あらすじ
なぜ私たちはあの人の論破にだまされるのか。
事実と物語は混ぜるな危険!
陰謀論とフェイクが溢れる世界で生き抜く「武器としての思考法」。
文明を築くのに一役を買ったストーリーテリング。その伝統あるストーリーテリングが近い将来文明を破壊するかもしれない。
ストーリーテリングアニマルである私たち人間の文明にとって、ストーリーは必要不可欠な道具であり、数え切れない書物がストーリーの長所を賛美する。
ところが本書の著者ジョナサン・ゴットシャルは、ストーリーテリングにはもはや無視できない悪しき側面があると主張する。
主人公と主人公に対立する存在、善と悪という対立を描きがちなストーリー。短絡な合理的思考を促しがちなストーリー。社会が成功するか失敗するかはそうしたストーリーの悪しき側面をどう扱うかにかかっている。
陰謀論、フェイクニュースなど、SNSのような新しいテクノロジーがストーリーを拡散させ、事実と作り話を区別することはほとんど不可能になった。人間にとって大切な財産であるストーリーが最大の脅威でもあるのはなぜなのか、著者は説得力をもって明らかにする。
「ストーリーで世界を変えるにはどうしたらいいか」という問いかけをやめ、「ストーリーから世界を救うにはどうしたらいいか」と問いかける書。
スティーブン・ピンカー、ダニエル・ピンク絶賛!
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
『幅広い分野の研究者が共同で科学的手法を用い、「物語に関わる脳」を研究している。その結果は率直に言って不穏なものだ。研究成果を見ると、物語の名手はフォースの使い手に似ていなくもない。物語の語り手は私たちに魔法をかけて心の中に入り込み、私たちの物の感じ方を変え、それによって考え方を変え、お金の使い方、投票先、関心の対象を変えている。善をもたらす強力な物語の力を真のジェダイが操るのであれば、すばらしい。しかし人をなびかせる物語の力は、ダークサイドにも使われる』―『序章 物語の語り手を絶対に信用するな。だが私たちは信用してしまう/必要不可欠な毒』
基本的に、ジェットコースター本と勝手に呼んでいるエンターテイメント系の本は読まないようにしている。もちろん以前から読まなかった訳ではない。読書の魅力に嵌まった切っ掛けはシャーロックホームズだったし、一時は週に何冊もミステリー系の本を乱読していた時期もあった。例えば赤川次郎の三毛猫シリーズや三姉妹シリーズなどかっぱえびせんのように読めてしまう軽いタッチのもの。もう少し本格的な早川の赤い背表紙のクリスティを順番に読んだりもしていたし、氷室冴子の少女小説を片っ端から読むなんてこともしていた。そういう読書をしなくなったのは社会人生活の中で他に読まなければならない文献やテキストが増えたせいだが、10年程愉しみの読書から遠ざかっていたら、そういう本が読めなくなったという事情もある。
遠ざかってから、改めてかつて好きだった作家の本を読んでみると、ジェットコースターに乗った時に味わうような、勝手に身体が動かされている感じ(本書によるとナラティブ・トランスポーテーションというらしい)が気になった。そんな時に出会ったのが柴崎友香の小説で、よく「何も起こらない小説(例えば、柴崎友香の「きょうのできごと」を基に映画を撮った行定勲監督もそう言うけれど)」などと評されている作家の、日常の細かな変化を丁寧に描写する感じに妙に心惹かれたりしたのを切っ掛けに文芸系の小説をまた読むようになった。
昨今のフェイクニュースの話に限らず、そういう自分の読書体験からも、人は情報や他人の言葉に踊らされ易い、ということは理解していたつもりではある。あるいは文献を読む際によく言われる「人は自分の知りたいことしか読み取らない」という経験から、情報の受け止めというのは主観的であり恣意的であることも解っていたつもりだった。だからこそ本書に興味を持ったのだが、読んでみると概ねその感覚が再確認されただけではなく、事態はより深刻であるという感覚に襲われた。
『無意識に働きかけるメッセージという分野そのものが、1950年代のフロイト学説という多分に理想主義的な(そしてかなりあやふやな)土台の上に築かれていた。学界と企業とCIAの研究者たちは何十年もかけてサブリミナル・メッセージの効果を実現しようとした。多数行われた実験に、成功例は一つもない。では、この概念を証明したジェイムズ・ヴィカリーの有名な実験についてはどうか。彼が後に、売名のためにデータを捏造したと告白したことはあまり知られていない。要するに、ヴィカリーが経営の苦しかった自分の会社を救うために考案した手法は、ただの詐欺だったのである』―『第2章 ストーリーテリングという闇の芸術/隠れた説得』
