大野舞のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
■読む目的
・ウクライナ侵攻関するエマニュエル・トッドの見方に、佐藤優が非常に評価していたためどのような主張なのかを確認する
・家族構造をメインの研究テーマとしている歴史人類学者がどのように地政学や国際情勢を見るのか気になる
■感想
世界の各国・各地域の家族構成という視点からここまで世界情勢を俯瞰できることにとても驚かされた。
日本もヨーロッパも、ロシアよりもアメリカとの繋がりの方が濃厚であり、NATOを通じて同サイドに居ることから、いかんせんNATO側の情報圏に包まれ、NATO側の視点が基本フィルターとなってしまう。
そんな中、著者のエマニュエル・トッド氏は、沸き立つ怒りや悲しみのような感情は一旦脇に置いておき、中立的・俯瞰的にロシアのウクライナ侵攻を分析する。
ロシアやロシア寄りの国々は「共同体家族」の構成を取り、ヨーロッパやアメリカ、そしてウクライナは「核家族」の構成をとる。
ロシアがこの度ウクライナに想定外に苦戦しているのは、ウクライナはロシアと同じ共同体家族的な考え方をするものだと誤算していたから、という見方、というかその発見、がまさにトッド氏ならではの研究、慧眼からくるものだろう。
翻って、日本はおそらくかつては共同体家族的なベースを持ち、近代以降は核家族化が進み、核家族、個人主義的な考え方が浸透してきていると僕は考えている。
日本人の根っこには、「天皇や政府といった「お上」には従う、だから下々は勝手にやってますね」、という風潮があるように感じるが、このバランスこそが日本人らしい思考法ではなかろうか。
そうであれば、共同体家族的国家と核家族的国家の間でバランスを取ってやっていくのがベストなのではと思う。
ただ、抽象度を上げると、日本国家という要素の外側に、もう一段階「お上」がいて、それに従う、という構造が、政府単位としては、居心地が良いのかもしれない。
しかし地政学的にも歴史的にも大国に挟まれた位置にいる以上、いずれかの軍門に下るという判断は常に敵を生む形となり、味方側のお上の情報に包まれるのは避けられない。
情報や思想の自由、主体性をより保持できるのはどの派閥か、ということを考えれば、結果的にはアメリカ側に着くという今の状況は落ち着くべきところに落ち着いていると言える。
フィンランドは「フィンランド化」という物言いを嬉しく思っていないとのことだが、僕はそのフィンランド化的な舵取りはとても合理的で良いものとポジティブに受け取っている。
その考え方の上で、日本は戦略的にフィンランド化を進めても良いと思う。
トッド氏にように「感情を脇に置いて、中立的に現況を見定める」というのはとても難しいものではあるが、そのスキルは常に持っておきたい。
ベースとなる価値観や譲れない主張は各国にあるが、その構成分子たる国民一人一人は多様で、かつ彼ら一人一人と自分は直接的なネガティブな因果はなく、情を育める隣人・友人となり得るのだから。
ウクライナ情勢が落ち着けば、今度は台湾有事や、イランや北朝鮮の情勢が表に浮上してくる。
日本が主体的に戦争に雪崩れ込まないようにするためにも、イデオロギーを理解した上で、感情に翻弄されないようになろう。
そう考えさせてくれる良書だった。 -
Posted by ブクログ
第一次世界大戦の時のように起きてしまった事態に皆が驚いている
アメリカとイギリスはウクライナ人を人間の盾にしてロシアと戦っている
戦争がアメリカ文化の一部になっている
アメリカは他国を侵略することも普通のことだと考える基盤がある
ロシアにとっても予想外
共同体家族。結婚後も親と同居、親子関係は権威主義的兄弟関係は平等の社会
核家族。結婚後親から独立の社会
ヨーロッパとロシアの接近、日本とロシアの接近、ユーラシアの再統一はアメリカの戦略的利益に反するのです。そこで平和的関係が築かれてしまえばアメリカ自身が用済みになってしまうからです。
世界の不安定がアメリカには必要
NATO と日米安保の目的は日本とドイツの封じ込め。ドイツと日本をロシアから遠ざけるため。
ゼレンスキー大統領の演説はヨーロッパを戦争に引きずり込むこと
