大野舞のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
今までの常識がひっくり返される様な書籍ですね。米国を中心とする英語圏で本書が訳されていないのは、親ロシア派とも取れるトッド氏への嫌悪感もあるかもしれませんが、不都合な真実をある程度含んでいるからと考えるのが妥当かと思います。
エンジニアの数や出生児死亡率から国力を測るという人類学者らしいアプローチは納得感がありますし、米国の国力がGDPの規模が表すほどは強国ではないというのはその通りかもしれません。それに加えてトランプ氏の混迷と欧州のパワーダウンが明らかであり、西洋の敗北とは歴史的にも象徴的なタイトルですね。だからこそ本書は売れてるだと思いますが。分かりにくい部分は多々ありますが、本書で触れている論点と主張は大変興味深いです。 -
Posted by ブクログ
フランスの歴史人口学者、家族人類学者である著者が世界情勢を考察する世界各国で発売されている一冊。
歴史人口学、家族人類学という分野は初めて触れますので、このような考え方で見ると、世界はこう見えるのか、という個人的には衝撃的な内容だったと感じました。それだけに、各国の歴史、家族観、宗教観に加え、民族扮装や革命など大小の出来事を把握していないとなかなか理解できず、難解な印象を受けました。たまたまですが、同著者による『西洋の敗北と日本の選択』を同時進行で読みましたので、こちらを先に読んでからのほうが理解が進むと感じました。
本書は、ウクライナ戦争から考察を始めています。そのなかで、乳児死亡率、自殺率などが減少し、エンジニア人口の拡大などのデータから、現在のロシアは想像以上に安定化していること、ウクライナは歴史的に地域の意識差が大きいことなどから、ロシアの勝利を断言しています。それ以外にもヨーロッパ各国の状況などを考察し、アメリカを含めた西洋の影響力の低下の状況など、マスコミが語るものとは違う世界を見た気がしました。
現在のイランの状況を見るにつけ、著者が指摘した内容が真実味を帯びてきます。さまざまな視点を持つことの重要性を改めて感じました。
<目次>
序章 戦争に関する10の驚き
第1章 ロシアの安定
第2章 ウクライナの謎
第3章 東欧におけるポストモダンのロシア嫌い
第4章 「西洋」とは何か?
第5章 自殺幇助による欧州の死
第6章 「国家ゼロ」に突き進む英国ー亡びよ、ブリタニア!
第7章 北欧ーフェミニズムから好戦主義へ
第8章 米国の本質ー寡頭制とニヒリズム
第9章 ガス抜きをして米国経済の虚飾を正す
第10章 ワシントンのギャングたち
第11章 「その他の世界」がロシアを選んだ理由
終章 米国は「ウクライナの罠」にいかに嵌ったかー一九九〇年ー二〇二二年
追記 米国のニヒリズムーガザという証拠 -
Posted by ブクログ
ロシアがウクライナに侵攻して暴虐を尽くしたのが2022年2月。このトッドー池上対談が行われたのが2023年4月。まだバイデンのアメリカだった頃に書かれたこの書籍を、3年後、トランプがイスラエルと共にイランに先制攻撃した後に読む。まるで答え合わせをするように。
そうか、問題はトランプではなく「アメリカ」だったのか。
ロシアと欧州が抱く家族観の違いの中で、欧州的な個人主義&核家族の価値観がいまだ世界的には「少数」ということや、日本とドイツが「中間」にいる立ち位置など、人類学と歴史学の立ち位置を持つトッド氏の指摘は興味深い。ただ、トッド氏が日本に対して助言する中で、アメリカ主導からの脱却を促すことには同意できるが、核武装した方がいいよ、という部分については池上さん同様に強く否定したい。
ただ、「西側によって作られた物語の中で、私たち日本人は世界を眺めているんだ」ということが改めてわかっただけで、読む価値は高い。しかも、2026年の今こそ読むべき本ではないか。
