あらすじ
街で人を殺し、身を隠すため、自分が育った古巣の修道院兼教護院に舞い戻った青年・朧(ろう)。その修道院でもなお、修道女を犯し、神父に性の奉仕をし、暴力の衝動に身を任せて教護院の少年たちや動物に鉄拳をふるい、冒涜の限りを尽くす。あらゆる汚辱を身にまとう──もしや、それこそ現代では「神」に最も近く在る道なのだろうか? 世紀末の虚無の中、〈神の子〉は暴走する。目指すは、僕の王国! 第119回芥川賞を受賞した戦慄の問題作にして、「王国記」シリーズ第一作。
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花村萬月の名前を聞くと、サラダ油のシーン(!)で印象深い映画化タイトル「皆月」を思い浮かべる人も多いかもしれない。過激な性と暴力描写を得意とする作家だが、その根底にあるのは神への猜疑と冒涜である。
著者の「王国記シリーズ」の第一章目にあたる本作『ゲルマニウムの夜』の主人公・朧は、頭脳明晰だが人を殺し、育った修道院に舞い戻る。彼は人を殺し、純潔の修道女を犯しても、何の罰も下さない神を見限り、宗教者のなれのはて――王国の建立を決意する。
表題作の他に「王国の犬」、「舞踏会の夜」が収録されている。いずれも朧が修道院で神を疑い、信心深い神父とアスピラントを試し、自我に目覚めるまでの小編だ。修道院という本来神聖であるはずの場所で行われている暴力、虐待、同性愛の生々しく残酷な描写は圧巻。なお、2005年に大森立嗣監督・新井浩文主演で映画化もされている。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
思わず吐き気を催しそうな表現に辟易しながらも読み進めてしまえる不思議な感覚。ふと思い出して再読しました。
他人の言動や行動にふと、謂れのない怒りを彷彿させ冒涜の限りを尽くす姿に何故か愛おしさとか、なんとも言えない感情が出てきます。
Posted by ブクログ
ピカレスクロマンとジャンル分けはできるのかもしれないけれど、ジャンル分けって不毛だなと思うだけの中身があるような気がする。読まれるべき毒のある小説だと思う。
Posted by ブクログ
冷酷で暴力的で傲慢な男なのに、どうしたって主人公の朧に惹きつけられるし、読み進めるうちに親しみさえ覚えてしまう。まるでリヤカーを後押しする幼い収容生たちのように。最高のピカレスク小説。
Posted by ブクログ
私にはよくわからない芥川賞作品が多い中、これは面白かった!エロくてグロい描写が多いですが、哲学的なことも投げかけられます。宗教とはなんなのか?そう言えば、中世?には免罪符なるものがあったな、と思い出しながら読みました。
Posted by ブクログ
良い意味でクレイジー。宗教的な題材ゆえ、うまく説明できないが、聖性と暴力という、対極に位置する要素を結節している点が巧みである。本作の舞台「王国」は宗教施設=聖域なのであるが、そこに漂うのは聖性ではなく暴力性である。また、主人公・瓏はタブーを犯し、神父にも神を愚弄するような質問をぶつけている。あきらかに「反宗教的」な人物ではあるが、しかし不思議なことに、どこか宗教的・哲学的な匂いもしている。暴力で宗教を描き、宗教で暴力を描いているのである。このようなアンビヴァレンツにうんと唸らされてしまった。また、巻末の対談も非常に興味深い。本文は人を選ぶ内容だと思うので、受けつけない場合はこちらだけでも読むことをおすすめする。なお、収録作では表題作がもっとも面白かった。
Posted by ブクログ
祈りの反復(同じ言葉を同じリズムで唱える)ことと、性行為の反復はイコールではないか。それは自我なき反復、快楽の本質であり至上ではないか。
果敢な真理探究の姿勢と、思わず唸ってしまうような力強い文章。
清濁を“ぶちこんだ”ような、「混沌」とした物語を読み終えた後、しばし放心状態でした。
Posted by ブクログ
人前でこういう本を読んでいると公言すると、確実にドン引きされる「王国記」の第一巻です。これは正直言って万人受けはしません。
これをはじめて読んだのが高校時代でした。先日、このシリーズで最新刊の『風の條』が手に入ったので跡でこれは紹介するとして最初にこの本を紹介したのですが、人を殺し、育った修道院兼教護院に舞い戻った青年・朧が農作業に従事する傍ら修道女を犯し、暴力の衝動に身を任せ、冒涜の限りを尽くすというあまりの内容なのであんまり人には正直勧められるものではありません。
実はこれは映画化されていて、俳優の大森南朋の兄が監督しているそうですが、原作の描写がほぼ忠実に映像化されていますので、あんまりお勧めでいるものではありません。人によっては不快感を催すものばかりでしょう。特にあらゆる汚濁にまみれてこのシリーズが構成されているというのは有名な話なので、ここでは詳細を省きますがまぁ、よくこれが映像化できたものだといまだに不思議に思います。もしご覧になる場合は自己責任でお願いします。
