【感想・ネタバレ】Science Fictions あなたが知らない科学の真実のレビュー

あらすじ

著名な科学実験やベストセラーの間違いを紹介しながら、科学における不正・怠慢・バイアス・誇張が生じるしくみを多数の実例とともに解説。単なる科学批判ではなく、科学の原則に沿って軌道修正することを提唱する。既存の本で知ったウンチクを得意げに語る人に読ませたい、真実の書。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

科学論文の衝撃的な不正実態と背景、そして考え得る対策が詳細に解説されている。心理学や栄養学は再現性が難しいと言われているらしいが、経済学、医学、生物学、教育学など、様々な分野で不正が横行しているようだ。
もちろん第一義で責任を負うべきは主たる研究者なのだが、本書を読むと、全て研究者が悪いとも言い切れないように思ってしまう。限られた研究費やポストを得るためにはインパクトのある論文を多数発表する必要がある。悪意がなかったとしても再現性実験やデータ確認に割ける時間は多くなく、グレーな結果が多くなるだろう。また、nullまたはnegativeな結果はインパクトが薄いため、オープンになりにくい、所謂出版バイアスも影響している。
驚いたのは、出版社が引用カルテルによって不当にジャーナルの権威を高めていたことだ。大きな事件もあったようだが、恥ずかしながら勉強不足で全く知らなかった。こうなると、研究成果の評価に使われているインパクトファクターやh指数とは一体何なのかと疑問に感じてしまった。この実態をコルネリス・ベガ作「錬金術師」の絵画に例えている。ベガは金に執着することの無意味さを語っているのだが、この論文至上主義も本質を見失っていると言わざるを得ない。
最終章では対策についても述べられている。中でも、研究のオープン化/チーム化、プレプリントは実効性が高いのではないかと感じた。
スター研究者の牽引によって特定分野が大きく発展することもあるが、殆どは地道に実直に結果を積み重ねた多くの研究者に支えられているのだと思う。謙虚さを失わず、真摯に科学と向き合うことが何より大切だと、改めて気付かされた。

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2024年09月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ノーベル賞に代表されるように、科学という営みは日々進歩し続けている。
分からないことが分かるようになり、出来ないことが出来るようになる…一方で、科学結果自体の正しさ(再現実験)は殆ど重要視されていない、という一冊。

筆者が心理学者なだけあって基本的な例が心理学に偏っているけど、まぁ科学界すべてに言える話だろう。再現実験の必要性は誰もがわかっているけど、時間も資金も限られている中で自分がやる必要はない、という難しさ。
個の最適が全体の最適と逆行するからこういう問題が起きるので、筆者の上げた逆インセンティブは(劇薬ながら)理にかなっているなぁ、と。

スタンフォード監獄実験とか、ほかにもいろいろ自分の話のベースにしていた結果があったので、ここらへんは時代に合わせてアップデートしていかなきゃなぁ、とかなんとか。
レイチェル・カーソンの『沈黙の春』のように、後の時代に評価が変わるものはどうしたって存在する。
大切なのは、その時付けた評価(や正当性)が間違っているかどうか恐れることではなく、時代の進歩に合わせてアップデートし続けるというスタンスそのものなのかもね。
人が知性体である以上、どうしたって「正解」は得られない。私たちにできるのは、そこに少しでも近づくことなのだから。

まぁ、科学に対してこういう意見が出てくること自体が科学の持つ自浄作用の証左なんだけどね。ただ、それがあまりにも弱くなっていないか?というわけで。

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2025年10月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

某国(亡国)の大統領は自分に都合が悪い科学的なエビデンスがお嫌いなようですが、本書は科学的なエビデンスに関しての危機に関して説明してくれています。
科学が他の宗教などの思想と異なるのは、実験などにより得られたデータを基に論理的な推論によってエビデンスが語られ、そのエビデンスの再現を誰もが実施できる点にあります。その一連のプロセスが人間的な要因によって捻じ曲げられている実情を実例を挙げながら論じ、どうしたら今の状況が改善できるのかの考察も行っています。
目次は以下の通り。
◎第1部「あるべき」と「ある」
第1章 科学の仕組み
科学研究活動の基本の流れ/真の科学が備える価値観
第2章 再現性の危機
再現性が失われた原因/医学における大きすぎる代償
◎第2部 欠陥と瑕疵
第3章 詐欺
科学の歴史上まれに見る汚点/単純な手口による悪質な不正/
操作された画像/ノイズの消されたデータ/不正な科学の蔓延/
科学者に紛れ込む詐欺師/一度の不正から広がる影響
第4章 バイアス
発表されないNULLの画像/メタアナリシスで科学を再分析する
「良い値」が出るまで何度もサイコロを振る/
研究成果をゆがめる利害関係者のたくらみ/バイアスは人間の性である
第5章 過失
数値の誤りをどう見抜くか/サンプルサイズと検定力の関係/
候補遺伝子研究の教訓/謙虚で控え目な科学はどこへ
第6章 誇張
注目される研究の重要性が誇張を生み出す/ポピュラーサイエンス本の誇張された期待感
科学者が注目を集めるテクニック/栄養学研究の期待と現実/正しさより誇張を強いるシステム
◎第3部 原因と対処法
第7章 逆インセンティブ
駄論文が量産される2つの原因/被引用回数が自己目的化する
質を低下させるインセンティブ設計
第8章 科学を修正する
科学を治す潮流/データ・手法から対策する
事前登録の運用と効果/広がるオープンサイエンスの思想
誇張を抑制するプレプリント/科学を修正するためのさまざまなシステム
技術革新により高まる気運/「退屈で信頼できる」科学へ
付録 科学論文の読み方

原因としてあげられている、詐欺、バイアス、過失、誇張に分類される人間的な要因を除外するために、オープンな場への論文の事前投稿によるオープンな査読やAIなどによる査読の自動化などが提言されていますが、大学というシステム上のインセンティブが変わらない限り根絶はできそうにありません。
”科学的”という言葉をうのみにせず、データやプロセスを精査して主張されていることに科学的に接する態度が重要であることを竹蔵は学びました。
学問に関わる方には一読をお奨めします。

竹蔵

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2025年06月18日

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