あらすじ
東京・八王子にある大正十年創業の「本庄呉服店」。その二代目店主の養女・琴子と三代目店主の次男・柿彦は姉弟のように育ち、現在はリユース着物の「本庄の蔵」でともに働いている。柿彦は店長、琴子は古着の査定役だ。幼少時から着物に宿る記憶が視える彼女は、いわくのある着物を見抜くことにも一役買っていた。ある日、ふたりは出張買取に行った先で、戦前のものと思われる椿の柄の銘仙と出会う。気になって仕方がない琴子は……。織物の町で繰り広げられる、優しい記憶の物語。
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Posted by ブクログ
着物に触れたり、広げた下で眠ることで着物の遍歴を知ることが出来る琴子。親は無く子もなく伴侶もいないが、姉弟のように育った柿彦と共にリユース着物の販売に関わっている。ひょんなことからとある銘仙の持つ記憶を探ることになって…
琴子は年齢が近しい事もあり、若白髪に悩まされたと言う悩み(もはや年相応だが)もあり親近感がとめどない。本当は辞めたほうが良いのに着物の記憶を辿る事に惹かれすぎていて危なかっしいが、柿彦がちゃんと引き止めていて微笑ましい。
通常見る事は出来ないが、人の手を経て受け継がれるモノには必ず来歴がある。それはモノを使っていた人の生活。心楽しいばかりでなく、重い歴史を背負う事もある。
椿となでしこのシスターフッドは戦争の為に破壊された。大人に作られた少女像でも、かけがえのないものだったのに。
「いつか、きっとまた会いましょうね」に幾重にも込められた思いは哀しくて重いけれど、ちゃんと昇華してもらった。人間の哀しさを受け止めてくれるほしお作品が私は心から好きだ。
表紙絵も作風にピッタリだと思う。
銘仙の仕組みに目から鱗。裏返して2倍使えるとは…
絹の道は大いに興味がある。富岡製糸場もとても面白かったけれど、絹を産み出し運んだ土地土地を巡るのもきっと面白い。
『少女の友』の歴史的意義も知ることができる。昔の雑誌って本当に細部に至るまで本気しかない。展示された戦前の物を見るたびにそう思う。
最近は秩父寄りに縁があるらしく、飯能、小川町へ行く機会がある。今年の締め旅行はちちぶ銘仙館へ行くことにした。銘仙作りをしっかり体験したい。
着付けも出来るようになりたいなぁ。
Posted by ブクログ
着物の記憶が見える琴子の物語。
戦争や空襲の記憶、そして後悔。苦く苦しい想いと記憶にふたを閉め、しまいこんでいた着物は、持ち主の死後、遺族によって見つけられる。たぶん着物も想いを秘めている。だからこそしまい込まれて、訴える相手長い間いなかった着物は、再度しまわれる前に琴子を夢へ誘ったのだと思う。
さみしさとあたたかさの混ざる物語。
Posted by ブクログ
着物に宿る記憶を通して、琴子は戦時中の少女たちの思いを知る。同時に、戦争体験を語る口が重かった養母の思いを推し量る。
当時恵まれていた少女たちの甘さが問題なのではない。彼女たちが抱いた志を広められず、守れない時代を造った人間たちが問題だ。
Posted by ブクログ
着物に宿る記憶を視ることができる琴子。
琴子が働くリユース着物店「本庄の蔵」の店長、柿彦。
ほしおさなえさんが今まで書かれてきた主人公たちより少し上の世代のふたりが今作の中心。
ふたりは姉弟のように育ったが、その実、関係性は叔母と甥である。
琴子は本庄呉服店2代目店主の養女、柿彦は3代目店主の次男。
一見複雑なようで、当人たちは全くそんなことはなく。お互い以外の家族との関係の方がよほど複雑で厄介だ。
着物に宿る記憶は、幸せな記憶もあれば暗く重い記憶もある。
戻ってこれないかもしれないと感じながらも視ずにはいられない琴子が危うく感じる。
Posted by ブクログ
「このままいくとすぐに八十や九十になってしまいそうだ。そして死ぬ。だけどまだまだ読んでいないものがたくさんありますからね。死ぬまでにどれだけ読めるか」
たくさん読むものがあると思うと私もワクワクします。積読の言い訳にもなると思いました。
戦争がもたらした少女時代の悲劇。戦時中にはこのような話が数えきれないほどあったのでしょうが、小説中に描かれると非常に生々しく、改めて戦争の残酷さを感じました。
Posted by ブクログ
ほしおさなえさんらしい物語。着物に宿る思いを感じ取る事ができる琴子。琴子の(複雑だけど)従兄弟の柿彦と共に、着物のリユースの仕事をしている。今回は戦争が絡むので特に重たく、琴子も夢に引き込まれ帰ってこれなくなりそうに。夢を見ると琴子も疲弊し、白髪も増えるというので、これ面白いシリーズだけど、琴子の身体が心配じゃん。と思ってしまった。