あらすじ
第二次世界大戦でドイツが降伏した頃、アメリカのノースダコタ州とサウスダコタ州の境に隕石らしきものが落下する。しかしそれはただの隕石ではなく、火星から飛来したロケットであった。その中に乗り込んでいた奇妙な「火星からの人」がニューヨーク郊外の研究所に運び込まれ、科学者や技師などからなるチームが極秘のうちに、この火星人とのコミュニケーションを試みるが……『金星応答なし』に5年ほど先立つ、レムの本当のデビュー作とも言うべき本格的SF中篇『火星からの来訪者』、若き医師ステファン・チシニェツキは、町を歩いているときにユダヤ人と取り違えられて捕まり、他の無数のユダヤ人とともに貨車に押し込められ収容所に送られてしまう。ユダヤ人移送の決定的瞬間を描いた「ラインハルト作戦」、広島への原爆投下を主題にした、世界でもっとも早い文学作品の一つであり、SF的想像力を駆使して爆発の光景が創り出された「ヒロシマの男」など、レムがまだ20歳代だった1940年代から1950年にかけて書かれた、いずれも本邦初訳となる初期作品を収録。《星をちりばめた闇に茫然と言葉を失う者は/とても孤独で詩人に近い。》
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Posted by ブクログ
楽しみにしているレム・コレクション。第二期は順調に出版されていて誠に喜ばしいです。
実質のデビュー作である表題作含め非SF短編も含む初期作品集。書かれたタイミングは戦時中でありしかも場所は現在も禍中にあるリヴィウ。ドイツに占領されていたりポーランド領だったりソ連だったりと過酷な経緯を辿る街で、また今も翻弄されています。ホロ・コーストのストレートな場面を描かれた短編も含まれており、ユダヤ人でもあったレムはこんな環境のなかでも作品を書き続けていたのがよくわかります。「ヒロシマの男」も印象的です。発表されたのは原爆投下後の二年後と早く、いかにレムも衝撃を受けていたことがわかります。感情的なじとじとした表現ではないだけに一層印象に残ります。
どれもいわく付きの作品ばかりですが、作品の観点と密度はすごい。以降の作品群にもつながる芽が含まれていて、レムは最初からレムだったことにもうなづけます。レムの作品を読むと激しく頭がかき乱され、考えることを要求されることが刺激的で大好きです。短編でも変わらないので、立て続けに読むことは難しいですが・・・次巻が楽しみ。
Posted by ブクログ
特に印象に残った二作の感想。
『火星からの来訪者』
粗削りながらも、すでに後の『ソラリス』に通じるテーマ──人間にとって“他者”とは何か──が浮かび上がっていたのが印象的だった。作中、謎めいた異星生命体と人類の科学者たちが接触を試みるが、そこに成立したのは「対話」ではなく、どこまでも一方的な「観測」だったように思う。特に、教授が体験する“火星のヴィジョン”の場面は、人間側の希望的観測の象徴に感じられた。リオンが何かを伝えようとしたのではなく、教授自身が「意味を見出したい」という欲望から幻を見たのではないか。この作品を通じて、レムは早くも「知性とは、他者と本当に理解し合えるのか?」という問いを投げかけている。その問いは、今なお新しく、静かな余韻を残す。
『異質』
スタニスワフ・レムの短編『異質』は、少年が「永久機関を発明した」と物理学者の家を訪ねるという、ユーモラスな導入から始まる。しかし、物語は思いがけない方向へ進み、ラストは唖然とさせられる。
作中では「プランク定数」や「シュレーディンガー方程式」などが語られ、科学の理論がいかに不確実性と隣り合わせであるかが示唆される。確率的に“ありえない”はずの出来事が、ほんの僅かな可能性のもとで起こり得る——その問いかけが、後の『ソラリス』や『無敵』に通じる「人間には理解できない存在」や「科学の限界」というレムの核心的テーマに直結している。短くも鋭いこの作品は、知性への皮肉と想像力への畏怖が詰まった、まさに“プロト・レム”的一編。
Posted by ブクログ
全作、当時のレムの置かれた背景からか
戦争の影響を強く感じる
かつ
終わり方がどれも詩的、抽象的なので
面白いからどうかと言われると
面白くはない
でも深く読むと、深く読める文章なんだと思う
そこまで深掘りできなかったけど。
ソラリスを積読してるので
読めるかなー、、と少し不安になる
初期の作品ということで
レムを知りたい方には
いいと思う。
以下は自分の備忘録として。
火星からの来訪者
そのものの想像がちょっとつきにきくかった
人物の特徴もちょっとはっきりしないとこもあり
面白くない
けど、最後までどうなるか気になる作品
ラインハルト作戦
この作品と、ドクトル・チシニェツキの当直は、
他の長編の一部ということで、(解説より)
登場人物もその中ででてくるのだろう
あまり、人物についての説明もなく
この部分だけ読むと、登場人物が多く
読みにくい
だが、当時の様子がよくわかる内容だった
異質
戦争に対する悲しみがひしひしと伝わる最後だった
1番心に残った
ヒロシマの男
これも、最後をどう捉えていいか
わたしには今わからない
基本的に、どの話も、戦争が
よくないことをはっきりではないが
強く書いていると思う。
この話も、題名からして戦争の話だけれど
日本人でも、アメリカ人でもない立場ではなく
原爆についていい悪いの論理的立場でもなく
ヒロシマの原爆を描くなら
こうなるんだろうと思う。
この結末しかないのだろうとも思う
原爆の描写が、私たちのよく読むような
ものより、ずっと想像的に描写で
わたしたちの固定観念でよむと
わかりにくい
わたしは異質が1番せつなく、
わかりやすかったと感じた。