小砂川チトのレビュー一覧

  • ゾンビ回収婦

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    読み終えた後、まさにVRゴーグルを外して現実に戻ってきたような心地。私はこちら側に戻ってこられた、という、安堵。
    読んでいて楽しい気持ちはなれないし、カタルシスはないけれど、小砂川さんの圧倒的な筆致でこの物語を「体感」できたと思う。小説を読むことも仮想現実を体験することなのだと。

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    2026年09月19日
  • ゾンビ回収婦

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    芥川賞受賞作品&ゾンビものということで、非常に興味を掻き立てられた。
    先の展開が全く読めず、一気読み!
    ただのゾンビものとは一味も二味も違って、けっこう深かった〜。共感できるフレーズもたくさんあって、少しうるっと来ました。(⸝⸝⸝ᵒ̴̶̷̥́ ⌑ ᵒ̴̶̷̣̥̀⸝⸝⸝)
    VRにハマったらどうなるかも垣間見えて、最後はちょっと切なかった。(。; ^ ; 。)

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    2026年09月15日
  • ゾンビ回収婦

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    ゾンビ映画はかなり観てるので(WDも全シーズン視聴済み)、もうあまり目新しさを感じないことが多いけど、ゾンビ✕芥川賞は気になって読んでみた

    まったく目新しかった!
    てかこの物語、昔ながらのゾンビも出てくるけど、人間の身体性の話であり、物理的な肉体はそこに存在し続けているのに、その身体性は希薄化している、新たなゾンビ誕生の物語として読んだ

    そして現実の世界でアンソロピックのCEOなどがAIの破局的リスクを警告している今、実際に本当の意味での生きる屍は既に生まれつつあるのかもしれない

    I've seen quite a lot of zombie movies (and I've watched every season of The Walking Dead), so these days it's rare for the genre to feel genuinely new to me. But “zombies × the Akutagawa Prize” caught my attention, so I gave this a read.

    And it felt completely new!
    Sure, there are old-school zombies in this story, but it's also a story about human embodiment—perhaps even the birth of a new kind of zombie, one whose physical body continues to exist while its sense of embodiment gradually fades away.

    And now, with CEOs of companies like Anthropic warning about the catastrophic risks of AI in the real world, maybe true “living dead” are already beginning to emerge.

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    2026年09月27日
  • ゾンビ回収婦

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    ネタバレ

    とあるうらびれたホテル館内、他の戦闘者が撃ち飛ばしたゾンビ達のカケラを掃除して回る主人公。
    SF、もしくは特殊設定ものの芥川賞?と思ったのも束の間、失業のショックから「演奏旅行」に旅立った夫の残したVRゲーム内での話とわかり地に足が着く。
    のかと思いきや、やはりそう一筋縄ではなく、そのにわかによじれた世界観の中で夫と同時期に失職した主人公の心の内がじわじわと明らかになってくる。

    ワーカホリック症状をゲーム世界に転嫁し(しかもプレイヤー達に倒されたゾンビを回収して清掃するというNPC[non prayer character]の立場)、直接的な言葉でなく湧き立つ滑稽さから現実世界の無益さを浮き彫りにする物語。

    無名性や縁の下の力持ち的な尊さを掲げながらの承認や評価を求めてしまう矛盾は身に覚えがあるもの。
    また責任を全うするために、そのあらゆる能力を無理に引き上げることで「痛み」が伴うという訴えも、よくぞ言語化してくれたと思った感覚。

    最後の方はなぜそんなにこねくり回すのかよく分からなくなるけどこの手の話は大抵落としがそんな感じになるのが常なので、まあ気にしない。

    ユーリカの存在は役割としてもエピソードとしても面白かったけど、何の象徴なのか解し切れなかった気がする。
    対立する悪ではないし、もう一つの救われるべき存在?それとも悩める神の存在的な?

