン(火星に行った記憶)を植え付けようとする→事実であって、彼はインタープランの秘密捜査官として火星に行き、プロの殺し屋として一人の男を殺していたことを思い出す。
→記憶の上書きしようと再びリコール社へ。強烈な願望を満たすために、宇宙人が自分を気に入り、自分が生きている限りは地球侵略をしないと言ったことを植え付けようとするが、これも事実であり、思い出す。
→クウェールを殺せない。殺人光線の杖が見つかるのも時間の問題だ、、、。
「出口はどこかへの入口」・・・不思議な<大学>へ行き、自分自身の忠誠心を試される話。
→自販機でハンバーガーを頼んだボブ・バイブルマンは偶然政府の軍が運営する<大学>への入学権を得る。
→そこで軍の機密である「パンサー・エンジン」の設計図を発見する。
→設計図を世のために公開するか、それとも軍の規律に従うか。選択を迫られる。
→<大学>に尽くしたバイブルマンは<大学>の目的である「たとえ権威に逆らっても独立独歩で生きること」を外れたため、放校処分になる。
「地球防衛軍」・・・地下と地上。ロボットが本当の意味で「地球を防衛した」話。
→8年間、アメリカとソ連の間で核戦争が行われる。
→人間は地下。ロボットは地上で戦争をする。
→地上では実は戦争は起こっていなかった。
→地上に締め出された一部の兵士と主人公は、ソ連の兵士たちと一つの世界を作ろうとする。
「訪問者」・・・核により生物が変化し、原住民の人類がもはや「訪問者」になる話。
→戦争がおこり、核によって植物、動物、鉱物などに変化が起こる。
→旧人類たちは鉱山から続く地下の洞穴でちりぢりになり暮らす。
→捜索をするトレントはロケットを打ち上げて植民惑星に移住する旧人類のコロニーを発見。
→「これは彼らの惑星だ。われわれのものじゃない。」「いつかまた戻ってきたいな」「戻る?」「いや、訪問にきたい。いつかそのうちに」
「世界をわが手に」・・・世界球の中で自分の世界を作り上げていた世界が、誰かの世界であった話。
→異星人との接触、交易、文化的財産の交換などのスリルを夢見ていた人類は、太陽系のどの惑星でも、自分達以外に生命が見つからないことに人類は絶望。
→ひとつの惑星に縛られているという鬱憤を晴らすために、人々はワールドクラフト社が作った「世界球」を手にし、自分だけの世界を作る。
→しかし、それは進化に限界がある。人々の動きたい欲求は満たされず、世界球を作っては壊す狂気がうずまく。
→アークトゥルスの中にいる異生命体とコンタクトに成功。人類は世界球を投げだす。
「ミスター・スペースシップ」・・・脳を移植した宇宙船が<ノア>となり、新たな惑星で社会を作り上げるため脱出する話。
→「ヤク」と戦争をする未来。宇宙の防衛ラインで、ヤクは自ら思考を持ち、任意に爆発していた。それをかわすには、機械的な思考でなく、人間の無意識は反射が必要。
→恩師の脳トマス教授の脳を移植したクレイマー。宇宙船はトマス教授によって操作されることになる。
→知的能力が失われていないトマス教授の提案で、習慣として身につけている戦争から脱した世界に移住するため、惑星へ飛び出すクレイマーとドロレス。
「非O」・・・非Oと呼ばれる新人類が、宇宙の破壊をする話。
完璧に論理的な思考を持つ非Oと呼ばれる新人類は、「もの(オブジェクト)は存在しない」という理論のもとに爆弾を開発。すべてを還元しようとする。
→地下に人間が潜っており、地爆を爆発させるための塔に向かって侵攻。打ち合い、負ける。
→非Oたちは死にゆくレムを残し、いつか計画を完遂させることを誓い、宇宙へ飛び立つ。
「フード・メーカー」・・・テレパシーを持つ新人類からの侵略を防衛する話。
→隠し事が許されない社会。思考が走査される。
→ティープと呼ばれるテレパシーを持つ人々がマダガスカルの戦争で突然変異により生まれる。ティープたちにより、人類への侵攻が始まる。フードを持ってるだけで犯罪とする法案を提出・可決させようとする。
→「フード」と呼ばれる走査防御装置を開発するジェイムズ・カッターにより、ティープには子どもが生まれないことを突きとめる。政治が止まり、ティープは自殺。全滅する。
「吊るされたよそ者」・・・宇宙人の侵攻を受け、吊るされる話
→吊るされたよそ者を見たエドはびっくり仰天。だが、他の人たちは見向きもしない。こちらがおかしいと言わんばかり。
→実は地下に潜って家の基盤を作っている間に宇宙人が到来。街中の人々が乗っ取られていた。
→隣町に逃げ出すエド。助けを求めるが、実はその町はすでに乗っ取られていた。
