A.R.ホックシールドのレビュー一覧
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米国最貧州のひとつルイジアナ州のメキシコ湾に面し、古木の森と湿地地帯の広がる豊かな自然にめぐまれたレイクチャールズ市。沿岸部はエネルギーベルトと称される産油地帯でもあり、世界に名だたる大手石油関連企業がこぞって進出している化学工業地帯。当然、環境汚染は深刻で、がんの多発地帯としても知られる。事故による原油流出、有害物質の漏出など、問題は後を絶たないが、被害に対する補償は十分になされていないようだ。それでも白人が多数を占める住民たちは、環境規制に反対し、企業の自由な経済活動を擁護する共和党を支持している。税金が企業誘致に使われても文句を言わず、雇用創出と税収増のためと受け入れる。現実には雇用は外
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感情労働で有名なホックシールドによる、南部アメリカの右派白人がどのようなナラティブ(この本の中では”ディープストーリー”)を持っているのか分析した大作。一見ルポタージュのように読めるため、非常に読みやすいのだが、その中身は重い。アメリカという国の中での貧富の差の大きさに驚き、また人々の中にこれほどの思想の断裂があることが分かるからだ。
アメリカンドリームは、努力したものが報われる、という物語。ということは、努力していないものが報われてはおかしい。属性だけでアファーマティブアクションしてもらえるのも変だし、税金が生活保護に使われているのも腹立たしい。そのため、小さな政府を希望する、という風に説 -
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合理性やロジックに照らして理解しがたいと思われる心情を平然と語る相手を前に、我々はしばしば「理解できない」と口にし共感の壁の前で踵を返してしまう。著者はリベラルの立場から、押し付けられる環境汚染に黙って耐えむしろ連邦政府の保障を拒む共和党支持者(ティーパーティ)の「理解できない人々」の中に分け入り、丹念に聞き取りを続けるうち、彼らの中に、事実かどうかはともかく彼ら自身がそうと自覚する自らの立ち位置=ディープ・ストーリーを見出す。共感の壁の前で一旦は立ち尽くしながらも必死で這い上り超えていく著者の姿勢に深い感動を覚えるとともに、格差という分断の進む世界でのとるべき姿を教えられる。
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私は保守派の人をざっくり言うと「田舎者」のイメージで捉えていました。
人はいいんだけど、考え方が古いし、コミュニティ第一だし、って。筆者からも(この本の書き方からも)、保守派を見下している部分があるように所々で感じました。
でも、この本を読んで、保守派の人が何に憤りを感じていているのかを知り、「田舎者」というイメージで捉えてはいけないのだと教えてもらいました。
でも、ここが本当に難しい所ですよね。
リベラル派も保守派も、個人個人・個々の点ではお互い理解し合えるんですよね。でも、政治の舵取りとなると、途端に票を相手方に入れることはできなくなる。
この辺りが、資本主義にがっちり首根っこを押さえ -
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今年一番の本。バークレーの女性社会学者が、ティーパーティの本場ルイジアナに入り込み、インタビューを重ねて、壁の向こう側の人々の「想い」を共感的に感じ、言葉化した本。
南部の人々が心の奥底に持っている「ディープストーリー」は、共感できるストーリーだった。自分たちは、アメリカンドリームを目指して、真面目に列に並んで、頑張っているのに、政府は、アファーマティブアクションやら、性の多様性、シリア難民、はては、石油まみれのペリカン(地球環境)まで、自分たちの前に、別の人たち、別のグループを割り込ませる。そして、自分たち白人労働者は忘れられている。そんな、政府は頼りにならない。企業の違法な環境汚染に一番 -
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左右両派の対立・分断が深まるアメリカ。保守派はリベラル派のことを、怠け者を助け道徳を損なうとみなし、リベラル派は保守派のことを、頑迷な愚か者だと考える。まったく違う価値観ゆえに、両者はまるで違う国に暮らしているかのようだ。
代表的な「青い州」カリフォルニア・バークレーに暮らすリベラルな研究者である著者は、「赤い州」ルイジアナのティーパーティ支持者たちを、2011年からトランプ大統領が誕生した2016年までの5年間にわたって訪ね、インタビュー調査を行った。リベラル派と保守派の間にそびえたつ「共感の壁」を克服しようと、事実に関する分析の多くは補遺に置くなど、研究書というよりも旅のエッセイのように、 -
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環境汚染について、日本よりも遅れてる?また学歴も?両極化が進んでるのは知っていたが、ここまでとは。保守派って本当に保守なんだな。トランプの「アメリカファースト」にくすぐられている人々の鬱屈、アメリカの一つの姿が見えた。
石油工場で働く人々の多くは共産党保守派を支持していて、熱心なハンターで釣り師だ。彼らは故郷の素晴らしい大自然を愛しているが、彼らはしばしば法的にその自然を汚染する産業で働いている。養うべき家族もいるし、環境保護運動や自分たちを窮地に追い込みかねない連邦政府の措置を支持することには慎重だった。環境と仕事のどちらを取るか?ノスタルジアに傾きすぎるのはよくない。だが飲めない、泳げな -
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一見すると米墨国境の向こう、つまりメキシコ人のことかと思うようなタイトルだが、「壁」とは心理的な壁のことで、民主党支持のリベラル思想を持つ著者が、共和党右派の考え方を知りたいと思って行ったフィールドワークの本。規制が緩く環境汚染がひどい南部の町で、なぜ、環境保護規制に反対する人が多いのかといったパラドキシカルな事実を現地でのインタビューから分析している。中々重たい中身だし、アメリカ気質、特に、南部人の基本的な考え方を知らない故に、内容がよく理解できたとは言えないが、白人男性というだけで、黒人とか性的少数者などの「マイノリティー」の問題について差別主義者のように扱われかねないという懸念やフラスト