    第175回(2026年上半期)芥川賞。

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    2026年09月27日
  • ゾンビ回収婦

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    AIに仕事を奪われ、怒りを抱えて逃げるように完全無欠のバーチャルの世界へ飛び込んだはずの女性が、現実世界と同じように職を求め、立ち位置を奪われそうになればまた同じように怒りを露わにするという皮肉に満ちたプロットが痛快だった。物語を抽象的にしつつランダムに配置する構成はかのリチャード・ブローディガンを彷彿とさせるもので、読んでいて心地よい。終盤の文章を見る限り著者は詩文を得意としていないようだったが、バイオハザードを思い起こさせる非現実的な舞台を用意することでこれをカバーしてみせる巧みさに思わず唸った。ここ最近の芥川賞受賞作の中では抜群に面白かったと思う。ゲームの中でAIのように完璧な仕事を求めようとする人間に対し、創造主ともいえるクリエイターがAI達に人間的に不完全であることを願う構図も面白い。文体も親しみやすく、最後まで飽きることなく駆け抜けるように読み終えることができた。

    ただ惜しいかな、最初の感動に比べて後半はかなり尻すぼみしてしまっている印象だった。大きく風呂敷包を広げておきながら、最終的にありがちな幕引きへと収束させてしまっている。

    作家としての力量は相当なものの、やはりこの方も「良い書き手」の域を出る人間ではないのだなと思った。

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    2026年09月26日
  • ゾンビ回収婦

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    ネタバレ

    久々に純文学作品を読んだけど、筆舌尽くして悉く文学的な表現が登場してて読んでて気持ちが良かった。
    「AIによって仕事が奪われる」なんて言説は冒頭にも出てきたけど、この作品においてはただの触媒でしかなくて、本質は他人の役に立つことを渇望する主人公の内面的な葛藤が描かれたお話だった。
    それを、プログラム上のルールで定められた動きしかできないゲームと、意思なんてない(ように見える)ゾンビという2つの大きな比喩を使って、現実と非現実をごちゃ混ぜにしたストーリーにしていてすごく惹き込まれた。

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    2026年09月26日
  • ゾンビ回収婦

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    文体が圧倒的。川端康成が現代にいたらこんな感じでは?などと、ストーリーよりも日本語のふくよかさににんまりとし、ほくほくと音読を交えながら「うひょー!」と好奇の雄叫びをあげ、文章うまー!と目を爛々とさせていたら、3章は尻すぼみ。しかし、とにもかくにも文章がいい。あらゆる固有名詞への説明のなさったら、3周回って驚嘆する。過去作も買ったので読む。

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    2026年09月25日
  • ゾンビ回収婦

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    目が潰れる。潰れてしまう。こんなに明るい世界では。

    どのように受け取ればいいのかむずかしかった。
    VR社会を憂うのか、希望を見出すのか。結末を見る限りは希望に溢れていた。雁字搦めにされた現実ではない、それぞれの新たな現実でこそ自分は生まれ変わって活き活きとした生を感じられる。
    または、AIが発展した未来、人間は必要なくなり仕事を失った先で何をするのか。働く意味はどこにあるのか。金でも成長でも使命でもない、ただただ繋がりを求めているのか。

    独特な擬音が好きだった
    抽象的でもすっと入ってくる例えが好きだった
    文章のリズムが好きだった

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    2026年09月23日
  • ゾンビ回収婦

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    AIが人間の仕事を奪う世界が来たあとのことを描いているのだと思う。

    生まれ育った時代のせいか、仕事がお金のためだけではなく自己実現につながるのだと思い込んでいる。しかし、一方で、貴族・大名等の持てる者と、小作人、奴隷等社会格差が今以上にあった時代には、盆暮れしか休みが取れない丁稚奉公や、それこそ、休みのない水飲み百姓であったならば、「働かないで大旦那様みたいに暮らせたらどんなにいいだろう?」と思ったに違いないとも想像するのである。

    でも、仕事が楽しく充実感を与えてくれるものと刷り込まれてしまった私には、AIやフィジカルAIが人間の代わりに多くの仕事をやってくれて、ベーシック・インカムなんかもらえて、という生活を楽しそうとも思えないのであり、それはそれで、あるひと時代にしか過ぎないけれど、私が大部分を生きてきた価値観に固定されてるからとも思う。

