あらすじ
人類が火星移民を始めて100年を経た22世紀後半。火星市民はナノテクを初めとする先端技術を適度にとりいれた共同体生活を謳歌していた。だが、火星が独立憲法の制定と政治的統一をめざしていたそのとき、母なる地球は密かな陰謀をめぐらしていた。テクノロジーの袋小路につきあたった地球の目的はただひとつ―独立にはやる火星を従属化、搾取すること!未曾有の動乱の嵐は、いままさに赤い惑星をまきこもうとしていた。ネビュラ賞受賞。
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Posted by ブクログ
p.124 ”「それも大地が語ってくれるさ」”
ファンタジーに耽溺した日々、『無限コンチェルト』と『蛇の魔術師』はバイブルのひとつだった。グレッグ・ベア作品はそれらを再読するばかりだった。
2011年に『天空の劫火』を読んだが、残念ながら合わないと感じられた。
上巻ではなにを語る物語なのか、まだ充分に明かされていない。構造上の弱点が幾つか見えるが、説明語りではなくちゃんと物語っており、下巻も期待できる。
数あるグレッグ・ベア作品の中からピックアップした理由はタイトル。そのイメージからナデシコと関連があるのかもしれないと思いこんでいた。原著の出版年は先、日本語訳の出版年はナデシコ放映年よりもあと。
QLや思考体という名詞から、ゼーガペインは影響を受けたのではないかという印象を得た。
二重生化学機能。火星出身者が地球に対応するためのなんらかの人工的な措置。明言されてはイないがナノ医療なのかもしれない。
地球の重力の1/3しかない星で生まれ、1G適応のために特別な措置を取ることなく成長した者が、数カ月のトレーニングで地球の重力に対応できるものだろうか。火星に生まれ育ったという理由で、心肺機能や骨の組成などに克服不可能な弱さを持ってしまうのではないだろうか。
それらを超克する手段には、説得力よりも魔法的ご都合だと感じることを禁じ得ない。
1993年時点でYoutube廃人を予見している。
物語中には「シム」にはまっている地球人がいる。現代では始終Youtubeを見ているといわれる人々がいる。
Posted by ブクログ
「ブラッド・ミュージック」で名高いグレッグ・ベアのネビュラ賞受賞の本書は、人類が火星移民を始めて100年後の22世紀後半が舞台。いまだ地球への依存が強い火星で沸き起こる独立の声。そんな情勢のなか、主人公キャシーア・マジュムダーは、ひょんなことから、火星統一を目指すドーブル知事への反対デモに参加する。キャシーアからすれば、デモは散々な結果に終わるが、彼女はそこでチャールズという好青年に出会う。デモへの参加、そしてチャールズとの出会いが彼女の人生に大きな影響を及ぼし、その数年後、彼女は火星統一を目指す立場として、この赤の惑星を背負って地球と対峙することになる…
あらすじのとおり、本書は地球に対する火星の独立戦争を描いた作品です。「地球からの独立」を描いた作品としては、ロバート・A・ハインラインの「月は無慈悲な夜の女王」が真っ先に頭に浮かびます。本書を読み終わってみても、やはり類似点がいくつか見受けられましたが、解説によると、類似点はあれど単なる火星版「月は無慈悲な夜の女王」であるわけでなく、立脚点は異なるようです。とはいえ、どちらも「読ませる作品」であることに間違いはなく、本書も表題の真意が明らかになる中盤以降は食い入るように読み進めることになりました。
さて、主人公のキャシーアの職業は政治家。政治というと何だか堅苦しい作風になりそうな印象が強いのですが、本書はそんな先入観を見事に打ち壊し、むしろ大きな魅力に仕立てあげてすらいます。そしてこの魅力をうまく補うのが、緻密に築き上げられた世界観。火星開発の中心である「結束集団(BM)」と「家系」の存在は、主人公らの政治的動向を時に左右する味わいを見せ、テクノロジーを極める地球の偉大さ(横暴さとも)は、火星の独立をより困難なものとする壁として立ちはだかります。こうした幾つもの「しがらみ」がある世界だからこそ、政治の魅力が活きるのかもしれません。物語はまさに終盤、火星のトップとして重大な決断を下す主人公とその後の展開は、なんだか政治のおもしろい側面(人民のために行動する勇気とそれに反する人民の反応)をみているようで、単なるヒーローものでは起こりえない内容かと。
Posted by ブクログ
ベアの「ナノテク」世界は面白いんだか面白くないんだか非常に微妙な感想を持っているのですが、こいつはちょっと違う。火星に植民し、地球の圧力に屈せず戦う人々の物語だ。解説でも指摘されている通り、ハインラインの「月は無慈悲な夜の女王」を髣髴とさせる設定。しかしたどる道は大きく違います。
月にしろ火星にしろ、生身のままでは生きていけない苛酷な環境です。その過酷さと(過去に生物がいたという設定の下の)神秘さについての描写はエンディングの一つの大きな感動の元になります。そんな環境で、できるだけ「生の」人間として生きようとしている火星人。一方で地球人は「セラピー」の影響下で冷静な判断力を身に着けている。主人公はそんな地球を体験し、地球の「母性」に包み込まれて自らの故郷を強く意識します。
そんな中、統一政府を作っていく火星。徐々に地球に対して従順でないと見なされていく中、事件が発生し、エンディングまで怒涛の展開で突き進んでいきます。SF的なアイディアは実に大風呂敷もいいところで(途中で更に大風呂敷を…すぐ畳んでしまいますが…広げて見せます)、それによって危機が起こり、しかし、それによって火星は救われます。主人公の一人称で進んでいく物語は、一人の成長物語としても読むことができますし、SF的ガジェットは相変わらず満載です。そしてそれが王道的に使われているのも物語自体の面白さに一役買っていると思います。