大江健三郎のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
遅れてきた青年は、早すぎる未来に復讐を試みるが、やはり早く去りすぎた戦争という過去にはただ憧れるのみで、恨む事は永遠に無いのである。それはひとえに、青年にとっての戦争(過去)が現実に起こった事ではなく、お伽話の空想事と同じ意味合いの存在に過ぎないのであり、それ故にやはり青年は遅れてきた青年なのだ。仮にこの青年が第二次世界大戦の真っ只中に生きた青年であったとしたら、やはり青年は早く来すぎた世界大戦の時代に復讐を誓い、早く去りすぎた過去の戦争いくつかに憧れを覚えたのではないか。青年にとってすべては早すぎる訪れ、或いは早すぎる終焉を持つ出来事なのであり、己を取り巻くすべてのものに対して、己は遅れ続けるのではないか。
そしてその青年とは、この物語の主人公であり、堕胎手術の傷跡から流れる血でベッドのスプリングを錆びさせた代議士の娘であり、男相手に売春を繰り返す代議士の娘の愛人であり、私であり、あなたなのである。 -
Posted by ブクログ
大江健三郎、23歳の作品。
現状から逃げ出そうとしながら、逃げ出すきっかけが掴めずに鬱々と日々を過ごしている青年が やっとの事で残酷な程怠惰な日常から逃げ出すチャンスを得たところに、思わぬ事件が降りかかり・・・・みたいな。(分かりやすくあらすじ)
見ようによっては飛び立とうと思いながら飛び立てない、臆病な卑怯者の主人公。という側面での理解もそれなりに深く掘り進める事は出来るのだが、この主人公が必要としているのは自ら足を踏み出す馬力と勇気、ではなくて 外側から自分自身を引っ張ってくれるあらがいようのない力 であったのだともまた言えるのではないかと思う。自分自身の意思とは関係無く、自分を引き上げる強い力。お前はこちら側の人間だ、そんなところから抜け出してもっと高みへ行こう、とささやく声。自分自身という存在を保証する、天からの、世界からの寛大な許容。欲していたのはそれではないかと思う。
無益で怠惰な日常、退屈で下卑た場末の日常。太陽のあたらない、薄暗いところで生きる人間は つまるところ明るい世界に自分が拒まれる事を恐れるが故に暗がりへ逃げ込んで出てこない。お前はこちら側の人間ではない。今いる所がお似合いだ。・・・運命に拒まれる。その運命を押して、無理やり明るい世界へ飛び出そうと、正しい努力のもと明るい毎日を掴み取ろうと、そうしたところで自分はきっと世界からの総攻撃を受け、何もかも上手くは行かないだろう。そううそぶいて見切りをつけ、暗がりへ逃げ込む。逃げ込んで、その場所から、はるか高みから垂らされる蜘蛛の糸を待つのではないか。
まあそれにしてもこれを書いたのが23歳の青年という点に私は激しくショックを受けた次第。小説が上手い、とかではなくて 何というかいろいろ考えすぎだと思うが、現代の我々の方が考えなさすぎなのだといわれれば、もう返す言葉ございません。