あらすじ
なんとかウミガメの卵を孵化させ、自力で育てようとする徳島の中学生の女の子。老いた父親のために隕石を拾った場所を偽る北海道の身重の女性。山口の島で、萩焼に絶妙な色味を出すという伝説の土を探す元カメラマンの男――。人間の生をはるかに超える時の流れを見据えた、科学だけが気づかせてくれる大切な未来。きらめく全五篇。
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伊与原新さんのハートフルストーリーですね。
五篇の登場人物にとって、生涯忘れることの出来ない感動の出会いと成長のドラマですね。もちろん科学を絡めて、より深く物語を飾っています。
伊与原新さんの作品としては、かなり重い感じの構成ですが、主人公の感動を受け止める心理描写を考えると、読み手の共感が寄り添うようにつかめます。
科学が自然に伝わりますね。
目次
夢化けの島
狼犬ダイアリー
祈りの破片
星隕(ほしおつ)駅逓(えきてい)
藍を継ぐ海
伊与原新さんは、純文学に近くなってきていますね。この本に科学者は出てきません。研究者や工芸家などで知識人が物語を補佐しますが、主人公の理解と疑問に答えたりして、物語の重要な登場人物になります。あくまでも感動の人情、成長物語が主要な作品になります。
直木賞受賞の作品として、確固たる深みのある文学作品ですね(=゚ω゚=)
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直木賞受賞作、作者は知っていた。知ってはいたが、初読み。科学物と聞き、読むのを躊躇していた。
しかし、読み易い。科学なのに読み易い。
どの短編も興味深い。
表題の「藍を継ぐ海」から読んでしまった。アカウミガメの話。ずっと赤ちゃんカメが海に向かうのを見てみたいと思ってきたが、本を読んで、やめておこうと思い直した。一生懸命生きようと努力している姿を興味本位で見てはいけないと思わされた。生きてほしい。どこの国の海でも構わないので、生き抜いてほしい。
同じように命を繋ぐ話「狼犬ダイアリー」ニホンオオカミは100年以上前に絶滅したと言われているが、紀州犬とのハイブリッドがいるかもしれないという話。いい!ロマンだ。オオカミと人間は似た者同士だそう。社会性に富み、用心深いが好奇心旺盛。狼混として生きる。一人でいたいときはオオカミとして、寂しくなったり、行き詰まったら犬になる。
「夢化けの島」は萩焼、伝説の土を探す男性。
「星隕つ駅逓」隕石をさがす人々に拾った場所を偽る女性。
とさがす、の2編。
「祈りの破片」は長崎役場の住宅係が空き家から光が見えるので、確認してほしいとの依頼を受ける。調べていくうちに被爆した石や金属を集めていた人の家とわかる。
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第172回直木賞受賞作。
「夢化けの島」「狼犬ダイアリー」「祈りの破片」「星隕つ駅逓」「藍を継ぐ海」の5編。
科学的な知見と舞台となる土地の歴史を融合させる中で、主人公となる人物の心情の変化を描いた見事な短編集。
ベースとなる科学的な事象が単にアイデアとしてあるのではなく、物語の核となり、希望や勇気を与えてくれるものになっていることが素晴らしい。また、舞台となる土地は、長崎以外は過疎と言われるようなところだが、その歴史を掘り下げて丹念に描いており、思い入れも感じられる。
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伊与原新さん初読。伊与原さんが膨大な労力を費やし、一話を執筆されたのだろうと感じた。おのずとじっくり時間をかけて読んだ。
どれも短編におさまらない熱量で、物語のその後に想いを馳せる。
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短編集なのにものすごく読み応えがあって、とてもおもしろかった。一つひとつの物語が心に響くだけでなく、専門的な知識もわかりやすく織り込まれていて、読んだ後の満足感が凄い。私の中の今年のBest5に入ること間違いなし。
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直木賞受賞、短編五編
萩焼、狼犬、原爆遺物、隕石、アカウミガメ
それぞれ失われゆくはかないモノにまつわる人を描いている。
地球衛星科学専攻という著者の背景を見てテーマについては納得。そこに人に対する温かな眼差しと信頼が加わり、心地よい。
