【感想・ネタバレ】遊びと人間のレビュー

あらすじ

なぜ人間は遊ぶのか。人は夢、詩、神話とともに、遊びによって超現実の世界を創る。現代フランスの代表的知識人といわれるカイヨワは、遊びの独自の価値を理性の光に照らすことで、より豊かになると考え、非合理も最も合理的に語ってみせる。彼は、遊びのすべてに通じる不変の性質として競争・運・模擬・眩暈を提示し、これを基点に文化の発達を考察した。遊びの純粋な像を描き出した遊戯論の名著。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

カイヨワの『遊びと人間』は、遊びという現象を通して人間の文化や社会を読み解こうとした野心的な試みです。
本書の真骨頂は、遊びを単なる子どもの営みや余暇活動としてではなく、社会の根本的な営みとして捉え直したことにあります。特に印象的なのは、遊びと文明の関係についての考察です。
カイヨワは遊びを4つのカテゴリー(アゴン、アレア、ミミクリ、イリンクス)に分類しましたが、これは単なる分類に留まりません。彼の分析によれば、文明の発展とともに、アゴン(競争)とアレア(運)が支配的になり、ミミクリ(模倣)とイリンクス(眩暈)は周縁化されていく傾向があります。例えば、前近代社会では重要な役割を果たしていた仮面や憑依の儀式(ミミクリとイリンクスの結合)は、近代社会では演劇やスポーツといった制度化された形式に置き換わっていきます。
特に興味深いのは、遊びの「堕落」についての議論です。遊びの各カテゴリーには、社会化された形式とその逸脱形態があるとカイヨワは指摘します。例えば:

・アゴン(競争)は、スポーツから暴力への堕落
・アレア(運)は、くじから迷信への堕落
・ミミクリ(模倿)は、演劇から人格分裂への堕落
・イリンクス(眩暈)は、スキーからアルコール中毒への堕落

この分析は、現代社会の病理を理解する上で示唆に富んでいます。例えば、ギャンブル依存症は、アレアが社会的に容認された形式を逸脱した例として理解できます。
また、パイディア(自由な遊び)からルドゥス(規則のある遊び)への連続性についての考察も刺激的です。文化は、自由な遊戯衝動が次第に制度化されていく過程として捉えられます。例えば、子どもの即興的な「ごっこ遊び」から、演劇という芸術形式が生まれるように。ここには文化の生成過程についての深い洞察が含まれています。
さらに、カイヨワは各種の遊びが持つ教育的機能にも注目します。子どもたちは遊びを通じて、競争の規則(アゴン)、運命への対処(アレア)、役割演技(ミミクリ)、身体的制御(イリンクス)を学んでいく。これは現代の教育論にも重要な示唆を与えます。
本書の価値は、現代社会を分析する際の視座としても際立っています。例えば、SNSにおける自己演出はミミクリの現代的展開として、スマートフォンゲームの課金システムはアレアとアゴンの融合として分析できるかもしれません。

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2024年12月15日

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