【感想・ネタバレ】渚にて 人類最後の日のレビュー

あらすじ

第三次世界大戦が勃発し、世界各地で4700個以上の核爆弾が炸裂した。戦争は短期間に終結したが、北半球は濃密な放射能に覆われ、汚染された諸国は次々と死滅していった。かろうじて生き残った合衆国の原潜〈スコーピオン〉は汚染帯を避けてメルボルンに退避してくる。オーストラリアはまだ無事だった。だが放射性物質は徐々に南下し、人類最後の日は刻々と近づいていた。そんななか、一縷の希望がもたらされた。合衆国のシアトルから途切れ途切れのモールス信号が届くのだ。生存者がいるのだろうか? 最後の望みを託され、〈スコーピオン〉は出航する……。読者に感動をもって迫る永遠の名作。/解説=鏡明

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ネタバレ

普遍的な作品

アメリカの潜水艦スコーピオンの艦長タワーズ大佐とオーストラリア在住の女性モイラ。この2人は最後まで一線を越えなかった。タワーズは中盤から、「最後の日は家族が待つ故郷に帰るつもりだ」とたびたび発言するのだが、この状況でタワーズが故郷に帰ることは不可能。家族も亡くなっている。つまり、最後は自決するということを意味している。そしてそれを聞いている周囲の人もそれに対して深い詮索はしないで「そうなんですね」と受け流す。この小説の良さはこんなとこりにある。
ラルフ・スウェインがシアトル近郊で潜水艦スコーピオンから飛び出して、放射能汚染されている自分の故郷に泳ぎたどり着くところも胸にぐっとくるシーンだった。ラルフが「自分はあとどのくらい保ちますか?」という一連のやりとりも良い。

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2025年05月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読みたいと思いつつ後回しにしてた一冊。
評判通り素晴らしい小説でした。カテゴリ的にはSF小説に分類されてると思いますが、率直に言ってもったいないですね。
SFというだけで敬遠されることも多いでしょう。この本は普遍的で大切なメッセージが込められているので、もっと広く受け入れられるような土台があればいいですね。
中学生あたりの英語の教科書に載っててもいいんじゃないかと感じました。

当時としてはかなり身近なテーマだったとは思うんですが、今読むとちょっと違和感を覚える部分もあります。現代の我々ではどうやっても感じ取れない空気感もあるでしょう。
それでも「人はどのように生きてどのように死ぬか」というテーマはズシリと重くのしかかってきます。

この本の主だった登場人物たちはある意味で最高の死に方を迎えられました。そこにいたるまでの各々の心情の変化の描写が秀逸です。
誰かしらに感情移入できるような配慮もなされています。私は科学士官でレースオタクのオズボーンが一番響きました。
モイラは最初ちょっと当時の女性像っぽい印象があってあまり好ましくなかったんですが、最終的に一番魅力のある人物になっていました。お酒好きなのも嫌悪感があったんですが、あれは伏線でもあったんでしょうかね。
罰当たりな行動に出る人や嘆き苦しみながら死んでいった人の描写が一切なかったのは意図的なんでしょうね。

最終的に誰も南極を目指さなかったのか少し疑問に感じましたが、時代的なものもあるのかもしれませんね。

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2024年01月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

人類存続の希望をめぐる海洋冒険小説、かと思って読み始めたら、なんか日常(ぜんぜん日常ではないのがだんだんわかるものの)パートが長いな...→完全にそっちがメインの話で好みだった。

絶対に全員死んでいる何ヶ月後かに咲く花を植える、これから伸びる枝の話をする、就職のための習い事を始める、
絶対に全員死んでいる故郷の街を見て「あの店が看板を出しっぱなしなんて珍しいな」と言って、後に船を捨ててそこまで泳いでいく、
絶対に全員死んでいる家族へのお土産を必死に探して、それから最後には家族のいる国へ帰る。
地続き、海を挟んでいるけど船に乗る人にとっては此処から続いているところに、ありありと思い浮かべられる今まで通りの街並み、家並みのままの、死者の国がある。

そういう話がずっと続いていて、極限状態の人間の醜さ!みたいのはほとんどなく、受け入れられないことが愚かだという話でもなく、
(まだ赤ん坊の娘を、苦しませることなく薬で死なせてやらなければならないのに、それを妻が考えようとしない、現実を見てない、と腹を立てる夫のシーンがあったけど、
それを現実として捉えたら残りの数十日を生きていくことができないから今は考えない、というのも毎日娘に接してる妻にとっては現実的な対処だろうなと思った)、

