宇能鴻一郎のレビュー一覧
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ネタバレ全体的に湿度が高くじっとりとした作品が多い短編集。その中から特に印象に残った作品について。
ズロース挽歌
病により余命わずかとなった男が、かねてより抱いていた性的倒錯を実行するに至った過程を記録した作品。
主人公の性へのこだわりの強さや、女学生に対する神聖視は程度が過ぎていて、少しおかしく笑ってしまうほどである。特に「セーラー服は便所にふさわしくなかった。一切の排泄行為を彼女たちにはしてほしくなかった。いっそ法律で禁じたかった。刑法第何条『ウンコやオシッコは女学生は、これを行ってはならない』とでも。」という一文は、冗談ではなく本気で思っていそうな狂気を感じて度肝を抜かれた。
主人公は様々な経験の少なさを補うために、様々な妄想や想像するのだが、的外れなものが多く、それが可笑しくもあり、また哀しくもあった。
死ぬ間際、そして死してなお自分の欲望を果たそうとする姿には、ある種の尊敬の念すら覚えた(実際には叶わなかったが)
リソペディオンの呪い
村の外れの洞窟内にある石の胎児のような地蔵を巡る不思議な物語。
主人公は自らを取り巻く環境のせいからか、人から軽んじられる事に慣れており、むしろそれを快感に感じている部分すらある。自ら道化を演じ、卑屈にも思えたが、彼が他人と上手くやっていくためにはそうするしかなかったのかと思うと何とも言えない気持ちになる。
表面上は周りと上手く付き合っていたが、本当の意味で信頼できる人は一人もいなかった。一人でも信頼だきる人がいればこんな結末にはなっていなかっただろうと哀しい気持ちになった。 -
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2冊目のアルマジロの手を先に読んでしまい、急いで買い求めた短編集
最初に収められている表題作も期待通りの内容だったが、その次の「鯨神」の素晴らしさに圧倒された
芥川賞作家とだけは知ってはいたものの最後のページに該当作品との記述があり、そうとは知らずに読んでしまったが納得の出来
「花魁小桜の足」
どんでん返しが好み
「西洋祈りの女」
鰻の伏線
「ズロース挽歌」
ラスト5行の現実が際立つ
「リソペディオンの呪い」
言葉は知らなかったが現象は手塚治虫ブラックジャックで知っていたのでイメージしやすかった
好きな作品は鯨神、次点でズロース、花魁小桜
2冊目と比べるとインモラル度が高いけれど、このクオリティーの短編集ならいくらでも読めるし読みたい -
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筒井康隆のエッセイでよく見た名前だな、くらいのとっかかりと、タイトル、表紙に惹かれて買いましたが面白いのなんの。
「姫君を喰う」とはそういう意味なの?と読んでびっくり。何を読まされているのだ(笑)。
とは言え古い元ネタがありそれを現代(といっても1970年の作品!)にエロくかつ怪談のように蘇らせてお見事。食事と性欲の身近さが濃密に感じられて若者が読むと性癖が捻じ曲げられそうです。
続く「鯨神」も明治初期の話で、巨大な鯨に祖父、父、兄貴が殺され仇を討つ若者が主人公。
そこまで熱も無いのに鯨と死闘を繰り広げる主人公の独白がまたしても現代に通用してしまうのが全く恐ろしい。
他の作品も楽しみです。 -
Posted by ブクログ
「姫君を喰う話」
千年の時を超えて生きる虚無僧と並び、モツ焼きを喰いながら
セックス&カニバリズム談議にふけるという話
