あらすじ
なんとかウミガメの卵を孵化させ、自力で育てようとする徳島の中学生の女の子。老いた父親のために隕石を拾った場所を偽る北海道の身重の女性。山口の島で、萩焼に絶妙な色味を出すという伝説の土を探す元カメラマンの男――。人間の生をはるかに超える時の流れを見据えた、科学だけが気づかせてくれる大切な未来。きらめく全五篇。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
伊与原さんって
元○○○○だったらしく、
その科学・地学の知識と物語りが
鮮やかに融合して、
心地よく読めました。
地質、生物、天文、地磁気
のことが、下地になっていますが、それが
じょうずに人間ドラマに織り込まれています。
伊与原さんならではの作品だと思います。
装丁のブルーも、タイトルの「藍」とマッチ
していて、綺麗な素敵な仕上がりに
なっています。
五つの物語りは、それぞれ違うモチーフで
一冊にまとまっていますが、
しっくりと まとまっていて、
座りがよい感じです。
私のお気に入は、
表題作でもある【藍を継ぐ海】です。
ウミガメやシャチやクジラなどは、
人間にはわからない磁気を感じとる能力がある事は
聞いてはいました、また、
ウミガメの赤ちゃんが月や星の光りが海に反射して
それを目指して海に向かう生態があるのも
聞いたことがありました。
(近年の街の光りが、それを邪魔
している問題も)
NHKだったかしら?
ですから、とても関心があり、
惹き付けられる物語りでした。
そしてそれを単に解説する話ではなく
登場人物の沙月、佐和、ティム、の物語りとして
とけ込んでいました。
小さな漁村が舞台ではあるものの、とても
大きな、広大な海の舞台のお話しに
してあるのも、
うまいっ!て 思いました。
小さな狭い世界は、
(閉鎖的な小さな漁村に暮らす、少女沙月、
姉は、外の世界に出てしまっている
でも、外には出て行けない沙月)
対して、
大きく広大な世界は、
海、北太平洋その海の向こうの何万キロも離れた
カナダ、アメリカ西海岸
ティムがいた所)
この対比が、この物語を大きく広大に感じさせるのだと思いました。
小さなウミガメの赤ちゃんは、
寂しい気持ちを持つ主人公の沙月の様。でも、
ウミガメが大きな「黒潮」に乗って、広大な海を
渡って行くように、
主人公:沙月の心も、彼女の成長と共に
きっと大きく育って行くと
感じました。そう思いたいです。
ラストは特にそう締めくくられては
いませんが。
(別に漁村から出ると云うことではなくて…)
さらに時間軸です。
この物語りでは、「数百年の」時間の流れで語られています。
ゆっくりでいい、焦らなくていいと、
佐和は沙月に、伝えます。
この二つに、そこに、この物語りの光りがあるような
気がします。
彼女が、小さな命を本当に大切に想って扱い、
戸惑う姿が、愛(藍)らしかったです。
トーテムポールのくだりも、興味深かったです。
昭和の頃は、日本の小学校に必ずありました。
時代背景の変化で、最近は全く目にする事は
なくなりましたが、ノスタルジックな想いに
ひたりました。
その頃のトーテムポールは、
「なんちゃってトーテムポール」だったらしく、
単に異国っぽいからの理由で、明治の頃から普及
していった名残りだったようです。
当時は、それなりに教育的意義はあったのですが、
「二宮金次郎の銅像」も同様です。
装丁装画の「白い灯台」は、沙月に光を
あててくれると
思います。 きっと
【追】☆♡◇○♪
作中の街や浜や、ウミガメ博物館は、
実在のモデルがあるとのことです。
そして、近年やはり、上陸するウミガメの数も
激減しているらしいです。
2011.3.11
東日本震災の津波で、
青森県の沿岸の神社の鳥居が流されました。
その2年半後に、オレゴン州で発見されたのですが、
