シルヴィア・プラスのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
30歳という若さで夭折したシルヴィア・プラス唯一の長編小説。
日本で手に入る作品は詩集と、短編集である『メアリ・ヴェントゥーラと第九王国 シルヴィア・プラス短篇集』くらい。
長編はこの『ベル・ジャー』一冊だけ。訳者後書きにも記されていたが少女版『ライ麦畑でつかまえて』と言われているとか。確かにそれも頷ける作品だった。
物語は1953年の夏、ローゼンバーグ夫妻の死刑執行のニュースから始まる。
マッカーシズム旋風吹き荒れるアメリカ。国民は共産主義の影に怯える集団ヒステリー状態で、友人や家族であっても少しでも共産主義の疑いがあるなら密告し、根拠の有無を問わず告発される。
更に今以上に女性は、女性と -
Posted by ブクログ
言葉が詩的で綺麗で、特にスキー場の表現がお気に入り。表現があまりにもリアルで、何度か手に力が入らないくらい怖くなる時があった。
序盤NYの部分は、友達の容姿、お洋服の質感からレストランのテーブルに置かれたネームカード、身に纏っている香水の匂いまで、とても綺麗に描写されていて読んでいて凄く好きだった。
NYでの熱い湯船についての話も、自分が言語化できなかった感覚が綺麗に言語化されていて、読んでいてsatisfyingだった、嬉しかった。
figtreeの部分も、she explains so well like 読むのが苦しかったくらい。訳者のあとがきでの言及も良かった。
白人主義、精神病外国人 -
Posted by ブクログ
ネタバレ優秀な奨学生エスター・グリーンウッドは雑誌社のインターンに選ばれ、マンハッタンにやってきた。しかし社会の厳しさや不条理に触れ、純潔に見えたボーイフレンドは実はそうではなくてモヤつき、ライティングコースにも選ばれなくて将来の設計図がぐらつき、自殺を図って精神病院に入れられる。後半は精神病患者の目から見た周囲の人々や病院の様子が、『赤い花』とかそういう作品と重なった。優秀な女子学生の挫折と、死にたくても死にきれない気だるさと、将来への不安と絶望感を感じた。
訳者あとがきに、この作品の舞台である1953年アメリカは、ソ連のスパイとされた民間人が電気椅子で処刑されることがセンセーショナルに報じられた時 -
Posted by ブクログ
ネタバレ1960年代に書かれ、すでに一度邦訳されているアメリカの小説。昨年(2024年)、この新訳が出版され話題になっていた。
1950〜60年頃のアメリカ文学には、時代を超えて読まれてきた有名な作品も多いが、個人的には少し苦手意識がある。それは、社会に適応しきれない若者の肥大した自己意識を、どこまでも一人称の自分語りで書き連ねていくようなタイプ。この小説もまさにそんな作品だった。文中(原文)に出てくる「I am, I am, I am...」という象徴的な一節は、この訳書を第一弾とする海外文学シリーズのシリーズ名にもなっている。
社会の入り口に立って精神のバランスを崩してしまった女子大学生が主人公 -
Posted by ブクログ
明るい未来は、たわわに実ったイチジクの樹から好きなだけその果実を取れるように容易に手に入れられると思っていたエスターは、手に取る前にそれらが落ちていくディストピアの現実社会に気付く。ニューヨークのファッション雑誌でインターンをし、作家になる夢に向かい歩き出したエスターは、1950年代のアメリカの期待される善良で勤勉でいい男と結婚するという「女性」の役割を強制されることに抗い続ける内にベルジャーの中に閉じ込められ精神が壊れ始める。この物語が作者プラスが30歳で自ら命を絶つわずか数週間前、まさに死の淵を彷徨いながら急いで、しかも美しい詩的な表現で執筆し出版された事実を知ると、ベルジャーの中で絶望に
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Posted by ブクログ
翻訳者さんもいらした読書会に参加しました。
皆様ありがとうございました。
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ファッション誌の小説コンクールで優秀賞を得た女子大生のエスターは、雑誌社のインターンとしてNYに滞在していた。雑誌社の用意した女性専用ホテルには他に11人の女性たちがいて、研修やパーティが行われる。ここで認められればNYで執筆しながら華々しく暮らせるだろう。
しかしエスターの心は晴れない。
女性ホテルにいる他の女性は都会育ちで華やかなパーティにも慣れている。エスターは田舎町の出身で父親もいない。デートした男性はいるけれどそれ以上の関係を持つことはない。
彼女たちに馴染みづらい。なかでも賑やかなドリーンとは一緒に -
Posted by ブクログ
主人公であるエスターが自殺未遂に至るまで消耗する過程は割りかし丁寧に描かれていたと思う。優秀な奨学生から病院のボランティアへと、自分のやりたかったことから大きくかけ離れていき、最後まで自分の仕事の価値を認められず絶望していく主人公の心情は、見ていて苦しかった。
当時のアメリカであれば、上手く良い男を捕まえて結婚すればそれでOKでもあったのだが、それも主人公のプライドが許さない。このように考えられる幸せの可能性(イチジク)をどれも選べずに腐らせてしまうことが、主人公の破滅に繋がっていく。なまじ優秀な人間の悲劇をよく描いている。
星5でないのは、この本を書いてそれほど経たないうちに、著者がオー