目減りしていく残り時間の中で、足掻くことも不可能で、やりたいことを良識の範囲でやったりなるべく穏やかでいることを考えたりして、
何の希望もなく人類は終わるんだけど、登場人物たちは奪いあったり憎みあったりしない最後を迎える、という、思ってたのと全然違う・思ってたより好きな話だった。

何十年前の小説なので、いろんな描写に今の感覚では引っかかるところが当然あるし、解説にあったように、現在の通信技術や世界情勢だとこんな「ほのぼの」した終わりは絶対無理だとも思うんだけど、それでも静かで穏やかな、終末に向き合ったり見なかったりする日々の話で、すごく意外で良かった。

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2023年10月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

核戦争後の地球、北半球では既に1700発にも上る核兵器とその放射能によって人類は全滅したと思われ、南半球こそ被害は少なかったものの、放射能は赤道を超えて徐々に汚染の範囲を広げてきている…。

人類滅亡前日譚という、絶望を伴った暗いテーマの小説。ずいぶん昔、多分中学生の時に抄訳を読んだ記憶があるのだが、その時はずいぶん怖いディストピア小説のイメージを持った。放射能障害の描写が「はだしのゲン」のそれを彷彿させて読むのがツラかったことを思い出していた。

だが、これは解説で鏡明も書いているのだが、大人となった今読むと、この本はそこまで暗い小説には思えず、むしろ人生の生き方のお手本を示されたような感想を抱いた。

あと数か月で自分たちは確実に死ぬ、と分かっていても、日々の仕事や暮らしをできるだけ変わらず行い、不安や焦燥を持ちつつも、その気持ちを抑え込むだけではなく、その気持ちとともに人間らしく生きていく姿勢。

この小説で描かれている登場人物たちの生き様を読んで、自分の日々を反省する。
このレビューを書いている今、まさにコロナ禍、不安や不自由はたくさんあるが、その不安や不自由に必要以上にグラグラと揺さぶられていないか?
自分ではどうしようもない現実に右往左往して、自分のできることを行わなず、コロナを言い訳にしてその怠惰を観ようとしていないのではないか?

この時期に読めて良かった。こんな今でもやるべきことをやり、やりたいことを追いかけて自分はきちんと生きていきたいのだと、再認識できた。

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2022年02月06日

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ネタバレ

オススメしていただいて読んだ、静かな終末のお話。
北半球の国々が核爆弾を各地に落とし、濃い放射能が漂う世界になってしまった。
そんな北半球と連絡が取れないまま、南半球にあるオーストラリアは懸命に情報収集していく。
そして、確実に世界が終わるとわかってしまう……

人はいつか死ぬとわかっていても、だいたい「そうは言ってもまだまだ先の事だろう」と思うから生きていけるんだと思います。
このお話は、人生を閉じるとき、強制的に閉じさせられる時がわかってしまった。
それでも、少しの暴動や略奪や喧嘩は起こっているみたいだけれど、だいたいの人はやれる事をやったり、先へと続いていく庭を作ったり生きていくためにスキルを身に着けたりと、少しの希望と自棄っぱち、たくさんの諦念で静かに終わっていくのが壮絶でした。
こうなったら仕方ない…と。オーストラリアだけで生き残っても、というのもあったのでしょうか。

モイラとタワーズの関係が好きでした。2人の間にあるのは友情よりもちょっと好意に傾いてると思うけれど、世界が終わりかけているのに人の道は外れないという慎み…素敵です。
タワーズ、哀しかった。

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2025年01月14日

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ネタバレ

登場人物が少ないので誰が誰と惑わなくて済む。
ソ連が出てくることから昔に書かれたものだとはわかる。
今は核戦争の脅威が高まってるけれど、この話は核戦争のあとの話。
死ぬまでもがき苦しむ風でなく、きれいに自決するのが最後なのであっさり終わっている。
世界中がこのように自決したから全体の印象も綺麗なままになったということか

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2022年11月13日

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ネタバレ

・あらすじ
第三次世界大戦により北半球は壊滅し、南半球の生き残った人類も数ヶ月後には南下してくる放射性物質によって滅亡することが決定している世界。
アメリカ海軍の潜水艦の艦長であるドワイトはシアトルから届くモールス信号の謎を調査するため北半球を目指すことになる。
カウントダウンが迫るオーストラリアを舞台に、世界の終わりをどのように人々は過ごすのか。

