幼少期の文字情報を絵でアップデート、あるいは補完する。まさに大人の恐竜図鑑。
--------
商品に「大人の」とつけるのは、実はジジババ向け、と教わった。
ジジババはシニアとか言われるのが嫌だけど、大人と言われると納得するんだって。
僕はまだ50歳にはなっていないので、シニア的大人ではないと思い
...続きを読むたいが、この本には見事に捕まってしまった。
著者は恐竜について「わかっている今」を、とても冷静に伝えてくれる。文章だけでなく、絵も添えて。
この絵が、ときにリアルであり、ときに妙にホンワカとしているが、ともかく文章と絵の両方がそろって、本書の魅力が完成する。
少年時代に刷り込まれた恐竜の知識は、残念ながら違っていた、というのを大人になって知ったのだけど、これがまた、大人(シニア?)の脳はアップデートが難しく、いつまでたっても恐竜脳は、かつての恐竜脳のままだ。
絵の魅力の前に、恐竜の知識を本書にならってアップデートしておこう。
僕の年代なら、誰もがブロントサウルスを知っているだろう。ところが、ヤツらはもういなくなっている。絶滅していないのではない。そんなヤツいねえよ、となっているのだ。
マーシュ博士というオッチョコチョイの仕業である。彼は、とにかくせっせと恐竜を発掘して、あまり詳しく調べないまま新種として発表する。
1877年、アパトサウルス。1879年、ブロントサウルス。ブロントサウルスの化石の状態が良くて、これが有名になる。もちろん僕も知ってる。
だが。1903年。大人である僕がまだ全然生まれていない1903年。この2種は同じだと気づいた別の研究者がいた。若いアパトサウルスと、大人になったブロントサウルスは同じだったのだ。マーシュ博士がオッチョコチョイだったということがわかり、だったら先につけられたものが有効になるので、ブロントサウルスは無効化され、アパトサウルスが残った。
1903年に。
おかしいなあ、1971年に生まれた僕はブロントサウルスを知っているんだけど。
簡単なことで、学者の世界では受け入れられていたが、博物館の展示や一般向けにアップデートされなかったからだって!
で、ここで納得したいのに、なんと、2015年になって、アパトサウルスとブロントサウルスは違う、という論文が出た。唆るぜコレは!
ところが著者は、これはどうにも弱い、ブロントサウルスはアパトサウルスのままでいい、という。
つまるところ、恐竜の知識は常にアップデートが必要なのだ。
こんな感じで、本書は僕の恐竜知識をグイグイと塗り替えてくれる。それには著者による絵も随分役立っている。
僕は漫画を読んでもほとんど吹き出ししか読まないし、テレビは見ないがラジオは大好きだし、という具合にビジュアルよりも文字に固執するが、しかし、だからこそ幼少期に刷り込まれた文字情報を払拭することができるのは、残念ながら同じ文字ではなく、絵なのだ。
日本のサイエンスライターが、パキケファロサウルス(美味しんぼの富井副部長みたいな恐竜)は頭突きをしなかった、と書いたために、ネットでもそういう情報が多く出回っているという、日本語でだけ。英語で検索するとそんなことはないという。アップデートばかりがえらいのではなく、昔の情報のまま、頭突き説に親しんでもらいたい、と頭突きの絵もある。
ああ、興奮して長く書いてしまった。いいから読んでよ。