福沢諭吉の唱えた脱亜入欧から140年、本書が言う「脱欧入亜」という言葉は目から鱗。世界は複雑だし、ロシアやアメリカやイスラエルのやばさは本当に非道で悲観的だけど、各国首脳の言動の是非を冷静に問いNOを突きつける世論形成には、こうした歴史家や民俗学的な視点を冷静に組み込むことが必要なんだと思った。
岸田首相のキーウ電撃訪問すら、アメリカに「連れられて行った」んだね。高市になって、ポチとしての日本がさらに劣化してるのはツラいけど、池上さんが言うように、希望は「作るもの」だと、私も思います。 -
Posted by ブクログ
西洋の敗北という本を読んで、現在の資本主義が終わりかけていると思いました、これは6冊目の著作となります。今までに「第三次世界大戦」というフレーズを聞いてきましたが、この本を読むと現在はその段階に入っているかもしれないと思いました。
以前、ノストラダムスの予言の本を読んだ時に印象に残っているのは「共産主義は消滅する、そして資本主義も消滅しなければならない」というフレーズです、これを読んだ小学生の頃には見当もつきませんでしたが、実際に、ソ連が消滅して、今のアメリカや欧州を見ていると、見えてくるものがあります。
明日(2026.2.8)は日本の近い将来を決めることになる、衆議院総選挙です、恐らく、自民党が快勝することになると思いますが、日本に暮らす人を幸せにするような政策で導いて欲しいです。
以下は気になったポイントです。
・ウクライナの NATO 入りは絶対に許さないとロシアは明確に警告を発してきたにもかかわらず、アメリカ と NATO がこれを無視したことが 今回の戦争の原因である、とミヤシャイマー(戦略的現実主義の論客)はコメントしている(p18)
・ NATO の東方拡大は、2つの 画期があった、1999年(ポーランド、ハンガリー、チェコ加盟)と2004年(ルーマニア、ブルガリア、スロバキア、スロベニア、エストニア、ラトビア、リトアニア)である、ロシアは不快感を示しながら受け入れた、その上で、2008年4月のブカレストでのNATO首脳会議で「ジョージアとウクライナを将来的にNATOに組み込む」ことが宣言された、2014年2月に「ユーロマイダン革命」が起きたのを受けて、ロシアはクリミアを編入した(p21)
・広義のロシア「スラブ」の 核心部は、 ロシア(大ロシア)ベルラーシ(白ロシア)ウクライナ(小ロシア)から成るが、ベルラッシュとウクライナの分離独立、 すなわち 講義のロシアの核心部が分裂することまで 受け入れた、ソ連邦が成立した1922年以前に、 ウクライナ も ベルラーシも国家として存在したことがない (p29)
・今の状況は、 強いロシアが弱いウクライナを攻撃している、と見ることができるが、 地政学的にとらえれば「 弱いロシアが強いアメリカを攻撃している」と見ることもできる(p32)
・第二次世界大戦時に自ら 多大な犠牲を払って ドイツ国防軍を打ち破り、 アメリカ 高黒 グロ イギリス・カナダの連合軍によるフランス 開放を可能にしたのも ソ連であった、ソ連は2000万人以上の犠牲者を出しながらナチスドイツの悪夢からヨーロッパを解放するのにアメリカ以上に貢献した、ところが 冷戦後の西側は、 その歴史をすっかり忘却してしまったかのような振る舞いを ロシアに対して してきた(p33)
・ アフガニスタン、 イラク、 シリア、 アメリカがこれまで行ってきた戦争は、弱小国に対する戦争であった。 それに対して 今回、 大国のロシアが事実上 アメリカを敵に回している、 これは大きな歴史的転換である(p35)
・ロシアは軍事技術 において アメリカに対して一定の優位に立っている、空母キラーと呼ばれる「超音速ミサイル」の分野ではロシアがアメリカに対して4年は先んじていると言われている、アメリカの軍事力の中心にある「 空母」 もすでに 時代遅れの 代物になっている可能性が大きく、 日本を含めて各国がアメリカから 押し売りされている 戦闘機 F 35 も、実戦できちんと 機能するかが疑わしい と言える(p37)
