佐藤多佳子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
School & Musicシリーズ第二弾。
前作が短編集だったのに対して、本作は一作で一冊。
主人公は、キリスト教系の高校でオルガン奏者を弾く
高校三年生男子。オルガン部の部長も務めている。
牧師一家で育ったり、母親が出て行ってたりと
かなり普通ではない生い立ちのためか、
性格はかなり屈折している。
といっても、物語が主人公の一人称で語られるため
読んでいる我々には分かる訳で、周りの人からは
そこまでひねくれているとは思われていない様子。
その証拠に「隠れファン」が結構いるとか(^ ^
その彼が、文化祭で発表するオルガンの難曲に挑みつつ、
音楽のこと、自分のこと、家族のこと、過去のことなど
様々に思い悩み、時に成長し、時にやけを起こし...
短い期間にいろいろな人と出会い、経験をする中で
少しずつ成長を見せて行く、というお話。
それほど大きな事件が起きる訳でもなければ、
感動の涙にむせぶエンディングが用意されてもいない。
むしろ「大舞台の前日」で物語が終わっており、
ハッピーエンドかどうかすら分からない(^ ^;
それでも、当人が自覚しているかどうかは別にして、
主人公の中で何かが変わり、確かに成長が見られる。
後輩と交わす視線一つでも、それが感じられるほど
作者は主人公の心象を丁寧に描き出している。
抑えに抑えた静かな文体で、大きな事件もないのに、
何もないはずの空間から魔法のように「物語」を紡ぐ
この作者の力量はハンパない(^ ^;
中山七里さんの岬洋介シリーズと同じく、
本作でも印象的な「演奏シーン」が数多く出てくる。
中山氏とはまた違うアプローチの「高校生なりの感性」で
描かれる演奏シーンは、これまた説得力がある。
また楽器に向かっている以外のシーン、たとえば
歩道橋の上から車や人を眺めている場面などでも
「音楽」を感じられる描き方をしているのも見事。
いやはや本当に「ハズレのない作家」である(^ ^ -
Posted by ブクログ
佐藤多佳子を読んだのは「一瞬の風になれ」だけだけど、これが凄く良くて、この本出たのはすぐに購入。
音楽室や軽音部の部室などを舞台に、音楽をモチーフにしながら、小学生から高校生女子の心情を描く。
二話目と三話目には、恋の成就は勿論だけど、それよりも何よりも恋することが自体に意味がある、この年頃の結構マセた嬉し恥ずかしの恋心が描かれていて、好感。
ふたつとも似たようなテイストのお話しなのだけど、短い話にギュッとその感情を押し込んだ二話目が好きかな。
最後の話は結構イタい話のなのだけど、些細なことで傷つき易く些細なことで立ち直ることが出来る、若さの脆さと逞しさの描写に、上手いこと音楽が絡めてあって、これまた秀逸。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ・バスタブ。
銀色のバスタブ。
ステンレスのバスタブ。
冷たいバスタブ。
からっぽのバスタブ。
私の宇宙船。
虚空を飛び、数多の世界へ旅立つ船。
・「自分の顔ってわかんないよ」
私は言った。
・「もう、入らない」
私は言った。
「入れない」
言い直すと、得体の知れない悲しさが、じわじわとわきあがってきた。
・「いいな、木島くんは」
村田はポソリと言った。
「やれることが、いっぱいある」
「やれてないってば」
「やってるじゃん」
村田はきつい調子で言った。
「私は何もしてない。限界が見えるようなこと、何もできない」
俺は黙っていた。
村田も口をつぐんだ。かなり長いこと黙っていてから、
「でも」
と言いだした。少し照れ臭そうに目を細くして、
「何が好きかだけは、わかってるんだ」
「何サ?」
「絵だよ」
・後半、監督から交替の指示はなかった。
円陣が解けてベンチから出ていく時、本間さんは一言だけ俺に言った。
「いったい何を恐がってんだ?」
いったい何を恐がってんだ?その言葉が何度も俺の頭の中を駆けめぐった。恐い?恐いさ。何もかもが。特にヘマでヘボなこの俺自身が恐くてたまらねえんだよ。
・「俺の、俺のー絵、見る?」
おじいちゃんは返事をしなかった。俺は顔が熱くなるのを感じた。なんか馬鹿みてえだ。
「今日、試合で・・・」
俺はぼそぼそと言った。
「俺、初めて、試合に出て」
「ぜんぜん駄目で・・・」
「でも、絵が描きたくなった」
「見ていいのか?」
とおじいちゃんは聞いた。どっしりとした感じの声だなと思った。嬉しくても悲しくても、簡単に声からはわからないだろう。
「うん」
と俺は答えた。
・「俺が描きたい村田さんって、もっとチガウんだよ」
「どう・・・チガウの?」
木島の細い目がいよいよ細くなった。
「もっと突き抜けた感じ?強い感じ?うまく言えねえけど」
わかんないよ。
「似てればいいっていうんじゃなくて、なんか、こう、印象みたいなのをはっきり形にしたいんだよ」
木島は説明した。
「俺が村田さんを見て感じるものを形にしたいんだ」
・「俺たちは、もう、いいかげん、あの男から解放されてもいいんじゃないか?歩美が悪いんだ。いつまでも、あいつのことばかりグチグチ言って」
俺は赤く染まりだした西の空に目をやった。胸の奥がかすかにうずく。
「好きなことをやるんだ」
おじいちゃんは言った。
「最後は自分だけだ。誰かのせいにしたらいけない」
その言葉は、重く、強く、厳しく、俺の心と身体を貫いて、背筋をピンとさせた。
・「木島さんがいいです」
俺は苦笑した。まあ、本間さんはおっかねえし・・・。
「だってね、本間さんは”できない”ってことが、わからないんですよ」
三宅は心底困ったように訴えた。俺は思いきり吹き出した。
「そう、そう!そうなんだよな!」
わかるぜ。
「天才の弱点だよな」
・「変わるって、いいことかな?」
私は焼きそばをわりばしでつつきながら聞いた。
「よく変われば、いいこと。自分がいいと思えば、いいこと」
スガちゃんは半分冗談みたいに答えた。
そんな自信なんてない。今の自分。これからの自分。だけど、止まっているのをイヤだと思ったんだから、変わるって、きっと、すごくいいことだよ。
・「どんどん好きになる。きっと、もっと好きになる。自分の気持ちみたいなの、どんなふうに言ったらいいのかわからなくて、絵ばっか描いてたけど、絵じゃないと伝わらないって思ってたけど」
照れた子供みたいにパッと笑った。
「言っちゃったし」