ピーター・フォークの刑事コロンボ・シリーズに「意識の下の映像」という作品があって、コマ送りされるフィルムによる映像に数コマ紛れ込ませた映像で意識下に影響を与え特定の行動をさせることで殺人を行うというトリックを取り上げた回がある。結局それと同じ手法でコロンボが犯人に証拠の隠し場所を教えさせるというオチが着くのだが、子供の頃、それで「サブリミナル効果」という言葉を覚えた。この効果の逸話で、上映している映画に清涼飲料水を飲めと書かれた映像を知覚出来ない程短く繰り返し挿入したところ、その商品の売店での売り上げが増えたという話があり、なるほどと思ったものだったのだが、それが眉唾だったとはね。
この話の教訓は、二重の意味合いがある。一つ目は、サブリミナル効果(米国では法律で使用が禁止されているし、日本でも放送局が使用してはいけないことになっている)のように人の心を簡単に操ることは出来ないということ。試しにネットで調べて見たら、WiKiを始めとして色々な資料がその効果を謳っている映画館での実験は再現できていないということを教えてくれる。一方で(二つ目は)、そういう反証もあるのにやっぱりサブリミナル効果を映画館の実験通りに受け止めている人も(自分を含めて)大勢いて、その話を「ありそうだな」と一度判断してしまった人の心理を変えさせるのは簡単ではないということ。それって結局、この本の主題でもある「物語」によって巧みに誘導されているってことを意味しているのだろう。因みに、映画館での「言葉による誘導」実験はかなり疑わしい成果しか上げられなかった一方で、映像による意識下への働きかけ効果というのはあるらしい(とはいえ、当前だが、個人によって映像から何を感じ取るかは異なるらしいけど)。映像や音や言葉の受動は脳の広範囲に入力として入って行く以上、人は大脳皮質の前頭葉だけで考えているのではないということを肝に銘じておかなければならないと思うことしきり。そんな反省に立てば、例えば柴崎友香の小説を読んで気持ちが落ち着いたり、知らぬ間に何かをあれこれ考えている感覚を是とすることもまた、一つの誘導に載っただけのことであるかも知れない。因みに、本書によれば、こういう思考のことを「振り返り的省察(retrospective reflection)」と呼ぶらしい。直訳的に言うなら「遡行的反響」。ああ、あれってそういうことだったのか、という感覚だね。
『このような「対立する被害の歴史」を語ることが、「歴史の傷」の上にかさぶたができて癒えるのを阻んでいる。中東やバルカン半島のような場所で対立を煽る歴史の衝突について述べた後で、リーフは過激な提案で締めくくっている。「この本で結局言いたいのは、時には――ひょっとすると多くの場合は――記憶よりも忘却のほうが良いということだ」』―『第5章 悪魔は「他者」ではない。悪魔は「私たち」だ/歴史的ナラティブをめぐる権力闘争』
だからといって何もかも疑い、何も信じない、ということは出来ない。よしんば他者の居ない無人島で生きていくにせよ、人は起こったこととその原因を因果律で結び付けて(例えば、北風が強く吹くと大きな魚が捕れる、という風に)考えるだろう。つまり、それが本当の原因かどうか科学的に(例えば、その季節には回遊魚がその孤島の近くを周遊する習性があるのだ、と)証明されるまで判断を保留する、なんてことはしないだろうということ。だからといって、そういう因果律を一つひとつ覚えるのを止めて全てを忘れてしまった方がよいっていうのは、やっぱり頂けない。態度保留を強要することは出来ないけれど、結局は、反証に対する柔軟性という態度を、理想としては、保つことが大切なんだろう。ただしその理想は至極当たり前のことのように理解できるけれど、実践するのもまたとても困難であると容易に想像がつくことでもある。
『メルシエとスペルベルは、理性とは客観的な真実を判断するよりも、社会的な競争において剣と盾の役割(議論で攻撃する剣、攻撃を受け流す盾)を果たすために進化したツールであるという見解を示している。このように見ると、例えば確証バイアスのような脳のバグと思われるものは、実は正しく機能している脳の特徴である。また、ホモ・サピエンスは合理的な動物ではなく合理化する動物であることになる。合理化とは、私たちが自分の推論は理にかなっていると自分を、そしてできれば自分以外の世の人々を説得するために使うフィクションだ』―『第6章 「現実」対「虚構」/あなたがナラティブを所有しているのではない。ナラティブがあなたを所有している』
人は合理的(理性的)である、のではなくて、合理化する習性がある、というのは、けだし正鵠を射た言明だね。
Posted by ブクログ
人は物語が持つ力の大きさを見くびり過ぎているのだと思う。人類にとって物語は薬であり毒。物語の持つ力の大きさを今一度見つめ直そう。逃れられない物語との付き合い方を考えてみよう。という良書
Posted by ブクログ
すごい興味深い内容だった。
自分が持っている知識は、自分が見つけ出した知識ではなく、他人が持っていた知識を信じている。みたいなのとかね。
それなのに著者のあの人が嫌いすぎる文章が強すぎて、笑ってしまう。
貴方のそれはナラティブに支配されている状態なのでは?