・ ウクライナは、西部に「ウクライナ東方教会」の信徒、中部に「 ギリシア正教」、東部にロシア系 住民、の3つの住民集団を抱えている、3つの地域はあまりにも異なっているので、ソ連が成立するまで、ウクライナは国家として存在していなった(p41)ヤヌコビッチ政権崩壊以降、 ウクライナ東部では、言語的・文化的にロシアに近い住民が攻撃にさらされた、 だからこそ プーチンはウクライナにいる ロシア人の保護を主張してきた(p43)
・ アメリカでは裁判が多く 企業活動でも 法的手続きが膨大にある、 そこで弁護士が手にする 膨大な 報酬も GDP に含まれる、 それに対して正直な人が多い 日本では訴訟も弁護士も少ない、その分 日本の GDP はアメリカより少なく 計上されるが、どちらの社会が生産的であろうか(p67)
・ ヨーロッパとロシアは経済協力を大いに進めるべきである、 ここが ヨーロッパとアメリカの違いである。 アメリカとロシアの経済的な結びつきはほとんどない。 経済制裁によって ヨーロッパとロシアは互いに傷つけ合うことにしかならない、 その最初の象徴 が 天然ガス 海底パイプライン「 ノルド・ストリーム2」の停止であった(p71)
・ヨーロッパとロシアの接近、 日本とロシアの接近、 ユーラシアの再統一はアメリカの戦略的利益に反する、 そこで 平和的関係が築かれてしまえばアメリカ 自身が「 用済み」になってしまうからである。 アメリカ軍のプレゼンスを維持するために、 ユーラシアにおいて アメリカ軍が必要とされる状況を無理にでも持続させるために、 アメリカはユーラシアにおける軍事的・戦略的緊張を維持する必要がある(p73)
・国連総会での対ロシア 決議 や G 20での議論を見ても、 世界の大半の国はむしろ ロシアの勝利を望んでいるようにも見える。彼らは「西洋の傲慢さ」にうんざりしている(p89)
・ウクライナに関心があるのは 三国 だけで、その三国にとっては ウクライナは特別な存在である。歴史的で明白な理由から、ドイツとポーランド、 そして不可解な理由からスウェーデンがウクライナに関心を持っている、 この三国はウクライナに関して自分たちに都合のいい 政策を追求するために EU を利用した(p95)
・アメリカにおける平等という思想は、あくまで 白人同士における平等であり、 家族構造に由来するものというより「 人種主義に由来するもの」である(p122) 黒人も平等となれば 白人同士の平等という感情は崩れ去ってしまう、 (p124)
・ アメリカで「新自由主義 ナショナリズム」が、国内産業・労働者階級・社会保障制度を破壊し、 生活水準を低下させ、ついには 平均寿命まで低下させたという現実がある(p129)
・ ロシアは経済的に弱体した貧しい国なのでヨーロッパによる経済制裁に耐えられないだろうと みられていたが、 進行から1ヶ月以上経って明らかになったのは、 ロシア経済の耐久力である。 ロシア 通貨 ルーブルは一旦は暴落したものの 現在はほぼ通常レベルに回復している、 さらに 戦争勃発 時に ロシアから逃げ出した 多くの ロシア人も再び国に戻ってきている、 この戦争は長期的なものになることを示唆している、 その意味でも今の戦争は第一次世界大戦を彷彿とさせる、 イデオロギーや思想をめぐる対立でない点でも第二次世界大戦 よりも 第一次世界大戦に近い(p139)
・ 今アメリカがロシアの軍事的失敗を喜んでいるのは明らかである、 ロシアに対する経済制裁によって、 ヨーロッパ経済、 特に ドイツ 経済が麻痺していくことについても密かに満足感を味わっている、 しかしそのこと以上に中国に支援された「ロシアの経済的抵抗」によってアメリカ主導の国際秩序が窮地に追い込まれていることを恐れている(p141)
