“江戸のメディア王” 蔦重こと蔦屋重三郎の生涯と活躍を描く大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(森下佳子, 2025)の小説版。明和の大火/メイワク火事から始まる第1回「ありがた山の寒がらす」から、俄祭りと朋誠堂喜三二の仲間入りを描いた第12回「俄なる『明月余情』」までを収録。
現在(※2025年9月末)放送中のTVドラマ版ではかなりシリアスな展開が続いているため、本書収録の吉原パートでの賑々しさと猥雑さが懐かしいのなんの! 「喧嘩雀」で大いに盛り上がった俄祭りが、つい昨日のことのよう!
現在放送中のべらぼうにおもしろいドラマの復習のつもりで買ったが、小説版もなかなかどうしておもしろい。ノヴェライゼイション自体の楽しみの他に、TVドラマ内では描写されなかった場面や設定の発見も楽しめる。……とは言え、さすがに「オーミーを探せ」は無理だったかww
TVドラマ版との相違や変更で特に印象的だった箇所を幾つか。
#1「ありがた山の寒がらす」より
忘八アベンジャーズが一人 扇屋の号「墨河」を紹介。彼の文化人としての一面を窺える。
#2「吉原細見『嗚呼御江戸』」より
平賀源内と知り合いだという男 貧家銭内(実は源内その人)を吉原に案内する蔦重。銭内の奔放な言動に、蔦重は内心イライラしていた。
#8「逆襲の『金々先生』」より
吉原者を毛嫌いする鶴屋に堪忍袋の緒が切れた駿河屋が階下にぶん投げ、忘八アベンジャーズが見下ろす場面。TVドラマ版では画面内にいなかった丁子屋が加わり、大文字屋の台詞「黙って大門潜りゃいいなんて考えんなよ!」を担当。
#10「『青楼美人』の見る夢は」より
市中の地本問屋 西村屋と結託する若木屋。吉原の見世が反・市中派/親・市中派に二分される事情がTVドラマ版より詳細。
#12「俄なる『明月余情』」より
ストーリーの舞台である安永6(1777)年の前年の俄祭りについて。大文字屋が蔦重に「テメェ去年のこと忘れたのか!」と怒鳴りつけるのも無理もない、祭りとは程遠い催しで終わった経緯が少し述べられている。