ポーランドの動きに注意せよ。ポーランドはロシアに対する攻撃的な態度に慣れすぎていてそこから脱することができない
本書では書かれていませんがポーランドは歴史的にロシアもドイツも恨んでいると聞いたことがあります。
西洋は世界の一部でしかない。世界の大半の国は西洋の傲慢さにうんざりしているのです。
感情的にならざるを得ない状況の中でも決して見失ってはならないのは、長期的に見て国益はどこにあるかです。
南欧の市民は人間以下の存在になり下がり。
ロシアは出生率死亡率平均寿命など人口動態から見て復活しつつある。
ウクライナのことは第二次世界大戦よりも第一次世界大戦と似ている
今起きてる戦争の原因はアメリカとNATOにある
アメリカはヨーロッパ経済、特にドイツ経済が疲弊していくことに満足感を味わっている
裁判が多いアメリカは法律系の人材が多い、しかし法律系はエンジニアとは違いある種虚業。
中国はさらにロシアを支援することになるでしょう。ロシアが倒れたら次は自らが単独でアメリカに対峙しなければならないことを承知しているからです。戦略上の選択肢は他にないわけです
もしロシアがこの戦争に耐えて生き延びるとすれば、それ自体が世界の経済的支配力をアメリカを失うことを意味するからです
西側諸国のロシアに関する言説は現実離れしたもので合理性を欠いています
ウクライナで起きていることをアメリカもイギリスも把握していて、ウクライナ軍をコントロールしていたが、ドイツとフランスは把握していなかった
軍事的な意味での真の NATO とは、アメリカイギリスポーランドウクライナそしておそらくスウェーデンそこにドイツとフランスは入っていないのです
アメリカイギリスオーストラリアはいずれもアングロサクソンなので同盟関係を築くのは自然な流れ
戦争が長引けば高度な軍事技術よりも兵器の生産力
マリウポリから脱出したフランス人の証言によれば、ウクライナ軍が民間人を人間の盾として利用している
「ウクライナに兵器を送るべきだ」の冷酷さ
「もうこの戦争は終えるべきだ」「交渉するべきだ」と誰も言わない
アメリカが参戦国として全面に
背後でこの戦争を主導しているのはアメリカとイギリス
アメリカはウクライナ人を人間の盾にしてロシアと戦争をしている
アメリカは支援することで実はウクライナを破壊している
戦争が終わった時、生き残ったウクライナ人たちはアメリカに対して激しい憎悪を抱くはずです。アメリカは血まみれの玩具のようにウクライナを利用したということが明らかな歴史的真実だからです
トッドさんが指摘しているウクライナのことは第一次世界大戦の時と似ている、という指摘はとても考えなくてはいけないことだと思います。
日本はその後第二次世界大戦まで多大な被害損失を出していき、現在まで続いているわけなのですから。 -
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教育は社会的階級を再生産し格差を拡大させるものになっている が論旨です。
高度教育が分断の根本であり民主主義を崩壊させているという驚くべき内容になっております。
気になった点は以下の通りです。
・高度教育を受けたかといって、能力主義、優秀であるとはかぎらない
・高等教育の発展や不平等の拡大によって集団の道徳的な枠組みが崩壊している
・識字率が向上しているにもかからわず、教育レベルが低下している
・女性が自分より社会的地位が高い男性と結婚する、従来モデルが崩壊している
・民主主義は3種
①アメリカ・イギリス型 核家族・個人主義
②ドイツ・日本型 直径家族・長男継承型
③ロシア型 権威主義・平等主義
・日本型民主主義は、自民族中心主義、能力主義なので、教育格差を広げない
・グローバリゼーションと、世界化は違う
・ドイツは移民を増やしていて、ドイツ帝国をめざしている
・EU諸国は、通貨の発行権限を失い、財政の自立化を失って弱体化している。
・弱体化しつつあるアメリカは、いまほど、日本を必要にしているときはない
・最後に、「新しい事象はよく真実とは反対の見かけで立ち現れる」と述べています。
構成は以下です。
はじめに
第1章 教育が格差をもたらした
第2章 「能力主義」という矛盾
第3章 教育の階層化と民主主義の崩壊
第4章 日本の課題と教育格差