    で、新しい価値観でもって、そこがどうなるかを描いてくれてるのでは、と期待して読んだ。

    「ここいらでもう労働といういち文化が終わるんじゃないかと、思うんだあ。まだ誰も生きたことない。新しい時代がこれからきっと・・・〜」

    「〜だとすれば、ぼくらみんなもう、それぞれ好きなことだけしちゃったらいいってことになる。人間が嫌がっていた仕事なら今後一切人間以外が請け負ってくれちゃうんだから」

    「ほんとうにやりたかったことを、ぼくらをはじめればいいじゃない!」

    いやぁ、期待させてくれる文章たちである!!!

    そして、主人公の前に現れるVR ヘッドセット。

    VRゲームの世界でも、過酷な労働している主人公。そして過酷な労働の隙間に浮き足だった。気持ちになってりする瞬間があら、VR の中の世界でも失職の2文字が現実を帯び始めたりする。

    VRの世界でカウンセラーらしきものに尋ねられる。
    「〜あなたはなぜ、ご自身を痛めつけてまで、そうまでして、はたらきたいのですか?あるいはなぜ、そうしなければならないと信じておられるのですか?」

    カウンセラーもどきは言う。
    「発生する賃金のためにとか、生活のためにとかいうのはじつはどれも全部、体のいい建前です。それにかこつけて、誰かとかかわりあいになりたいというのがほんとうです。傷ついた大人たちはもうすでに、そうした大義なしにはこわくてまともに人間関係をつくれないから、そこにたがいの<役割>を噛ませるのです。役なのだから仕方がないと〜」

    VRの世界も、古い人価値観の人間が作ったからこうなるのか?
    そのような役割設定だからなのか?

    仕事から解放された後に、VRの世界で、また仕事らしきものをしている姿、これが現時点での想像力の限界なのか?

    もっと新しい世界を書いてると思った。 AI が仕事人間の仕事を代わりにしてくれる時代が来て、ベーシックインカムで好きなことをすればいいっていう時代が来た時にみんながどうなるか。それは昭和の価値観とかじゃなくて新しい世代 AI ネイティブの人がどう反応し感じるかを書いてるかと思ったけど、これは今までの価値観の延長で書いてると思った。AI 時代が来た後の世界を書いてるという意味では新しいのたけれど。テクノロジーは未来を描けても人間の価値観とその時代の延長でしか書けないのかもしれない。



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    2026年09月21日
  • 家庭用安心坑夫/猿の戴冠式

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    猿の戴冠式の方が内容的には好きなものだった。文学的には後半できっと言い過ぎてたから受賞にならなかったのは分かるが、作者のことを少し知れたような気がする。読後、このように評価に星を付けてコメントする、という行為をちょっと躊躇う内容の読書体験だったが、書かなくてもいいのにこういうことを書いてくれてありがとうと思います。どういたしまして?

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    2026年09月16日
  • ゾンビ回収婦

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    難解な部分も多いけど自分にとっては感情の部分が大いに共感できる不思議な小説だった(°▽°)
    文体の面白さにも惹きつけられた(°▽°)
    いつかもう一回読んで見ようと思う(°▽°)

    焦燥感や虚しさって誰かの役に立てている自分を確認することで解消されたりするからゲームなどの架空の世界にハマるのも分かるんだよね(°▽°)
    自分の居場所を見つけようともがいて(°▽°)
    でも誰も救ってくれないことは知ってて(°▽°)
    だから自分がこれこそと感じる何かに縋って生きる(°▽°)
    それが人間なんだよね(°▽°)

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    2026年09月15日
  • ゾンビ回収婦

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    ネタバレ

    面白い題材と、難解なストーリー展開と、パプリカ的な現実と夢の交錯がまじりあって、不思議な読後感!

