【感想・ネタバレ】Anthro Vision(アンソロ・ビジョン) 人類学的思考で視るビジネスと世界のレビュー

あらすじ

『サイロ・エフェクト』著者最新作!
なぜ経済学やビッグデータ分析は問題解決に失敗するのか?
社会科学とデータサイエンスの融合で人類学的知見が果たすべき役割とは。
FTのトップジャーナリストが広い視野から事象を分析する人類学の思考フレームワークを解説。
* * *
現代社会の知的ツールが、機能不全に陥っている。経済予測、選挙の世論調査、金融モデルは外れてばかりだ。こうしたツールは、世界はごくわずかな変数で分類・把握できるという前提に基づいて設計されている。視野が狭いのだ。
世界が安定していて、過去が未来の参考になる時代なら、それでもうまくいくかもしれない。だが変化の激しい時代、「極端な不確実性」に直面しているときは、狭い視野は危険だ。
ビッグデータをAI(人工知能)がどれだけ処理しようとも、そこから導き出されるのは「WHAT」だけである。事象の原因、「WHY」にはたどり着けない。
* * *
いま求められるのは、広い視野と「WHY」を突き詰める視点である。「未知なるものを身近なものに」「身近なものを未知なるものに」変化させ、隠れたパターンを見いだすツールである。
本書では人類学者のように「虫の目」で世界を視て、「鳥の目」で集めた情報と組み合わせることで「社会的沈黙」に耳を澄ます技術「アンソロ・ビジョン(人類学的視野)」を紹介する。
フィナンシャル・タイムズ紙(FT)のトップジャーナリストが執筆した話題作。

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Posted by ブクログ

人類学の方法論と思考法の有効性を説く。
異文化理解を旨とする人類学的思考が、異なる文化圏でのビジネス展開に役立つとか、感染症を分析するのに資するとか、そういった実践例だけでも十分に面白い。

でも本書の面白さはもっと先に進んでいて、広範に未知の領域への探求法として人類学の手法を応用するということだ。

「経済や金融のことなどさっぱりわからず、専門用語はあまりに理解不能で退屈で、放り出したくなった。(中略)
だがしばらくして、そんな自分の反応は主に恐れと偏見から生じていることに気づいた。大学では人類学を専攻する学生は、金融業界を志す学生とは異なる社会的「部族」に属しており、後者の使う言葉は私にはまるでわからなかった。そうした文化的ギャップを飛び越えるには、人類学者と同じようなスキルが必要だった。
2008年に金融危機が勃発した後、イギリス人ジャーナリストのローラ・バートンからインタビューを受けた私はこう話した。「ここもタジキスタンと変わらない、新しい言葉を学べばいいだけじゃないか、と思った。投資銀行の人々も、さまざまな儀礼と文化的パターンで自らの営みを彩っているに過ぎない。タジク語を学ぶことができたなら、外国為替市場の仕組みも絶対に学べるはずだ、と思った」。(122ページ)

こうして著者はリーマンショックの前に警鐘を鳴らした。
その後はアドテックやESGに目を向けたとのこと。
なんかよくわからない専門用語で煙に巻かれるような事象に対処するのに人類学の思考法が役立つというのだ。

あるいは、ビッグデータがどれだけ充実して定量的分析が充実したとしても、その文化の中での「意味の網目」を読み解くような定性的分析が果たせる役割がまだ残っているという主張だ。
すごく刺激的な一冊。

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2024年10月13日

Posted by ブクログ

Anthropology人類学 広角・歴史的視点の重要性 経済至上主義の限界
経済は「累積的矛盾」を伴い、 

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2022年09月11日

Posted by ブクログ

今こそ人類学の出番だと言いたいところだが、何も文化人類学や社会人類学だけの話ではない。定量分析や実証分析と呼ぶものが同じであることを、もしくは、それからの逸脱を示そうとするのに対し、定性分析や質的調査は、往々にして特異であることや一般化は難しくとも一般的であるものとは違うものに着目して帰納的に空間やスケールを再構築(物語化)しようとするからだ。それゆえダイバーシティが重要になる。他者を観察し、聴き、語り合うことがコロナ後に見直されそうな予感だ。

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2022年06月20日

Posted by ブクログ

異なる民族や文化のことを深く理解する人類学の手法が、今日の企業の商品開発や社会問題の解決にも活かせることを、著者自身の経験や多くの実証的な事例を元に明らかにした一冊。

人類学者が異なる文化を持つ民族が暮らす実生活の場に身を置き、その文化に自ら「浸る」ことで本質を理解しようとする「エスノグラフィー」という研究手法は、企業の顧客ニーズの分析や、エボラ対策といった医療現場でも成果を上げている。著者はこのような人類学者の思考法は、文化の多様性を偏見なく受容することにつながるとともに、翻って自らの特異性に気づく機会にもなり、そのためには集団において誰もが当たり前すぎて口にしないこと(社会的沈黙)に気づくことが重要であると説く。