第5章 グローバリゼーションの未来
第6章 ポスト民主主義に突入したヨーロッパ
第7章 アメリカ社会の変質と冷戦後の世界 -
Posted by ブクログ
エマニュエル・トッドの思考地図
個人的には、思考という部分では、かなり共感した。
トッドは思考するということは、じっくり椅子に座って考えるということではなく、本やデータを読みながら考えるというスタイルである。これは一般的な思考論とはやや異なるが、個人的にも納得できる。
確かに、基本的に自分も読みながら常に考えている。内田樹が何かを分析したりする前に、マルクスを数ページ読むという具合に、誰かが思考している形跡に触れることで、自分自身の脳もドライブされる感覚というものがある。本を読んでいるうちに、心の中にあったもやもやや、課題認識していたことがクリアになり、読み終わったころには、その本の内容のインプットはもちろんのこと、その他の心配事が解決し、アイデアが浮かんでメモするということはよくあることである。
さらに、思考することの本質は、現象と現象の間にある偶然の一致や関連性を見出すことと言っている。
トッドの仕事で言えば、変数間の一致を読み解くというのである。最近ではアナロジー思考という言葉で紹介されているが、この部分も非常に納得できた。大学時代、様々な分野の授業に潜って、経営学におけるケイパビリティ派とポジショニング派の対立の構造と、実存主義と構造主義の対立構造が似ていることなど、さまざまな分野における偶然の一致や変数間の一致を愉しみにしていたことを思い出した。
「これってこれと似ているよね」という偶然の一致を見つけた時には、その知的快感というものは最高潮になるのである。私はバレーボール部に所属していたが、スポーツや身体運動と人類学や哲学とのつながりや、映画のある種の深読み的な考察なども、この類の楽しみの一つだろう。
トッドの場合、膨大なデータを読み解き、家族構造と政治形態の一致を導きだすなど、純粋なデータオリエンテッドな思考力の叡智であるが、こうした愉しみは、多くの人も体感できるものだろう。
また、何か新しい味方をするうえで、外在性というものを意識しているとも記述があった。トクヴィルもそうであるが、自国の社会を考える上では、必ずや外の世界を見ることは重要である。共時的な部分もそうであるが、時間軸で考えても、古典を読むことはある種の外在性の獲得にもつながるのである。
両利きの経営でも紹介されていた知の探索とは、古典を読むことや自分の世界から脱出することも一つとしてカウントできるであろう。
社会には複数の教会が必要であるという記述もおもしろい。個人を束縛する枠組みがいくつもあると、強制を強いる複数の枠組みと個人が折衝して、逆説的ながらエアポケット的に個人の居場所ができるというものである。一つの思考の枠組みの虜囚となると、そこに完全に染まるか、まったく染まらないかしかないが、複数に枠組みがまたがることにより、逆に自分のスタンスが際立つという発想は面白い。 -
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筆者は、フランスの歴史家、文化人類学者、人口学者。書名では、教育に関しての論説のように思えるが、そればかりではなく、色々なトピックで、広く世界情勢について論じている。日本についても論じられてはいるが、あくまでも中心は、フランス、ヨーロッパである。
日本でも教育格差の問題が取り上げられることがあるが、それは、例えば東京大学入学者の親の年収は平均を大きく超えていて、良い教育を受けるためには、家庭が裕福である必要があり、結局は、親の所得格差が再生産されるのではないか、というような取り上げられ方である。すなわち、所得格差・階級格差の結果としての教育の機会の格差という捉えられ方だ。
本書の主張は、もっとラジカルだ。すなわち、受けている教育そのものが階級格差を生み出し、固定化しているのだという主張。高等教育を受けた者は、そうでない者のことを理解出来ないし、理解しようとも思わない。逆も然りという主張。あまりピンと来ないな、と思ったが、筆者も、日本はそんな状態にはなっていないと書いていたので、まぁ、そうだよねと思った。