Posted by ブクログ
花村萬月の書く文章は生きている、と思う。
黒いだけの文字から浮かび上がる鮮やかな色。
ハッキリと想像できるその色たち。
それは想像というよりも、
リアルで目の当たりにしているような感覚だ。
彼の描く色彩のブルースは、
男性的で荒廃的で、ときに美しくも悲しい。
宗教やホモセクシャルがテーマになってはいるが、
腐敗臭漂うその表現が、耽美であるとさえ感じる。
「匂いは神様が与えてくださった最高の快楽なんだよ」
という行(くだり)に、大きく頷いた私である。
Posted by ブクログ
芥川賞受賞作。
いまのところ近年の芥川賞作品では自分の中でトップにある作品。
暴力と背徳を正面から描いている。
読むのにも痛みを伴います。
暴力を唯一の真理として行動する主人公が、
自信の尊敬する年老いた神父と懺悔室で対決するシーンは鳥肌もの。
Posted by ブクログ
文句なしのハイレベルクラス、といった感じでした。主人公の設定とサブキャラの噛みあい方が非常に面白いところまで書かれています。
何よりすごいのはこの想像力と思想ですね。自分の世界の創世と一口にいってしまえばそれまでですが、ここまで自分の思っていることを展開できている小説を見たのは初めてです。文体も相当洗練されていてとても読みやすかったです。
Posted by ブクログ
花村萬月で芥川賞ときたら、鬱々としたバイオレンスというイメージだけど、そのとおり。本作は「ハードボイルド純文学」という感じ。
のっけから、暴力とリビドー、その下地が、それらを相容れないような宗教的に外界から切り離された世界。宗教の純潔さと現実の醜さ、性衝動と死体と汚物にまみれた、もう芥川賞選考員が大好きなテーマでしょ?
文章の方は知識や薀蓄、絶妙な固有名詞を独特のリズム感で綴っていく。しかし乱暴なわけではなく、言葉選びもかなり丁寧にされていると感じた。決して奇をてらった文章ではない。
圧倒的な言葉の前に、読むしか無いという状況になるのは、昨今の芥川賞受賞作よりも優れているのではないかと思う。口に石を噛ませてから殴る蹴る、溶けていく豚の死体、痰を入れたレーションをすすらせるなど、最初から最後まで、もう目を背けたくなるような文章ばかりだが、それを踏まえても、続きを読ませてしまう文章力は素晴らしい。
背徳版の「車輪の下」であろう。
なお、文庫版にあたって、フランシス・ベーコンの表紙を変えてしまったのはなぜだろう?ベーコンの絵のイメージと合致した内容と言えたのに。
とはいえ、続けてこのシリーズを読む体力はございません。あと、まったく子供向けじゃないのであしからず。
Posted by ブクログ
読書会の課題図書でなかったら多分僕はこの作家を読むことはなかっただろう。
残酷性があるので抵抗があったが、読み進めていくうちに、主人公のことが好きになっていった。
性に関しては愛らしくすら思える。
残虐性と純愛さは実は近い場所にいるのかもしれない。
神、宗教、支配する者とされる者、偏愛と残虐。
抑制され、コントロールされた暴力。
言葉の奴隷、つまり神の奴隷。
花村萬月という人は、キリスト教を特に勉強もしていないようだし、聖書もドストエフスキーもトルストイも読んでいないらしい。つまり「自分の経験」+「自分の地力」みたいなものだけで作品を作っている。それは逆にすごいとも思えるし、そうでないとも思える。
Posted by ブクログ
花村萬月の作品。ひさしぶりだわ~。
あれは10年くらい前だっけ?
『ぢん ぢん ぢん』読んだのは。
すっごい分厚い本だったけど、読み応えのあった本だったな~。
これは短編小説みたいな感じのする本でした。
うーん、かなり刺激のある斬新なストーリーでした。
読んでて気持ち悪くなった箇所が多々。。。あった。
うーん、読み終わった後、かなり考え込んじゃうよね~。
なんだか修道院なのに、外の話をしてるような
でも、それが神に許されちゃう。。。そんな矛盾を朧が証明してくれてるんだけど
こういうのってあり~???
でも、実際修道院で育った作者曰く、「あり」だそうですよ~。
んん、なんて言っていいか。。。。
ただね、私としてはここまで書かれてかなりグロテスクな内容なんだけど
芥川賞受賞出来るんだ~、って思った。。。。
私小説の王道ですね~。
まぁ、後記に載ってる対談「神を信じるか?」っていうのはね、
私としては、信じる者だけ信じればいいし、
信じたいときだけ信じればいいんじゃない?って思うのよね。
その人の思想の自由だから
とやかく言って答えを見つけるって方が間違ってるのよ。
Posted by ブクログ
キリスト教とは何か?信仰とは何か?