これ、ちゃんと自分が嫌いという気持ちに支配されている(あの人が悪というストーリーを自分が作り出している)と自覚されながら書いてるんだよね?
でも、読んでいるとそういう俯瞰して自分を見てないような気がして……少しあの人への悪い描写を削った、というところはあっ、ちょっとは俯瞰してみてるんだ。と思ったけど、そこだけだったしなぁ。
そのちぐはぐさがめちゃくちゃ面白かったです。
Posted by ブクログ
「物語」をテーマにした本.銃乱射事件,反ワク,テロ,ホロコースト,宗教,芸術…これら全部に「物語」が関わっている.
物語は人間は互いに意思を疎通し協力し合うための強力なツール.物語は複雑な現実を単純化する.結果,人々は各々の限られた認知能力の中で誰が敵で味方かと言った世界観を共有することができる.だからこそ地球の覇者になれた.
しかし昨今では物語が災いを招く事が往々にして起きている.陰謀論に取り憑かれ悪を懲らしめる正義というナラティブに侵された殺人犯による銃乱射事件.反ユダヤ主義を掲げたホロコーストなど.
2024年1月,世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書は「誤情報」を最大のリスクとして報告した.
これも”物語”がもたらす負の側面が与える影響を憂いてのことだろう.
情報通信技術は物語を世界中に伝播するコストをほぼゼロにした.ポピュリズムの台頭,民族衝突,侵略戦争,感染症の世界的な流行,急進的技術革新など,人々を分断に陥れうる物語を生むさまざまな要因が今日散見される.また,この状況の中で自らの目的の達成を企む個人や組織,国家もいる.
人間の認知空間は陸海空,宇宙,サイバー空間に変わる新たな戦場だという主張を読んだことがある.これはまさに物語を駆使する戦争.
「誤情報」を無視できないリスクとせざるを得ない土壌が出来上がっているのは明らか.
今に始まった事ではないが物語を語る者に全幅の信頼をおかず,
また耳に入る物語を逐次疑い,批判する心構えがより一層必要となる.
ただその検証は物語を語る自分自身にも当てはめないといけないし,あらゆる物語全てを疑うことは大変な知的体力を必要とする.簡単なことではない.
また,似非科学信奉者やカルト宗教信奉者といった
自分にとっては不可解な人がどうしていなくならないだろうかという
疑問の答えも得ることができた.
・物語は人類にとって必要不可欠である
・宗教や似非科学は物語の一種である.
・ゆえに宗教や似非科学は人類に必要不可欠である
ということなんだろう.
「宗教や似非科学に類されない物語」だけを人類が受け入れる事ができれば,
3点目は成立しないことになるが,それは現実されていないし,これは
筆者が述べている「物語から毒性だけを抜くことはできないのか」という問いと,
それは不可能だろうという答えとも一致する.
現実の複雑さや退屈さ不合理さに対する許容度が高いか低いかは個人差(性格,知能力)があり,
この許容度が低い人ほど,上述の物語に溺れてしまうんだろう.
そうなってしまうと客観的エビデンスを伴った主張すら聞く耳を持たない状態になってしまい,
真実かどうかであることより,自分が信じる観念的世界に対して耳触りが良いかどうかの方を優先してしまう.
因果関係のないAとBを無理くり繋げて痛快で腹落ちする物語として認識してしまう.そうして世界の認識がさらに歪む.
無論,自分自分もある分野に対してはそういう傾向があるはずであるという謙虚さはもたねばならない.
全ての結果には,筋の通った原因がある
悪は必ず懲らしめられる.
xxxxは悪で,xxxxは正義である.
努力は絶対に報われる
自分が報われないのは,誰かの陰謀のせい
これら公平世界仮説も人間の物語によって生み出された産物であり,現実世界とは一切関係がないものと割り切らないといけない.
あと自分は美術館に行くのが好きだが,この本を読んで,「ああ自分はある種の物語を接種したいだけなんだな」ということに気づいてしまった.ちょっと覚めた.
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漫画家や映画監督,映像ディレクター,そしてスポーツ選手も「物語をつくる」ことで莫大な対価を得ている.