本書の中で、虚をつかれた部分があった。それはテーマである教育とは関係のないところ。
「日本は経済成長を諦めたように見える」という趣旨のことが書かれている部分がある。
ある国の経済規模は、単純に言えば、一人当たりの生産性と人口のかけ算だ。ご存知の通り、日本は既に人口減少社会に突入している。筆者から見ると、一人当たりの生産性はともかく、日本は人口を増やす試みを諦めたように見えるということだ。少子化対策を政府はやっているのでは?と思うのだが、日本以外の先進国は基本的に多くの移民を受け入れて人口を増やそうとしているのに、日本にはそのような動きが全くなく、従って、経済規模を大きくする試みを諦めたように見えるという論旨だ。
そうなの?と思って、ネットで、各国の人口に占める移民比率を調べてみた。
アメリカ・ドイツ・イギリスは14-15%、カナダは20%強、オーストラリアは30%強。他のヨーロッパ諸国も、軒並み10%を超えているのに対して、日本は2%。確かに先進国の中では圧倒的に少ない。
日本経済が停滞している理由でよく議論されるのは、上述の生産性。それはそれで問題なのだろうけれども、確かに経済規模は、生産性が一定であれば人口で決まるというのは、誰が考えても分かることで、そういう意味で虚をつかれた気がした。 -
購入済み
大分断 教育がもたらす新たな階
すいすい読めます。
普段なかなか伺えない、ヨーロッパ人からの視点で書かれていて参考になります。
今後の世界の方向性を決定する上で、教育のあり方は重要。避けて通れない道。
そのことを痛感させられる一冊です。 -
Posted by ブクログ
難しい。日本に住んでいるとやはり欧州は遠くに感じる。
同じ大陸でしかも近くで戦争が起こり今も継続しているんだから、当然のことだ。
面白かったところは家族形態からそれぞれの国を観察しているところ。欧米諸国でも米英とドイツ、ロシアは違う。
むしろドイツとロシアは同じ家族形態。
信じられないが、いつかわからないがドイツとロシアは友好国となる。ウクライナはそもそも国ではなかった。
ウクライナは西部、キーウ、東部の緩い寄せ集めての連合国みたい印象を持った。
そう考えると、それぞれ分かれてヨーロッパとロシアにそれぞれ分離していれば、このウクライナ戦争は起こらなかったのかもしれない。 -
Posted by ブクログ
西洋とは自由主義の国民国家。つまり欧米のこと。コロナを経て、ロシアとウクライナの戦争が膠着しつつある2024年7月に書かれた本。
文藝春秋はこの本を売るために「日本と世界に何が起きるのか」という副題をつけているが、そのようなことは何も論じられていない。むしろ、「アメリカや西欧の社会はなぜ壊れつつあるのか」といった副題のほうが正確。
ロシアは実は社会としては安定しているという分析から始まり、東欧、ドイツ、北欧、英国、米国の社会がいかにして分断、弱体化していき、ロシアとウクライナの戦争が起こるべくして起きた、という悲観的な分析がなされる。そして、西欧と米国の衰退は、キリスト教的価値感消失とシンクロしていると論ずる。
約100年前にマックスウェーバーは、プロテスタンティズムの労働を神から与えられた「天職」と捉える精神が、資本主義社会の進展を支えたと論じたが、本書は、現在その真逆の動きである「宗教ゼロ状態」が進行していると主張している。
ここでいう宗教とは一神教のこと。もとから「特定宗教依存ゼロ」「八百万のカミを満遍なく許容」している日本にはそもそも関係ない議論であるともいえる。
ロシア=悪、というステレオタイプの議論は全く異なる視点が興味深いので、彼の主張を記録する。(以下長文)
【プーチン体制のロシア】
乳児死亡率は減少し、農業生産額が増加し、経済の復興がなされ、社会は安定しているという。広大な国土に対して人口は減少傾向。著者は、ロシアには領土拡張の意図は無いと分析している。
【ウクライナ】
ソ連時代から東部はロシア語話者が多く、ウクライナ語圏は西部地域となっており、この分断は21世紀になっても解消することはなかった。しかし2014年以降、西部と中央部を核としてナショナリズムが勃興。東部のロシア語話者つが国外に移動していったという。著者の認識は、ドンパスとクリミアは「ロシア語圏」ではなく「ロシア」であるというもの。
