【第三次世界大戦はもう始まっている/エマニュエル・トッド】
お恥ずかしながら、今ウクライナで起こっている出来事について、しっかり本を読んで調べるのはまだ本書を含め数冊。
異なる意見や見識が有れば、是非教えていただきたいと思います。
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著者は、現在の状況を、「第一次世界大戦」に似ていると言います。
...続きを読むロシアが一歩的にウクライナを攻めているというのではなく、
軍事的緊張を高めてきたのはロシアではなく、NATOの方であった、といいます。
裏ではアメリカが、ウクライナに武器を支援しており、その目的はウクライナをNATOの事実上の加盟国とし、ロシアをアメリカには対抗できない従属的な地位に追いやることです。
対してロシアは、アメリカの目論見に対抗して、大国としての地位を維持することです。
「強いロシアが弱いウクライナを攻撃している」と見ることができるようで、実際は地政学的に大きく捉えれば、「弱いロシアが強いアメリカを攻撃している」と見ることもできます。
米英はウクライナ人を「人間の盾」としてロシアと戦っているのです。
戦争が終わった時、おそらくウクライナ人に生まれるのは反米感情であろうと著者は言います。
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また、トッド氏の視点として斬新なのは、
民主主義や独裁主義と言ったイデオロギーの前に、「家族構造」がくるという研究をしていることです。
ロシアは「共同家族体」、ウクライナは「核家族」。
プーチンが生まれたのは、ロシア社会自身が彼のような権威主義的な指導者を求めているからであり、それは中国や北朝鮮やイスラム過激派にも通じると言います。
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トッド氏は、民主主義が成立するためには、「国家」が成立しなくてはならず、民主主義は「強い国家」なしに機能しないといいます。
問題はウクライナに国家が存在しないことです。
ソ連成立までウクライナには「国家」が成立しなかったといいます。
「無政府状態の国家」では、軍隊が国の主導権を握っています。
ゼレンスキー大統領が繰り返し求めていることは、ヨーロッパを戦線に引き込むことです。
「次に狙われるのはあなた方の国だ」というわけですが、実際は正反対の事態であり、ロシアはヨーロッパにとって軍事的脅威ではなく、西欧の再軍備かも必要なく、そもそもロシアがウクライナ以外の領土への侵攻を考えているとは著者には思えないそうです。
広すぎるので。
西側メディアはプーチンは狂っているというような報道がされますが、ロシアは一定の戦略的合理性に基づいて攻撃しています。
一方、予測不能な国は、ウクライナとポーランドであるといいます。
「核発言」もポーランド向けに「動くなよ」ということではなかったかということです。
そして、最も予測不可能なのが米国で、「戦争」は米国のビジネスの一部になっています。アメリカは「世界を戦争へと誘う教育」を世界各地で進めているかのようです。
これに対して、トッド氏は日本は「核を持つべきだ」と主張します。
日本の安全保障に日米同盟は不可欠にしても、アメリカに頼り切ってはいけないといいます。
「核の保有は、攻撃的なナショナリズムの表明でも、パワーゲームの中の力の誇示でもありません。むしろパワーゲームの埒外に自らを置くことを可能にするものです。同盟から抜け出し、真の自立を得るための手段なのです。」
「核を持たないことは、他国の思惑やその時々の状況という、偶然に身を任せることです。
アメリカの行動が危うさを抱えている以上、日本が核を持つことで、アメリカに対して自律することは世界に対して望ましいはずです。」
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また、彼は、台頭する中国と均衡を取るためには、日本はロシアを必要とし、良好な関係を維持することは、あらゆる面で日本の国益にかないます、としています。
ロシアはソ連崩壊後弱体化したものの、最も自由な国としてふっかつしつつあり、アメリカよりも死亡率が下がり、平均寿命も伸びているというのです。
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というように、本書は、わたしたちがメディアなどを通して思わされがちであったものの見方とかなり異なる「ロシア寄り」の見方を提示しています。
これからも複数の本から俯瞰的に状況を見て、判断して行きたいと思います。