あらすじ
誰とも比べなくていい。
そう囁かれたはずの世界は
こんなにも苦しい――
毎日の繰り返しに倦んだ看護師、クラスで浮かないよう立ち回る転校生、注目を浴びようともがく大学生、時代に取り残された中年TVディレクター。交わるはずのない彼らの痛みが、植物状態の青年・智也と、彼を見守る友人・雄介に重なるとき、歪な真実が露わになる。自滅へひた走る若者たちが抱えた、見えない傷と祈りに触れる物語。
文庫版特典:特別付録/本作と螺旋プロジェクトに寄せて
解説/清田隆之
【電子版巻末に特典QRコード付き。〈螺旋プロジェクト〉全8作品の試し読みを読むことができます】
※〈螺旋プロジェクト〉とは――
「共通ルールを決めて、原始から未来までの歴史物語をみんなでいっせいに書きませんか?」伊坂幸太郎の呼びかけで始まった8作家朝井リョウ、伊坂幸太郎、大森兄弟、薬丸岳、吉田篤弘、天野純希、乾ルカ、澤田瞳子による前代未聞の競作企画
〈螺旋〉作品一覧
朝井リョウ『死にがいを求めて生きているの』(本作)
天野純希『もののふの国』
伊坂幸太郎『シーソーモンスター』
乾ルカ『コイコワレ』
大森兄弟『ウナノハテノガタ』
澤田瞳子『月人壮士』
薬丸岳『蒼色の大地』
吉田篤弘『天使も怪物も眠る夜』
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
死ぬまでの時間に役割が欲しいだけ、という雄介の悲痛な叫びに心がギュッとなった。
私は、目標(=生きがい)がないと虚無感と不安で生きる事への絶望を感じる性格だ。
目標を見いだせなくなり、先を行く道が真っ暗になった時期があり、生きづらさを強く感じていた。
私が生きづらさを感じる要因と、小説の中でそれぞれの登場人物が感じる痛みが自分と重なり、共感や納得感を得られた。
終盤の、智也による「どうせ歩き続けるしかないのだから、きれいごとに聞こえる話を絶望と一緒に一度呑み込んでみるのも手ではないか」という言葉。
私は軽い衝撃を受けた。そうか、と。
どうせ生きていくしかないのだから(それだけでも有り難い事は承知の上)、降伏しようと。
人と比べて自分を卑下して自信を持てず不安の中歩いているのは自分だけじゃない。多くの人が周りの状況を伺いながら、自分の立ち位置を確認しながら、自己評価しながら、生きてる。
大事なのは、今出来ることや手にしている物に目を向けることだ。ないものねだりではなく、あるもの探しは忘れないようにしたい。
まとめ
中盤までは、生きづらさや絶望、正体の分からないモヤモヤを自覚ししんどくなる事もあった。しかし、そのモヤモヤを言語化し表現されており、最終的には前を向ける小説だった。
Posted by ブクログ
読み終わった後に、もう一度序盤のページを開いて読み直した。
p22の雄介のセリフ
「小さなころからずっとずっと一緒で、二人でいろんなことを助け合ってきたのに、あの瞬間だけ、助けることができなかったんです。二十年間の中で、あの一瞬だけ、俺はどうすることもできなかったんです。そのことがずっとずっと許せなくて…こいつの人生が止まった瞬間に何もできなかったから、せめて、こいつの人生がもう一度始まる瞬間には、絶対に立ち会いたいって、そう思ったんです」
この言葉の背景を知ってしまった今、もちろん素直には受け止められない。
自分本位過ぎるほどの裏面を知ってしまった今、
ここに純粋な友情は見えない。
オンリーワンになりたくて痛々しい若者たち。
自分の若かりしころや周りにいたエネルギッシュな友人たちを思い出して雄介や智也に投影してしまう。
対話をする覚悟が決まる智也も、
未熟で凡庸な選択をし続けてしまう雄介も、
自滅的でしんどかった
正解のない終わり方に、
正解がなくて当たり前なんだけど
重いものがのしかかったような読後感。
Posted by ブクログ
私が生きてて疑問に思ってたことを言語化してくれて、スカッとした。人助けはその人のため、その人の生きがい、死にがい、生きてるための理由。人助けされてる人はそれに利用されているだけ。でもこんなことに気付かずに人助けしたり、されたりする人生がよかったなあと思ったり。ここで終わっちゃうの!ってなったり、逮捕されちゃったり、報われなかったり、続きが気になるけど、それでこそその人の人生ってことなのかなあ。私は生きがいも死にがいもないから、雄介みたいに無理矢理でも見つける熱量があるのは羨ましい。地味に礼香の職場体験の時の一言一言が核心をついてて、読んでいて辛かった。
