あらすじ
世をすねる。そんな思いが確かにあった。だが巨星徳川家康のひたむきな姿に接したとき、宗矩の眼は豁然と開けた。この日、迷いは木端微塵に砕け散った。文禄3年(1594)5月3日、家康が父石舟斎に入門した日が、又右衛門宗矩の新たな求道への旅立ちの日でもあった。剣禅一如をなし遂げた男の生涯――。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
全4巻「柳生宗矩」はでっかいケーキだ。このケーキが甘くて結構美味しい。
1971年、NHKの大河ドラマ「春の坂道」のために書き下ろされた原作。オイルショック直前、いかに自分を社会に生かしていくべきかを描いた作品。ある意味、同じ71年に完結した「巨人の星」と似た一心一徹な生き方の提示であり、そういう生き方が好まれた時代の作品なのかもしれない。
とは言いながら、面白いことには間違いない。リアルタイムで「春の坂道」を見ていたので、宗矩の所作言動はすべて中村錦之助の姿と重なる。世間に反抗するだけの青年宗矩が石舟斎とともに家康と出会い、戦国末期の戦乱から学び、家光までの三代将軍の傍にあって、剣を平和のために生かす生き方を全うし終えて往生するまでを描く。
残念ながら立会いの場面はほとんどなく、あくまでテーマに沿って彼は平和のために奔走する。女性も絡んでくるけれど、みな男性の夢を手助けする理想に近い存在。今読むとそんなところがやや物足りないと感じるのは歳のせいか、時代のせいか。
描かれた宇宙は丸い。心根からの悪人はおらず、登場する人物はみな真っ正直に自分の人生を生きようとしている。物語全体が未来への希望に満ちた光に包まれている。だから全26巻の「徳川家康」と同様、スイスイと読んでいける。
ドラマ原作のせいか後半はやや駆け足で尺不足。前半の方が圧倒的に面白い。
登場人物で最も生き生きして自由自在に動いていたのはやっぱり家康。お手のものだものね。
柳生コンプリート計画ですが、ホールケーキで満腹になったので、次は悪の柳生か十兵衛の冒険ものを読もうと思います。