・アメリカの戦争の真の目的は、アメリカの通貨と財政を世界の中心に置き続けることにある、 だからこそ早期の停戦を目指すのではなく この戦争にどんどん突き進んでいて、この戦争にさらに深く コミットする覚悟でいる(p142)
・この戦争から得られる教訓として、 ウクライナ軍の一定の成功から「戦車は時代遅れの兵器である」ことが明らかになった。アメリカがウクライナに供与した「 ジャベリン」 など、携帯式対戦車ミサイルによって 戦車の弱点が露わになってしまった、 この事実はロシアのように 陸地での戦いを得意とするランド パワーにとっては深刻である。 アメリカは シーパワーであるが、 超音速ミサイルの存在によって 空母の弱点があらわになった 、つまり ロシア側が戦車という時代遅れの兵器を抱えている一方で、 アメリカ側は 空母 という時代遅れの兵器を抱えている(p144)
・軍事的な意味での「 真のNATO」は、アメリカ・イギリス・ポーランド・ウクライナ、 そして おそらく スウェーデンからなっている。 ここに ドイツとフランスは入っていない(p148)
・戦争が 現時点で 終結すれば、 ロシアは、ヘルソン州からドンバス地方までの広大な領土を奪取したことになる、クリミア半島への水の供給源確保にも成功し、 アゾフ海は「ロシアの湖」のようになっている。領土を少しずつ 獲得している点では 18世紀のヨーロッパにおける戦争に似ている、 現時点では ロシアが勝利を手にしつつあるが、 これはアメリカには 許容できないことである、 だからこそ この戦争はまだまだ続くことになる(p149)
・この戦争は「西洋の民主主義 VS露中GA代表する専制主義」という構図で捉えられている。 ロシアによるウクライナ侵攻に対して、1) 非難して制裁を科す 国(米英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、欧州、日本、韓国)、2) 非難するが制裁はしない 国、3) 非難も制裁 もしない国、4) 支持する国(ベネズエラ、シリア、ミャンマー、中国、インド、ブラジル、南アフリカ、イスラム諸国)がある(P153) このことから、 ロシアは孤立など全くしていない(P160)
・ ロシアの経済力を ルーブルではなく「 エンジニア」で測るとすれば 2014年からの制裁に耐えられたように、 2022年の西側による制裁にもロシアは耐えられるのではないかと考えられる、 「経済の真の柔軟性」とは 銀行 システムや金融商品を開発する能力ではなく、生産活動の再編成を可能にするようなエンジニア・技術者・熟練労働者にこそあるのではないか(P187)
・対ロシア制裁によって、 ドイツは自国産業の崩壊というリスクに直面するだろうし、 ヨーロッパの中でロシアへの最大投手 国である フランスも ロシアでの権益を失い始めている、アメリカが最も懸念していたのはドイツを中心としたヨーロッパがアメリカから自立することであったが、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプラインを停止させることに見事 成功した(P197)
2026年1月15日読破
2026年2月7日作成 -
Posted by ブクログ
著者は2026年1月現在の西洋の「常識」を疑い、否定し、ロシアの優位性を絶対の答えとしている。
ロシアのウクライナ侵攻は、NATO拡大を阻止すると言い続けてきたロシアの反撃であり、ウクライナは1990年からアメリカが育ててきた親米国家であり、ロシア系住民を追い出していっていたのだ。
アメリカやヨーロッパでは、産業が空洞化し、法律サービスや金融などのフィジカルな価値を生み出さない活動によりGDPが膨らんでいるだけで、トッドはこれを国力の衰退と見る。さらに、プロテスタンティズムが死に絶えて勤勉や規律という社会の土台となる価値観の共有がなくなったこと、数学・科学分野での教育レベルの低下が起こっていることから、こうした衰退は「不可逆的」であると主張する。
