友枝康子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
飽きることなく(一気に、とまではいかないにしても)読み進められる。かなり読みづらいんだけど、不思議なことに。
二部終盤辺りから凄く面白くなって、そこから加速度的に面白くなるのに、膨らみ切らずに終わってしまったような印象を受ける。いつも思うけど、ディックと自分の関心は別のところにあるんだろうな。ストーリよりもむしろ、葛藤とか、アイデンティティクライシスみたいなところに、凄く神経を割いている気がする。
あとは、人物の考えや、話の方向性がころころ変わったり、事実と虚偽が同列に並べてあって分かりづらい。いつものことと言えば、そうかも知れないけど。
また今回は更に、単語の説明も少ないと感じた。作中のアイテムや単語に関してキャラクターがべらべら説明しないのは、それが彼らにとっては当然のものなんだし、理には適っているんだけど。こういう部分も含めて、ディックの見えていた世界が映し出された未来観かな、と思った。大学や強制収容所という単語にさして説明がないのは、(後者はともかくとして)そういう単語が出てきた時点で、発表されたリアルタイムだったらば、「今のこの事態を発展させたものね」という感じでするっと理解できるからなのかな、と。また、世相という点のみならず、自伝的な内容であるらしいという観点からも、ディックの視点を通じて描き出された小説だったといえるかもしれない。 -
Posted by ブクログ
ディック強化月間最後は、ディックらしいちょっとうっとうしいタイトルのこれ。早川で早々に新装版が出ていたので、名作として認められてる作品なのかな?
内容としては、テレビの有名司会者であり、歌手のジェイソンが、ストーカーのファンに襲われて目を覚ましたら、自分だけが存在しない世界に入っていたというパラレルワールド物。
結局最後まで、なぜパラレルワールドに飛ばされたのかが明らかにならず、そもそもの入りの部分の必要性も不明。このへんが「ディックらしく破綻している」っていうのだろうか?
また、「スイックス」など、意味が完全にわからなくてもなんとなく取れるんだけど、言葉の定義をしないままストーリー展開することが多いため、ちょっと疑心暗鬼になるのは、ディックにかぎらず、洋物のSFの苦手なところだ。
それ以外のストーリーは非常に解りやすく、実は飛ばされたのが「去年を待ちながら」のように、非合法の新しいドラッグのせいで、ドラッグが切れるに連れてじわじわと解除されていくというあたりはなかなか新鮮。
個人的にはすごい名作とは思えないし、最後の締めだって、視点を他人に移してのかなり無理やりなところがあり不満だけど、未来にありながらSF要因を絞り込んだところが、本作の印象を良くしたといえる。 -
Posted by ブクログ
表紙をしげしげと眺めながら「名は体をなす」という言葉が思い浮かんだ。
ある日突然、その存在そのものを消し去られてしまった主人公タヴァナーとそれを追う警察本部長バックマン。
ふたりはあらゆる点で対極を成しており、追う者と追われる者というステレオタイプに深みを与えている。
遺伝的優生種「スイックス」と普通人。
三千万の視聴者を持つエンターテイナーと孤独な警察幹部。
もっとも重要なのは人を愛せるか否かという点ーー愛する者を失う悲しみを知っているかどうかという点。
愛する者を失った時のやり場のない悲しみに物語が収斂する第3章最後のエピソードがいい。
最初は主人公に感情移入して読み始めるのに、最後にはまったくそうではなくなっている、これはフィリップ・K・ディックマジックなのか。