【感想・ネタバレ】JTのM&A 日本企業が世界企業に飛躍する教科書のレビュー

あらすじ

サントリー、日本郵政など海外での大型企業買収が加速している。世界市場でシェアを確保できるかどうかが、企業の生死を決める。M&Aは買収後が勝負。買収後の統合作業が頓挫すれば、成功はおぼつかない。
「海外M&Aのことなら、この人に聞け」と言われるのが、JT副社長の著者だ。M&Aの担当者はJTの門を叩き、巨額M&Aを成功させた辣腕CFOに、どうやって経営統合するか、教えを請う。
JTの今日のポジションは、日本企業では珍しい二度にわたる1兆円規模の海外企業の買収によって築かれた。1998年、RJRナビスコから米国市場以外のたばこ事業を統括するRJRIを9420億円で買収、
2006年には英国のタバコ企業ギャラハーを2兆2500億円で買収した。
JTは大型M&Aで自身の組織や意識を変えながら、経営統合でも最大の効果を発揮している。2014年12月期の連結売上収益が2兆4300億円、調整後営業利益は6600億円。
このうち売上収益の55%、調整後営業利益の3分の2を海外事業が占めている。
日本と中国市場を除く世界市場をジュネーブに本拠をおくJTインターナショナルが担当している。「良い子(電電公社)、悪い子(国鉄)、普通の子(専売公社)」と言われた時代から、
たばこの世界シェア3位メーカーに大きく飛躍したJTの事業戦略を立役者の1人がはじめて明らかにした。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

Posted by ブクログ

ネタバレ

別の本で、M&Aはこれを読め!と紹介されていたので購入。著者は、JTでCFO等を務めた新貝氏。

感想。良かった。いくつか読んだM&A本よりも臨場感あり、細かな苦労や工夫の記載が具体的。また著者=当事者が財務・ファイナンスの門外漢という立場からCFOとして全体を主導した経験も面白かった。

備忘碌。
・JTは、日本国内のJTと、海外子会社を統括するJTIに大別。JTとJTIの関係は、適切なガバナンスを前提とした任せる経営。具体的には、責任権限規定を明確にし、JTはその範囲に沿ってJTIに物申す。この範囲を超えてJTIに、箸の上げ下ろしに口を出すことはない。

・子会社の立場だと、受権された範囲内のことを、親会社から横やりが入ると、成果責任の所在が不明確だし、当事者意識も薄ま。

・JTの承認事項は、単年度計画、中期計画、役員人事・報酬、KPI。

・加えて、徹底した経営の見える化は実施。電子意思決定システムを活用し、子会社側でどのような意思決定がされたかを常に見える状態にしている。業績状況や役員会議事録も。その上で、任せる。

・「大規模なM&Aをやるから」といっても全員が当事者意識を高めて真剣に動くわけではない。ただ、その場面が実際に生じれば、結構しっかりやってくれる。

・「準備に失敗することは、失敗するために準備する様なもの」。また著者によれば、受け身で持ち込まれた案件は、自社側の準備不足があり、上手く行かなかったと。反対に、「いつかここを買収したい」と考え、事前に研究を進めていた案件は上手くいったと。

・交渉過程では、①論点を浮き彫りにし、②「この懸念を共有してともに解決しないか」という提案で、建設的に議論したい。

・FAの活用について。専門な手続き、海外税制・法務・労働法・年金数理計算・各国の独禁法対応や申請、といったものは、アドアイザーを活用した方が良い。しかし、事業については自社の方がプロフェッショナルな筈。バリュエ―ションに必要な情報収集はFAに任せても良いかもしれないが、是非の検討は自社ですべき。(⇒自社でなすべきことを決め、アドバイザーには自社から質問を投げ、決められて範囲の手続きをして頂ければよい、と)。

