あらすじ
大戦末期。東京から宮城の田舎へ集団疎開した浜野清子は、そこで那須野リツと出会った。対立する「海」と「山」の呪縛か、無意識に忌み嫌い合うふたりの少女。だが、戦争という巨大で最悪の対立世界は、彼女たちから、大切な存在を奪ってゆく……。宿命に抗いはじめた少女たちが願う、美しき未来とは――。
特別書き下ろし短篇収録。〈解説〉瀧井朝世
【電子版巻末に特典QRコード付き。〈螺旋プロジェクト〉全8作品の試し読みを読むことができます】
※〈螺旋プロジェクト〉とは――
「共通ルールを決めて、原始から未来までの歴史物語をみんなでいっせいに書きませんか?」伊坂幸太郎の呼びかけで始まった8作家朝井リョウ、伊坂幸太郎、大森兄弟、薬丸岳、吉田篤弘、天野純希、乾ルカ、澤田瞳子による前代未聞の競作企画
〈螺旋〉作品一覧
朝井リョウ『死にがいを求めて生きているの』(本作)
天野純希『もののふの国』
伊坂幸太郎『シーソーモンスター』
乾ルカ『コイコワレ』
大森兄弟『ウナノハテノガタ』
澤田瞳子『月人壮士』
薬丸岳『蒼色の大地』
吉田篤弘『天使も怪物も眠る夜』
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Posted by ブクログ
目次
・コイコワレ
・九月、急行はつかり車内にて
〈螺旋プロジェクト〉の一冊。
〈螺旋プロジェクト〉とは
「共通のルールを決めて、原始から未来までの歴史物語をみんなでいっせいに書きませんか?」伊坂幸太郎の呼びかけで始まった8作家=朝井リョウ、伊坂幸太郎、大森兄弟、薬丸岳、吉田篤弘、天野純希、乾ルカ、澤田瞳子による前代未聞の競作企画である。
ルール1 「海族」vs.「山族」の対立を描く
ルール2 共通のキャラクターを登場させる
ルール3 共通シーンや象徴モチーフを出す
(中央公論新社HPより)
乾ルカなので、きっと最後の最後でどんでん返しがあって、もう一度最初から読み直さなくてはならなくなるのだろう、と思いながら読んでいた。
けれど、読みながら予想する先の展開は、ほとんどそのとおりになり、多分あーなってこーなって、で、どうなるの?の最後のどんでん返しがなかったことが、最大の衝撃だったかもしれない。
もちろん、最後にもちゃんと驚きの展開はあるけれども。
理屈ではなく、もっと本能に近いところで湧き上がる、嫌悪や憎悪。
東京から疎開してきた清子も、疎開先の村にいたリツも、周囲の人たちからいじめられていたけれど、これほどの憎悪を感じる相手は今までいなかった。
理屈ではないので、嫌うことを止めることはできない。
けれど、それを律することを学べ。
二人はそれぞれ信頼する大人から、そう言われる。
大切な人、大好きな人と別れる、失う。
大きな痛みを抱えたからこそ、相手の気持ちを慮ることができた。
決して好きにはなれなくても。
「嫌いだという感情をただぶつけるのは、お腹が空いたから泣く赤ん坊と同じ。憎しみを抱いても、争わないでいることはできるはずです。」
清子の母も、世間の冷たい目に晒されながら生きてきたが、それでも清子にそう伝える。
命を繋いでいくときに、争いは繋がずにすむように。
途中、清子が夢見た未来に唐突に出てくる「みやこ」という名前。
カタツムリをモチーフにした怪物のイメージ。
そうか、こういう形で世界がつながっていくのか。
書き下ろしの短編は、『コイコワレ』の後日譚であり、作者の別なシリーズのスピンオフでもあるようだ。
後日譚としては必ずしも必要と思わないけれど、その後を知りたい人もいるだろうから、サービスとして受け入れます。
Posted by ブクログ
浜野清子
母と二人暮らし。東京から宮城県の寺「高原寺」へ集団疎開する。六年生。
清子の母
清子の父
食堂を営んでいた。蕎麦粉を買い付けに行った帰り、事故で死亡した。
今谷源助
山男、山翁。山中に一人で棲んでいる。
那須野リツ
五年生。とがった耳が特徴。山犬と言われる。清子と仲が悪い
那須野健次郎
炭焼きの爺つぁんが拾った捨て子。高原寺の養子として育つ。
和夫
リツの同級生。五年生。
三郎
リツの同級生。五年生。
タマ
住職の母。
住職
四十路。
金井
清子の疎開に付き添う先生。
サト
住職の妻。
ハナエ
清子の同級生。
松田雄介
召集令状で出征することになった青年。
信行
住職の息子。
晃由
住職の息子。
節子
コウ
Posted by ブクログ
苦手な人とは距離を置く。挨拶と最低限の会話はするけれど、必要以上に近づかない。笑顔を見せない。それが最善だと思っていた。
物語の中で源助老人はリツをこう諭す。
「本当に強い者は、憎しみを相手さ向げね。その、自分の憎しみど戦う。」と。
清子の母親はこう語りかける。
「嫌いな相手には特に意識して、誰よりも丁寧に、親切になさい。」と。
この二人の言葉を肝に銘じたい。