もはやウクライナは単独国家としては存続しえず、現在の「戦時下のウクライナ」は、税収に基づく国家財政運営がなされているのではなく、西洋国家のドルとユーロの資金援助により動き続ける軍事装置であるとしている。
【「西洋」の定義】
広義ではイギリス、アメリカ、フランス、イタリア、ドイツ、日本。狭義ではイギリス、フランス、アメリカ。日独伊はナチズム、ファシズム、軍国主義を経て「今は変わった」とされているという。「西洋」を生み出したのはプロテスタンディズム。
プロテスタンティズムの二面性は、教育と経済の発展と良い面がある一方、人間は不平等という考え方があることが悪い側面。つまり、我こそは神に選ばれし者という自己認識の人を出現させたこと。これらの社会では、もともとキリスト教が社会の基盤を構成しているが、宗教が崩壊するかわりに政治イデオロギーの形をとった集団信仰が勃興。
著者は宗教価値観の社会への浸透度合いを、活動的状態、ゾンビ状態、ゼロ状態に分類し、同性婚の法制度化がなされた時点をもって国家の宗教価値観が「ゼロ」となった時点であるとしている。
【ドイツ】東欧国家を取り込み再組織化。東欧諸国は「ロシアの思想的・政治的衛星国」から「ドイツの経済的・人口的衛星国」へと移行。2012年のノルドストリームパイプラインの開通により、ドイツはアメリカの軍事的保護に頼りながらも、エネルギー面ではロシアと密接なパートナーシップを開始。つまり、ロシアとの関係においては、ドイツはエネルギー面かつ経済面での自国の利益を放棄。一方で、ウクライナ戦争においては米国に追従。ドイツの指導者たちは、ウクライナとの連帯が免罪符となるという行動か。ドイツの矛盾した行動を、著者は「自殺幇助による欧州の死」と表現。
【英国】著者の観察では、イギリスは「国家ゼロ」状態に向かって突き進んでいる。
最近の大きなイベントであるEU離脱は、イギリス国民の内部崩壊から生じた。EU 離脱にはイングランドとスコットランドの分離問題も関係する。
UKすなわちUnited Kingdomは1707年のイングランドとスコットランドの合同によって誕生。UK/イギリス国民誕生は、プロテスタンティズムという共通のアイデンティティに基づく。
現在のイギリスの政界は急速に最上位レベルで有色人種化が進む。かつてはイギリスは白人のプロテスタントの国だったが、もはやそうではない。
イギリスは500万人以上の大都市はロンドンのみ。ロンドン首都圏には全人口の16%が居住。脱工業化が進み、金融業がGDPの8%を占める。米国に対して貿易赤字を抱える。
17世紀にプロテスタンティズムが浸透。識字が進んだ。プロテスタンティズムの労働倫理は労働と貯蓄を重んじるもので消費社会とは対極。19世紀には、イングランド南部とロンドンではイギリス国教会が支配的となる一方、イングランド北部やウェールズではメソジストなど非国教徒のプロテスタントが主流に。
20世紀初頭に、この2つのプロテスタントが共に崩壊。プロテスタンティズムに替わってナショナリズムが台頭。著者はこの状態を「プロテスタンティズム・ゾンビ」社会と定義。亡霊のようなプロテスタンティズムが戦時下の国家団結の基礎となったとする。戦後、1960年代以降、火葬率の高まり、同性婚の合法化とともに、キリスト教的な価値観が衰退していく。
ブリグジットの議論が本格化した2014年は、宗教ゼロ状態の出現と時期が同じ。EU離脱を支持した「中等教育までしか受けていない層」と、残留を志向した高等教育を受けた層の間の断絶が顕在。
プロテスタンティズムの国として、かつては宗教と国家が緊密に結びついていたが、宗教が衰退したことが「国家・ゼロ状態」となっている。
【北欧】
ウクライナ戦争以降、ヨーロッパ北部のプロテスタント地域に、好戦的な政治勢力が出現。フィンランドとスウェーデンがNATO加盟要請。
デンマークとノルウェーは以前からNATOに加盟済み。デンマークは米NSAの盗聴拠点として、NSAによるメルケルの盗聴にも関与。
スカンジナビア社会でプロテスタンティズムが消滅していくことで、国民が帰属先を求めている。
フィンランドとスウェーデンがNATO加盟要請に至った原因は、ロシアから守られたい、からではなく、どこかに帰属したい、からなのだ。