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短編集だが、どの章も緻密な取材をされて、じっくりと作品に向き合われたのだろうと確信できるほど、濃密な物語が綴られていた。
長崎の話では浦上天主堂が当時の人たちにとってどんな存在であったのか、知ることができた。
また、北海道にある遠軽を舞台にした物語も、へき地の郵便局や親子の絆が描かれていて、胸が熱くなった。
そしてタイトル作の藍を継ぐ海は、なんて感動的な話だったことか。
亀も人間も、好きな所で、気に入った場所で生きればいい、という言葉は、とても重く胸に響いた。
ふぁぁぁ、なんて綺麗なお話なんだろう。いつも読んでる本よりは専門性がちょっと深くて、素人にはいまいちピンとこない部分もあったりしたけど、専門家やその道のプロやそれを愛する人たちの真っすぐな気持ち、熱意がよく伝わってきて胸が震える。たとえ利益などにならなくても、ずっと心の中にあって夢中になれて、時に自分を支えてくれたり突き動かしてくれる原動力になったり、そんなものがあるってすごく幸せだなあ。
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第172回直木賞受賞作。5つの短編からなる本作品。直木賞受賞作であり短編なので、伊予原さんの作品の魅力がぎゅっと詰まっているのだろうなと楽しみにしていた作品。
『夢化けの島』。舞台は山口県萩市の離島、見島。日本海に浮かぶ島。久保歩美は32歳の大学理学部地球科学化で助教。専門は火成岩岩石学。大学から研究を続けて10年になる。根っからの研究者という感じ。苦労もあるだろうけれど楽しい方が大きいのだろうな。明るく前向きな中心人物。見島には毎年岩石を調べるために訪れている。
渡船の中で出会ったのは三浦光平。光平はかつての萩焼に使われていた見島土を原料とした作品を作っていた登り窯を探していた。そのことを歩美は知らない。互いの存在を気にしながらも時は流れていく。しかし、それぞれが探求しているものが見島にあるため、再会することになる。追い求めているいるものが違うけれど、探しているものが同じ見島にあるというところに、巡り合わせを感じるな。
互いの状況や追求心が分かるようになり、自然と尊重し合うようになるところも自然な感じがする。光平がそこまでして登り窯を見つけたかった理由も明らかになっていく。自分が何者なのかは、自分が純粋に好きなものに出会った時に分かるのかも。そんなことを歩美と光平の姿から思う。二人が見つけたものは、未来に繋がっていきそうなものだった。よかったなという思いに満たされた。
『狼犬ダイアリー』。舞台は奈良の山奥、東吉野村。登場人物は、盛田夫妻と一人息子の拓己と紀州犬のギンタ。盛田夫妻の離れに移住してきた30歳、フリーランスのWebデザイナー、まひろ。東京での仕事や人間関係に苦しみ、身寄りのない奈良の山奥、東吉野村へ。それは、自然豊かな村に居ながら自分の求めるWebデザイナー関係の仕事をすることに希望が持てたから。
拓己が見たという狼は、村では昔からその存在を言い伝えられていたが、実際に見た者は少ない。伝説的な生物ということ。各地にありそうな話。初めて知る内容もあり、物語でありながら知識が増えていく感じがする。これも伊予原さんの作品の魅力だろうな。
拓己とまひろは狼が出たと言われる場所に確かめにいく。ギンタを連れて。そこからは、緊迫した場面が続く。実際に目にしたものの正体も明らかになり、そこには古くから言い伝えられている話も加味されて、ファンタジーとも伝説とも感じる内容になっていく。実際に目にしても、それが何であるかは判明できないのが自然の魅力であり、生物の進化なのかも。そんな思いも膨らんだ。まひろが未来に向けて前向きな気持ちになっていく姿が心地よい。
『祈りの破片』。舞台は長崎県長与町田之坂郷。長与町役場の都市計画課住宅係の小寺。空き家対策の担当。現代社会の問題とつながる。小寺は一人で担当していたため、ゴールの見えない難しい仕事に取り組んでいた。疲れてもいた。
そのような中、田之坂郷の住民から、空き家に青白い光が灯り、怖いので調べて欲しいという相談が寄せられる。小寺が警察官と一緒に、その空き家に入り見たものは、敷き詰められた原爆による遺物だった。焼けた石やガラスなどの遺物と共に収集の記録ノートが見つかる。そこには、びっしりと日付や場所、気づきが記されていた。被爆地である長崎の惨状を思い浮かべる。私の想像では及ばない惨状があった。