VUCAの時代においては、データでは捉えきれない人間の本質的な部分の理解が必要があり、啓蒙主義による合理的・客観的・直線的な「鳥の目」の思考の対極にある「虫の目」としての人類学的思考の重要性が高まっている。タジキスタンでの少数民族研究から一転、金融ジャーナリストとして活躍した著者により、様々な場面で語られる多様性受容という概念が人類学という「縦糸」を通すことですっきりと整理されるとともに、読者は自らが所属する社会を相対的な存在として再認識する良い機会となる。

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2022年04月10日

Posted by ブクログ

実例が豊富で分かりやすく面白い
・何が重要かといった先入観を排し、子供のようにオープンマインドで対象を観察すること
・語られないことに着目すること
で見えてくることがある

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2022年02月05日

Posted by ブクログ

人類学で用いられるアプローチがビジネス現場でも有用であることを説く内容。
人類学というと希少部族への参与観察を通じた文化理解、というイメージが強かったが、近年ではビジネス現場(工場など)に対しても現状理解として活用されていることを知った。
ビジネス推進の当事者になると、どうしても当事者としての観点に凝り固まってしまいがちだが、人類学のように、特定集団の現状や文化を俯瞰的に、かつ、相対的に捉えるものの見方を身につけることで、より多角的な視点からビジネス推進を行える。そうすることで、様々な問題点および解決のヒントを得やすくなる、ということだと理解した。

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2025年06月13日

Posted by ブクログ

「Anthro(アンソロ)」とは「Anthropology(人類学)」の略。「アンソロポロジー・インテリジェンス(人類学的知能)」、これを略して、AIなのだが、もう一つのAIという言い方で、その重要性を説く。隠れた文化的バイアスを自覚して、思考する事重要性、とも言えるだろうか。我々が属する社会を構成する人々は、必ずしも文化的に同じ文脈を持つわけではない。従い、社会的な課題についての最適解は、このもう一つのAIを勘案せずには、導けないだろうという事だ。

では、どうすればアンソロ・ビジョンを身につけられるのか。本書で提案される内容は、①自らの生態学的、社会的、そして文化的な環境の産物であることを理解する事②自然な文化的枠組みはひとつではないと受け入れる事③他の人々への共感を育むため、他の人々の思考や生き方に没入する方法を探す事④自分自身をはっきりと見るために、アウトサイダーの視点で自らの世界を見直す事⑤その視点から社会的沈黙に耳を澄まし、ルーティーンとなっている儀礼や象徴について考える事の5つの視点だ。

見落とされがちなパターンや社会的沈黙に気づく能力。例えば、日本人ならば韓国や中国と自国の微妙な関係性に自覚的だが、それ以外の国であれば、この関係性は理解が難しい。そうした国と国との歴史的文脈は、東アジア以外にもそこかしこにあるが、それらを踏まえずに社会的課題は考えられないという所だろうか。もう一つのAIとは言ったが、既に本来のAI(人工知能)は、「Artificial Intelligence」にもこの視点は実装されていると思うが、問題は、公平性を意識しすぎて、その場の状況で判断する事は、その場の人間関係という情報を踏まえなければできないという事だ。つまり、客観的なAIと、臨場感のある状況的なAIが存在する。これが、もう一つのAI、アンソロポロジーの本質だという気もするし、もっと掘り下げた身近な視点で、その人自身のアイデンティティ・インテリジェンスが必要だという考えに辿り着く。

国や文化、民族や宗教に括らずに、個人個人を踏まえた人間学的思考。それこそ、人工知能が到達すべき、血の通った本来のAIなのかもしれない。そしてそれは、一人ひとりに対しての、オーダーメイドなAIとなる。この本に、考えさせられた。

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2025年01月23日

Posted by ブクログ

人類学、すごいな。無縁と思い込んでいたビジネスに役立てているなんてさ。それにしても人類学者を採用するグローバル企業、すごいな。同質を尊しとする古色蒼然たる我が勤務先と大違いだわ。というのが、本書についてのストレートな感想で、、、


それよりも自分ならではの気づきとしては、
人類学といえば上橋菜穂子先生のバックボーンなのです。大好きな上橋菜穂子先生が学んだ学問「人類学」の
アプローチが本書を読むことで分かってよかったし、
とりわけ「虫の視点」と「鳥の視点」の両方を
駆使する人類学の態度および世界の見え方は
決してひとつではない、というテーマは、
まさに上橋先生の作品の核じゃないですか!
自分の中の上橋先生像の輪郭を
ちょっと書き足せたように
感じます。

いい読書でした。

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2023年03月19日

Posted by ブクログ

今の世の中、経済抜きには語れない。
豊かさの指標も、成長も進歩も、力関係も、経済で測られている。
でも、何か、納得がいかない。
このモヤモヤを言葉にして、突破口を開いてくれるのは、、、、ひょっとして、、、人類学かもしれない⁉︎?