モツ焼きを食べるということが
むかし愛した女を想ってするオナニーのようなものであるらしく
それを指摘された虚無僧はどこかに消えてしまう
「鯨神」
明治時代初頭の長崎で
巨大な鯨に親兄弟を殺された若き漁師が
これに復讐をこころみる話
復讐を果たした彼は、自らも深手を負ってしまうのだが
死に際の夢の中で鯨と和解する
人を人たらしめるのは物語であり
そこを離れれば人も自然界の一部にすぎないという
ひとつの気づきであるが
死を目前にしなければそれを実感できないという
物悲しさもある
「花魁小桜の足」
江戸時代の長崎出島
世間知らずの花魁小桜は、天国に行けると言いくるめられ
御禁制の基督教に入信してしまう
天国に行くには、踏み絵を拒否して処刑されねばならない
その日が近づくなか
小桜は足フェチおじさんの相手を言いつけられる
「西洋祈りの女」
キリスト教の祈祷師が谷間の村に呼ばれるのだが
それは子連れの美しい女であった
彼女の出現と共に、村の若い男たちは
なにか熱病におかされたようになってしまい
ある惨劇をひきおこす
消費社会のおぞましさであるとともに
ある意味では健全さと言えるだろう
インターネットの現代にも似たようなことはおきる
「ズロース挽歌」
女学生の制服
とりわけ、スカートの内側にのぞくズロースへの憧れが
ひとりの男を狂わせる
持病の悪化によって死期を悟った彼は
女学生誘拐の罪を犯すのだが
逮捕後、獄中から小説家に手紙を出し
やがて物語となる
身寄りのない彼は、そのようにしか己の淋しさを癒せなかったのか
「リソペディオンの呪い」
とある因縁を持って生まれた侏儒の男が
孤独な少年時代を経て、ストリップ小屋に勤めるようになるが
結局すべてを失って
故郷に帰ってくるという話
運命にあらがおうと神殺しを果たしたものの
その影響力からは逃れられやしない
そういう悲劇である -
Posted by ブクログ
ネタバレ本の雑誌で「芥川賞受賞作家で、官能小説家に転身した」と紹介されていて興味を持って手に取った。興味を持たざるを得なくないか!?笑。
本短編集自体は面白く読んだが、沼落ちするわけでは残念ながらなかった。紹介されるフェティシズムというか、官能要素が、私が谷崎に感じるものと結構一緒で笑、「あー足ね、はいはい」と言った感じ。収録作品は6つの短編+エッセイ。収録作品の中では、表題作の「姫君を喰う話」と「花魁小桜の足」が好きだったかなあ。引きたいと思う文章には特に出会わなかったのも残念〜
「姫君を喰う話」これエロというより、飯テロ小説とも言える笑。最初のモツ焼き屋の描写が食欲をそそる。
隣にいる虚無僧が実は、、と語り出したのは自分が滝口武者の平致光であるということ。滝口武者って平安時代か〜と斎宮・済子女王と密通事件の真相?を語ってくれるわけで、実際に性交したわけではないが、目眩く官能モーメントを経て、彼女を拐かしたが、凍って死んでしまったのを頭から食べた、という話。これ自体は絵巻が残っていたり、実際の物語に着想している。
愛している者を食べることで取り込みたい、であるとか、モツを食べながら器官を味わうとか、観念的に楽しむことだと思うので(そしてそれは私もよくやる)、そういう意味では純粋に感情移入できて楽しかった
「鯨神」芥川賞受賞作
「花魁小桜の足」自分の足を褒められた隠れキリシタンの遊女が、さぞ踏まれたら喜ぶだろうと思って踏み絵をする話
「西洋祈りの女」西洋祈り、と名付けて西洋風祈祷師を登場させたのは、面白かった。当時はそういう言葉があったのかしら?最後は悲劇で幕
「ズロース挽歌」ズロース愛に取り憑かれた男の告白。うーん全然これがわかんないんだよねえ、美しくないじゃん!
