D・キッサンのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
技術としては脂が乗りきっているこの作家を知らなかった自分が悔しい。それくらいに巧な作家。吸血鬼、蹴鞠といった全く毛色の違う作品をちゃんと絵で描き分けられているのはすごい。それがわかりやすく表出しているのは、トーン使いで、表題作ではいかにも一迅社的な、ブロックチェックのトーンや、パターン柄のトーンなど、多種多彩なトーンワークを見せていたのに、明治時代の未亡人を描いた「或ル婦人」では、ぱたりとトーンがなくなる。それによって明治期の落ち着いた空気感、未亡人の静かに落ち込んだ心を見事に表現している。にしても、完成度、面白さ、どの点でも表題作が圧倒的。一読の価値あり。