物語=あらゆる情報を保存し伝承する手段
ナラティブの最大の秘術として混乱を秩序に,狂気を意味に変える物語
→一見筋の通った物語(ナラティブ)は本来あるはずの混乱や秩序が隠されている
”私たちが音楽,彫刻,絵画,舞踏を愛するのはストーリーテリングへの熱中が形を変えたものと言っていい”
→美術館に赴きたい気持ちを抱くのは物語を欲しているから
”ストーリーテリングは人類にとって必要不可欠な毒”
”現実よりも痛快でわかりやすく描かれた物語に入り込み,退屈で道徳的にあいまいな現実世界より仮想現実の方が暮らしやすいからという理由でそこから出ようとしない,体験型ゲームに耽溺しやすい人間というものの性向を.私たちは個人レベルでもっと自覚する必要がある”
ナラティブ…事実とフィクションの間に横たわる得体の知れない谷
シオン賢者の議定書
→筆者曰く「世界中の悪いこと全てをユダヤ人のせいにする陰謀論の書」らしい
→そんなものあるんか...
”人間は物語を語る動物である”
”物語は古くから人類にとって恵みであり,災でもあった.
物語への没頭→フロー状態,ゾーンに入る→自分自身をも含めた現実からの忘却
→現実がうまくいかない人ほど,物語に没頭するということか…
中国のグレートファイアウォール,情報統制,弾圧=マトリックスの世界
Posted by ブクログ
日頃SNSに耽溺しがちな人間が読むと、納得と納得と納得しかない本。読みながら、いろいろな集団のことが頭をよぎる(し、著者が指摘する通り自分のことはそこに入れて考えたりしないもの!)。頭が悪いから、同じようなことを言う人に囲まれているから、そうしないと保てない惨めさがあるから、etcの自分ではない集団への「分析」を目にするけれど、そもそも人間はそうやって物語を必要として、物語を作りながら、生きてきたよね。SNSでは負の力ばかり見て取れるし(なぜなら読みながらストーリーに閉じ込められたSNS上の特定集団を思い浮かべているから)、実際ものすごく悪さをしている、のがどんどん顕著になっているけれど、「じゃあなくそうよ」というほど単純な話では全くない…。終章で著者が言うように、自分のそういったベクトルを自覚して生きていくのが必要なのだろうけど。世界はどうなるんだろうな。
Posted by ブクログ
全てに意味づけをして物語性を求めてしまう人間の性が、いかに世界を分断しているか。
「物語」のダークサイド。
ハラリのサピエンス全史やダイヤモンドの銃・病原菌・鉄のような名著(と思っていたもの)すらも相対化される。
ストーリーテラーを信用するな。
しかし、憎むな。
Posted by ブクログ
ストーリー(物語)に、なびきやすい脳を持つ人類たちのためのワクチン的な一冊。
人類はストーリーなしでは生きられない。
この世界はストーリーで溢れている。
本や映画やドラマはもとより、宗教や歴史、ニュース、あとは、広告、会社の同僚のおしゃべりまでストーリーだと思う。
外から自分の中に侵入するようにやってくるストーリーに影響されたりされなかったりして人間は日々生活しているのだ。
ただ、人間には脳の癖があって、自分を善人、対立するものを悪人として組み上げるストーリーに耽溺しやすい気がする。
世界中で頻発している対立も、そのせいに思う。
私自身も、うっかりすると、そういう構造に飲み込まれて世界を認識してしまう。
物事をフラットに見るって、実は人間には難しいのかもしれない。
タイトルは煽情的だが、翻訳本らしく、ユーモアとペーソスが散りばめられていて面白かった。
【ストーリーテラーを決して信用するな】
語る人には本人が意識してようとしていまいと意図がある。
自分ができることは、歪んだ世界を見ていることを常に意識すること。
自分の中の歪みにも気づくよう努力すること。
自分自身もストーリーテラーである。
この本で学んだことと雑感が混じっちゃってます。
Posted by ブクログ
人間は物語が大好きという事を、その大好きな物語の形式面やストーリーの種類を特定した点が秀逸と思いました。
何と、ほぼ全ての超人気ストーリーには、多様なものがあるのではなく、ある同じ共通の建て付けはあるという衝撃の分析。
他方でそのストーリーにのらない方法の語りで、いかに重要なものとか事実を力説しても、聞き手の人間は興味を持たずに、伝播することもないという事実も指摘されています。
これは人間の特徴でもあり、人間による認知というものの限界を示していると思いました。
生成AIが爆発的な人気が出ていますが、AIであれば人間が興味を持たない重要な事実やストーリーも根気よく分析してくれるのであれば、様々な新たな発見が多く生まれる気がします。楽しみです。
Posted by ブクログ
自分の信じたいものを無批判に信じると馬鹿になることがよくわかりますね。
ネットの噂話等を無批判に真に受けないようにしないと、誰かに名誉毀損で訴えられる時代ですし。
そろそろディープフェイクで捏造した実在する人間の暴言動画が流れるかもというのは、正しいですよね。
逆に都合が悪くなったら捏造だと言い張る人も出そうです。
Posted by ブクログ
大変面白かった。強い国家や宗教思想を広めるため不可欠な共同幻想を民衆に抱かせ、文明を築くのに不可欠な道具であったストーリーテリング(物語化)。良い面ばかりに注目されがちだが、ここではフェイクニュースや陰謀論に同じ力が働いている現代の問題に注目する。
物語の力をスター・ウォーズの「フォース」に例えて説明しているのも(私にとっては)とても分かりやすかったし信頼できるな、と共感・納得したら著者の語る「物語」がストンと入ってきてしまうようになった。脳が操作されてる!