これによって、西洋が敗北していくことは必須であり、その終わりの始まりがウクライナ侵攻だったのだと著者は言う。
さらに、西洋は世界中が自分達の価値観を共有していてロシアを包囲していると信じ込んでいるが、実際には世界の多数派である非西洋諸国は、西洋のリベラルな思考についていっていないし、そうした鼻持ちならない西洋の価値観への反撃者としてロシアを支持しているという現状把握により、実力だけでなく影響力の点でも西洋が敗北しつつあると主張する。
著者は、ロシア贔屓で、西洋嫌いなのだろう。
著者の言うことにはもちろん一理あるのだろう。しかし、本書は中立とは言い難い。明確な根拠を示さずに、ロシアにとって都合がよく、西洋にとって都合が悪いことのみを偏って取り上げている箇所が多数あったようにも感じた。
しかし、新たな視点を与えてくれた非常に意義深い書籍であったのは間違いない。星4つ。 -
Posted by ブクログ
ウクライナ戦争の驚き
1.ヨーロッパで戦争が起きた
2.アメリカ対ロシア 中国ではなく
3.ウクライナの抵抗
4.ロシアの経済的抵抗力
5.ヨーロッパの主題的な意思の崩壊 =フランスとドイツ
6.イギリス 反ロシア派の台頭
7.ノルウェーとデンマークのNATO加盟
8.アメリカの軍事物資供給不能 GDPと物資不足は関連がない
9.西洋の思想的孤立 ロシアへの支持
10.西洋の敗北 自己破壊 ロシア死活問題・アメリカの利益小 →ロシアが勝つ
主権はアメリカ、中国、ロシアのみ 共通の文化と中流階級による経済的自立
プーチン政権 生活の安定化 経済的自立
10万人当たり 殺人率4.7人(6分の1) 自殺率10.7人(4分の1)へ改善
1000人あたり乳児死亡率4.4人(アメリカ5.4人)
食料自給自足 農産物、武器、原発 輸出
出国の自由 反ユダヤ主義の不在 エンジニアの率はアメリカを超える
低出生率1.5 1.46億人
ウクライナ
代理母出産ビジネス世界の25%
ロシア寄りの都市の多い東/南部 ロシア嫌い
農村で中流階級の少ないナショナリズムの西部と無秩序な軍事主義の中央部
西洋の危機
プロテスタンティズム=教育と経済の発展・不平等(白人至上) 集団意識
→ 宗教ゼロ=国家ゼロ 状態へ
EU NATOの背後にアメリカ 同盟国の監視と支配インターネットは全てを記録する
ドイツ 軍事をアメリカに頼り エネルギーでロシア密接に 機械社会
1999~2001 ロシアのチェチェン制圧、統一ドイツ貿易黒字化
2004 東欧諸国NATO入り EUへも
イギリス 好戦主義 孤立への恐れ 白人のプロテスタントの国が官僚の有色人種化
高等教育は白人よりも黒人、アジア系 医師新登録は他国出身半数
新自由主義=民営化 倫理の欠如 アメリカにつながりある超富裕層が支配
北欧のNATO加入
デンマークとデンマークから独立したノルウェー アメリカの支配への統合
スウェーデン 2017年 徴兵制復活 自国のために戦う 帰属したい要求がNATOに
アメリカ 離島 自国のために戦ったことがない 外交政策は内部の退行から
空虚さ 金 権力 ニヒリズム 乳児死亡率上昇 GDPは空虚 教育成果低下
能力主義の放棄 リベラル寡頭制
産業基盤欠如 真の実力?西欧州を下回る? GDPの大半は対人サービス
エンジニアリング専攻は7.2% 高収入の法学 金融 経済学へ
貿易赤字拡大 労働者輸入 財よりも貨幣を生産するほうが簡単
合理的な予測が不可能な国に
その他の世界=非西洋 と西洋の対立 ロシア周囲には多数の非敵対国 中国 インド -
Posted by ブクログ
【内容】
2020年に行われた日本に向けたインタビューをまとめた書籍。高等教育の階層化がエリートと大衆の分断と対立、ポピュリズムの台頭を招いていると、トッド氏は指摘する。またグローバリゼーションによってエリート層が富を増大させる一方で大衆が疲弊する「グローバル化疲れ」の問題を指摘し、その対策としての保護主義の必要性を主張する。
