【感想・ネタバレ】タラントのレビュー

あらすじ

学生時代はボランティアサークルに所属し、国内外で活動しながら、ある出来事で心に深傷を負い、無気力な中年になったみのり。不登校の甥とともに、戦争で片足を失った祖父の秘密や、祖父と繋がるパラ陸上選手を追ううちに、みのりの心は予想外の道へと走りはじめる。あきらめた人生に使命〈タラント〉が宿る、慟哭の長篇小説。
解説・奈倉有里

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Posted by ブクログ

ネタバレ

国際貢献のボランティアに打ち込むも、心が傷つき無気力となったみのりに、祖父の生き様が交差し、再び「使命」を見つけて行くお話。みのりの心理描写が丁寧で、とても文量が多いが、丁寧である分、読後の充実感が大きかった。
悩んで立ち止まるみのりと悩みながら突き進む玲、悩まず突き進むムーミンの関係が印象的。みのりと玲に亡くなったムーミンの声が降ってきて背中を押してくれるのは、二人の中にムーミンの純粋な「初心」が生き続けていたからかな。
また、各章に挟まれる清美の戦前戦後を生き抜く壮絶だけど素朴な描写が、陸が描いたものと分かる仕掛けには、陸の「清美の記憶を引き継ぐ」という素直な「タラント」が伝わってきて感動。
また時間を置いて読みたい一冊でした。




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2026年05月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

知られてないのが惜しいレベルで高評価な一冊。

あらすじはかつてボランティアに勤しんだ孫女のみのりと戦争に行き足と感情を失った祖父の清美と不登校気味な甥の陸が各々抱える悩みや過去が交錯しながら進むヒューマンストーリー。

ボランティアを「助ける側と助けられる側を無意識に線引きしてる」とか、救われる側はしおらしく弱者であってほしいという無意識な考えとか等身大だけどリアルな視点や物の捉え方にひとつずつ共感できる。善意には善意で返すという無自覚に信じているところとかハッとさせられる考え方を言語化してくれる一冊だった。

「この子は困難な立場にいるというだけで、私と隔たった世界にいるのではない。かっこつけたいし、写真にはきれいに写りたい。学校にいきたいのは勉強したいからではなく、サッカーがしたいからだし、殴られればムカつくが、だからといってどうすればいいのかわからない」このワンフレーズが印象的。海外で困っている人をどこかで線引きして、自分とは遠い存在、違うなにかと思っているが本当はそうじゃないこと。もっと普通に等身大の人だということを言い表しているのが印象的。

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2026年02月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

自分が「何者にもなれなかった」と受け入れられたのは、多分30代後半くらいだったと思う。ちょうど、主人公みのりと同じくらいだろうか。
何者にもなれなくても、自分なりに頑張っているし、それなりに楽しく生きているから、それで十分というのは、ある種自分の負けを認めるようで、きっとなにかを受け入れるプロセスだったと思う。

身近なところに「何者かになった」人たちが(少なくともそう見える人たちが)いたら、それはもっと苦しいだろう。

地方から東京に出てくる人たちが、東京に行けば何かになれると思っているのを、東京出身者としてはずっとうっすらと苦々しく思っているのだけれど、その根っこには「ずっと東京で暮らしている私が何者にもなれていないんだよ」というコンプレックスがぐずぐずとくすぶっているのを知っている。

みのりはまさに、なにかを抱いて東京に出てきたタイプで、そこから、どう何者にもなれない自分と向き合って受け入れていくかというプロセスを踏んでいるようにも見えた。

かつて知り合いの知り合いくらいの人に「自分は地方から出てきて、東京に追いつくのに必死になっているのに、なぜ東京出身のあなたたちは、そんなに飄々と受け流しているのか」というようなことを言われたことがあるんだけど、最先端を追い続ける気力がないなかで、「飄々と受け流す」は一種の生存戦略なんだよと考えたのを思い出す。

だれもが最前線を切り拓いていくような生き方を求められるわけじゃない。自分に対して自分が持っているイメージと、自分が本当にできる範囲と、自分の気持ちのギャップをどう埋めていくかが、大人になることなのかもしれない。

目的に向けて努力できることも才能のひとつ。

やらない善より、やる偽善なんて言葉があるけれども、もやもやしながらも、ボランティアの方向に行動しているのはすごいし、最後うまくいかなくても一歩踏み出そうとしているのは、純粋にすごいなと思う。

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2026年03月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

角田光代の『タラント』を読み終わった。

最近の私は、仕事に対する情熱や目標を見失っている。決められた役職で、やらなければならない仕事を日々繰り返す。以前は情熱や目標があり、自分から会社の将来像をイメージし、それに向かって進んでいるような感覚があった。

けれど今は、日々の納期や突発的な仕事に追われ、スケジュールを組み、生産性やタイパを意識する。人間関係のもめごとやトラブルへの対応にも疲れてしまい、すべてがどうでもよくなってしまうこともある。

