あらすじ
将門は著者の最も食指を動かした人物の一人である。反逆者としての歴史の刻印を除きたい気持ちもあったが、純粋で虚飾のない原始人の血を将門にみたからだ。都にあっては貴族に愚弄され、故郷では大叔父国香に父の遺領を掠められ、将門はやり場のない怒りを周囲に爆発させる。それは天慶の乱に発展し、都人を震撼させる。富士はまだ火を噴き、武蔵野は原野そのままの時代だった。
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Posted by ブクログ
吉川英治による平将門の一代記。
吉川英治のこと、将門記など古来からの文献を詳細にあたった上で執筆されたであろう事は想像に難くないが、これまで抱いていた平将門像とはずいぶんとかけ離れ、実にいい人且つすべからく物事に乗り気しないまま流されている印象を受ける。藤原純友と盟友となり、東西に分かれて乱を起こした大罪人で、その怨霊というか生き霊というか、その怨念の強さが故に守り神として祀られている人とは思えない。
しかしながら、それらが理由もなく描かれているわけではなく、将門記などに記されている故事を元に組み立てられているところが説得力を持たせる。
いずれにしても、乱を起こしたくて起こしたわけではなく、幼き頃より虐げられていた親類を敵に回して、将門からすれば正義を行っただけであるのに、大罪人として追われ、ついにはあっけなくしんでしまう将門の生き様は、時代に翻弄されたという側面もあると思うが、やはり切なく、やりきれない思いがする。むしろ、やりたい放題をして思い残すことなく討たれる方が、読者としてはスッキリするのだろうが。