ルル・ミラーのレビュー一覧
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少し重いバインダーに書類を挟むと、その資料が重要なものだと認識する。そんな逸話を読んだことがある。
故に本の装丁というものは、存外と大事なものなのだそうだ。
見事な装丁の本だ。深い藍色の紙に銀の印刷、インパクトのある表紙で美しい。Xで見かけてから心ひかれて手に取った。厚みのわりにページ数はさほどでもない。注釈と謝辞をのぞけば340ページ程度なので、本になれた人間であれば数日で読破出来る分量で、また文章も平易で読みやすい。美文ではないが親しみやすい。
さて、この本はいったいどう分類したら良いだろう。
一応Xでの紹介文では『分類学についての本』ということになっている。しかし、いざ本を開けば、分類学 -
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人間の直感と、それによる分類がいかにアテにならないか、そしてその固定観念から解き放たれることはどういうことなのかを魚類学者D. S. Jordanの生涯を追う著者の体験をもとに描き出したドキュメンタリー。
10年前、私に「実際、"魚類"という分類は全くのデタラメなんだけどね!」と明るく教えてくれたのは魚類学者の教授だった。それでも便利だから魚類という分類を使わざるを得ない状況であることも。
「科学的に正確なこと」と「世間一般に広く分かりやすく(面白く)教えること」は全くの別ものなのだと。
著書の言うとおり、正しく世界を見ているかはさておき、"人間という生き物&q -
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ネタバレ本書はなまじ詳しい人や知識のある人ほど、表紙に書かれている情報から「どんな内容かだいたい想像がつく」と思ってしまう。しかし、断言してもいいが、この本の内容は想像を超えてくる。
著者は小さい頃、科学者である父親に教えられた。「この世界に意味などない」。でも彼女は意味がほしかった。自分が存在する意味が。
やがて著者は一人の科学者に傾倒する。デヴィッド・スター・ジョーダン──魚類の分類で知られ、スタンフォード大学の初代学長でもあった。彼の不屈で自信に満ち溢れた生涯にあこがれたのである。
だが、調べていくうちに衝撃の事実を知る。ジョーダンは優生思想の布教者だった。著者は震え上がる。彼女はバイセ -
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生物分類学と進化論に関するポピュラーサイエンス本のつもりで読んでいたら、生きることの意味、新しく何かを知ることの不可逆性を考える文学作品だった。
まず、「分類」という行為が人間の思い込みに左右されていて、またその思い込みが世界の見え方を固定してしまうと感じた。
分類学はカオスとの闘いであり、連続的な自然界に便宜上の恣意的な境界線を引き、名前をつけて世界を理解しようとする取り組みだった。
デイヴィッド・スター・ジョーダンは、自身の宗教的・倫理的価値観に添うような秩序を自然界に見出そうとし、ダーウィンの進化論だけでなく優生思想も無批判に受け入れ、一面的な価値基準で人間に序列をつけて種の複雑さや揺 -
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著者のルル・ミラーは科学系のジャーナリストだそうだ。生化学者の父はかつてルルに「人生には意味はない。自分の存在になんの意味もない」と言った。大人になっても、自分とは何者なのか悩み続ける彼女は19世紀に生涯をかけて魚類の分類という大仕事をした科学者デイヴィッド・スター・ジョーダンの研究を始める。ここからはジョーダンの伝記のようだ。度重なる震災で膨大なコレクションが破壊されてもめげずにやり直す楽天的な逞しさ。それはどこから来るのか。しかしジョーダンの生涯には怪しい殺人の影、優生学奨励による非人道的主張などがまとわりつく。ジョーダンが生涯を賭して整理した魚類の分類だが、現在の科学は分岐学が主流となり
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生物分類の学術発展をうまく切り取って(そしてある意味で読みやすく)語った著作。対象とするテーマは生物学や遺伝学、それをめぐる歴史といったあたりだが、メッセージ性としては科学哲学といったあたりも含んでいる。
本書に散りばめられたメッセージ、特に生物分類学とは別のところの「人間に意味などない」「いや、むしろある」議論であったり、信念・行動に意味があると信じて疑わない姿勢の危うさなどのメッセージは読み手ごとに受け取り方が変わりうると思う。
個人的には、著者のような経験を通じなくても、ここ数年はSNS等で「自分が全てを知っているように信じる」人を傍目で見る機会が多いように感じるため、若干の今更感を感 -
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生物分類に興味があったので、もともと「魚が存在しない理由」は知っていました。
なのに、装幀と書名の組合せがあまりに魅力的だったので、気になって思わず衝動買い…まさか、自分がサンマーク出版の本を買うことになるとは。
内容はといえば、科学者ディヴィッド・スター・ジョーダンの生涯と、それを追って交差する著者の個人的な回復の物語といった感じ。
不屈の偉人と思われたディヴィッドが、追跡するうちにダークな側面を露わにしていき…といった展開なので、純粋な生物教養本として読むと期待が外れるかも。
ちなみに、「魚の存在」は「人生の意味」と重なっていて、「存在の意味」と「意味の存在」の間の断絶(飛躍)が主題のひと