役職を降りようか、仕事を辞めようか。そんなことを考えているときに出会ったのが、この本だった。

主人公のみのりに、今の自分を映しているような感覚があった。もしかすると私は、みのりのストーリーの中から、今の自分がこれからどうすればいいのか、その答えを探していたのかもしれない。

みのりは高校生の頃、特にやりたいこともなく大学へ進学する。そこで同じ寮に住む市子と出会い、ボランティアサークルに誘われる。そのサークルでは、貧困国や発展途上国へ行き、ボランティア活動を行っていた。

そこからみのりは大学卒業後も海外へ行き、視察やボランティアを続ける。友人たちも、写真を撮ったり、本を出版したりと、学生時代の活動の延長線上にあるような仕事をしていく。

しかし、海外でのトラブルや同僚の死をきっかけに、みのりは海外へ行くことをやめる。実家のうどん屋に戻り、店を手伝いながら数カ月間、東京を離れて過ごす。その後、結婚し、お菓子屋で働くようになるが、そこでもあまり大きな役割を背負うことをためらっている。

そんなみのりの祖父・清美は、戦争で片足を失った元・高跳びの陸上選手だった。みのりがその事実を知るのは物語の後半になってからだ。

そして、祖父・清美の存在や、清美へ毎月手紙を送り続けていたパラアスリートの涼花との関わりを通して、みのりの意識が少しずつ変わっていく。

「タラント」という言葉は、才能という意味を持つ。

ただ、それは他の人より優れているもの、特別な能力という意味だけではない。ほんの少し、自分の中にある、他の人よりまさるもの。それを誰かのために使ったり、自分自身の人生の中で生かしたりすることなのだと思う。

みのりは、涼花の影響から義足に興味を持ち始める。夫にそのことを話すと、何かに挑戦することはいいことだと受け止め、夫自身も韓国語を習おうかと思う。

何かを始めることには勇気がいる。

ましてや、一度挫折を経験したあとならなおさらだ。年齢を重ねるほど、失敗することが怖くなり、余計に新しいことへ挑戦しなくなる。

だからこそ、この本に出てくる「挫折したら残念会をして、また何かを始めればいい」という考え方が印象に残った。

何かを始めるときのハードルを、ぐっと下げてみる。

大きな目標を掲げなくてもいい。成功しなければならないと思わなくてもいい。ただ少し興味があるからやってみる。それくらいでいいのかもしれない。

私自身、今は仕事に対する目標ややる気を失っている。

そんな自分に対して、祖父・清美の「ぼーっと外を眺めればいい」という言葉が残った。

眺めるだけでいい。

そこには、「何かをやらなければならない」「何かを成し遂げなければならない」「こうしなければならない」という縛りは一切ない。

疲れたら休めばいい。
嫌ならやらなくてもいい。
やりたいことが見つかったら、ハードルを下げて始めてみればいい。
挫折してもいい。
迷ってもいい。

今の自分を、そのまま受け入れていい。

そんな生き方でもいいのだと、この本に教えられた気がする。

今はまだ、仕事に対して「ぼーっとする」時期なのかもしれない。

目標がなければいけないわけでもない。
何かを成し遂げなければいけないわけでもない。
無理に次の目標を探す必要もない。

これまでの私は、「次は何をするのか」「どこへ向かうのか」を考え続けてきた。でも今は、次のやりたいことが見つかるまで、ただ今の自分を受け入れて、ぼーっとしていてもいいのかもしれない。

そして、少し休んで、何かを始めたくなったときには、そのハードルをできるだけ低くして、一歩だけ踏み出してみる。

挫折しても、また残念会をすればいい。

今すぐ答えを出さなくてもいい。

この先、また自分が「やってみたい」と思えるものが、自然と出てくることを期待したい。

『タラント』は、何かを成し遂げるための本というより、何もできない自分を許し、立ち止まることも人生の一部なのだと思わせてくれる一冊だった。

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2026年09月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

星3.5
『タラント』という言葉の意味は物語の後半になってようやく出てくるがどこか掴みきれない感覚を持ちつつ読み進める。

物語のテーマはとても深く、祖父・清美の戦争体験や足を失ったこと、義足と共に生きる苦しさが描かれている。清美の心情には胸が締めつけられ、切なくて涙が出る場面が多かった。

主人公のみのりも、大学進学で上京したものの思うように馴染めず、そんな中で出会ったサークル活動にのめり込んでいく。ボランティア活動を通して難民キャンプを訪れ、これまで知らなかった現実や情景を目の当たりにする。
何か役に立ちたいと思うが故にみのりがやってしまった事に対する後悔だったり自分に対して失望する感じが痛いほど伝わってきて辛くなった。

読んでいて、自分自身も多感な時期に、身近な環境やメディアの中だけではない世界にもっと興味を持ち、知る機会があったなら、考え方や生き方が少し変わっていたのかもしれないと思った。同時に、世の中にはまだ自分の知らないことがあまりにも多いのだと思った。
そして自分のタラントは何だろうと。

長編で読破するまで時間がかかったけど久しぶりにちゃんと読書をしたという感じがした良い作品でした。

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2026年05月28日

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