    一般的なネットの評価は(現時点で)低そうです。
    まあ、エンタメ作品ではないから当然だとは思いますが、導入はめっちゃエンタメですよね。

    AIによって仕事を奪われた夫婦。
    夫は訳の分からない言葉を残して蒸発。
    目に入った夫のVRヘッドセットを装着し、まんまバイオハザードの世界へ……
    しかし、突然(後で語られるとはいえ)、タイトル通りNPC『ゾンビ回収婦』となって、来る日も来る日も砕かれたゾンビの身体を回収する日々へ。
    しかし、ここからどんどん難解なストーリー展開になっていきます……。

    作者が文学部⇒心理学専という経歴からか、象徴や寓意が話をぐいぐいと進行させていくので、一瞬訳が分からなくなるんです~。
    たとえば、『口唇期』ホテルという命名と、クマの吸てつは、いかにも示唆的です。認められたいという主人公の願望行動をみるかぎり、他者への依存を求めやすくなるという、「口唇性格」を暗に示しているのでしょうか……。
    主人公だけではなく、私達現代人が。

    クマと主人公が、AIのふりをした人間ということに双方気付かずにやり取りをしていたところは、いかにも滑稽ですが、アラスカを失って悲嘆にくれる主人公の独白が示す通り、ここが肝なのかもとも思いました。

    『どう考えても、どこまでいっても、わたしたちはたがいに置換されうる命だ』
    『世界の中心はこの場所だと、主要人物はわれわれでしかないのだと、われわれがそう言わないのなら、はたしてほかのだれが言ってくれるのだろうか?』

    AI全盛の時代、自分たちの仕事、ひいては自身の価値がどんどん失われていく時代に対するアンチテーゼだと感じました。

    自分たちはNPCと変わりないと確信して、口唇期ホテルに意識をすっ飛ばしていった主人公に悲哀を感じますが……。本人は幸せそうですね。

    『今』の自分たちの在り方を考える、まさに『今』が旬の芥川賞受賞作だったと思います。

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    2026年09月13日
  • ゾンビ回収婦

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    現代をよく掴んでいて表現していたと思う。同時に、時代と密結合な部分が多く、100年前、あるいは100年後に読んで価値のある普遍性は無いとまではいかずとも、少ないと感じた。それはそれとして面白かったし好きだった。

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    2026年09月13日
  • ゾンビ回収婦

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    AIに仕事を奪われ(たらしき)女性、
    夫も同時に無職となっておかしくなって?出奔。

    夫の部屋に置いてあったVRゴーグルを装着し、その世界でゾンビの死体を回収するゾンビ回収婦となるという物語。

    労働とそれによる自己疎外がテーマで、それ自体はそんなに目新しくないけど、AIが絡むことで現代の小説になっているように感じられる。

    人間の仕事をAIが奪う時代。
    人間とAIの境界は揺らぐ。
    AIは人間のように。人間に取って代われるように。
    でも実は、人間こそAIになれるように、幼い頃から育てられてきたのではなかったか?

    AI登場によって人間らしさの意味が変わる以前、むしろ人はAIのように働けるように叱咤されてきたのではなかったか?

    だから「わたし」はAIになる。
    幼い頃から教えられてきた通りに。

    AIによって変わってしまった「人間」を問う作品だと思いました。

    あと、なんとなく読んでいてハン・ガンさんの『菜食主義者』を思い出した。

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    2026年09月12日
  • ゾンビ回収婦

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    今年の芥川賞受賞作ということとショッキングなタイトルに惹かれて、ほぼジャケ買いのように手に取る。どんな話かというと、こんな話だ。

    AIに仕事を奪われ、夫婦揃って失職。夫は「演奏旅行」と書き置きを残して失踪。「わたし」は夫の残したVRヘッドセットを装着し、ゾンビアクションゲームの世界に入り込む。そして「わたし」はゲーム内のホテルで「殺されたゾンビの骸」を回収・清掃するNPC=掃除婦になり、そこに自分の居場所を見つける。現実と虚構の境界はだんだん曖昧になっていく。

