あらすじ
日本人であることが、罪になる。祖母は、母は、そんな時代を生き抜いた――日本人というルーツに苦しめられた祖母、ルーツを捨てようとした母、そしてそのルーツに惹かれる私。アメリカ在住日系人家族の三世代を描く百年の物語。太平洋戦争を挟んでの日本とアメリカの姿、時代に翻弄されながらそこに生きる人々のアイデンティティのありようを描き出し、現在の世界に巻き起こる問題をも浮かび上がらせる骨太な感動作。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
小手鞠るい 3作品目。
明治初期、移民政策でUSAへ渡った幹三郎と写真花嫁・佳乃の太平洋戦争終戦までの物語。
物語は、ニューヨーク近代美術館、ジャスパー・ジョーンズの「旗」の場面で終わる。
この旗を掲げ、この旗を守るために、いったいどれほどの人間が命を落としたことだろう。星ちりばめたる旗の掲げる理念、理想、正義のために、どれほど多くのネイティブアメリカンが、メキシコ人が、太平洋戦争時には日本人が殺され、…。その続きに暇はない。
本当は、日本を追い出された移民(棄民)は、米国で所帯を持ち、定住し、できるならば「アメリカン・ドリーム」の実現を夢見るしかなかった。しかし、それが、子孫たちが日系移民の苦しい時代の最後の遺産を受け継ぐだけともしらないで。
きっと、「個人的な関係によって、人種差別も乗り越えられる」ハズだった。ただ、真珠湾攻撃が、反日感情を、強制収容に仕上げていったに過ぎない。移住にかけた燃える気持ちをすべてを奪い去って。戦争が、すべての人を理不尽な暴力にさらされていく。そして、民族に溜まる闇が牙を剥くチャンスを与え、集団の力となって噴出するとき、より弱い者に悲しい運命が訪れる。
星ちりばめたる旗、星条旗はずるい、と思う。星の意味するもの、個人一人ひとりの生き方から、コミュニティ、そして州へと広げている。同時に、光の速さの限界に紐づけて、理性の限界をも示している。
私たちの目にする星は、何万年も前に燃え尽きたもの。けれど儚さと同時に強いきらめきを放つ星は、一人ひとりの人生のようでもある。一瞬を生きていく力に。
明治初期の移民政策に関する書籍については、
南米移民:垣根 涼介 『ワイルド・ソウル』、北 杜夫『輝ける碧き空の下で』(未読)
写真花嫁:ジュリー オオツカ『屋根裏の仏さま』
カナダ移民:ジョイ・コガワ『失われた祖国』(未読)
頑張って、読み続けてみよう。
Posted by ブクログ
ある一家の日系移民の3代にわたる苦難の歴史が綴られた物語。その中の言葉が心に沁みる。「何者でもない者として生まれてきた小さき者が、何者かになろうとして懸命に努力し、結局、何者にもなれないまま死んでいったとしても、その人が生きてきた時間は、決して無駄なものではないのです。それらの命は宇宙のかたすみで、一瞬であったかもしれないけれど、確かに輝きを放っていた星たちなのです。わたしたちはみな、流れ星と同じように、空に輝いたあと燃え尽きて、流れ落ちていくのです。その営みを、その儚い運命を、わたしは尊く美しいものだと思っています」
Posted by ブクログ
米国で物語が進んでいくのですが、やはり戦争物…ツライ、辛すぎる物語でした。
日本だけじゃなくて、アメリカでも中国でも人々が被った戦争の悲惨さは変わらないんですね。日系アメリカ人という視点でみるとそこに人種差別が絡んできているので、更に理不尽さが加わり、やるせない気持ちになりました。
日系アメリカ人の過去にそんな辛い物語があるなんて全然知りませんでした。
あと、メインは戦争下でのおはなしですが、その裏にある親娘の複雑な関係性が描かれていたように思います。愛したいけど愛せない関係もある。戦争と同じくらい暗くて怖い。
Posted by ブクログ
これまで読んだこの作家の作品の中では一番良かった。
子ども向けの本も書いている作家だが、これは大人向け。
1904年に岡山から移民してきた一世の幹三郎から、その孫のジュンコまで語り手を変えながら、日系人一家の戦前から現在までを綴る作品。
差別され苦労を重ねながらもアメリカ社会に溶け込み財を築いて、家族を増やした一世の努力を全て奪った戦争。
長男は真珠湾攻撃の直後、アメリカ人の集団に暴行され、家族は全財産を奪われ収容所へ。ノーノーボーイにはならなかった次男は戦死。
戦後から現在までも描かれるが、圧倒的に力を入れて描かれるのは、戦前の家族の姿で、それだけに奪われたものの大きさがリアルに伝わる。
もちろん政治的な内容もあるが、日系人一家の、写真花嫁として幹三郎と結婚した佳乃、その娘のハンナ、ハンナの娘のジュンコが主な語り手であるため、イデオロギーより感情が表現としてさきにあるので、共感できる。
日系人強制収容の小説はたくさんあるが、読むべきものの一つだと思う。