友枝康子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ非常に読みやすい!
ディック長編の入門書としてもおすすめかもしれない作品。
実は「逆まわりの世界」を読み始めたんだけど、
内容は絶対好きなやつなのに、2〜3日経っても全然読み進められず、、
それでそちらを諦めて、次に本棚から手に取ったのがこちら。
とっても読みやすくてあっという間に読んでしまった。
面白いのが、読み手のドキドキの対象(語彙力ほしい…)がある時点でガラリと変わること。
最初、パラレルワールド的な展開に直面して「やっほー私の大好物!!」となったと思いきや、
なんとその真相は非常にアッサリと解決されてしまう。笑
でもそこで何故か全然落胆(期待外れ感)はなくて、
その後は凄いス -
Posted by ブクログ
ジョン・タウランドの『流れよ、わが涙』(涙のパヴァーヌ)をタイトルに持つ本作。作中にも触れられていて、ディックはクラシック音楽が好きなんですね。
ある朝、男が目を覚ましたら誰も自分を覚えていない…国家データバンクからも記録が消失した”存在しない男”になっていた。男の名は、ジェイスン・タヴァナー。一般人ならいざ知らず、彼は歌手であり司会も務める、三千万人の視聴者に愛されるマルチタレント。誰もが知っているはずなのに、かつての愛人まで知らないと言う。そして、管理社会であるこの世界で必須のIDカード(身分証明書)も無い…あるのは大量の現金だけだった。
彼は、何が起きているのか確かめるためにも、偽造 -
Posted by ブクログ
「有を名TVのMC・歌手で3000万人の視聴者を持つ男」が目覚めたら薄汚いモーテルにいた。誰も自分を知らず、政府のIDバンクにもデータがない「名無し」になる、というサスペンスフルで思わず読みたくなる導入から始まる。が、そこから主人公と女たちの会話に重点が置かれて愛と別れが語られ文学的な味がする作品となる。後半ではもう一人の主人公である警察署長に視点が移ってしまい当初の緊迫した謎や展開はどこかにいってしまう。
個々のエピソードは素晴らしいが全体としてみると序盤の期待が外れてしまうため残念がところがある。はじめから愛と別れをテーマにした文学作品だと思えばいいのかもしれない。 -
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Posted by ブクログ
最愛の人に去られたディックの自伝的小説という趣の強いこの作品は、自己の同一性や認識している世界の崩壊というディックの作品に通底している恐怖をベースにしつつ、もう一つのテーマとして愛を割と純粋に語っている作品でもある。愛は自己保存の本能を凌駕し他者への献身、執着をもたらす。
作中で様々な人物が自分なりの愛を見出そうとしているが、その中で主人公であるジェイスン・タヴァナーだけは愛を理解しない。それは彼がスイックスだからかそれとも生来のものなのか。
現実の分裂は観測者だけのものではない。観測されるものもそれに巻き込まれる。
また絶望の底に落ちてからの再生を匂わせて終わるところもらしい部分である。
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Posted by ブクログ
フィリップ K ディック 「 流れよわが涙と警官は言った 」
近未来SFの面白さもあるが、キーワードは 涙の意味であり、愛のサイクルの物語(愛する→失う→悲しむ→悲しみが去る→また愛する)だと思う。特に ジェイスンとルースレイの愛についての会話は素晴らしい
近未来SFとしての面白さ
*遺伝子操作→優生学→スイックス
*KR3服用者の知覚対象全てが 現実世界から非現実世界へ移行
愛のサイクルの物語
*愛のサイクル=愛する→失う→悲しむ→悲しみが去る→また愛する
*ジェイスンが愛するもの(失ったもの)=自分、人々の記憶
*バックマンが愛するもの(失ったもの)=詩的な美しい世界、ルール→失った -
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Posted by ブクログ
デッィクに慣れてきたのかそれともそういう本なのか、いつになく話の筋がすっきり見える本だった。そのぶんグラグラ感は少なかったけど夢中で読んだ。やっぱりディック面白い!自分がある日存在しない世界に飛んでしまった男の物語。冒頭プルーストのくだりでにやり/人間何が起こるかわからないし理屈通りには動かない/<日常>にいる限り人は共通ルールに則っているが<日常の外>の存在はルール通りにはならない/悲しみは私と失ったものをつなげてくれるもの/恐怖は憎悪や嫉妬より始末が悪い/たまたま目に留まっただけで完全な白紙に歯戻せない理不尽/Mr.バックマンが死んだのは2017年
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Posted by ブクログ
ネタバレTVスターがトラブルで手術室に運び込まれ,目が覚めると世界中の誰も自分を覚えていないし,データバンクに彼の存在を示す記録が何も残っていない,,,という,ディックお得意の「現実と非現実の違いって何?」というお話し.
と聞くと極めてSFチックなのだが,ただし,実は設定はそれほど重要ではなく,読んでみると中身はボネガットか,ジョンアーヴィングか,という感じ.
ディックの作品の例に漏れず,グダグダになっているところもあるし,TVスターは主人公ですらなくなってしまうし,そもそもはじめに述べたトラブルの理屈もサッパリわからないのだが,近しい人を失う喪失の痛みを書いた話です.
おそらく25年ぶりぐらいの再読 -
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Posted by ブクログ
フリップ・K・ディックらしい、「現実」と「虚構」の境界が曖昧な一冊だった。国民的スターである主人公が、ある日突然「存在しない人間」になるという不条理な状況に放り込まれ、そこから彼のアイデンティティと社会のシステムが崩れていく過程が描かれる。ラスト近くでは、その異常体験に一応の説明が提示されるが、かなり強引で、「結局何だったの?」という疑問は残る。ただ、その“納得しきれない”感覚こそが、まさにディックらしさでもある。整合性よりも、喪失や孤独、不安といった精神のリアリティが強く伝わってきた。タイトルに込められたルネサンス音楽の哀しみが全編に響いており、読後には不思議な余韻が残る。「説明できないけれ
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