    「わたし」はゾンビ回収婦として働きながら、姿を見せない支配人に認められたがる。誰にも必要とされない自分への恐怖が描かれる。人間は誰もが他の誰かと代わりうるという感覚。そして「誰かに愛されたい、感謝されたい」と叫ぶ。強烈な承認欲求でしょうか。

    「どう考えても、どこまでいっても、わたしたちは互いに置換されうる命だ。かけがえのないの反対だ」

    だから主人公の「わたし」にも夫にも現実世界の人間には名前がない。一方でゲーム内のAIによるキャラクターたちには名前がある。設定された定型文でしか答えられないセラピストのミーシカ・コソラープィというクマや「わたし」の前任掃除人であるグッドニュース氏、「わたし」が好意を抱くオドオドしたゾンビのアラスカなど。

    砕けていく自己の断片を回収するように、壊れたゾンビは何度も壊され、都度片付けられていく。回収するAIと回収される人間の心。壊れたゾンビの断片を回収する掃除婦と回収されるゾンビ。そこに対比がありそれらは次第に溶け込んで境界が曖昧になる。

    ゲームの世界に本物の「承認」は存在しない。支配人は姿を見せない。カウンセリングは中身がない。そしてゲームという虚構。誰も何も認められない。そこに存在していることすら承認されない。

    ラスト近くで明かされる「わたし」は「良い子」として他者の期待に応え続けることでしか自分を形作れなかった人物。AIに仕事を奪われ「良い子」の根拠を失った瞬間、ゲーム内でNPCという固定された役割にすがりつくのは、現実で失った役割の代替物を必死に探す行為である。

    そして繰り返しゾンビの残骸を拾い続ける仕事自体が、「壊れても壊れても、また同じ形に戻される」彼女自身の存在の不安定さのメタファーなのである。

    つまり、これは「わたし」の側の崩壊の物語だと思う。わたしの中で現実が空洞化し、その空白をゲームという別の秩序が埋めていった結果、境界という概念自体が「わたし」の中で意味をなさなくなっていく。良い子ゆえに壊れやすかったのか。そして曖昧な境界というよりむしろ本人の脳内で狂気の一線を越えてしまった崩壊の物語なのだ。
     
    で、面白かった?と聞かれたら、うーん、読みにくいという印象だが中編なのですぐに読める。ゲームを取り上げた世界観は面白いけど、テーマとしては最近よくある話の気もする。

    時代を反映した不安を語る小説がいつの時代も定番だが、村田沙耶香の「世界99」と同じ、人間の空洞化や承認欲求、自己肯定感の希求がテーマとなる。これが最近のトレンドなのですかね。

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    2026年09月06日
  • ゾンビ回収婦

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    AIに職を奪われた現実世界からVI世界への移行。ロールプレイゲームでゾンビ回収の仕事に邁進する主人公の世界がどんどん現実を侵食して、その不可解な世界に平安を見出す。また、その悩みは現実世界でもあったような、どんどん混沌としていく。

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    2026年09月26日
  • ゾンビ回収婦

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    死んで別の世界で新たな人生をやり直す、そんな転生系の小説が流行っているが、本書は形を変えたそれではないだろうか。
    主人公は生きていているが、社会的には死んだようなものでVRゲームの世界に逃避という希望を見出している。
    だた、転生系は新世界で前の世界の不幸を帳消しにするように活躍し、幸せになっていくが、それとは逆にVRゲームの世界にのめり込むほど死に近づき世界が混沌としていく。
    そんな、2つの世界で揺れ動き現実と虚構がわらなくなっていく様が怖くもあるが、惹きつけられてもしまう。

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    2026年09月25日
  • ゾンビ回収婦

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    ネタバレ

    これは「私の価値と仕事」を主軸に描かれていると思うので、それについての感想を書きたいが、なにせそことはあまり関係がない部分が一番印象に残ったので、まずはそちらについて。

