あらすじ
1788年、イギリスの植民地として出発したオーストラリア。ヨーロッパ移民が立ち上げた白豪主義の国は、資源と貿易を通じて成長し、1901年に独立。世紀20は戦争と移民政策で東アジア世界と交わり、世紀も多民族国家と21して独自の力を発揮している。本書は、英帝国やアメリカ、日本、中国と対峙しながら、ミドルパワー国家が台頭する成長物語である。旧版を全面刷新し、200年以上の海域の歴史空間を克明に描く。
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Posted by ブクログ
【感想】
オーストラリアの成り立ちの歴史を俯瞰できる良書。これまで、オーストラリアは穏やかで、多文化を受け入れる寛容さを持った国としての印象があったが、そこに至るまでの紆余曲折があり、また今もって米中などの大国間との関係を模索しているということが、理解できた。ウクライナ戦争において、オーストラリア在住のウクライナ系移民・ロシア系移民に対して、首相が双方を慮った言動をしたという出来事については、オーストラリアらしく心温まるエピソードだと感じた。
【要約】
オーストラリアはもともとイギリスの植民地であるが、その関係性にはアメリカに対する植民地支配における反省が大いに生かされていると言う。まず、アメリカに対する苛烈な支配は独立運動へと繋がったが、オーストラリアに対しては一定程度の自治権を与えることで、良好な関係を築いてきた。よって、オーストラリアには独立記念日が存在しない。また、アメリカも多くの移民が共存している点では、オーストラリアと同様であるが、移民への英語教育が行き渡らないことにより貧民層を生み出し、治安の悪化へと繋がったとの見方がある。この反省を生かし、オーストラリアには移民への英語教育を徹底してきた背景がある。
●多文化国家
オーストラリアは、当初からヨーロッパ系の移民を中心に受け入れてきたものの、そのうち中国系の移民を受け入れることにより、オーストラリア人の雇用が脅かされるようになる。そのため、アジア系移民の定住を制限するため白豪主義を実践してきた。しかし、後年人口減少の解決策として、移民を積極的に受け入れるようになる。この時もやはりヨーロッパ系移民を念頭に置いていたが、審査基準としてのポイント制の導入により優秀なアジア系移民が流入するようになる。またベトナム戦争の難民に対しても、当初は限定的な受け入れであったものの、アジア諸国から非難を受け、多くを受け入れるよう方針の転換を迫られる。このように始まった多文化国家の萌芽であるが、その後オーストラリアは多文化国家を一つの自画像として、歩み始める。
●ミドルパワー
オーストラリアは、当初はボーア戦争や義和団事件に関与することにより、イギリスへの忠誠心を表してきたとも言えるが、後年その忠誠心に対し疑問が生じるようにもなる。
日露戦争が終わり、イギリスが太平洋からの軍備の撤退を表明したため、オーストラリアは自国の軍事力増強を迫られたのである。それは、一時期イギリスと決別し、アメリカとの同盟を重視する動きとしても現れる。
以前は、アメリカなどの大国と並んで世界におけるプレゼンスを発揮することを目指していたが、やがて大国が対応できないニッチな課題、例えばアジアや南太平洋諸国における、紛争の調停や安全保障においてプレゼンスを発揮する。
昨今は、基本的にアメリカとの同盟関係を重視してきているが、自国の利益を最優先とするトランプ政権の台頭により、ここもやはりオーストラリアの軍事力強化を促すこととなっている。
これは、主に積極的に海洋進出や軍事力拡大に進んでいる中国を意識してのことである。中国は、経済的には貿易国としてのパートナーシップを結んできた過去があり、対中・対米のバランス外交を実践してきたが、対応の転換を求められるつつある。