Posted by ブクログ
なんでこんなにもこの人の小説は、自分自身の内面に眠る嫌〜なところをチクチクついてくるんだろう。。
本作は特に刺さってしまった
結局、自分を自分で肯定するために敵を作って戦うこと、何かを見下したい欲求から逃げられないのが人なのか。そうでないと信じたい智也ですら、自分も父という敵があったからこそ自分を保ってきたことに気づきどん底に落ちてゆく。
最近別で読んだ哲学書に通づるところもあった
では、私自身はどうなのか。この本で感じた感情が新しいうちに、智也のように、自分が何を「生きがい」...いや「死にがい」として生きてきたのか?丁寧に考えを積み上げてみる作業をしてみたい気持ちになった(が、どん底に落ちそうで怖くもある)。
Posted by ブクログ
朝井リョウはなぜ自分の痛いところを確実に突いてくるのだろうか、言語化の鬼だといつも思う。特に解説にあった「当事者性を求めて生きる」という言葉刺さった。
あなたのままでいい、という言葉って残酷だな〜実際に進学したり就職したりするためには「人より特別な経験」が必要とされてるのに!
自分はかなり他者評価重視にんげんであり、他者評価軸を捨てなければと思う時は何度も何度もあったけれど、そしたら自分のエネルギーはどこから発生するんですかね ひとりで自発的にエネルギーを生み出せる人がこの世にどれだけいるんだろう?でも世の中では、そういう人がよくかっこいいスマートだと言われて普通にムカつく
そういう世の中だとしても、雄介のように泥臭く生きている方が人間味があると私は思うし、それでいいと誰かに言って欲しい。
Posted by ブクログ
雄介のこと、すごく嫌だなあ、こういう人苦手だなあと思いながら読んでいたけど、後半気づいたら智也よりも雄介に感情移入してた。
「俺は、死ぬまでの時間に役割が欲しいだけなんだよ。死ぬまでの時間を、生きていていい時間にしたいだけなんだ。」って台詞が印象に残った。生きていていい理由とか価値が欲しいっていうのはすごくわかるけど、雄介はそれを自分で生み出しにいくところが、人とは違うところなのかな
産まれてきたくなんかなかったと思ってしまうから、「生きがい」とか「自分が生きていていい理由」とか、いつも考えてしまうけれど、答えは出ないし、「生きているだけでいい」と短期的には思えても、やっぱり納得できないし、どうしても人と比較して、私はどうして生きてるんだろうって。人との繋がりがないと自分の価値を見出すのは難しくて、絶対評価よりも相対評価で考えてしまう。そういうことをこの小説全体で書いているのかな、と思った。
智也の「俺たちは二人とも、違うまま、脱落できない世界の中で生きるしかないんだよ。」の台詞が、何となく、私の中では納得のいく答え。ただ生きるしかない。それは結局生きてるだけでいいとか、人と比べなくていいとか、そういう言葉と同じかもしれないけど、脱落できないから生きるしかないし仕方がないんだ、と納得したい。
Posted by ブクログ
雄介が言う人間は3種類いるという話が印象に残った。とりあえず働くのは、三つ目の人間に堕ちたくないから。自分はたまたま家族がいるので、雄介のいう一つ目の人間に当てはまるのかもしれない。でも、三つ目の人間とも言えるような気がする。というか、三つ目の人間になりたくないと思いながらなってしまっているような感覚になり、焦燥感に駆られることがある。今後子供が巣立ってしまったら、自分に何もない気がする。この辺りの雄介に共感したが、それも何だか自分でショックだった。自分は雄介と同じなんだと思った。自分が見たくない部分を書かれて、何だか処理しきれずぼんやりしてしまう。朝井さんの本は大体こういう衝撃を受ける。
朝井さんの本はミステリーじゃないのに続きが気になる。今回は、人の秘密というか行動の動機となる心情の部分が巧妙に描かれないまま話が進んでいくので、気になって読んでしまった。でも最後までにはしっかり描かれる。知りたかったけれど見たくなかったもの。考えさせられる。
Posted by ブクログ
「やりたいことを見つけた人は今何してるのって聞いてくる〜じゃあ何かやりたいこと見つけるって話だから」の部分がわかるーーーーーーーってなった