あとがきP323「人類学者には、自分たちの意見を社会の主流派の議論に反映させる力を、高めてほしい」

経済、権力の側は、自分たちの世界は、特殊専門用語を理解するエリートの世界で、自分たちのことばや慣習を解さない下々から、観察され、分析対象として客観化相対化されることなど想定していない。
そこに切り込んでいけるのは、人類学なのかもしれない、と感じることができる、面白い本でした。

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2023年03月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

人類学の観点から、真っ直ぐに事実を見る。キットカットの日本版のストーリーに結構な説明を加えている。キットカットの発音がきっとかっとーという方言に似ていることから、合格のお守りになるというマーケティングをひっそりと行った高岡さんは、本社のネーミングHave a break を使わずにサクラを使って合格イメージを作るという戦略に出た。スイス本社のマーケティングに抜擢されたのは、普通とは違う視点でものを見るということにあったと。これが、人類学と同関連していくのか、、、という点は後付けなのでなんとも言えないが、「あなた方がの世界観は万人のものではない」という点が最も大事なところだろう。アメリカ人から見たら、子供が自分の部屋を持って、自分で寝るのが当たり前だが、マレーシア人からすればそんなの子供が寂しくてかわいそうだと考える。その考えにびっくりしているアメリカ人に、マレーシア人にびっくりするということが起きる。
これが、エボラ、そしてコロナへと展開してゆく。寄り添うことが大事だったにも関わらず、アフリカの文化を無視し、見下した。中国の衛生を批判していた。アメリカ来てみて、この汚さと臭いをとしてなんたるかと。ニューヨークは、マスクの概念を覆し、コロナ対策の武器だと訴えた。こんなにマスクするニューヨーカー、信じられない。
自分が普通で、それ以外は変だ、これが人類学では多様性こそが普通と見る。当たり前で見落としていることに、焦点をあてることだ。
基本に戻ると、人類学の見方をビジネスにも導入することで、相手のことを考える、つまり自分自身が正しいという思い込みを捨てて、相手の考えを理解しようとすることができる。自分の考えを全ての人が同じように持っているのではないということ。すなわちダイバーシティの意識を持つということに尽きる。

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2022年11月14日

Posted by ブクログ

Facebookの広告で見かけ、英字のタイトルと人類学的思考という、2つの言葉に興味を持ち読む。
著者のフィールドワークや豊富な実例をもとに、ビッグデータに基づく定量的分析やこれまでの経済学などの知識では見出せない要因が浮かび上がってくるプロセスをダイナミックに描写している。
ヒトの行為による現象には、机上の学問やデータだけでは見えない何かが隠れている。そこに、人類学的アプローチ、対象に影響を与えることなく、観察して感得する重要性が示唆されている。この分野の研究者は活動が地味であり、政治的な動きを嫌う傾向が強いが、様々な分野でその手法が注目を集め始めた。新たな視点で、世界に漂う不透明感が拭われていくことを期待したい。

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2022年07月02日

Posted by ブクログ

集団の中での常識や慣習は その中にいると空気のようにみえなくなつてしまう。世の中は多様性でできている。他者の視点で見てみることで今までみえていなかった死角が見えてくる。

世の中をメタで見直すための大切な考え方を学べました。

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2022年04月03日

Posted by ブクログ

・多様かつ複雑性の増す社会で他者と気持ちよく生きていくためには、他者・他組織の振る舞いを先ずは観察し、自らの振る舞いとの違いを知る事、そしてその理由に思いを巡らす事が重要である事が書かれている。
・組織運営や自己キャリアの形成においても大切な心構えと振る舞いだと思う

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2023年03月16日

Posted by ブクログ

人の動きや考え方に焦点を当てるのは大賛成
どんな素晴らしい計画や理論も実行されてなんぼ
自分のレンズがバイアスで汚れているということは意識していたい、経験が邪魔をすることがあることに注意したい

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2023年03月01日

Posted by ブクログ

サイロエフェクトの著者による、「人類学的思考」による世界の解釈のススメ。科学的分析だけでなく、文化的分析を加えて理解を深めようというもの。科学だけでは「何」が起きているかは理解できるが、「なぜ」起きているかは理解できない。「時間」「会議」「家族」など、世界共通のものでさえ、前提が異なることがあるということ。この他にも、「教育の世界での信頼関係は、権威的より、水平的・分散型で構築される」「Z世代ではなく、C世代(カスタマイゼーション世代)」「バーター経済から貨幣経済という証拠はない」

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2022年12月16日

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