あらすじ
火星の命運は若き女性政治家キャシーアに託された。困難な地球との交渉にあたる彼女は、かつての恋人だった物理学者のチャールズから、超兵器としても応用可能な“ベル連続体理論”の存在を知らされる。だがそれは両刃の剣だった。その理論の潜在的な破壊力に気づいた地球によって、火星への全面攻撃が開始されたのだ…近未来火星のヴィヴィッドな描写と破天荒なプロットでネビュラ賞に輝いた、ベア畢生の超大作登場!ネビュラ賞受賞。
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Posted by ブクログ
p.387 "人類の全情報を質量とエネルギーの上位メモリにいれられる日がくる。そうなったら、空間をだまして、それが物質やエネルギーだと信じこませることができる。"
アークナイツに通じるものを感じる。
p.409 "マジュムダーは、マザー・シストのこと、そして二十年のあいだにマザーがじつにさまざまな仔を生んでくれたことを熱心に語った。そのうちのクルマムシヒツジやツツムシ、チリイヌなどは実際に外の庭園で育ち、重々しく動いていた。"
オリジムシを思わせる。
活性ナノが機能している時はイースト菌が発酵するような匂いがするという。ナノマシンDTが合成している時は、糠臭い匂いがすると描写されていた。
イナゴ。敵拠点に打ち込まれるナノマシン工場。兵力を敵地に輸送するのではなく、敵地で兵力を生産する。
p.289 本作品独自の概念「記述子」。これを言語と見なす描写がある。
プリースティスは言語学者というが、それは文系に属する学問ではないのかもしれない。
QL思考体=量子論理思考体。AIの一種。
現実のAIが起こすハルシネーションを予言している。
『七人のイブ』にも感じたことだが、予定調和的ではある。設計された物語であるがゆえ、と受け止めよう。
本書についてポリコレ小説という評を見かけたが、ポリティカル・フィクションと誤認しているのではなかろうか。だいぶ印象が変わるので気をつけてもらいたいものだ。
Posted by ブクログ
「凍月」より先に書かれているが、「凍月」より後の世界を描いている作品。
22世紀の火星は、地球から半分独立、半分依存している形で存在している。その火星で、政治家を目指すキャシーアが大学を追い出されかけるところから、火星の運命が回り始める。
大学内でも、反学長派とみなされた学生たちが一斉に退学させられることになる。それに反対した学生たちの反乱は、あっけなく終結するが…。
キャシーアの回顧録というかたちをとっている作品だが、なぜ「回顧録」なのかというのが最後にわかり、彼女の人生に圧倒されること間違いなし。
そして第1部で描かれる、キャシーアとリチャードの淡い恋愛話は、その辺の恋愛小説など風で飛ばされるほどせつなく胸にくる青春ストーリーとなっている。
上・下巻のうち、上巻はどちらかというとキャシーアの成長物語として楽しめる。下巻になると、怒涛のように変化していくキャシーアの政治家人生と火星の行く末にはらはらする。
そしてラストシーン、キャシーアが回顧録を閉じるその最後の一行に不覚にも涙する。
自分の人生だけでなく火星と火星人の人生も決断していくキャシーアの強さ、それを支えたリチャードの優しさが心に染みる。
新しい技術やアイデアといったSF理論はもとより、物語性も優れた作品。
Posted by ブクログ
「火星」「転移」ってなんのことかと思ったら・・・!
主人公キャシーアが大学時代から副大統領(最後は大統領)として火星の危機を乗り越えるまでを懐古するかたちで物語られる作品。
キャシーアが、もともと火星の有力な名門家系の出身で自身も才能があるということはあるが、反国家主権主義者であるリーダーに憧れたり、天才物理学者の卵と恋に落ちたり、政治の世界へ足を踏み込み入れて初めて訪れた地球で失敗したり(正確には巻き込まれただけ)という体験をして、自分で道を選び、迷って、悩みながら成長していく姿が、なんというか女性の生き様としても共感できるし好感も持てる。