あらすじ
【本書の英訳『Mina’s Matchbox』が、
米『TIME』誌発表の「2024年の必読書100冊」
(THE 100 MUST-READ BOOKS OF 2024)に選出】
美しくて、かよわくて、本を愛したミーナ。
あなたとの思い出は、損なわれることがない――
ミュンヘンオリンピックの年に芦屋の洋館で育まれた、
ふたりの少女と、家族の物語。
あたたかなイラストとともに小川洋子が贈る傑作長編小説。
第42回谷崎潤一郎賞受賞作。
挿画:寺田順三
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昭和のあの頃…
小川洋子さんと同時代に生きた読者にとっては、昭和のあの頃を思いだし、とてもエモーショナルな気分になると思います。
Posted by ブクログ
宝塚の祖母の家には、暖炉や三角天井の屋根裏部屋や網戸にできる裏口や裸足で駆け回れるフカフカ芝生の広い庭があって大好きだった。庭には大きな桃の木と柑橘の木が植えられていて、夏休みに遊びに行くと桃の実には新聞紙を折った袋がかけてあり、柑橘の木にはアゲハの幼虫がいた。
父と母が離婚して、その家に行くことは許されなくなってしまったので、そんなことももうずっと忘れていた。でもこの本を読んで、その家で過ごした夏休みのことを鮮明に思い出した。
ミーナがベッドの下に書き溜めて隠したお話が、存外に暗いものだったことで、彼女が身近に死を感じていたのだと分かる。
朋子は「完璧な家」に「全員が揃う」ことが何より大切で、子供心に叔父さんの行動にストレスを感じている。
おばあさんは独りで日本に来たことで、家族が皆ナチスによって失われ自分だけ生き残った悲しみを抱えている。
叔母さんも、米田さんも、小林さんも、お兄さんも…
そういった各々の薄曇りを感じさせながらも、思春期の少女2人が1年間子供らしい伸びやかさで成長していくストーリー。一日が30時間くらいあったあの頃。
祖母の家を、大人になってストリートビューで覗いてみたら、平凡な家でささやかな庭だった。
それも何年か後には住宅地一帯が取り壊され、マンションになった。
でも朋子の記憶に鮮明に残るあの家のように、祖母の家とあの庭も、私の中に永遠に在り続ける…
何度も読み返したくなる一冊になりました。
Posted by ブクログ
川﨑秋子の「ともぐい」という全く正反対なような小説と並行して読んだ。この小説は井上ひさし曰く「関節外し」なストーリーだというのがまさにその通りで、こちらが勝手にハラハラする要素を見つけてもそこは完全に無視され、登場人物に悪い人は一人も出て来ず(敢えてあげるとすれば、米田さんの旅行券を盗んだ泥棒だろうか)、みんな個性的で優しくて、愛しいのだ、コビトカバまで。コビトカバに乗って通学するミーナを想像するだけで胸がキュンとする。いやミーナだけでなく、みなさんにお会いしたいです。そんな屋敷がもうないなんて。いや、初めっからなかったんやけど。