【米国】
米国は東西を大海に囲まれ、南北の国境は大国ではないカナダとメキシコと接しているという点で、地政学的には「離島」だが、世界経済への依存度は高い。しかし、アメリカ社会は内部において衰退が進行している。
プロテスタンティズムが崩壊したことにより、アメリカ社会の価値観がネガティブなものに変化。
白人中年男性の死亡率が上昇。その死因は、アル中、自殺、オピオイドのOD。また、アメリカは先進国で唯一、平均寿命が低下している国であり、乳児死亡率はロシアよりも高い。対GDPに占める医療費が他国よりも高いが、その医療費の一部はオピオイドによる社会の破壊に費やされている。
WW2のあとにルーズベルト政権がとったニューディール政策は、富裕層に増税し、組合を制度化したという意味で左派的だった。アイゼンハワー政権下では、退役軍人に高等教育をうける機会を与える政策がとられる。この時期の米国は、内政的には宗教的な盛り上がりが最高調に達し、外交的には共産主義との対決が鮮明に。当時の負の側面としては①南米諸国が実質的に米国の属国であったこと、②黒人に対する人種差別が制度として残っていたこと。
つまり、アメリカの自由民主主義では、インディアンと黒人を劣等人種として不平等に扱うことを固定化していた。プロテスタンティズムは人の不平等を制度化するメカニズムを有しており、黒人問題は宗教的な側面を内包している。
時を経て米国においてもプロテスタンティズム及び宗教全般が衰退が進行中。著者は、出生率の低下、ホモセクシャリティを容認する人の増加、同性婚を容認する人の増加に結びつけている。キリスト教、ユダヤ教、イスラム教はいずれもホモセクシャリティを非難し、同性婚を無効とする。したがって同性婚が法制度として成立する時が「宗教ゼロ」の状態であり、米国においては2015年がその年である。さらに現在は一歩すすんで現在のトランスジェンダーや性自認に関する議論は、本来は変更することが出来ない生物学/遺伝学的な性別を変更可能とする。これは、「虚偽を肯定、崇拝」するニヒリズムであるとする。
プロテスタンティズムの衰退は、結果として黒人の解放ももたらしてきた。しかし黒人への不平等は、白人間の平等を機能させてきたが、黒人の解放はアメリカの民主主義の混乱をもたらした。
労働者階級消滅に伴い中流階級は衰退。銃乱射事件は激増中。肥満疾患をもつ国民の割合は他国対比で群を抜いて増大。
戦後の高等教育の大衆化は、それまでWASPのみがアクセス可能だった高等教育をSATの成績次第で誰でも(特にユダヤ人)に解放した。しかし結局、このメリトクラシーは衰退し、現在では最富裕層のみによる寡頭制の不平等社会となっているとする。
アメリカの経済的な強さは、情報技術の進歩と豊富なエネルギー生産能力があることに裏打ちされているが、製造業は衰退。工作機械はもはや自国では生産できず、エンジニアになる大学卒業者の割合は激減。科学と技術分野においては、他国から労働者を大量に輸入しないと成立しえない。
【西洋圏ではない、その他の国々】
ウクライナに侵攻したロシアを非難している国はアメリカの同盟国か軍事的保護国。これら西洋圏は世界人口では12%に過ぎない。非難していない国には、ブラジル、インド、中国、南アフリカ、サウジ、トルコ、アルゼンチン、イランが含まれる。
現代の経済対立を、西洋vsその他、と捉えると多くの国はロシアに対して「2度目の脱植民地化」を期待しているといえる。
消費社会のグローバル化により、現代の西洋社会のプロレタリアートは、新興国の低賃金労働者に依存することで生活水準を維持している。西洋先進国は、いわば社会全体がバングラデッシュの児童労働を利用している。
ウクライナ戦争の本質は、ロシアvs米国(と同盟国)の戦いであり、グローバル化の第一段階が低コスト国への生産移転だったとすると、第二段階は低コスト国に戦争を肩代わりさせているといえる。
これら「その他の社会」が父系制の家族構造を維持しているが、アメリカは性別を否定するニヒリズム社会となっている。しかし、米国の「虚偽を肯定する価値観」は、重要な政策ですら一夜にして変わりうることを示唆する。日本はアメリカに追随するためにLGBT法案を通しているが、中国との有事の際にアメリカが軍事保護を行わない可能性さえある。
