あらすじ
「原発のコストは高い」「“安全な被曝量”は存在しない」「原発を全部止めても電気は足りる」。40年間原発の危険性を訴え続けてきた研究者が語る「原発の真実」とは。
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Posted by ブクログ
p.118から「地球を温め続ける原発」という節がある。ここに、驚くような数字がある。
本書によれば、年間に日本の国土から、河川を通じて流出する水の量が約4000億トンである。それに対して、54基の原発から排出される温排水が年間に約1000億トンであるという。その温排水は、原発に入ってくる時よりも排水されるときのほうが7度も高温であるという。
本書のこれらの数値を用いて、たとえば温排水が海の表面で厚さ1mで広がるとすると、40年くらいで太平洋の何パーセントの海面を覆うのか、といった試算ができる。近年の海面温度上昇の実測値などと比較することもできる。
Posted by ブクログ
3.11震災による福島原発の破局的状況を抱える現在において、本書がベストセラーとなるのは当然すぎることだろう。とにかく解りやすい、一気呵成に読める。原発破局の実態が、客観的事実に裏づけられつつ簡潔明瞭に解き明かされいくコンパクトな全7章182頁。
終盤の6章で取り上げられる、浜岡原発や上関原発、六カ所村の再処理施設、高速増殖炉もんじゅ等の問題点などにいたっては、その終末的実態にただもう暗澹とするほかない。
初版三刷、いま話題の本ではあるが、さらに広く読まれることを期す。
負の遺産//原発 -2011.07.20記
<放射能とはどういうものか>
◇放射能の怖さは、DNAを破壊し遺伝子異常を引き起こすこと。
JCO臨界事故では、被曝者の細胞が再生されず、全身が焼けただれるようにして亡くなった。
◇今回の事故で、すでに原爆80発分の放射性物質が飛び出している。
いま問題なのは内部被曝。ベ-タ線やアルファ線は、進む距離は短いがエネルギ-が大きい。
体内の細胞に付着すると、そのごく近傍の細胞に継続的に影響を与える。
<放射能汚染から身を守るには>
◇人体への影響はLNTモデル-=線量の増加に伴い危険性が増える-で説明される。
原発推進派はこれを認めず、一定量以下の被曝なら影響ゼロとの立場を取る。
だが、人体に影響のない被曝はない。最近では低線量被曝がむしろ危険度が高い、との研究も出ている。
◇事故での被曝を防ぐには、まず事故の場所から遠ざかること。
風向きと直角の方向に逃げる。雨を避ける装備やマスクなども必要。
国の発表は過小評価なので、ネットなどで情報ル-ト開拓をする必要。
◇文科省の「20ミリSvまで安全」は狂気。
表土除去など被曝を少しでも減らす方策が必要だ。
汚染されたゴミは原発周辺に送るしかない。また周辺の農地はすでに再生不能。気の毒だが、もう住民は元に戻れない。
◇放射線は若い人ほど影響を受け、50歳以上ではガン死の可能性が劇的に下がる。
汚染された食物は隠さず流通させた上で、大人が引き受けるべき。
◇原発を容認した大人にも責任があるのだから、被害を福島だけに押し付けてはならない。
周辺住民の重荷は社会全体が共有し、支える必要がある。
<原発の“常識”は非常識>
◇原発の運転により、日本国内にある死の灰は広島型原爆の80万倍に及ぶ。
国は原発の危険性を分かっていたので、原賠法で電力会社の賠償責任の上限を設定。電力会社に建設を促した。
◇電力会社の利潤は、市場原理ではなく資産で決まる。
原発は作れば作るほど資産になるから、電力会社は建設をやめない。一方で電力料金は高騰する。
◇「原発は低コスト」は嘘。
再処理や開発費用を加えると火力より高い。ウランの採掘や濃縮で多量のCO2も排出。
さらに、発生した熱の3分の2は水に伝わり、海に捨てている。こんな原発のどこがクリ-ンなのか。
<原子力は未来のエネルギ-か?>
