もうかれこれ20年以上前から読みたかったのだがようやくご縁により読むことができた
元々は「茶の心」は岡倉天心が西洋人に「茶」の精神を理解させるために英文で書いたものだ
(天心は幼いころから家業の関係で英語に携わることが多く、また語学センスが素晴らしかったようだ)
そして勘違いしていたが、決して
...続きを読むお茶の指南書、概説書ではなく、日本の精神や文化を広めるための書といえよう
そして天心は詩人であった!
ユーモアもあり、皮肉も批判もするが、良いものは良いとし、平和と精神文化を追求する
非常に読ませる文章のセンスに驚いた
シンプルな言葉で読みやすいものの、真意をくみ取り自分の中で咀嚼するには難解な本かもしれない
しかしそれが醍醐味であり、浅ましい考えを嫌うであろう天心の意図かもしれない
深すぎてレビューが書きづらい
もう抜粋形式で雑に行きます
◇天心曰く、「茶」とは…
~茶の哲学は、唯美主義にとどまるものではない
人間や自然に対するもろもろの見方をあらわしている点で倫理や宗教と結びついている
清潔さを強調する…衛生学、単純質素なものに安らぎを見出す…経済学、宇宙とのバラン感覚を養う…精神の幾何学~
(発想力が深いのです)
◇天心の西洋批判
~西洋から「野蛮国」とされる日本及び東洋
戦争に勝ったときだけ文明国という
お互い批判するのではなく足りないところを補い合おう~
…といいつつも天心は明らかに西洋より東洋の方がすぐれているとしている(笑)
~日本は武士道(戦いと死)よりももっと深い文化(平和と生に導く文化)として茶がある~
◇茶の魅力
~ワインのような傲慢さも、コーヒーのような自意識も、ココアのような抜けた幼稚さもない
茶はなんとも微妙に人をひきつけ、その魅力には抵抗できない
茶道は美を見出してもそれを包み隠しておくたしなみであり、あからさまな表現を避けて暗示するにとどめておく術だ~(この表現力の素晴らしさ)
◇茶の歴史
茶の三段階
発展の順番から…「団茶」、「抹茶」、「煎茶」
・団茶…固形の茶を煮立てる
・抹茶…粉末の茶を泡立てる
・煎茶…葉のまま茶を浸す
それぞれ中国の時代を表す
唐(団茶・古典派)、宋(抹茶・ロマン派)、明(煎茶・自然派)
しかしこれらを経て、13世紀モンゴルの侵略により宋文化は破壊される
さらに17世紀には満洲族が侵入し異民族支配(清朝)となり抹茶は忘れさられた
唐や宋の茶の精神がすたれ、茶は日常的な飲み物になってしまう
日本へはおそらく遣唐使が持ち込んだのが始まりか
中国ではすたれてしまった宋の文化を日本が継承ができたのだ
◇禅と道教
茶の湯は禅の礼法から発展
そして道教を根底とする
道教「この世に生きる術」として論じるのが常
私たち自身を問題とする
この世をありのままに受け入れるのであり、儒教や仏教とは違って、嘆かわしいこの世の暮らしにも美を見出そうとする
酢の味見をする3人のものと言う宋の例え話が面白い
釈迦、孔子、老子
酢の壺を人生の象徴とし
孔子…すっぱい(実際家)
仏陀…苦い
老子…甘い
つまりこの世の一切は相対的な存在であって、絶対的に固定されるものなどない
すべては絶えず移り変わっている
だからこそ目の前の現実をかけがえのないものとして受け入れ、茶を味わえという
暮らしの細々とした事柄のうちに偉大さを見出す
(現代人に必要な教訓だ)
◇茶室について
茶室は「すきや」であるのだが、
数寄屋であり、単なる小家屋であり、好き屋であり空き家という(面白い)
余計な装飾を排し、何らかの要素をわざと未完成のまま残しておくことによって想像力は仕上げの働きを果たすことができる
というある意味異端の建築だ
しかしながら深い芸術的配慮に基づいたものでありどんな豪勢な宮殿や寺院建築にも負けない入念さで細部が仕上げられている
さらに外部の自然環境と合わせて一体化に見るべきと強調する
現代のエコロジー的思想にも通ずるものがある
芸術鑑賞や花、東洋の思想まで…幅広い熱い哲学も紹介されており、
はっと気付かされる大切なメッセージがたくさんある(書ききれません)
最後に天心の最後の恋について書かれている
50歳くらいの頃9歳年下のインド在住の女性に恋するのだが
まぁとにかく今までの力強い行動力、指導力、確固たる考え…
そのような偉大な人物とは思えないほど、愛に嘆き、喜び、赤裸々に弱さをさらけ出す
解説者も「異様ともいえるほどだ」と言うが
世間にさらされた天心はなんと思うのだろうと心配してしまった(ここ必要かなぁ…)
「茶」が世の中に与えた影響は数知れず、建築から住居、芸術、日常生活…あらゆることにあてはまるという
そして「茶」の精神というのは謙虚さや質素、自然との共存…など
日本人だけでなく、自然界に生きる人にとって大切なことであり、物質的に豊かな社会になればなるほど
決して忘れてはならない日常に組み込まれる精神なのだと感じた
そしてこの精神は中国やインドをはじめとする偉大かつ精神世界を大切にする東洋文化から引き継ぎ、
日本で育まれた大切なものとして、私たちは守っていかなくてはならないのだろう
背筋が思わず伸びてしまう
襟を正し、正座をしたくなる
そして日本人であることを誇りに思う
素晴らしい1冊だ