あらすじ
【本書の英訳『Mina’s Matchbox』が、
米『TIME』誌発表の「2024年の必読書100冊」
(THE 100 MUST-READ BOOKS OF 2024)に選出】
美しくて、かよわくて、本を愛したミーナ。
あなたとの思い出は、損なわれることがない――
ミュンヘンオリンピックの年に芦屋の洋館で育まれた、
ふたりの少女と、家族の物語。
あたたかなイラストとともに小川洋子が贈る傑作長編小説。
第42回谷崎潤一郎賞受賞作。
挿画:寺田順三
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Posted by ブクログ
小川洋子さんらしさはあるのだけど、今までに読んだ作品とは少し雰囲気が違う印象。ほかの作品で共通して感じるのは、薄暗くてどことなく埃っぽい空気感。『ミーナの行進』はもっと明るい陽だまりのなか、物語が展開していくようなイメージだった。
日本とドイツ、歳の近い2人の従姉妹(ミーナと朋子)、広くて豪華な芦屋の洋館。少女たちが一緒に暮らしたのはほんの1年にすぎないが、2人にとって忘れることのできない思い出になる。華やかな容姿を持つがなぜか家に帰ってこない伯父さん、一人でじっと何かに耐えるようにウィスキーと煙草を燻らせる伯母さん。双子の妹と家族を哀しい理由(ナチスの迫害)で亡くした過去をもつローザおばあさんに、洋館のことはなんでも把握しているお手伝いの米田さん、庭師でありコビトカバのポチ子のお世話係・小林さん。
ミーナと朋子はミュンヘンオリンピックを前にバレーボールに熱中したり、流星群を見るための初めての朝までの夜更かし、ポチ子との突然の別れや歳上の青年たちへの憧れの感情など、たくさんの経験を共にする。
2人の少女のただの冒険や成長の物語ではない、読み応えたっぷりで心が浄化される温もり溢れる物語という感じ。
Posted by ブクログ
宝塚の祖母の家には、暖炉や三角天井の屋根裏部屋や網戸にできる裏口や裸足で駆け回れるフカフカ芝生の広い庭があって大好きだった。庭には大きな桃の木と柑橘の木が植えられていて、夏休みに遊びに行くと桃の実には新聞紙を折った袋がかけてあり、柑橘の木にはアゲハの幼虫がいた。
父と母が離婚して、その家に行くことは許されなくなってしまったので、そんなことももうずっと忘れていた。でもこの本を読んで、その家で過ごした夏休みのことを鮮明に思い出した。
ミーナがベッドの下に書き溜めて隠したお話が、存外に暗いものだったことで、彼女が身近に死を感じていたのだと分かる。
朋子は「完璧な家」に「全員が揃う」ことが何より大切で、子供心に叔父さんの行動にストレスを感じている。
おばあさんは独りで日本に来たことで、家族が皆ナチスによって失われ自分だけ生き残った悲しみを抱えている。
叔母さんも、米田さんも、小林さんも、お兄さんも…
そういった各々の薄曇りを感じさせながらも、思春期の少女2人が1年間子供らしい伸びやかさで成長していくストーリー。一日が30時間くらいあったあの頃。
祖母の家を、大人になってストリートビューで覗いてみたら、平凡な家でささやかな庭だった。
それも何年か後には住宅地一帯が取り壊され、マンションになった。
でも朋子の記憶に鮮明に残るあの家のように、祖母の家とあの庭も、私の中に永遠に在り続ける…
何度も読み返したくなる一冊になりました。