・買収決定後は、一刻も早く会社の全体像や個々の将来を示してあげると、従業員が安心する。

・買収発表後は、レポートラインの明確化がポイント。誰に指示を仰ぐのか、誰に報告するのか、誰が何に責任を負うのか。これがないと、買収一日目から業務が滞る。

・M&Aにおいて「私企画する人、あなた実行する人」は上手くいかない。当事者意識が相互に希薄になる。いくら旗をふっても、やらされ感が拭えない。

・著者のCFOとして、マネジメントとしてのモットー。「元気で高いスキルを持つ個が、部門横断的に協働し、より高い成果を追い求める組織を目指す」「その為に、生煮えアイデアでも気楽に相談できる関係を数多くつくる」。たとえるならば、オーケストラやプロサッカーチーム。

0
2020年08月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

JTのM&Aについてのお話。M&Aの意味、必要な準備、CFOについての重要性・考え方など第一線で携わってきた方の経験談であるがゆえに非常に参考になる良著。
<メモ>
・買収を成功させるには、買収側の企業に自律成長の勢いがあるか、バリューチェーン上の一つ一つの機能に事業成長を支える能力が備わっているか、自らのビジネスモデルが被買収企業の業績を向上させることができるかなどなどの見極めと準備が必要。買収交渉に入る前から、準備を始める必要がある。ガバナンスについては、買収完了時点で被買収企業と合意していなければ、その後手を入れるのは難しい。
・人材面の貧者の戦略として時間を買うM&A、究極の経験者採用であるM&A
・株主の方だけをみて経営していては先細りになってしまう。
・経営情報の見える化は適切なガバナンスを前提とした任せる経営に重要な要素。議論を実りあるものにするためには、経営判断に資する同レベルの情報を有していることが重要。経済指標、市場動向、事業計画進捗など。
・人間は自分で決めたことは実行するもの。自分たちで決めたと感じてもらうために腐心することが大切。
・先に道を整備するのではなく、先に背水の陣で道を切り開いてしまうことも時には大事。組織は負荷をかけてこそ強くなれる。
・準備に失敗することは、失敗するために準備するようなもの。買収する会社自らが主体的に買収検討、作業を実施することが重要。普段からどの会社が買収対象として戦略的に合致して経済合理性を全うできるのかを検討しておくことが重要。
・買収検討、交渉の要点
①買収目的の明確化
②対象企業の選択
③統合を見据えた企業価値評価=買収後経営の蒼写真に基づく企業価値算定
④対象企業取締役会の重要関心事の洞察
⑤適切なアドバイザーの活用による買収諸課題の解決
⑥買収を巡る他者動向のインテリジェンス
・買収目的を果たせない蓋然性が高まった時に勇気ある撤退ができるよう目的を明確化することが大事。基軸は①買収目的が果たせるか否か②買収のために支払うプレミアムを超えるシナジーを実現できるか
・ギャラハー買収目的①規模拡大によるスケールメリット享受②両社の補完性を活かした競争力強化 ③技術インフラの強化④有為の人材の獲得
・様々な定量化、本社はどこにおくか、ブランドはどうするか、必要人員はどうか、工場の統廃合はなど詳細の事前検討を行う事が買収後経営の青写真。
・ピアプレッシャーを受けての交渉をうまく進めるために、しっかり授権をもらっておくことが肝要。信頼関係構築につながる。
・投資銀行に期待することはインテリジェンス。情報収集。一番事業をわかっているのは自分たちのはずなので、企業価値評価は期待しない。
・買収は契約ではなく、統合が成功して初めて成功といえる。初期の目的を果たし、買収プレミアムを上回るシナジーを実現すること。
・社員が抱える不安は時間とともに膨らんでいくため、統合のスピードはあげる必要がある。一刻も早く企業の将来像、個々人の将来を明確化することが不可欠。会社を去らなければならないとしても、不透明なままよりははっきりする方がベター。将来が明確になるほうが腹が据わるため。
・inhaousemanagement 社内資源での統合完遂。当事者意識を鼓舞することが非常に重要。
・統合計画の教訓
①ターゲット企業を徹底的に知ることが大切。買収後経営の蒼写真とともに。統合時課題の発掘
②権限委譲。③統合体制をしっかりつくる。十分に準備する。④社内コミュニケーション 買収完了後トップが拠点訪問し社員と直接対話すること。統合における基本原則の徹底。当事者意識を鼓舞する統合管理体制の整備。買収作業を担ったチームが統合終了まで仕事が終わらないことを意識付け。
・連結決算の早期化は新しい二つのマインドセットが必要に①受け身の態勢から能動的な仕事への取り組み②個人技、似非職人的スキルに支えられたプロセスから高いスキルをもつ個々がチームとして有機的に連携し、目標追求するプロセスへの移行
・財務企画部ミッション①事業ポートフォリオに応じた最適資本コストを実現すべく財務戦略を企画立案
経営トップのスタッフ
②経営事業ビジョンを定量的目標におきかえ、進捗リスク管理 事業のパートナー
③適切な税務計画により税務リスク低減 価値創造主他
④経営ニーズ、事業ニーズを先取りし、エンプロイアビリティある財務パーソンを育成・獲得する 外部とのコミュニケーション役