「善をもたらす強力な物語の力を真のジェダイが操るのであれば、すばらしい。しかし人をなびかせる物語の力は、ダークサイドにも使われる。
『スター・ウォーズ』で善悪の両面を持っていたフォースと同じく、ストーリーテリングが諸刃の剣であることを、物語の科学は明らかにしている。ストーリーテリングを良薬たらしめている要素こそがまさしく、ストーリーテリングの劇薬たる部分だ。」p26
物語戦争、というとファンタジックにも聞こえるが、それは相手のナラティブ対自分のナラティブの闘いであり、それが物理で殴り合うのと同じくらいハードなものであるのは毎日Twitter見てれば分かること。結局道徳的な正しさや科学的な正確さよりもいかに不安を煽り面白いかが勝ってしまうことも。
そういう世界で科学をはじめとする実証主義が権威を取り戻すには、という話になるんだけど某大統領(でかメガホン笑)の例や学術分野の思想の偏りがもたらす害などの例も挙げながら、相手を悪魔化しない事、自分も状況が違えば彼らと同じだったかもしれないと想像する事が大事、というのはほんとそう。
「正しさ」が陰謀論やフェイクニュース、分断を煽る物語に勝つにはそれなりに面白くならないといけない、というシビアな現実があるのも凄く納得するんだよね。
正しい側が同じような考えの人ばかりで集まり、相容れない人達を攻撃・排斥するムードがそっちの「物語」を民衆が嫌う流れを加速させる…というの。
私達が界隈の隅っこで私達にしかわからない言葉で正確さを求めても、「キャスリーン・ケネディ社長が全部悪い!あれもこれもあいつのせいだなぜなら…」みたいな話の方が面白いし拡散するのはそういう事なんだよな、とか思った。(SWの話)
自分が今魔女とかそっち方面に興味があるのは、陰謀論とかあっち側の「面白さ」をまたうまいこと使って真面目な科学的な正確さとかともまた違う方向で「良き事」ができる可能性があるんではないかというのがあって。変な事やりながら世の中を良い流れに持ってくヒントになるのでは、とか。
政治の側にはいつもなんらかの「魔術師」がいるように、民衆のそばにも魔女や魔術師の力は必要なんだよねーとか思ったり。
Posted by ブクログ
読んでいて嫌な汗が流れる。ストーリーテリングの優位性、なぜ陰謀論・フェイクニュースが拡散されるのかがこれでもかと説明されている。
まっとうな側の人間が「まっとうなことを言っているのだから、いずれ収まる」と思っていると痛い目にあう。敵を知り、備えなければいけない。
悪い信念を持つ人についての評価・扱いについて書かれているが、私は頭ではわかっても実際に行動するのは難しいと想う。やるべきでもあると思うが。その場になったらとても悩む。
Posted by ブクログ
人類がこれほど多くの集団で生き続けることができたのは、古くから語り継がれてきた物語の力によるものである。
過去の人々にとって、物語は学びの場であり、結束や共同体の維持に役立っていた。
しかし、現在では、この文明を築くほど人を団結させる力を持った物語の力が悪用されていると著書で説明されている。
その結果、陰謀論、フェイクニュースが世にあふれ、根拠の薄い話や、偽情報を信じたりすることで人々は騙されてしまっている。
これは、物語は人々を結束させるだけでなく、誤解や混乱を生み出す要因にもなり得ることを示唆している。正しい情報を得るためには、事実を確認することや多様な視点から情報を収集することが必要になる。
物語の優れた点は、頭に入り記憶に残り、人々を引きつけ、感情を生むことや、情報伝達が早く、本来なら疑うという心の防御をすり抜ける効果にあるという。
また、物語には危険性が三つある。