そこには奉納した宮大工の名前が刻まれていました。
アメリカの人達の善意と努力で(募金活動)
震災から4年9ヶ月後2016年5月に、
やっとなんとか贈り届けられ
元の場所に立派に再建されました。
再建から10年がたった今年2026年5月に、
再びアメリカの関係者が日本を訪れて、
記念式典や青少年の交流など、
日米の温かい友情の証しとして、今も大切に語り継がれているそうです。
蛇足、
ずいぶん前に、お祭りで
とった?、ん、買った? ミドリの小さな亀を
しばらく飼ったことが
あります。、、
ケッコウ大きくなるまで。
15センチくらい)
亀って、臭いです。
水もすぐ濁るし…
あっ、やっぱりコレ、【蛇足】だわ
しらんけど。
装丁の「白い灯台」にも、
実在のモデルの灯台があるらしいデス。
この美しい装画は、
イラストレーター草野さん
です。
他に、伊与原さんの
「月まで三キロ」「八月の銀の月」も、そのようです。
Posted by ブクログ
土器に関する「夢化けの島」、犬と狼に関する「狼犬ダイアリー」、長崎の原爆にまつわる「祈りの破片」、北海道での隕石に関する「星隕つ駅逓」、ウミガメに関する「藍を継ぐ海」。それぞれ、伊与原新らしく理系の交わった小説だった。特に、「藍を継ぐ海」は佐和の「ウミガメが沙月のようだった」という文章を見て、「別れてしまった姉妹」を思わせる表現に心にじんと来るものがあった。ラストまで読むことができた
Posted by ブクログ
蘊蓄を軸にしながらも堅苦しさを感じさせず、知識と物語が心地よく溶け合う短編集だった。
萩焼、オオカミ、長崎の原爆投下後の影響調査、駅逓、隕石、ウミガメ――どれも専門的でありながら、読者の興味を自然に引き寄せる題材ばかりで、読み進めるほどに「学ぶ楽しさ」と「物語を味わう楽しさ」が同時に満たされていく。
ほのぼのとした人間ドラマとのバランスも絶妙で、読後には温かい余韻が残った。
特に印象に残ったのは、「狼犬ダイアリー」「星隕つ駅逓」「藍を継ぐ海」の三編である。
「狼犬ダイアリー」では、オオカミが絶滅に至った背景や、かつて人間が狼と犬の混血である“狼混”を作り利用していたという歴史的事実が紹介される。
これらの蘊蓄がストーリーと並行して語られることで、物語世界に厚みが生まれ、単なるフィクションを超えたリアリティが感じられた。
知識そのものが読み物として面白く、物語と同じくらい楽しめた点が魅力だった。
「星隕つ駅逓」は、駅逓という制度が存在していたこと自体が新鮮で、歴史の一端を覗き見るような感覚があった。
さらに、隣町に落ちた隕石を「自分の町に落ちたことにして名前をつけよう」とする祖父想いの娘の素朴な願いが微笑ましく、心温まる読後感をもたらしてくれた。
知識と人情味がやさしく混ざり合った作品だった。
「藍を継ぐ海」は、生まれたばかりのウミガメが海へたどり着けず、女の子が持ち帰って“ヘッドスターティング”を行うという展開が描かれている。
ウミガメの生態や保護活動に関する蘊蓄は興味深く、最初は「良いことをしている」という気持ちで読んでいた。
しかし、結果的にはその行為が自然の摂理を乱すことにつながり、人間が安易に自然へ手を加えることの危うさを痛感させられた。
知識と倫理観が交差する、深い余韻を残す一編だった。
全体を通して、蘊蓄と物語が互いを引き立て合う構成が非常に心地よく、短編集としての完成度も高い。
読んでいる間ずっと知的好奇心が刺激され、同時に人間ドラマの温かさに癒やされるという、稀有な読書だった。
読み終えた今、強く思うのは「また同じようなパターンの小説を読みたい」ということだ。
知識を楽しみつつ、物語としても満足できる作品は意外と少ない。
この小説はその両立を見事に果たしており、次に読む本への期待まで膨らませてくれる一冊だった。