信仰から最も遠いと思われる主人公が、最も神を信仰しているという矛盾を感じる。そこが面白い。
7巻まで刊行。第一部は9巻までの予定。
Posted by ブクログ
第119回芥川賞受賞。
とっても衝撃的な内容だ。こうゆうのは妄想すれども、常識ではありえないと思いたい。または思っていたい。なぜなら神聖であるべきキリスト教会での世俗にまみれた行にはけっして気分が晴れやかになるものではない。弱者に向けられる過激な暴力描写なども然り。闇が深い。
この小説は読んで気分が晴れやかにならないが評価は高い。なぜなのだろう、たぶん自分とはかけ離れた世界のお話なのだと、安全な場所から映画を観るような気分で居られるからなのだ。
Posted by ブクログ
書き出しでぐっと引き込まれ、あまりに痛々しい展開とその描写の数々に目を覆いたくなるも、目が離せず読破。冒頭の第一文にはなにか不思議な魔法が掛けられているのかもしれません。
Posted by ブクログ
強烈な印象を与える本だった。
これでもかといわんばかりの血なまぐさい描写とはかけ離れた冷静な主人公の心が対照的で、怖さが増幅させられた。
この作品の舞台は確か修道院だったよね・・・。
扱いの難しそうな内容なのに普通に最後まで読めてしまった。
花村萬月恐るべし!!
Posted by ブクログ
彼の小説は本当に癖があるので好き嫌いが別れるだろうなー。
宗教と同性愛が入り混じって読んでる途中気持ち悪くなるんだけど、暗い話が好きな人にはピッタリ。
重く暗い話が読みたいとき彼の作品を選びます。
Posted by ブクログ
ただのエログロ小説と受け取られかねない、性描写や暴力が多く
非現実なイメージではある。
でもその中の俗っぽさ(特にロウの)や馬鹿馬鹿しさが魅力的。
でも続くとは思わなかった。
Posted by ブクログ
人を殺し育った修道院兼教護院に舞い戻った主人公、朧。なおも、修道女を犯し、衝動のまま暴力を振るう。はたしてそれは神となる道なのか。第119回芥川賞受賞作。抜群に面白いです。駄目な人は全く受け付けないだろうけど、はまる人は完全にはまると思います。
Posted by ブクログ
暴力とかセックスとか。
その様なテーマの本にあまり興味もないけど。
表現がエグいなぁと思ったが、読んでいて、特に快も不快もなかった。
あと、宗教みたいなものとか。
『宗教みたいなもの』
というのは、特に私自身がその信者じゃなくても、なんとなく理解できる内容であったこと。
例えば、海外の小説などでは、宗教的価値観の違いというか、その考え方を理解できない時がある。そういう意味では、本当に、厳密な意味での宗教をテーマにした、とも言い難いのか、と。
一番の読みどころは、『王国の犬』の、朧と、モスカ神父の問答。
『舞踏会の夜』の、朧と教子の、神についての会話も面白かった。
漢字が若干難しかった。
Posted by ブクログ
周囲の雑踏を排して、ただただ人間一人を眺めようとするが、人間は周囲の影響を受けて成長していく。周囲の環境は選びようがなく、その中で生きていくために人間は適応していく。有無を言わさず。
Posted by ブクログ
暴力や性の描写が多い。
だけど不思議と綺麗です。
人の持つ、負の部分を包括してしまうからこそ見えてくる、人の本質が描かれています。
哲学的な小説です。
Posted by ブクログ
初花村萬月
暴力、セックス、そして神様
主人公の思想、分かるようなやっぱり分からないような…。深い事を言っている気はするんですが。私にはこの作品はまだ早かったのかもしれません
歪んだ話だなと思いました。面白くないわけじゃないんですが読んでいて不快感が凄かったです。
シリーズ物の一作目らしいのですが続きを読む気には今のところなりません…。
でも萬月さんの他の作品は是非読んでみたいと思いました。
またいつかこの本も読み返してみたいです
Posted by ブクログ
宗教に糞尿に暴力にSEX。
言葉の囚人。
支配と服従。
ルールや宗教など、これだけ守っていれば大丈夫という拘束や支配というのは
人の気持ちを安堵させ安寧させるものなのだね。
その行動の本当の意味というものは、どこかに置かれていても。
そして、自分を安堵させるものが他に見つかれば、それに支配されなくともよい。
それがSEXでも暴力でも。
しかし、言葉で全てを解釈・解決させようとする人は大変だね。
言葉は使うものだけど、それに支配されたら
頭がおかしくなりそうだ。
( ・_ゝ・) <あたしを安堵させるものは、なんだろう。
第119回芥川賞受賞