【感想】
トッド氏の著作の中では比較的わかりやすいように思われたが、それが文章によるものなのか、私が慣れてきたからなのかはわからない。
現在の反グローバリゼーション、ポピュリズムの台頭といった現象を論理的に説明するトッド氏の分析は、わかりやすく納得性も高い。自由貿易に対する保護主義の必要性の主張については、個人的に最初は受け入れ難かったが、本書を読むにつれて冷静に検討すべきと考えを改めた。
トッド氏は全般に日本の問題については甘めな評価をする傾向がある(但し少子化問題を除く)が、実際日本国内の状況のみを見て悲観し絶望していては、前向きな議論につながらない。教育格差や階級分断といった国際的に顕在化しつつある課題に関しては、冷静かつ国際的な比較分析を実施することにより、我が国の政治、文化、国民性の強みと弱みを明確化し理解することが必要。そして他国の優れた点を参考とし、一方で課題点を反面教師とすることで完全な解決には至らずとも、破滅的な失敗を回避し続ける現実的な対応策を模索し続けることが重要であると考える。
【内容メモ】
1.教育が格差をもたらした
民主主義は本来なら下層の人々が力を合わせて特権階級から社会改善を手に入れるものだが、現在教育格差によって機能不全に陥っている。
「エリート階層の資格」に成り下がった"高等教育"が社会的成功のためのツールとなってしまった結果、エリート層の無能化を招き、さらにこの"高等教育"の発展が社会を階級化し分断を進めてしまっている。
教育から自由、考える時間が奪われ、自らを成熟させる教育から他人を押しつぶすために忍耐強い従順主義者になることを求められるようになってしまった。
教育を受けたが無能なエリートと、教育を受けていないが知性のある大衆による階級間闘争が発生しつつある。
エリート層の漂流、彼らは目的や道徳的規範を失いつつある、そしてエリートたちはこれまで以上に内向化してしまっている。
2.能力主義という矛盾
優秀な学歴を追い求めることに力を費やすと、自分とは何かを考える知的な時間がなくなってしまう。
教育は世代間の知識の伝達を基盤としているため、権威から教えを受けることは必要だが、同時に自らのことを考える自由な時間もまた必要である。
教育によって人々を区分けする能力主義(メリトクラシー)は能力主義は自由平等を旨とする民主主義と矛盾する。
女性の高学歴化による解放、この新傾向のもたらす効果は現時点でトッド氏は分析しきれておらず今後の課題である。
3.教育の階層化と民主主義の崩壊
過去のエリート=頭の良い高学歴で社会的責任感、時に国家への責任感にも溢れた人々
今のエリート=集団エリート、全人口の3割にものぼり必ずしも優秀でない開かれた世界(グローバリゼーション)を代表していると思っている層。
民主主義の3類型、思想的気質と家族構造に由来
①米英仏型→自由平等を普遍的価値観とする、背景に核家族、個人主義、兄弟間の平等
②日独型→権威の原理と不平等、背景に直系家族
③ロシア型→権威主義と平等主義
日独では階層民主主義が発展した、民主主義の手続きと自由な政治アクセスの一方で、権威と階層社会を受け入れる傾向もある
日本は教育レベルの低い人を蔑視する傾向は弱い、背景には米英仏と比べて国民を一体として捉える感情(自民族優越主義)が強い傾向がある。
グローバル化したエリートと地方に暮らす下層の人々による社会の分断から脱するには、この分断状態を認めた上で両者による交渉が必要。
フランスの「黄色いベスト運動」は階級闘争であり、マクロン以下のエリート層は対決を選んだ結果混乱を招いた。この混乱を解決するのは新しい政治勢力だろう。
イギリスのブレグジットは大衆に対してエリート層が歩み寄った好例である一方、アメリカはトランプを巡って大衆とエスタブリッシュメントの分断が深刻化しガバナンス不全に陥りつつある。