小寺の丁寧な調べにより、この記録をとった者が判明する。加賀谷昭一。加賀谷は浦上天主堂周辺の遺物を多く収集していた。爆心地に近く完全焼滅していた。貴重な遺物になる。当時の様子の想像は難しいが、それでも遺物を集めていた加賀谷の思いや願いを想像する。何もなくなった長崎の街。焼かれて遺った物を集める意味。
そこから、新たな登場人物、望月英二神父につながる。被爆当時に浦上天主堂で出会った二人だから遺せた物なのだろう。出会いの意味を思う。出会うべくして出会ったように思う。平和への祈りは、こうして語り継がれる。そんな気持ちになる、ずしりと胸に響く物語。
『星隕つ駅逓』。隕石と郵便局の前身でもある駅逓の話。主な輸送手段が列車だった時代に、駅舎には荷物や郵便を運ぶ人がいて駅逓と呼ばれていた。車がなかった頃は歩いて配達していたという。そんな時代背景を想像しながらの現代の物語。
信吾は郵便局の配達員。結婚して十年、妻の涼子は初めての出産をひかえていた。幸せが伝わってくる。舞台は北海道遠軽町。妻が勤めている宿泊施設に、榎田が仲間と共に隕石を探すために泊まっていた。火球を見たという情報が複数あったためだった。隕石が落ちるということは滅多にないこと。だから、研究者たちにとっては探究心が高まるのだろう。この話の中で、発見された場所と地名、北海道の歴史、駅逓の役割などが絡み合う。その構成は、昔話の中に吸い込まれていくような感覚だった。そして、幻想と現実が重なり合うような不思議な感覚になっていった。
さらには、涼子の父、公雄は野地内郵便局の局員を務め、定年を迎えようとしていた。それに伴い、郵便局は閉鎖。前身の駅逓に勤めていた祖父から三代続いた仕事だった。その感慨が伝わってくる。また、妻を亡くしていたため、生活への意欲が失われていた。自分のモチベーションの元となるものを失うことは、生活への影響が出るだろう。それを心配する涼子。
涼子が隕石を発見した際の行動は、父を思っての行動ではあったが、信吾は心配しその行動を改めさせる。涼子の体を心配しながらも、信吾のまっすぐな信念も感じる。それぞれの思いが通じ合うには、やはり思いを伝え合うこと、そして正直に素直であることが大切なのだろうな。そんな様子を星は見ているのかも。
『藍を継ぐ海』。この物語の藍とは、黒潮の色のこと。ウミガメの道のようなもの。沙月は中学2年生。舞台は徳島県阿須町の姫ヶ浦の海岸。アカウミガメの産卵地。沙月はウミガメの巣穴から4個の卵を掘り起こし、家に持ち帰った。私の中で動揺が広がる。そして、この行動には深い理由があったことが分かる。やってはいけないことをする沙月の背景には、沙月にとって厳しい家庭環境があった。だとしても、卵を持ち帰っていいとはならないけれど。
そのような中、沙月にとって頼りになる存在もあった。70歳をこえているこの浜のウミガメ監視員の佐和。沙月にとってはこのまちで暮らす大きな支えとなっていた。沙月の姉、未月は8歳年上。18歳で家を出た。それから沙月は祖父の義雄と二人暮らし。そこへ、カナダからティムが訪れる。カナダで見つけたタグ付きのウミガメに関することを調べに。このことが、沙月や佐和の過去とつながっていく。
沙月の願いは純粋だからこそ、切ないし危うさもはらんでいる。そんな沙月に寄り添う佐和の存在はとても大きい。沙月自身の選択で、自分の未来をつくっていってほしいな。そんな期待と願いが私の中に膨らんだ。
どの作品も、そのまちと自然と人が織りなす世界へ導かれた。行ったことのないまちの雰囲気や景色が、私の想像の中で色鮮やかに描かれていく感じ。伊予原さんの作品の魅力とおもしろさが詰まった一冊だった。
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いつも全く知らない分野の知識にも触れられるし
そこから学び取る生き方への優しい着地が
伊予原さんの作品は素晴らしく
また次も読みたくなる。
心癒されます。
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なんと美しい景色の浮かぶ物語たちか。森の中の朽ちた登り窯。山の斜面に立つ狼犬。白い波頭に藍の海。この人の本はいつも私に画像を思い起こさせる。地元だから方言とかもあってなおさらかな。旅に出たくなった。
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5篇ともストーリーがわりとおもしろかった。
どこで科学に結びつくのかな?と思ったら、自然な感じで物語に組み込まれていて、生活の中に科学があふれているんだなと感じた。
表題作の「藍を継ぐ海」の沙月が海ガメを育てたい理由が心に沁みた。
泣くほどではないけど全部いいお話。