それは、人々が物語を求めること、物語が問題を求めること、そして物語が悪者を求めること。これにより、人々は大事か、事実かよりも物語としての良し悪しでしか判断しなくなってしまう。
事実は退屈であり、人々はワクワクするストーリーに取り憑かれてしまうからだ。
善と悪の物語は物事を単純化し、二極化を加速させる。その結果、集団内での分断が生じる可能性があると著者は懸念している。
この本から学べることは、ストーリーテリングは心を動かす最大の武器であると同時に、誤った使い方をすると人々が自滅する諸刃の剣であるということ。
近年は企業やマーケティングで重要視されるようにになってきたストーリーテリングは、人に根付いた欲求であると理解をしておけば、無駄な出費を減らす防御策にもなるかもしれない。
Posted by ブクログ
「統一教会汚染」の裏側にあるような「なぜカルトや陰謀論が大手を振って闊歩するのか?」を理論的に論述した本。
ストーリーは良い方向にも悪い方向にも同様の影響をもち、詰まらない正しく科学的な理よりも、ストーリによって彩られた説明や説に人が如何に影響され世界を解釈しているかを痛感する。
それでも村上春樹の語る通りに、多様な物語を摂取することで「他人のストーリに影響されないようにする」ことだけが、正しくないストーリーから身を守る唯一の手段なのだろう。
Posted by ブクログ
すばらしいほんだった。
現代社会の抱える問題点を端的に表しているし、構成も無駄がなく内容はギッチリと詰まっている。
大きな物語やSNSでの示唆に触れない日はない、どころか毎分触れてしまうような時代において、自分にハマる物語に容易に出会ってしまうことは現実との接点を失ってしまうような自体も生じうるだろうと考える。
触れようと思えばいくらでもじょうほうにふれられ、皆客観的なつもりで自分の形に合わせて情報を整えており、自分の物語の増幅に全てが働いてしまう。おあつらえ向きに対立が実在しており、そこにあるヘイトは本物である。
実在する対立は自分たちを強めようとすればするほど、相手を叩けば叩くほど、相手を強くしていく。
Posted by ブクログ
『ストーリーが世界を滅ぼす』読書メモ
ジョナサン・ゴットシャル著/月谷真紀訳/東洋経済新報社
◆核心テーマ:物語は文明を築きも破壊もする
人類が進化の過程で獲得した「物語依存脳」が、デジタル社会で暴走するパラドックス。陰謀論・フェイクニュースの拡散、社会分断の加速という現代病の根底に「ストーリーテリングの毒性」がある。
◆物語の二面性
【薬としての機能】
・共感形成(難民問題を個人の体験談で伝える)
・社会統合(#MeToo運動のような集合的変革)
・知識伝達(複雑な事象の単純化による理解促進)
【毒としての脅威】
・善悪二元論(移民問題を「善良な市民vs犯罪者」に単純化)
・認知的不均衡(事実検証より感情的反応が優先)
・アルゴリズム増幅(SNSが陰謀論をエコーチェンバー化)
◆現代の「ナラティブ戦争」具体例
・ロシアの選挙介入:「ハート・オブ・テキサス」偽アカウントで保守派を煽動→イスラム排斥集会を創出
・Qアノン陰謀論:匿名掲示板から広がる「影の政府」物語→議事堂襲撃事件を誘発
・反ワクチン運動:個人の体験談を科学データより優先→公衆衛生を脅かす
◆プラトン『国家』からの警告
・洞窟の寓話:SNSフィルターバブル=現代の洞窟/アルゴリズム=鎖/生成AI=歪んだ影を映す装置
・詩人追放論の矛盾:物語形式で反物語を論じるジレンマ→著者自身の手法への自覚的考察
◆解決策:メタ物語リテラシーの育成
1. 物語解剖4ステップ
①誰の利益か? ②省略された事実は? ③逆の立場では? ④感情的誘導の有無?