「リソペディオンの呪い」マゾヒズムとホラーが取り入れられたバランスの良い小品だと思うが、ピンとこず。 -
Posted by ブクログ
1961(昭和36)年から1970(昭和45)年にかけて発表された短編小説を集めたもの。
令和3年8月に出たこの新しい新潮文庫を店頭で見かけ、「宇能鴻一郎ってどこかで聞いた名だけど誰だっけ」と首をかしげ、巻末の解説をパラパラ見てみたら、そういえば「官能小説家」ではないか。団鬼六と並んで、中学時代にはこれらの作家の名を出しただけで淫靡な笑いを友人たちと共有したものだ。
知らなかったのだが、この宇能鴻一郎さんはもともと芥川賞作家であって、当初は純文学畑の小説家であったそうなのだ。この新刊の帯には「ただならぬ小説がここにある。」「官能の巨匠か、文芸の鬼才か。」「人間の深淵を容赦なく抉る至高の六編。」と書かれ、なかなか力を込めて売り出している。
興味を持って買って帰り、さてどんなものか、と読み始めたら巻頭の作品「姫君を喰う話」は結構エロで、しかも普通でなくヘンタイっぽい情欲が盛られていたのでのけぞった。新潮文庫のラインナップにこんなのがさりげなく入っていたら、これで性に目覚めちゃう中学生が続出するのではないか。いや、今時の中学生は小説なんて読まないのか。
しかし、2つめの作品で芥川賞受賞作である「鯨神」は、エロの場面はほとんど無く、巨大な鯨と戦う漁師たちの物語であり、メルヴィルふうであった。当時の芥川賞選考委員は、本作の土俗的なところや力強さを推したのだろうか。
他に「西洋祈りの女」は不条理なクライマックスのエロシーンが奇妙な味をもっているし、「ズロース挽歌」は女子学生のズロースにフェティッシュな欲望を持つ男の物語で、それぞれに意外と面白い。
ズロースへのフェティッシュな欲望というのは、きっと、個人的体験の中で深い意味内容を背負わされることとなった対象=記号が、その過重なシニフィエにまとわれて神話じみて主体を支配するという、その私的な意味論上の円環構造に基づいているのではないか、などと考え始めると楽しくなってくる。
当然のように、この作家は谷崎潤一郎の影響を受けているようだ。やわらかく流れ、どことなくエロチックさをも浮かべる文体も、何となく似ているように思った。
それでも、本書中の作品群はのちの本当の官能小説とは截然たる違いを呈しているはずだ。そこの一線を超えた作家の行動には、どんな意味があったか。そんな点にも興味を感じる。 -
Posted by ブクログ
結構前から積んでたけど、そろそろと満を持して取り出した本書。平積みから買ったけど万人が手に取っていいのだろうか。
表題は意表を突かれたけど妙に納得と官能と食欲を刺激される怪作。凄い筆致で驚いた。谷崎や安部公房なんかを彷彿とさせる艶かしさ。
鯨神は芥川賞受賞作なのね。全体的には何となく陰鬱な雰囲気を受けるけど最後の鯨神との対話でパァーッと陽光がさすような。
花魁小桜の足。小品。うん、まぁ、といったところで過分感慨もないといったところだが。文体は少しクセになってきた。次に期待。
西洋祈りの女。ややアングラな日本映画のような情景。西洋祈りというカルトな雰囲気が深い靄をかけたように揺蕩う。幕切れの唐突さも短尺の映画感で面白い。
ズロース挽歌。性癖を晒してるおっさんを高尚な文章で語る下世話さ。もちろん褒めてるんだけど、なんかこう同人小説のような、きな臭さを感じてノスタルジックに。
リソペディオンの呪い。真景累ヶ淵のような因果応報なお話。作品の中では章立ても細かくテンポ良く読みやすい感じ。それこそ講談とか落語に出来そうな。
通して言えるのは、霞んだレンズを通して非日常をしっかりとイメージ出来る素晴らしい筆致。ただ本慣れしてない人からすると少し読みにくさは感じそう。
のちに官能小説に転じたそうなので、そっちも読んでみるのも面白いかしらね。