マーティンエイミスのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ本が好きなら誰しも一度は読んでみてほしい作品。
洋画の翻訳の様な口調で話は割とテンポ良く進む。それに慣れないドイツ語とちょくちょく話がややこしくなる時もある。そして、淡々と自分は物語を進める。
しかし、何か肝心な事を忘れていないか?という気持ちに常に襲われていた。もちろん、これは強制収容所で働く人々のお話というのは理解していた。だからこそ、この作品は狂気に溢れているという認識をもって読み始めた。しかし、本当に狂気に溢れているのは自分自身であったと今は認識している。
鏡の様な作品と言われていたが、本当に間違いない。自分は作品を通して、ドルとトムゼン達の事に意識が集中していた。そして、ここが -
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星に迷いました。でも、目を背けてはいけない。
観てから読みました。
映画もすごかったですが、原作もすごかったです…
ただ原作は想像力の入り込む余地があまりないように感じ、とてもきつかったです。
実は映画を観た時もそう感じていたのに、より原作はきつかった…
物言わぬ少年たちの時間
ゾンダーコマンドの存在
P302からのシュムルの章は、感情というものを捨て去らなければ読めないこの作品の中で、やはり涙が出る内容でした。でも、その自分の涙さえ欺瞞に感じる…厳しい話です。
主役はトムゼン。話の動くきっかけは、トムゼンが人妻のハンナに気もちを寄せたから…
でも、それは話を動かす装置でしかない。
あ -
Posted by ブクログ
かなり期待して読んだが,原文がこうなのか訳が悪いのか,どうにも物語として響いてこなかった.
映画化もされているので,そちらも見て判断したいところだが,どうやら映画には原作の中心人物がそもそも登場しないらしく,見る前から「なんだそりゃ?」という気分.その時点で意欲が半減してしまった.
ホロコーストを「人間の本性を映す鏡」として描いているという触れ込みだが,正直,そこまでの深みは感じられなかった.
ただし,ナチス関連の作品をいくつも読んできた中で,この作品の描き方はどれとも違っていた.
ユダヤ人側の苦悩,ドイツ市民の葛藤,ヒトラー周辺の狂気――そういった視点ではなく,実際のホロコースト現場とその -
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ユダヤ人強制収容所での「仕事」に従事している登場人物たちの日常や心情が、淡々と綴られていく。
この日常の一辺には殺戮への関与が確実に含まれているのに、物語で中心として描かれるのはそこではないことに不気味さを感じる。
強制収容所所長が少しずつ病んでいくのは、ひそかに彼のうちにある良心や倫理観の崩壊を表現しているようで、おかしな言い方だけれど、そこにわずかに救いを感じてしまった。
遠藤周作氏のエッセイのどこかで、やはり親衛隊将校についての記述があり、(昼はガス室で殺戮を繰り返す将校が、夜は我が子に頬ずりをして妻とモーツァルトの調べに酔いしれる、それが人間というものなのか、というような内容)、そ -
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アウシュヴィッツをモデルにした収容所とその周囲の暮らしや戦況の話。
収容所の管理にあたる軍人は家族帯同で暮らしていた。
家では普通に家庭生活があり、周囲の街にも普通に暮らしている人たちがいる。
そこへやってくるユダヤ人を満載した列車。同じ人間でありながら家畜よりも酷い扱いで、到着してすぐにガス室行きか、半年も持たずに死ぬ。
彼らを選別し、収容所に運んでいくが彼らの気配、音、匂いは当然普段の暮らしに影響がある。死体が増えるにつれ、焼却しきれずに野原に埋める。それが地下水に出て、近隣では井戸水が飲めなくなる。
何が起きているのか、想像がつく。でも、それを口にはしない。
目を逸らし、受け流す。
そん -
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ナチス政権下、歴史的にも醜悪かつ理解し難い、その行為とその周辺を舞台にして、収容所の司令官、連絡将校中尉、ユダヤ人の特別労務班班長の3人、それぞれの違った視点からの描写を交えながら、物語が進行していく。
あの場所から幸せな何かが生まれるなんて、どんなにぞっとすることか。
作中のこのセリフには、共感しかない。
この物語を哀切な悲恋で締め括ることは許されない。
著者の後書きも含めての作品だと痛切した。
現実に、ルドルフヘスが、己の行いによって酒と薬に溺れ、精神を病んでいたのかはわからない。
現実に、こういった中尉のような、都合の良い自己正当化で残虐行為を行っていた人たちもいたかもしれない。
け -
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ジャミロクワイの『VIrtual Insanity』でMVを監督したジョナサン・グレイザー監督がアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所の隣に住居を構える収容所の所長ルドルフ・ヘスとその家族の生活を描いた映画『関心領域』
そこに暮らす人々の生活が描かれているだけにも関わらずおぞましく、醜悪で、下手なホラー映画よりもよっぽど恐ろしい作品であった。
直接的な描写は一切映らないにも関わらず、わずかに聞こえる叫び声や銃声、塀の向こうの焼却炉がゴウゴウと音を立てて吐き出す黒い煙など、恐らく今こういうことが起きてると察することが出来る。
頭をガツンと殴られるかのような衝撃を受ける映画体験だったが、とても映画 -
Posted by ブクログ
映画も最低限のナチスの前知識いる感じでしたが、こっちはだいぶ必要でしたね。ナチス政権下の生活について書かれた本を一冊くらい読んでからにすりゃよかったとちょっと後悔。
著者のあとがきにある『何が起こったのか理解することはできないし、すべきでない』の引用を見て、映画を見た後からずっと感じていた「Why?」に対する答えをもらった気分になった。
ある人間・組織・政府が起こしたことを「理解しようとする」ことは「身のうちに取り込むこと」でありそうすべきではないとレーヴィは言ってる。
これは「別に理由を知らずに無関心になれ」と言うわけではなく、むしろその逆で。ホロコーストを主導した総統、政府、国家の行動を -
Posted by ブクログ
原作を読んでから映画を観て、なんか映画の方が怖いなと思った。どちらも人間の慣れや飽きの恐ろしさを描いていたように感じるけど、映画の方にはハンナやトムゼンのような存在は現れない。
強制収容所の痛ましい記録を見るに、どうしてそんなことになった?と思うけれども、私たちの日常生活の中で、なぜ誰も止めなかったの?と思うような出来事は起こっていて、そういうことの積み重ねの先に、ありえない出来事も起こり得る。
後から振り返って「あの時あなたが止めるべきだった」と言うのは簡単である。
上司が明らかにおかしな指示をしていているけど、周りの同僚は誰も異を唱えずに従っている。そんな場面で、おかしいと主張できるか? -
Posted by ブクログ
人類史に残る最大の汚点、ユダヤ人虐殺という事象の周辺にあった悍ましいものが詳細に書かれていた。ただ映画の「原作」と聞くとちょっと面食らう、いろんな違いがあるのは確か。映画は、原作に流れる重要なエッセンス「自らの関心領域に閉じこもること」の残酷・暴力を、すこぶるわかりやすく視聴覚的に訴えたものだった。ウクライナやガザの状況が悪化していた時期に公開・賞受賞したこともあり、原作の「物語」をほぼ省略し、「収容所横の限られたユートピアで『普通に』暮らす家族」を淡々と描いた映画は、恥ずべきことだが、今日性があると見做されたのだろうし、実際そうだと思う。