→よその町で吊るされるエド。宇宙人が地球人を探し出す「おとり」として。そして、その町でまた正常な誰かが、吊るされたよそ者(エド)を見て、驚きあわてる・・・。
「マイノリティ・リポート」・・・1,2,3の少数報告。
見知らぬ退役軍人カプランを殺すと予言された犯罪予防局アンダートン。
→逃げ出す、最初の時間軸である「カプランを殺す」時間軸から脱出。第2の時間軸「少数報告があることに気づいて、殺人しない決意をする時間軸」に。
→しかしカプランはその情報を手に入れ、犯罪予防局を失墜させようとする。
→第3の少数報告の世界。「決意を翻し、カプランを殺す時間軸」へ。犯罪予防局を守ったアンダートンは、元部下ウイットワーの力により、地球外追放にまで減刑。妻リサとともに地球を後にする。
Posted by ブクログ
過去に何冊か読んだがあまり響かなかったようで、それっきりになっていた。映画『トータル・リコール』を再視聴しようとして序盤も序盤で気力が尽きたので、原作を読んでみることにした。
この選集に掲載された作品はほぼすべて全面核戦争中ないし後を舞台にしている。全面核戦争をテーマにした作品は1950年代にはすでに存在したことになる。
ゾーニングなどない喫煙がシーンに自然にまざっている。
そんな時代の空気を感じながら。
『トータル・リコール』△
邦題『追憶売ります』で発表されたが映画の原作となったことで改題された。寺沢武一の『コブラ』第一話のモチーフとなっているらしいことは聞いていた。その通りかもしれない。しかし、映画にせよコブラにせよ、引用した側が真摯であるように見えるのに比べて、原作はどこかおちょくってる感じがする。その由縁たる物語のマトリョーシカ構造も、ほうぼうで模倣されているように思う。
『地球防衛軍』◎
これは、以後のさまざまな創作の種本になったのではないか。
歴史のゴール。「われわれ」を示すものがひとつになること。アークナイツで繰り返し語られていること。
『訪問者』△
冒頭の防護服と酸素ボンベのイメージは、ボトムズを想起させるものがある。
ひょっとしたらナウシカにインスピレーションを与えたかもしれない。
『ミスタ・スペースシップ』✕
『歌う船』以前の頭脳船、R-TYPEの元ネタだろうか。
このオチはなんだ。反戦という主題が頭でっかちになりすぎたか。
『非0』✕
C爆、コバルト爆弾。1950年にレオ・シラードが想定した核戦争の最悪のシナリオの中に登場する。
共感能力を全くもたないとされる人々の集団が、なにかをなしとげるために協力しあえるのだろうか。
『フード・メーカー』△
『超人ロック』は超能力者への迫害が通底している。初期はおもにテレパシー能力由来だったように記憶している。特に重要なキャラでもないのに意味ありげに少女を連絡員や工作員として登場させたりとか。
ここに語られているティープすなわちテレパスは、現実の現在における利権にくいこむ人々を彷彿とさせる。当時からそのような人々は存在したのであろう。
"「だれか特定の人間が人類を導くべきじゃない。人類を導くべきは人類自身です」" p.323
超人ロックが信条とする「人類を導くのは英雄やシステムではない」に、一番似た言葉かもしれない。
『マイノリティ・レポート』◯
p.391 “閉じた時間の輪の中”
MAGIシステムの祖型が。タカシ、キヨコ、マサルの3人組は、ひょっとすると3人のプレコグ(予知能力者)から来てたりするのかな。男女比は一致する。
時間線という表現。
対中戦争。1950年代半ばにそういう想定があったのだろうか。
タイムループものではないが、それ系の用語が登場する。未来予知の話であるから。
Posted by ブクログ
“彼はめざめた——そして火星を恋い、その峡谷を想った。一歩一歩、足を踏みしめてその谷間を歩くのは、どんな気分のものだろう。意識がはっきりしてくるにつれ、しだいしだいに大きくその夢はふくれあがっていった。その夢、その憧憬。自分をとりかこんでいるその世界の存在さえ、実感できるような心地がした。(『トータル・リコール』より、p.9)”
ハマっていると言うほどでもないが、ここ数ヶ月ディックをよく読んでいる気がする。短編集初収録の3篇を含む、全10篇を収録。
表題作『トータル・リコール』が良かった。火星に行くことに憧れる会社員クウェールは、ある日リコール社を訪れる。夢が到底叶いそうにないことを悟り、それならばと偽の記憶を植え付けてもらうつもりだったのだが・・・。若干バカSFっぽい、とても愉快な作品だった。「現実と非現実」というディックが好むテーマも見える。
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