2. テクノロジーとの付き合い方
・ブラウザ拡張機能:陰謀論キーワード自動検出/多様な情報源推薦
・AI活用:GPTに「この物語の矛盾点を列挙して」と入力→批判的思考の補助
3. 日常で意識すべき5大キーワード
・認知バイアス(確証・単純化)
・アルゴリズム引力(エコーチェンバー)
・ファクトチェック(逆画像検索・メタデータ分析)
・ナラティブ戦争(国家/企業の情報操作)
・ストーリー中毒性(ドーパミン依存)
◆未来への提言
・教育改革:小中学校で「物語構造分析」教科化
・テック規制:SNSに「感情操作指数」表示義務付け
・国際協力:偽情報拡散ツールの使用禁止条約
◆実践的アドバイス
・月1回「情報デトックスデー」:SNS断ち/新聞の紙面読み比べ
・怒りを感じた記事には必ず「3秒ルール」:深呼吸→一次情報源確認
・多様な立場の友人と「物語交換会」:同一テーマで異なる視点の記事を持ち寄る
物語は人類の最大の発明であり、最大の弱点でもある。その力を「破壊の道具」から「共創の技術」へ転換するのが、情報化社会を生き抜く鍵。事実と物語を混ぜず、批判的懐疑心を失わず、しかし物語の持つ共感力を活用するバランス感覚が求められる。
Posted by ブクログ
著書はストーリーが好きだし、人類の生活と結束に必要だと考えている。→同意。
ただし、ストーリーが生み出す結束は善悪二元論をベースにした他者と我々の分断を基盤としており、その基本構造が社会の分断を招いていると説く。→なるほど。そうかも。
ストーリーがない社会は考えられないし、実存しえない。よってどうやってストーリーの悪い面を捉え、それを自覚しながら活かすか?というのが主張。→言われればそうだけど実際には難しい。自分が持っているストーリーだけでもそれを自覚することから始めたい。
この本は、「NEXUS」、「プロフェッショナルはストーリーを語る」、「ホモデウス」、「楽園の楽園」などストーリーについての考え方を語った本を読んだ後に読んだ。
ストーリー万歳!、ストーリーをとにかく語れ!という、姿勢を疑うために読んでみたのだが、その目的は達成できた。
Posted by ブクログ
この本がセンセーショナルな本として受け取られているらしいが、正直内容はだいぶ見飽きたような話である。
物語批判からくるプラトン解釈は、本書にもあるようにやはりというか、ポパー読解に通ずるものがある。物語を支配することが独裁政権がやってきたこと、というのはまあ間違いない。ただ、
「カトリック宗教が物語を利用している」
このくだりを読んだ瞬間、
「そんなん誰もが知ってる話やん!!!」
と思わず突っ込んでしまった。
「悪魔は私たちだ」と、
米軍の戦争を批判するところでは、
思わず突っ込んだ。
「…やっと気づいた?」
物語のパノプティコンを批判する本書だが、批判自体は正当なものと受け取られるとしても(トランプ大統領にも向けられている)、内容はどこかで読んだような内容だった。とはいえ、この本が新しい知的な刺激になる人もいるかもしれないが。
上の文を読んで、知的な刺激を受けない人は読まなくても良いかもしれない……。
この人がもし日本のなろう小説とか読んだらどんな感覚になるんだろうなという感覚はする。そういうものは読まないのかもしれないが。あと、アメリカの物語も少し最近はおかしいの多いよね。
ストーリーテリングの界隈にかつてはかなり予算が割かれていたこともちらっと触れられている。そりゃ、物語は金になるものね。でも、この本は昔のサルトルとかの反物語、反小説とかの流れともまた毛色が違う。この本は明確に、システムとしての物語の批判だ。
Posted by ブクログ
ヒトは物語の空白に耐えらない生き物であり、辻褄の合う物語を作り上げてしまう。これに抗うことは出来ない。であれば、自分の手元に浮かんだ物語に対してカウンターの物語を持つ人を身近にもつ、一拍置いて物語を探す意識が重要。という本だった。
トランプ大統領の誕生が念頭に置かれた本だが、このページは衝撃的であった。物語から距離を置くべき学術界がこれならば、分断に歯止めが効くことはないだろう。
SNS上の陰謀論の物語はウケの良さが︎︎
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「振り返り的省察」とは、物語の消費者が本を閉じ、あるいは映画館から出て、物語の思想や情報を自分がもともと持っていた世界観に統合する瞬間を指す。
幼少期より大量の物語をインストールし、今もし続けている自分にとっては手痛いナラティブ論。せめてどんなものがインストールされているのかは自覚的にならねば。
なお帯に書いてある”論破”については安心してください、特に触れていません。
Posted by ブクログ
For sale: baby shoes, never worn
世界で一番短い小説。
全て語るのではなく、読み手に想像させる。
人に影響を与える事で一番大きなパワーがあるのはストーリー、
ストーリテリングが人を動かしたい人が身につけるべきスキルなのかも。
Posted by ブクログ