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5つの短編集。どれも、実際の土着の忘れさられた言い伝えから、真実を探そうとする若者の物語。瀬戸内、東北、北海道、山に海に舞台は異なり、登場人物たちの言葉や生活から、その土地の空気感も感じられるような...そこに若者のひたむきな思いがのせられて爽やかな余韻が残る。
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史実を元にしたフィクションとのことだが、短編のそれぞれが本当のことと思わせるようなリアリティがあった。特に「祈りの破片」は良かった。
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優しい話の短編集。穏やかな気持ちになった。表題の作品はウミガメ保護の海岸を舞台にしたお話で心を揺さぶられた。都会から離れた海辺の町でたくさんの優しい人たちが周囲にいる、でも置いていかれそうで不安にもなる・・少し切ないけどそれぞれが生きている道が見えるような作品だった。
Posted by ブクログ
初めましての作家さん。
読み始め、肌感合わないかも?短編集で良かったな、、と思ったのが良い意味でハズレ、作家さんの熱量や新しい知識に触れるたびに引き込まれ、短編集だけど、総合的に一冊の作品となっていて素晴らしかった。
巻末の参考文献からもわかるように、とても綿密に描かれたもので、その探究心や努力に圧倒された。
作者の熱量で、実際にいろんな方の協力を得られ、より良い小説となったかと思うし、それがキャラクターにもよく現れてた。
本来は、感情を揺さぶられる小説が好きだけど、新しい知識として得られる小説も、やっぱり読んで良かったと思える一冊でした。
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萩焼、狼犬、空き家、ウミガメ、隕石……
離島や郵便局が閉局を迎える町など、北海道から九州までを幅広く舞台にした短編小説。
決して一章一章は繋がってないけど、どこか懐かしく、ちょっと窮屈で、ゆったりと時間が流れるまちの様相はみんな共通。
焼物の歴史や原爆の話など踏み込んだ部分もあるけど、とっつきにくさはなく、読みやすかった。
小さな謎や強い思いが、周りを巻き込んだり、時を越えながら紡がれる物語。
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まず、いつも思いますが、伊与原さんは日本語が上手い。そして、伊与原さんの作品は、押し付けがましくないけど、ホッコリ希望が出てくる、というそのバランスの薄味的なところが何とも言えず好きですが、本作品は、少し味付け薄めすぎかなぁ。自分の心境のせいかもしれませんが。。。でも、今回もサイエンス知識の勉強にもなったし満足です。
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直木賞受賞作が短編集だったことに驚いた。
いろんな土地が舞台となっているが、そのどれもが著者の出身地かと思うくらい重厚に描かれていた。
科学要素が多めでも、人間模様がしっかりメインになっているので、物語としても魅力的。
どの科学もほどよく、難しすぎず知識としても楽しめた。
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「祈りの破片」が沁みた。
爆心地の焼けた破片を拾い続けた男の話。
後世に残したいというより、自分の探究心から出た行動のようで、結局貴重な遺物となる。
それは、焼けてしまった人々の、焼けずに残った破片に託した祈りでもあったのか。
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audibleにて。
短編集で、本の題名はウミガメにまつわる最終話のタイトルが付いていていますが、「海」よりも「土」、「岩」、「土地」といったキーワードの話の方が多かったように思います。
どの話も、煌びやかで惹き込まれる話というよりも、どちらかというと土や岩のように、一見地味で目に留まらない話を、ハンマーで石を割り、顕微鏡越しに成り立ちや変遷を読み解くような、そんな温かみのある話が多く、読んでいて落ち着く本でした。
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この本をどう評価するのか?読みやすくはある。物語一つ一つにキーワードとなる専門用語?が出てくる。それが読者には新鮮なのだけれど、ちょっと難しいな?