今何してるのって聞かれるのが嫌な理由がここに詰まっていた
Posted by ブクログ
おそらく、この本を読んだ誰もが最初のシーンをもう一度振り返りたくなるのではないだろうか。
私は「一度読んだ後に、読む前とは受け取り方が変わる物語」が好きである。そのため、この作品は読み進めるにつれてパズルのピースが自分の中で少しずつはまっていくような感覚があり、とても楽しめた。
私は大学生という立場から、登場人物たちの姿に自分の見たくない部分を突きつけられるような場面が多くあった。何かに対立しなければ自分の価値を見出せない雄介。彼を諭そうとしながらも、自身も父親という存在に疎ましさを抱き、同時にそれを生きがいとしているのではないかと悩む智也。彼らの姿は、「私にとって生きがいとは何か」と改めて考えさせるきっかけとなった。
SNSでの承認欲求に駆られた投稿は、いつから当たり前になったのだろうか。実際に雄介のような人物が身近にいたら、私は距離を置くかもしれない。だが、己の生きがいという問題に真剣に向き合い、「ヘラヘラ生きる」ことを選ばなかった雄介の姿には、少しの尊敬すら覚えた。オンリーワンの価値が叫ばれる現代で、それ自体が悪いとは思わない。しかし、私を含め、その風潮に胡坐をかいている人は多いのではないだろうか。今後も他者と比べ、優位に立ちたいという心が消えることはないだろう。だが、少なくとも自分を見つめ直し、手段と目的を取り違えていないかを意識し続けたいと感じた。
今回、朝井リョウさんの作品を初めて読んだが、他にも有名な著作が多く見受けられた。是非そちらも読み進めていこうと思う。
Posted by ブクログ
作中に、女性が活躍していることを快く思わないシーンが出てくる。実際には女性だからではなく、その女性が社会のニーズをいち早くキャッチできたから評価されているんだと思うけれど、ひとではなく女性だからと思ってしまうほど男性性の特権の強さが脅かされることへの恐怖を感じた。仮にもしそれが女性故に評価されているのだとしても、それは女性が社会的弱者の立場だから気付きやすいということの影響がある。
あとなんかしんどいなと思ったのが、陰謀論に絡め取られていく過程がリアルだったこと。裏事情は何ごとにもあると思うけど、そんな重大な事案の裏事情がいとも簡単にSNSでわかると思えるのはどうしてなのか。昔から今の過激な動画サイトのような週刊誌はあったけど、どうも性質が違う気がする。
自分とは何ものかを模索している途中の、自他境界線が曖昧な年ごろに、より刺激の強い動画のみで情報収集していくことに何かがあるのかなと感じている。
全体的に有害な男性性が散りばめられていて、読んでるのがしんどい部分もあったけれど、この有害な男性性をよしと考えて絡め取られる女性の姿もよぎった。正直にいうとあまりのめり込めなかったんだけど、たぶんそれは自分もその有害な男性性を内面化してしまっていることに対する羞恥なのかもしれない。
Posted by ブクログ
螺旋プロジェクトそのものを知らずに、作家で選んで読んだ。
タイトルから暗い話かと思ったら、そうでもなくて。ここで終わるんだという感じもあった。
雄介みたいなタイプ、いるよね…。私も苦手だな…。対立を生んで優位に立ちたい、リーダーになりたい人。私は対立、順位付けが全くモチベにならないし、逆にモチベが削がれるけど、父は自ら対立は生まないにしても対立、順位付けのある環境の方が好転するタイプだろうなあと思ったりした。
生殖記を読んだあとに読んだから「生産性」をさらに感じた。自分の「生きがい」「死にがい」ってなんだろう。何も思いつかない。本当にそれってなきゃダメなものなの?と思っている。
最初の雄介の献身さにそんな唯一無二の友達ってできるもんだなあと思ってたのに、読んでる途中からあれはエゴだ…と思ってしまって。
怖い。と思った。当事者じゃないのに寮の伝統行事で旗振るのとかとても怖い。この怖さを言葉にするの難しい。
生きる理由ってそんな見つけられないよね。私は見つけようとして、そんなものなくていいかと諦めたような気がする。だから今死んでもいいように「生きている」より「過ごしている」感覚の方が合ってる。
最後の会社の火災はどういう理由で起きたんだろう。私見落としてるのかな…。
智也の言う「グラデーション」って大事だよね。