民主主義の危機に対する完璧な解決策はない。ベターを選択しつつ最悪な状態を避け続けるしかない。
4.日本の課題と教育格差
日本の特異性は、不平等を受け入れる価値観と江戸時代由来の特殊な階層の考え方をベースとした能力主義が発展した点。そのため身分に対して傲慢な感情がない。階級化したシステムを維持したまま民主化が進んだ。
地政学的には、中国は人口が10倍以上あるため対抗しないと飲み込まれてしまう。国防の選択肢の一つとして核武装も考慮すべき。
日本の1番の問題は人口減少。グローバリゼーションの圧力は日本全体を縮小させつつある。その解決のためには秩序ある移民の受け入れは不可欠。そのためにも、日本は完璧主義を捨てもう少し無秩序を受け入れた方が良い。
5.グローバリゼーションの未来
自由貿易を推し進めすぎた国で中間層の収入レベル停滞等様々な支障が出るようになった。自由貿易は不平等を拡大し続けるため反発も強まりつつある。トッド氏はそれを「グローバル化疲れ」と呼ぶ。トランプの大統領当選やサンダースの躍進は、左右の違いなく自由貿易への反発が進展していることを物語る。
この動きに対して道徳的良し悪しで捉えるのではなく、実際に起きているムーブメントとしてその力学を直視することが重要。
グローバリゼーションはモノと資本の自由な流通である一方、情報、言語、移動の世界化の動きは終わらない。グローバリゼーションの終わりは世界化の終わりを指すモノではない。
6.ポスト民主主義に突入したヨーロッパ
EUによって最も恩恵を受けたのはドイツであり、その台頭をトッド氏は「ドイツ帝国」と呼ぶ。現在移民を最も受け入れるドイツは、人口維持による国際的影響力の維持に固執している。しかし家族制の異なるトルコ系移民の流入はドイツ社会の硬直化と治安の悪化という脆弱性にも繋がりうる。
またドイツの伸長をアメリカが快く思わない場合、アメリカがドイツへ影響力を行使する可能性がありそれもまたドイツの脆弱性である。
フランスはEUによって産業の空洞化が危機的なレベルまで進展してしまっている。グローバリゼーションに取り残される大衆の不満にエリートは対応できていない。そしてその無力なエリートを隠れ蓑にしている中産階級の無能さ、無関心こそが最大の問題である。
7.アメリカ社会の変質と冷戦後の世界
トランプの当選はアメリカのエリート対大衆の分断を露わにした。中年白人死亡率の上昇に見られる中間層の没落は、これまでの自由貿易を推進する傾向からの転換をもたらし、トランプやサンダースの支持拡大につながった。
冷戦後の世界においてロシアの退潮とドイツ、そして中国の拡大が進んだ。アメリカは後者2者、とりわけ中国への反発と対抗姿勢を強め、そのためにロシアと接近、連携する可能性もありうるとトッド氏は指摘する。
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「西洋の敗北」フランスの統計、人類学者の著者が、西洋とその他の世界で今何が起こっているかを解き明かす。
まず、前提としてトッドは人類学と地政学、統計の視点を組み合わせて現在の世界を読み解いている。
「敗北」は単純な戦争での勝ち負けを示すものではないことに留意。
2022年から始まった、ロシアのウクライナ侵攻からすでに4年。西側のあらゆる経済制裁もロシアを止められず、モスクワでは未だほぼ以前とかわらない生活レベルが保てている。なぜか。
西洋は、すでに宗教ゼロ状態に陥っており、個人主義の台頭とともに倫理観ゼロ社会とも言える状態となっている。富の集中による中流階級の崩壊とともに経済の空洞化も進み、みせかけのGDPに絡め取られている。
反面、ロシアは比較的安定した社会を維持できている。個人主義の行き過ぎた「西洋」以外の家族集団主義の残るその他の国が、イデオロギーの近いロシアを支えている。
日本についても、西洋の一員でありながら、宗教ゼロ状態ではない、宗教と慣習が溶け込んだ特殊な形態と解説。