「物語」が持つ力のダークサイドをアテネの盛衰、ルワンダの虐殺、トランプ現象などと重ね合わせ、プラトンの「国家」を引き合いに紐解く。啓蒙書や歴史書、小説は言うに及ばず、ニュースも私たちを〝なびかせる〟ドラマの一部に過ぎない。現代はそこにソーシャルメディアやAIが加わり、事態はより複雑に、深刻になっていると説く。確かに、と思う。陰謀論やディープフェイクの横行には辟易しているし、「物語とストーリーテラーが力を増し、事実とエビデンスが弱まっていく」一途の世界は本当にゾッとする。自分の読書嗜好や歴史認識、SNS依存度などについても改めて見直してみる気になった。ポスト真実時代の今こそ読むべき一冊。
Posted by ブクログ
物語:私たちに感情を抱かせるためのもの
感情に訴えない部分を取り除いた現実
emotion(感情)は動かすを意味するラテン語emovere が語源
説得には 理性の経路か感情の経路 要点を感じてもらうには物語を
「パノプティコン」監視技術 すべてを見ているというギリシャ語
無料デジタル経済 何から何まで知っている ナラティブのターゲットに
対立するナラティブを作り出す プロパガンダ攻撃
物語戦争 普及したものが勝つ
芸術 感情の感染症(トルストイ)
活性化する感情と不活性化する感情
教会 キリスト教の物語で国境を越えた 一大文明を作り上げた独占組織
ユダヤ教やギリシャローマの多神教と異なり
1.福音を広める義務のある伝道宗教(ストーリーテリング)
2.一神教的 不寛容な宗教 (心の免疫)
天国と地獄 感情喚起力 今そこにある現在形の宗教
陰謀物語
作り込み可能 事実より想像力を刺激 行動を喚起
例:パララックスの地球平面説 聖書の物語の頂点に君臨する物語として宣伝
ヒーローと悪者、危機をドラマ化 悪化の一途の末、最後の一瞬に好転
偶然は最後に持ってきてはいけない
正義 勧善懲悪 道徳主義 story語源=ギリシャ語 hisitoria 審判
人は無秩序を嫌う →物語に当てはめる →同じ世界を別の物語で見る
意識上は自覚していない意識下の衝動に動かされている
民族間の抑圧、対立 強迫観念
善と真が 悪と偽を駆逐する?(ナラティブ心理法則)
ソーシャルメディア 誤報や偽情報が真実を打ち負かしていている
フェイスブック30億人 史上最大最強の配信者
ナラティブはダークなほど、道徳主義のエネルギーで活気づき、
物語戦争で勝ちやすくなる
中国という仮想世界
テクノロジーで人間をコントロールする権威主義
民族均一性 5000年の歴史 共産党神話 集団主義的文化的指向 という結束
自由世界(リベラル民主主義)
物語戦争から抜け出せず、悪い何かに向かっていく
物語を消費、創作する脳をコントロールするのは難しい
Posted by ブクログ
物語が持つ暴力性と、私たち人間が物語りを語らざる負えないという性質、そのどちらもが現実であり、生きる上で逃れることが出来ないという事を、様々な事案や社会情勢を参考にしながら語られている良本でした。
昨今のポストトゥルースと言われる21世紀を生きる私たちですが、都市伝説や陰謀論、根拠のない言説がSNSにより多分に散見され、私達自身の日常生活にも影響を及ぼしているように感じていました。それ自体は時代の変化や、メディア環境の変化によって必然的に起こるべくして起こった事だと思っています、しかし、私達自身がどこを頼りに生きれば良いか、「真実」や「現実」とは一体なんなのか、という問いも同様に生まれ、頼る所がなく、より生きにくい世の中になったのも必然だと感じる事がしばしばでした。
本書で語られている「物語」が世界を作り出し、大衆を先導する世の中で、ストーリーテラーは今にも生まれ続けています。最終章に書かれていた、ストーリーは批判されるべきだが、私達一人一人がストーリーテラーである以上それ自体を批判するべきではなく、いかに自己言及的に物語に留保をつけられてるか、そして他者の物語りに対しても常に留保を持ち続ける姿勢を保てるか、と言う言説は今世を生きる全ての人に必要な考えだと思いました。非常に面白かったです。
Posted by ブクログ
暴力や貧困、政治とカネ、発展と衰退、あらゆる所にストーリーテラーの存在。もう自分の存在や人生が誰かが語る物語の一部なんじゃないかと思えてきました。
Posted by ブクログ
「私は犯罪者に比べて少しも立派な人間じゃない」と父は言った。
「善人でいられる贅沢を手にしているだけだ」
(本文より)
物語が人を殺しも生かしもし、善人にも悪人にもする。私たちはストーリーから逃れることは出来ない。物語に操られるのでも操るのでもなく、私はただ純粋に物語の世界を楽しみたいと思った。
Posted by ブクログ
ストーリーテリングは人類にとって必要不可欠な毒だ。酸素のように生存に欠かせないと同時に破壊的でもある。私たちは皆ストーリーテラーだ。自分自身の筋の通った世界観とアイデンティティに寄り添うナラティブに飲み込まれている。その衝動の実在を理解しよう。
科学がエビデンスを示せた時代が終わり、エビデンスはどうにでも使えるし作れる状況になると、ストーリーにまた戻るということでしょうか。
Posted by ブクログ
かなり冗長。
ストーリーを重視する最近の傾向に、警戒するよう気づかせてくれる。ー
確かに、戦前の日本、ウクライナに侵攻したロシア、国内外を支配しようとする中国、トランプ主義者、みなストーリーを利用している。
一歩引いて見れば支離滅裂なストーリーを、なぜ多くの人が信じてしまうのか。
自分も取り込まれてしまった時には気づけないのだろうと思うと恐ろしい。