・感想
すごく高潔でお綺麗な作品だったな、という印象。
面白かったんだけど、星4にするには私にはロマンチックすぎたかもしれない。
とくにドワイトとモイラの関係にイライラしたな(ここがメインなのに)

正直、モイラは完全に男に都合の良い女だと感じた。
滅びに向かう世界にあっても信念や倫理観を捨てずに、高潔に生きるかっこいい男と愛を求める女性の精神的な繫りを書いた…のかな?
でも「奥さんに私の事伝えてね、何もやましいことは無いんだから」「ああ、あいつも分かってくれる」みたいな台詞はなんじゃそりゃって思ったw

モイラが死ぬ(多分感動的な)ラストシーンもドワイトの乗る艦をみながら、艦が沈む時間に合わせて「先に行っても私を待ってて」と言いながら死んでて、は?って思っちゃって。
なんだろうなーー高潔な理想に殉じる男の背中をみながら一歩引いて困る我儘は言わず耐えて尽くす女をみるとイラっとするみたいな…?時代だな。
夏への扉もロリコン主人公に対して結構ひどい感想を書いたけども、古典作品にあるこういう都合のいい女性描写とそれに肯定的な描写見ると流石にシラけるかも。(男尊女卑描写はほとんど気にならないんだけど)

面白かったんだけど、SFにあんまりこういうセンチメンタルさというかロマンチックな感じは求めてないので、これはもう完全に私むけでは無い作品だった。

シアトルのモールス信号の謎はそこまで重要じゃなく、あらすじに書かれてある事から予想するよりミステリー要素が主題の作品では無かった。

こういう薬あるの良いよなー私もほしい。
あと50年後にはこういう薬使うのが普通の世界になっててほしい(この感想で締めていのかわかんないけど)

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2025年04月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

なるほどこれは名作。
古典SFだが十分に考えさせられる。

はい。あらすじ。
【第三次世界大戦が勃発、放射能に覆われた北半球の諸国は次々と死滅していった。かろうじて生き残った合衆国原潜"スコーピオン"は汚染帯を避けオーストラリアに退避してきた。ここはまだ無事だった。だが放射性物質は確実に南下している。そんななか合衆国から断片的なモールス信号が届く。生存者がいるのだろうか?-一縷の望みを胸に"スコーピオン"は出航する。迫真の名作。】

この作者さんは、きっと人間の高潔さというものを信じているのだろうな。

破滅の危機が迫っているにもかかわらず、多くの人々は変わらない日常を続ける。来るはずのない来年に咲く花を庭に植えたり、速記や簿記を習いに行ったり。
そもそも逃げる場所がないからということなのだろうが、暴動も起きず、物資を巡っての強盗や殺人やレイプなどもまるで起きない。
1957年の作品だからか、今なら地下シェルターを作ってという展開になるだろうが、それもない。
それぞれがそれぞれのやり方でそのときを迎える様子が描かれる。

悲しい話であるはずなのに、後半は目を少し潤ませながら、しかし、同時に口角を上げて読んでいる自分がいた。
「うん。うん。そうだね」と。

★4の価値はあるな~。
さんざん迷った。
でもやっぱりキレイ過ぎる。そこが魅力でもあるんだけど。



そうそう。
作中で無料配布される毒薬が無性に欲しくなったな~。
そういうのがあると逆に安心できない?
これさえあればいつでもたいした苦しまずに人生を終わらせられることができるってのがあるといいと思うんだけど。
昔、乙一さんのなんかの作品で、あくまで冗談としてだけど医者から毒薬をもらえたなんて書いてあって、著者紹介か、あとがきだったかな? これで安心できるなんて書いてたが、その気持ちはわかるな。羨ましく思った。
今のところ使う予定はぜんぜんないんだけど、ないんだけどね、持っていれば安心できるって気持ち。変かな?
まあ、家族がいるとそんな簡単でもないんだろうな。
バカなことを書いてしまった(*´з`)

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2024年07月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

終末を迎えた人々の生き方。
人間の尊厳を保った最期というべきか。

淡々とした静けさが好もしい。

人は必ず死ぬことは決まっているわけで、その時がわかった場合どうするか、と。残念ながら自暴自棄になるほど未来に希望をもたない身としては、本書の主要登場人物たちと同じく、その日まで普通に(普通って何?とも思うが)、静かに生きるのみと思う。

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2024年05月02日

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