・財務企画部機能
①会社資本政策の立案機能 財務レバレッジ・還元政策・投資余力を定期的アップデート
②財務機能としての企画機能 グループ内資金の集中、資金調達力強化、財務リスクのコントロール強化。
③経営管理機能 中期、事業計画策定と進捗モニタリング。事業進捗に応じた責任権限設計と事業評価、インセンティブ設計、
④クロスボーダー税務機能 国際税制への適切な対処
⑤人材マネジメント機能 

・①グループ共通の戦略的枠組みの欠如。混乱を招き、連携の取れたアクションが欠如してしまう。②レポートラインの在り方、曖昧な責任権限規定。③コミュニケーション。顔を合わせる機会が少ない。
・強い組織の条件は高いスキル、元気、協働することで高い成果を目指す意思。
・モチベーション向上の実施策
①ビッグピクチャーの共有、個々人の仕事がそれにどう貢献するのか説明すること。
②対話型コミュニケーションの充実。オフィスレイアウトや宴会など含む
③個々人がその将来をしっかり考え、実現を会社がサポートすること
④褒め合う文化の醸成
⑤継続的な改善
・9つの価値ドライバー
①売上成長を伴うEBITDAマージン向上
②税務負担の最適化
③資産効率の向上
④ビジネスリスク財務リスク低減
⑤有利子負債コストの低減
⑥コンプライアンス、内部統制の向上
⑦友好的なインベスターリレーションズの構築
⑧人材育成と獲得
⑨部門横断的なチームワーク向上
・CFOはチェンジリーダー。企業価値を長期にわたり継続的に向上させるために自らを日々新たにしなければならない。
・CFOは経営者、CFOはCEOの財務面でのブレーン。CFOは財務機能のリーダー、CFOは資本市場や金融市場への大使
・経営者としてのCFO機能は変化を機会ととらえ、戦略的にリスクをとり、リターンを追求すること。リアルオプション、バリューアットリスクを理解して正しく適用し、リスクを見極めること。リスクをとったあとは、素早い仮説検証やPDCAサイクル。
・CEOのブレーンとしてのCFOの機能はCEOのデッサンをCFOが構造計算し、建築可能か吟味し、よりよい構造となるようCEOと対話すること。企業買収、設備投資、運転資本投資において、資本コストを上回るリターンが得られるか、買収プレミアムを上回るシナジーが得られるかといった投資対リターンののぎりぎりの見極めが必要。将来の糧になる研究開発投資や広告宣伝販売促進投資とリターンの関係を最適化する手法を開発しなくてはならない。
・金融市場や資本市場に対する大使としてのCFOは財務係数を事業戦略とともにストーリーとして組み立て、対話を通じてわかりやすく投資家アナリスト格付け機関など外部ステークホルダーに説明する能力を必要とする。
・財務機能のリーダーとしては人をリードし、モチベートし、組織力を向上させ、人を通じて成果をあげること。普段の改善を通じた価値創造を行う事。
・自己紹介によってお互いをよく知ること、互いに関心を持つことから敬意醸成、信頼関係構築といった一連のプロセスにつながる。
・関心なくして敬意なし、敬意なくして信頼なし、信頼なくして協働なし。

0
2016年04月04日

「ビジネス・経済」ランキング