【冷戦後のアメリカ】
著者はソ連崩壊後のアメリカの行動を4局面に分けている。
第一段階はソ連崩壊後数年間、平和が続くという見方から軍事費を削減。ロシアを見下していた。
第二段階は2008年まで。アメリカは世界の支配者を目指して軍事費は増大するも、イラクとアフガニスタンでの軍事行動は失敗に。一方ロシアでは、1999年にプーチンが政権を握りロシアの再興に着手。同年チェチェン人によるモスクワでのテロ発生を制圧するも、チェチェンに自治を認めることでロシア社会への取り込みに成功。チェチェン連隊はウクライナ戦争でロシア軍で主要な役割を果たすまでになる。
第三段階は、オバマ政権下での軍事退却の時期。
アメリカが中東から撤退することができるようになったのは、天然ガス生産量が増大し、エネルギーの自立を確立したため。東日本大震災によりドイツは脱原発を宣言し、2012にはロシアとの間にノルドストリームが開通。ロシアは2008年にはジョージアの南オセチア共和国紛争に介入し同国を収奪。2014年にはウクライナのクリミアに侵攻。2015年にはシリアに介入するがいずれもアメリカは動かず。
そして現在の第四段階は、「現実逃避」のフェーズ。一貫性をもたない外交政策の第一期トランプ政権を経て2020年にバイデン政権がスタート。アメリカはアフガニスタンからは2021年に撤退するが、ウクライナではナショナリズムが勃興。警戒を強めたプーチンがついにウクライナに攻撃開始。アメリカの指導者たちが合理的に行動しないことは、今後のアメリカの方向性を不確実にしている。著者はアメリカが指針を失っていることを「宗教ゼロ状態」と形容。
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Posted by ブクログ
ロシア、米国、ヨーロッパの状態をウクライナ戦争を元に解説する。ちょっと難しいところもあるが、ロシアは経済制裁を受けても見た目ほど悪い状態ではなく、準備をしっかりした上での軍事侵攻だったようだ。そして、ヨーロッパは米国の属国かのように落ちぶれ、すでに西洋は支配的な立場ではないらしい。実感はないが、著者の説明で納得するところも多い。そして、西洋が敗北した後には中国や中東の姿が見えそうだ。本書を読んで、ロシアの見方が変わった。米国の危うさも分かった。ヨーロッパは他人事にできるのならしたいくらい心配だ。
宗教において、「活動的」段階から「ゾンビ」段階に、そして「ゼロ」段階になるとの分析が頭に残った。活動的段階はミサに行って心から宗教を信じる段階、ゾンビ段階は形式的に宗教儀式をする段階、ゼロ段階は宗教に関係ない生活を送る段階と言ってよいだろう。そして「無」を崇める「ニヒリズム」となることで、国は自滅していく。日本は宗教が全面には出ないが、国民はニヒリズムの感情を持っている人が多いように感じた。これはかなり危険な兆候であり、日本の政治を「なんかつまんないことやってんなー」としか思わないような、先は暗闇しか見えないようなものだ。 -
Posted by ブクログ
ー ウクライナ・ナショナリズムの一時的な軍事的成功は、地域レベルではなく、世界レベルでの軍事的、経済的、イデオロギー的敗北によってしか抜け出せないような、エスカレートした状況にアメリカを追い込んだ。現在のアメリカにとっての敗北とは、ドイツとロシアの接近、世界の脱ドル化、「集団的内部紙幣印刷[ドル〕」で賄われる輸入の終焉、そして大いなる貧困だ。
しかし私は、ワシントンの人々がこうした事柄について果たして自覚できているのかどうかまったくわからない。むしろこの敗北の意味について何も気づいていないことを願おう。そしてアメリカが、アメリカとキエフ(キーウ)のためだけに平和を宣言し、サイゴン、バグダッド、カブールと同じような結末を迎えることになると彼らが信じていることを願うのだ。
しかしながら、アメリカの社会学的ゼロ状態は、アメリカの指導者たちの最終決定に関する合理的な予測を不可能にしている。とりあえず、ニヒリズムは必ずすべてを可能にしてしまうということは、頭にとどめておこう。 ー
2年前から、状況はますます悪化している。
止まる理性がないとするならば、どこまで悪くなっていくのだろう。