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第三次世界大戦が勃発し、世界各地で4700個以上の核爆弾が炸裂した。戦争は短期間に終結したが、北半球は濃密な放射能に覆われ、汚染された諸国は次々と死滅していった。かろうじて生き残った合衆国の原潜〈スコーピオン〉は汚染帯を避けてメルボルンに退避してくる。オーストラリアはまだ無事だった。だが放射性物質は徐々に南下し、人類最後の日は刻々と近づいていた。そんななか、一縷の希望がもたらされた。合衆国のシアトルから途切れ途切れのモールス信号が届くのだ。生存者がいるのだろうか? 最後の望みを託され、〈スコーピオン〉は出航する……。読者に感動をもって迫る永遠の名作。/解説=鏡明
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Posted by ブクログ
皆さんは、残り一ヶ月、残り一週間、そしてあと一日と、徐々に世界ごと滅びる運命に置かれたとしたら、どのように行動するだろうか?
この作品は、そんな究極の問いの答えの一つを、静かにしかし厳かに示してみせる。
北半球での核戦争が終わり、放射能が徐々に南半球をも侵食していく世界。
絶対に逃れられない死へのカウントダウンの中で、残された僅かな時間を生きるオーストラリア南部の人々。
このような状況に置かれたら、人はパニックを起こし、好き放題に背徳的に振る舞うのではないか、そう考える方も多いだろう。
だけどこの作品は違う。多くの人は、まるで自分たちに死は訪れないかのように、普段通りの時間を愛する人や物とともに過ごし、そして宿命の時を迎えるのだ。
そこにはもはや悪人はいないと言えるだろう。
これは現実逃避ではない。
目を離せば戦争を引き起こしている愚かな人類。
だけどこの『いつも通りの穏やかな日常』は、まさにその同じ人類が放った、誇りに満ちた最期の輝きだったのだ。僕にはそう思えてならない。
「こんなに立派で素敵な人たちが、なぜ、なぜ死ななければならないのか。これからもずっと、優しい日々を送ってほしいのに!」
この小説を読み終えて、僕はこう叫ばずにはいられなかった。
ここからはネタバレを挟む。
主要な登場人物五人のうち、僕が最も感銘を受け、琴線を揺さぶられたヒロイン格のモイラ・デイヴィッドソンとその従兄、ジョン・オズボーンを中心に、彼女や彼たちの生き様を眺めてみよう。
読みたい方、まだ読み終えていない方は、ぜひ最後まで読んでから再び来てほしい。
モイラは当初は自由奔放で、あたかも単純明快な女性であるかのように描かれる。
ブランデーに溺れ、今さえ良ければいいと、ただ享楽的に動いているだけのように見える。
だけどドワイトに出会い、彼の頑なで少し不器用ではあるが誠実な人生観に触れて、彼女も少しずつ変化していった。
荒っぽい言い方をすると、この作品は彼女の成長物語としても眺めることができるのだ。
自由を象徴する一人の女性(モイラ)が、規律と誠実を象徴する一人の男性(ドワイト)を愛し、その過程で、さらに大らかな視点を手に入れる。
このような美しくも尊い過程に、胸を震わせられない人が果たしているだろうか。
放射能という終幕が、今まさに降り注ごうとしているオーストラリア・メルボルンで、僕ら読者が見出したモイラは、もはやかつての享楽的な彼女ではなかった。
そこにいたのは、絶対に叶わぬ恋と知りながらも、ドワイトという男性を深く深く、自己犠牲的なまでの献身とともに最期まで愛した女性だったのだ。
彼女は残された今この瞬間を、愛する人のために最大限に生きようとする女性として、生まれ変わったのである。
愛車のハンドルを握り、悲しいまでに煌びやかな瞳で見据えた東の灰色の海と空の果てに、彼女はドワイトの姿を認めただろう。
そうであってほしいと、僕は強く願う。それは彼女にとって最期の、そして最高の花束になっただろうから。
科学者ジョン・オズボーンは、冷徹なまでに研ぎ澄まされた知性の象徴として描かれるが、それだけなら僕の胸中をここまで揺らさなかったはずだ。
知的な彼だから、自分の死期を正確無比に知っていたに違いないのだ。
そこで彼がやったことも、やはり、自分の内で愛せるものを創造することだった。
彼は掘り出し物のスポーツカー・フェラーリを愛することに決め、深層に秘めたありったけの情熱をそのクルマに注ぎ込み、あまりにも過酷なカーレースに出場しようと決意する。
そして死闘の果てに、見事な優勝を成し遂げてみせるのだ。
これは人によっては、読み流しの対象になるエピソードかもしれない。だが僕はこのオズボーンもまた、格好いいと思った。
この優勝は、自らの愛が本物であったということを、彼自身の手で証明したことに他ならないからだ。
彼は知性を手にしたまま、より人間らしい男性として生まれ変わったのだ。
彼は愛車のコックピットで、奇しくもモイラと同じく、ハンドルを握った姿勢で眠りにつく。
愛するクルマの中で死ぬことができたというだけでも、彼と愛車にとっては本望だっただろう。
けれど僕はその時のオズボーンの両眼が、モイラ、ドワイト、そしてホームズ一家をも、同時に見据えていてくれたらと願う者である。
たとえどれほど身体が朽ち果てようとも、彼らの魂の絆はこれからも、強く、強く結ばれ続けるだろう。
愛すべき登場人物たちよ、Rest in Peace.
Posted by ブクログ
善良で、罪のない、20代30代の人たちが絶望の淵に追いつめられていく。残酷で胸が苦しくなった。
しかし主人公とヒロインがとても気高く、小説全体に品格を感じた。
彼らは絶望的な状況でもやけになったり、安易な道を選んだりしない。
それぞれの選択と意志の強さに胸を打たれた。
後半じわりじわりと恐怖がつのった。この世界に没入しすぎて緊張したのか、読んでいる自分まで腹痛に襲われたことが恐ろしく、読むのを一時中断。少しずつ慎重にページをめくった。結末にむけ覚悟をつくりながら。
でも最後まで読んでよかった。立ち直れないほど悲しく辛くなるのではないかと心配したが、意外とそんなことはなく、読後は静かな余韻につつまれた。
永遠の名作と呼ばれるのにふさわしい小説だと思った。
こんな未来にならないことを強く願う。
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