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全体的に説明描写が多かった印象。自分には内容が難しかった。前回読んだ「月まで三キロ」は人物の気持ちと説明、それぞれの描写が半々くらいの割合で読みやすく、響いた言葉がいろいろあったけど、今作は難解でした( ・-・̥ )
でも、難しい科学の話を小説としてここまで緻密に盛り込み、描くことができる伊予原さんの表現力には驚かされるばかり!また他の作品も読んでみよう。
Posted by ブクログ
直木賞受賞作、の帯を見て読んでみました。
私にはあまり刺さらなかったです。でも美しい作品。
5編の短編集で、いずれも地方の海・山・田舎が舞台で、悩みを抱えた若者が主人公。
「夢化けの島」は焼き物、「狼犬ダイアリー」はニホンオオカミ、「祈りの破片」は長崎の原爆、「星隕つ駅逓」は隕石とアイヌ、「藍を継ぐ海」はウミガメの産卵がテーマ。日本の古くからの自然や歴史についての描写が細かく、各分野にちょっとだけ見識が深まったような気持ちになったりもします笑。「星隕つ駅逓」が年齢的に一番感情移入したかな。
Posted by ブクログ
萩焼、隕石、ウミガメ…5編の短編小説。
入念に下調べして書かれたお話。それぞれの分野の調査がしっかりされた上でお話が成り立っていた。少し難しく読むのに時間がかかる気がするが、面白かった。
感情移入を強くするわけでもなく、人物の表現は軽やかで登場人物たちの感情の押し付けがましく無い。
Posted by ブクログ
思った以上に読み終わるまで時間かかってしまった。
これは伊予原さんの得意分野での執筆なのかなぁ…なんて思いつつ。
ただ私にはなかなか難しい部分も笑
またちがう作品も控えているので楽しみ。
Posted by ブクログ
短編が五つ、いずれも自然科学の話題を芯に据えて、きちんと物語として立ち上がっている。
そのため毎話のように、何らかの専門知識を携え、それを武器に黙々と何かに打ち込んでいる人物が現れる。私はこういう人間に弱い。研究室の片隅や、海辺や、誰にも気づかれない場所で、静かに世界と格闘している人たちである。
物語として読めば、いずれも過不足なく面白い。同時に、「へえ、そういう世界があるのか」と、思わず背筋を伸ばしてしまう瞬間が何度も訪れる。ただ感情を揺さぶるだけでなく、知らなかった知識や視点をそっと差し出してくるあたりが、なんとも心地よい。
小説を読んでいるはずなのに、少しだけ賢くなったような錯覚を覚える。
もちろん、実際に何かが身についたわけではないが、そう思わせてくれるだけで十分だ。物語と知識が穏やかに溶け合い、読み終えたあと、世界がわずかに澄んで見える。そんな短編集であった。