大西暢夫のレビュー一覧
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ダム開発のために地図から消されていった日本の多くの村のひとつに、岐阜県徳山村がある。コミュニティが崩壊したあとも山で暮らしつづける老人たちのもとを1990年代初頭に初めて訪れたジャーナリストの著者は、トチの実やマムシ、種々の山菜などを採り加工し保存する日々の労働を克明に記録するにとどまらず、ひとり村にとどまったゆきえさんの人生、そして今や彼女の記憶の中にとどまるのみの村の歴史そのものを掘り出し、現場を歩いて自らの体によって確かめるようにして記録していくことになった。
角入(かどにゅう)という雪深く貧しい集落から一度は北海道開拓民の村へ嫁いだゆきえさんは、なぜまたこの村に戻り、最後のときまで立ち -
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ダムが建設されることによって移転を余儀
なくされた、ある集落に住む一人の老婆の
人生を追ったドキュメンタリーです。
と、書いてしまうとどこにでもありそうな
内容と思ってしまいますが、まさしく日本
のどこでも起こっていることなのです。
それがとても切なくて悲しくて、失ってし
まったものの大きさに気付かされることは
多いはずです。
ダムの寿命は100年と言います。
一人に人間の長さでしかないのです。そん
な人間一代の長さでしかない物の為に、先
祖代々から受け継がれてきた物を全て食い
潰してしまった、と嘆く老婆の描写は心が
痛みます。
我々が失った「豊かさ」の大きさに愕然と
させられる一冊 -
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ダムに沈む村の老夫婦の暮らしぶりを伝える第1部は普通の良書だが、第2部はハイパー展開だった。
最後の住人となった老婦人は、この岐阜県の山村で生まれ育ったが、戦時中に、初めて会う夫と結婚するために北海道の開拓地に移住していた。しかもその夫とは血の繋がる関係だという。
その夫は戦時中には満州移民を、戦後にはパラグアイ移民を志望して果たせなかったという。そして開拓地を捨て、岐阜の山村に移り住んで生涯を終えた。
ダムに沈むような山奥の集落だが、その住人は丸1日歩かなければ越えられないホハレ峠を頻繁に行き来して外の世界と交流していたというのは、当たり前かもしれないが驚きがある。老婦人も14歳の頃から毎 -
購入済み
写真と一緒に
写真の場所はよく知っている。
昔、住んでいたからだ。
震災当時は東京にいたから被災はしなかったが、この本を読んで、母校の高校が遺体安置所になっていたことを知った。
理屈をダラダラと述べているくだらないジャーナリストよりも、ずっと良かった。
すっと、入ってくる文章で読みやすかった。
ぜひ、一人でも多くの人に手にとってもらいたい一冊だ。 -
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宮城県東松島市の被災者の証言(記録)集。
フォトジャーナリストの人がうまくまとめている。
あまりよけいなことを書いてないし、
使われている写真もなかなか質が良く、
シンプルでストレートな仕上がりで好感度大です。
ボランティアでこの地に関わって2年経ちましたが、
よく知ってる場所の知ってる人の証言も出てくるから
とても現実感があります。(逃げる時の距離感など)
こういう記録はとても大事。
あんなつらい凄まじい思いをても、
人はいつか細かいディテール等、忘れて行く。
(だから人間は前に進めるとも思う。)
忘れるからこそ、聞き書いて記録にとどめることは、
教訓を後生に伝えるのにとても大切な役割 -
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日本最大のダムを作るために沈んでしまった岐阜県徳山村。
岐阜県の西より、滋賀県と福井県の境にある徳山村の最も奥にある門入(かどにゅう)地区が本書の舞台で、隣の坂内村や川上地区につながる峠がホハレ峠、物資の流通や交流が行われた険しい山道だ。
同じ岐阜県出身の作者は、徳山ダムの話は小学生頃から聞いていて、カメラマンを志しいつしかその記録を残したいと思うようになり、東京から徳山村まで通い詰めた。
門入は徳山村の八集落あるうちの唯一水没を免れた地域で、昭和の末頃まで34世帯約百人が暮らしていたが、ダム建設によって危険区域となり移転を余儀なくされ、集落の人々は徐々に近隣の町に引っ越していった。
そんな廃 -
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ネタバレホハレ峠
~ダムに沈んだ徳山村 百年の軌跡~
著者:大西暢夫
発行:2020年4月
彩流社
岐阜県中西部、福井県に接し、滋賀県ともほとんど接しているような地域にあったのが徳山村。村のほぼ北端、福井県との県境にある冠山を源流とする、木曽三川の一つ揖斐川が南へと流れ、その南端に出来た徳山ダム。2006年から水をためはじめ(マスコミでは貯水、役所は湛水と呼ぶ。とくに最初はテストを兼ねているので試験湛水というが、異常がなければそのまま水を抜かない)たため、徳山村は廃村となった。その様子は、著者が監督した「水になった村」というドキュメンタリー映画に収められ、公開された。文句なしの名作映画。
去年発 -
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あれ?大西さんて『ぶたにく』の人じゃないですか。
ダムの是非という以上に、ゆきえさんという1人の女性の人生に、力強さ逞しさと共に、生きる悲しみそのものを思う。山村に生まれ、14歳で親元を離れて紡績工場で働き、写真で見た人と結婚して北海道へ渡って開拓の厳しい生活を生き、また生まれた村に戻るとそこはダムになる…。
村の、現金はないけれど四季折々の収穫や自分のやるべき仕事のある豊かな生活と、移転した先でのスーパーで買い物する暮らし。たくさんの人のためにネギも作ってきた「農民のわしが」なんでスーパーで「買わなあかんのか」と言うところに、生きてきたプライドを見る思い。
そうなのだ、「壊すことは簡単 -
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ダムに沈む村。
本屋で手に取って気になってしまった。
岐阜県徳山村、かつて地図に存在した村は今は徳山ダムの湖の下に沈んでいる。
この村の最奥の門入集落に最後まで暮らしていた老婆、廣瀬ゆきえの生涯を追うノンフィクション。
門入集落は、村の中心地の本郷ではなく、ホハレ峠を越えた隣村との交流が盛んだった。
東京オリンピックの年になっても村には電気は来ず、物流はボッカが担っていた。
冬は雪に閉ざされるこの村で、ゆきえは生まれた。
幼いころは畑仕事を手伝い、
14才になり彦根の紡績工場に冬の出稼ぎに行き、
24才で嫁いだ先は北海道真狩村だった。
北海道真狩村は、門入の入植 -
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ネタバレ炎はつなぐ
めぐる「手仕事」の物語
著者:大西暢夫
発行:2025年6月30日
毎日新聞出版
初出:毎日新聞東海版「人と知恵がつなぐ」(2020年4月~2021年4月)
著者は、写真家であり、ドキュメンタリー映画の監督であり、文筆家でもある。過去にも、写真集やドキュメンタリー映画を取材した対象についてノンフィクション作品にまとめた本を何冊か出している。本書はノンフィクション作品の新作。429ページとボリュームはあるが、心豊かに、かつ、静かに、のめり込むでもなく、退屈するでもなく、実に心地よく最後まですんなり読みこなせる不思議な1冊だった。内容は豊富でとても勉強になった。知識的な勉強もあるが