世界は西洋だけではない!自国と周辺のみの視点だと、なかなか見えてこないが、言われてみれば当然か。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ1. 西洋の「敗北」の定義とウクライナ戦争
・ウクライナ戦争は単なる局地紛争ではなく、「西洋対ロシア」のグローバルな宗教・文化戦争へと変質した。
・当初、西洋側は経済制裁でロシアが崩壊すると予測したが、実際にはロシア経済は耐え抜き、逆に西洋側の兵器生産能力の不足(脱工業化の弊害)が露呈した。
・この軍事・経済的なミスマッチこそが、物理的な意味での「西洋の敗北」の始まりであると指摘する。
2. 米国の衰退:虚業化と「ニヒリズム」
・米国の衰退の根本原因は、かつての繁栄を支えたプロテスタントの倫理の消滅にある。
・宗教的バックボーンを失った米国は、教育水準の低下(特に理数系)と乳児死亡率の上昇という、先進国としては異例の社会崩壊の兆候を見せている。
・経済面では「実利」を生まない金融や法務などの虚業が肥大化し、自国で砲弾すら十分に生産できない「実体なき大国」と化した。
・共通の価値観を失ったエリート層は、自己破壊的な「ニヒリズム」に陥っており、これが予測不能な外交政策を招いている。
3. ロシアの安定:予期せぬレジリエンス
・プーチン政権下のロシアは、西洋の予想に反して社会的な安定を取り戻した。
・少子高齢化は進んでいるものの、自殺率の低下や乳児死亡率の改善が見られ、社会の基礎体力が回復している。
・ロシアは「自国を維持できればよい」という守備的なリアリズムに基づいて行動しており、西洋が主張するような「欧州全土への侵攻」という野望は、人口動態的に見て不可能であると分析する。
4. 世界の「グローバル・サウス」の動向
・西洋が「民主主義対専制主義」という二項対立を掲げる中、世界の多く(グローバル・サウス)はロシアを「安定した保守的勢力」と見なし、西洋の道徳的押し付けに反発している。
・特に、LGBTQ+の権利拡大などを「絶対的な価値」として輸出する西洋に対し、伝統的な家族観を持つ諸国はロシアに親近感を抱くという、文化的な分断が加速している。
5. 日本への提言と警告
・日本は現在、衰退する米国に過度に依存(追従)している危うい状態にある。
・英国が欧州連合から離脱したように、日本もまた「米国の没落」という泥舟から距離を置き、自律的な外交を模索すべきである。
・地政学的には、敵対するロシアや中国との関係を、米国抜きでいかに安定させるかが死活的に重要となる。 -
Posted by ブクログ
日々の報道は、基本的に欧米視点のものが多い中で、
・ロシアがどういう歴史的経緯と発想のもと動いているのか
・私の中で、アメリカとヨーロッパは一緒には考えられないという認識はあるものの、同じEU内であったとしてもヨーロッパ各国それぞれ考え方や状況、ロシアに対する気持ちなどがこれほど異なるのかということ(イギリスは今はEU内ではないけれど、含めて)
・教科書的には何となく分かってはいたものの、プロテスタンティシズムが近代世界の形成にどいいう役割を果たしてきたのか、またそれが抜け落ちた時にどういう結果につながるのか。
・ガザの戦争とウクライナの戦争との関係性についても、日本の報道を見ていたらそれぞれでしかないが、確かにこういうふうにつながるのか。
などなど、色々と示唆に富む内容だった。
ただ、宗教0状態が招く事態については、典型的日本人である私自身とって、そこが欧米のキリスト教圏の人々にとっては大きな問題となることは想像するが、実感は伴いにくい。
LGBTQの問題についても、同性愛とトランスジェンダーに対する問題の重みをそこまで区別して考えたことがなかったので、キリスト教圏の人から見るとそういう発想になるのだなと新鮮な気持ちだった。
トッド氏自身が、プロテスタンティズムの中にいる人(ゼロかどうかは置いておいて)だからこそより感じることなのだろうと思う部分もあった。