◇化石燃料枯渇への恐怖が原発推進を容認してきた。
だが石油可採年数は増加。むしろウランの方が先に枯渇する。
<「石油がダメだから原発」は誤り>
◇資源不足を解決するべく始めた核燃料サイクル計画も失敗続き。
もんじゅは1兆円を注ぎ込んで1kwも発電していない。実用化は無理だろう。
◇プルトニウムを処理するために、MOX燃料対応の原発-大間原発-を建設中だ。
原発の問題をクリアするためにまた原発。悪循環から抜け出せない。
<地震列島日本に原発を建ててはいけない>
◇地震多発地域に原発を54基も作ったのは日本だけだ。
浜岡原発は、必ず起きる東海地震の想定のど真ん中。
今回の停止を、津波対策のみならず全原発の安全対策検証の契機にするべき。
◇六ヶ所村の核燃料再処理工場には大量の使用済み燃料が集まる。
本格稼働すれば日常的に放射性物質を廃棄することに。コスト減でフィルタも取り付けられない。
◇高速増殖炉もんじゅの冷却材はナトリウム。空気に触れると火災が発生する。
水に触れても爆発するから、消防車も使えない。地震で施設が破損したらすべてが終わる。
<原子力に未来はない>
◇原発は、先進国では縮小傾向にある産業。その上、日本は原発技術の後進国だ。原発は止めなければいけない。
実は全原発を止めても、火力の稼働を7割-通常5割-にするだけで必要量は賄える。
◇核のゴミは、六ヶ所村では300年監視が必要という。
もう、原発で得たエネルギ-より、処理のデメリットの方が大きいではないか。
◇代替エネルギ-の開発と普及を考えよう。
日本はかつて太陽光発電では世界トップの技術を誇った。
一方で、エネルギ-大量消費を前提とした生活を考え直す必要がある。
Posted by ブクログ
原子力発所は何度か行ったことがあるけど、本当に間近まで普通に民家があった。要塞のような敷地内に入ると、目の前に広がる海、真上に広がる空、どちらも遮るものがなく、そこに無防備にそびえる原子炉建屋の光景に、異様な心もとなさを感じた記憶がある。
当時は「ミサイル攻撃でもされたらおしまいだなぁ」と思った。まさか地震と津波であのような大惨事になるとは思ってもみなかった。そもそも安全な土地に立てられているはずで、たとえ災害に見舞われても何重にも安全策がとられているはずだったのだから。
「朽ちていった命」に次いで、読んで思ったのは「人間は原子力を制御できない」。放射線医療のような人の役に立つ面もあるけれど、発電所のような大規模施設でひとたび暴走すれば人間の手に負えるものではないということ。プルトニウムの毒性が1000分の1に減るまで24万年かかるそうで、放射性物質が漏れ出せば影響は永久に終わらないということだ。
本書の前半は、昨春の段階で福島原発で起きていたこと、なぜ復旧作業が進まないのか、原子力、放射能とは何かが分かりやすく解説されている。
怖かったのは「安全な被曝は存在しない」のくだり。どこかで放射性物質が検出されるたび、ヒステリー状態になってしまうのは、やはり取り越し苦労ではないのだと思った。被曝から身を守る方法も書いてあるけれど、結局は「逃れられない」と思う。
後半は原子力発電を進めてきた国と電力会社の論理、電力会社がつぶれないわけ、原子力発電がエコでもクリーンでも安全でもなかったという「安全神話」の欺瞞をあばいている。
過疎地の海辺。福島原発の映像を見たとき、自分が見たあの風景とあまりに似ていて驚いた。原子力発電所が電力消費地の都会にない理由。安全な場所につくったのではなく、危険だから僻地につくったという、明白な事実を再認識した。
筆者は脱原発は可能だと説いている。★ひとつ分は、推進派の考えを知りたいと思ったので。
「起きてしまった過去は変えられませんが、未来は変えられます。」との前書きを読んで、どういう未来を選択するか、知らないで思考停止せず、考えないといけないと思った。ちなみに筆者は助教とのこと。やはり反体制で干されてきたのだろうか。