あらすじ
学生時代はボランティアサークルに所属し、国内外で活動しながら、ある出来事で心に深傷を負い、無気力な中年になったみのり。不登校の甥とともに、戦争で片足を失った祖父の秘密や、祖父と繋がるパラ陸上選手を追ううちに、みのりの心は予想外の道へと走りはじめる。あきらめた人生に使命〈タラント〉が宿る、慟哭の長篇小説。
解説・奈倉有里
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
国際貢献のボランティアに打ち込むも、心が傷つき無気力となったみのりに、祖父の生き様が交差し、再び「使命」を見つけて行くお話。みのりの心理描写が丁寧で、とても文量が多いが、丁寧である分、読後の充実感が大きかった。
悩んで立ち止まるみのりと悩みながら突き進む玲、悩まず突き進むムーミンの関係が印象的。みのりと玲に亡くなったムーミンの声が降ってきて背中を押してくれるのは、二人の中にムーミンの純粋な「初心」が生き続けていたからかな。
また、各章に挟まれる清美の戦前戦後を生き抜く壮絶だけど素朴な描写が、陸が描いたものと分かる仕掛けには、陸の「清美の記憶を引き継ぐ」という素直な「タラント」が伝わってきて感動。
また時間を置いて読みたい一冊でした。
Posted by ブクログ
知られてないのが惜しいレベルで高評価な一冊。
あらすじはかつてボランティアに勤しんだ孫女のみのりと戦争に行き足と感情を失った祖父の清美と不登校気味な甥の陸が各々抱える悩みや過去が交錯しながら進むヒューマンストーリー。
ボランティアを「助ける側と助けられる側を無意識に線引きしてる」とか、救われる側はしおらしく弱者であってほしいという無意識な考えとか等身大だけどリアルな視点や物の捉え方にひとつずつ共感できる。善意には善意で返すという無自覚に信じているところとかハッとさせられる考え方を言語化してくれる一冊だった。
「この子は困難な立場にいるというだけで、私と隔たった世界にいるのではない。かっこつけたいし、写真にはきれいに写りたい。学校にいきたいのは勉強したいからではなく、サッカーがしたいからだし、殴られればムカつくが、だからといってどうすればいいのかわからない」このワンフレーズが印象的。海外で困っている人をどこかで線引きして、自分とは遠い存在、違うなにかと思っているが本当はそうじゃないこと。もっと普通に等身大の人だということを言い表しているのが印象的。
Posted by ブクログ
素敵な話だった・・・本当に好き。
何も話さない清美が内に秘めていた思いが
段々と分かってきて、最後は大号泣だった。
みのりと陸と清美と、それぞれの人生で重なる部分が
とてもうまく描かれていた。
みのりのような経験をした訳ではないけど、
共感できる部分があって、みんなそうなんだと 少し安心した。
Posted by ブクログ
自分が「何者にもなれなかった」と受け入れられたのは、多分30代後半くらいだったと思う。ちょうど、主人公みのりと同じくらいだろうか。
何者にもなれなくても、自分なりに頑張っているし、それなりに楽しく生きているから、それで十分というのは、ある種自分の負けを認めるようで、きっとなにかを受け入れるプロセスだったと思う。
身近なところに「何者かになった」人たちが(少なくともそう見える人たちが)いたら、それはもっと苦しいだろう。
地方から東京に出てくる人たちが、東京に行けば何かになれると思っているのを、東京出身者としてはずっとうっすらと苦々しく思っているのだけれど、その根っこには「ずっと東京で暮らしている私が何者にもなれていないんだよ」というコンプレックスがぐずぐずとくすぶっているのを知っている。
みのりはまさに、なにかを抱いて東京に出てきたタイプで、そこから、どう何者にもなれない自分と向き合って受け入れていくかというプロセスを踏んでいるようにも見えた。
かつて知り合いの知り合いくらいの人に「自分は地方から出てきて、東京に追いつくのに必死になっているのに、なぜ東京出身のあなたたちは、そんなに飄々と受け流しているのか」というようなことを言われたことがあるんだけど、最先端を追い続ける気力がないなかで、「飄々と受け流す」は一種の生存戦略なんだよと考えたのを思い出す。
だれもが最前線を切り拓いていくような生き方を求められるわけじゃない。自分に対して自分が持っているイメージと、自分が本当にできる範囲と、自分の気持ちのギャップをどう埋めていくかが、大人になることなのかもしれない。
目的に向けて努力できることも才能のひとつ。
やらない善より、やる偽善なんて言葉があるけれども、もやもやしながらも、ボランティアの方向に行動しているのはすごいし、最後うまくいかなくても一歩踏み出そうとしているのは、純粋にすごいなと思う。
Posted by ブクログ
星3.5
『タラント』という言葉の意味は物語の後半になってようやく出てくるがどこか掴みきれない感覚を持ちつつ読み進める。
物語のテーマはとても深く、祖父・清美の戦争体験や足を失ったこと、義足と共に生きる苦しさが描かれている。清美の心情には胸が締めつけられ、切なくて涙が出る場面が多かった。
主人公のみのりも、大学進学で上京したものの思うように馴染めず、そんな中で出会ったサークル活動にのめり込んでいく。ボランティア活動を通して難民キャンプを訪れ、これまで知らなかった現実や情景を目の当たりにする。
何か役に立ちたいと思うが故にみのりがやってしまった事に対する後悔だったり自分に対して失望する感じが痛いほど伝わってきて辛くなった。
読んでいて、自分自身も多感な時期に、身近な環境やメディアの中だけではない世界にもっと興味を持ち、知る機会があったなら、考え方や生き方が少し変わっていたのかもしれないと思った。同時に、世の中にはまだ自分の知らないことがあまりにも多いのだと思った。
そして自分のタラントは何だろうと。
長編で読破するまで時間がかかったけど久しぶりにちゃんと読書をしたという感じがした良い作品でした。