    印象に残ったのは以外。

    かれのプレイするゲーム画面を眺めてあれこれ言いながら晩酌をする時間がわたしはきらいではなかったが、かれがゴーグルを装着するようになると見る間に、わたしたちの次元と空間とは完全に隔たってしまった。プレイ中の夫は、虚空にむかってぽかんとまぬけに口をひらいて、舌のうえになにかが落ちてくるのをいまかいまかと待ちかまえているみたいに見えた。その光景はどこか不気味でもあり、なぜだかかすかに不快でもあった。

    この描写に強く共感した。私は家族がスマホに釘付けになっていたり、夫がショート動画やソシャゲに夢中になっていることに激しい嫌悪感がある。餌を待つだけの肉になった印象だ。本当に気持ち悪い。こうなったら人間終わりだとすら思っている。人間と呼ぶのは烏滸がましい。肉である。私はこうはなりたくない。しかし、同じようにスマホに釘付けでも、たとえば真剣に漫画を読んでいたり、泣きながらRPGゲームをしていたとしたら、それが数時間続いても気持ち悪いとは思わない。

    これについて、私はたびたび考える。何がトリガーとなって気持ち悪く感じるのか。もしかしたら、理性がない、欲望が剥き出しになっている様に嫌悪感があるのかもしれない。私は人が食事を貪る様子も醜悪だと感じるときがある。コアになる部分は同じように思う。普段はその人の奥にあると思っている理性、意志、目的といった層が薄くなって、刺激→反応→刺激→反応という生物的な回路だけが表面に出てくると、失望してしまうのかもしれない。

    ただ、この感情を的確に表現する言葉が見つからない。「肉になった」以外にこの嫌悪感をどう表したらよいものかと考えている⋯⋯。

    それはさておき、この本の中核の中で印象に残ったのは、「人間はなぜ、そんなに進歩し続けなければならないのか」という問いだった。

    主人公は「これ以上発展したくない、このままでいたい」と言う。これはとてもわかる。現状維持でいいのに、社会はそれをなかなか許してくれない。

    しかも厄介なのは、社会だけではなく、人間自身も他人に進歩を要求してしまうことだ。「もっと勇敢になってほしい」「向上してほしい」と願うことは、一見すると相手のためを思っているようでいて、実際には「今のあなたでは不十分だ」という否定にもなる。愛や心配という名目で、相手を自分の望む形に改革しようとしてしまう。その描写はかなり身に覚えがあった。

    仕事についての描写も印象的だった。「生きていくには仕事が必要」と考える一方で、本来仕事は、生きるためのお金を得る手段の一つにすぎないはずでもある。それなのに、いつの間にか働けること、役に立てること、成果を出すことが、そのまま自分の価値になってしまう。

    現代では「こいつは仕事ができない」という言葉がかなり強い悪口として使われているように思う。本当に仕事が私を構成するいち要素でしかないなら、「料理が下手」とか「足が遅い」といった悪口と並んでいるべきなのに、仕事だけは別格だ。

    私も「仕事ができない」と言われるのは嫌だ(「料理が下手」もかなり嫌だけど)。自分では「私、仕事できないもの」と言っているくせに。きっと本当はそんなこと思っていない。

    なので、主人公が口では「称賛なんて必要ない」と言いつつ、心のどこかでは誰かにその矜持を見つけてもらいたがる気持ちがよくわかった。能力を褒められれば謙虚に否定したくなるのに、本当に誰からも気づかれなければ、それはそれで寂しい。「評価なんていらない」と言いながら、実際には自分がこだわった部分まで誰かに見つけてもらい、そのこだわりごと評価してほしい。言葉と思いが正反対だ。ああ、なんて面倒くさい。

    だからこそ、作中の「細部」や完璧主義についての話も刺さった。時間をかけて細部まで作り込んだからといって、それに気づいてもらえるとは限らない。むしろ多少粗くても早く世に出したもののほうが歓迎されることさえある。「拙速は遅巧に勝る」と頭ではわかっていても(本当は孫子はそんなこと言っていないらしいが)、時間をかけた以上は傑作でなければならない、と思ってしまう。このあたりは創作に限らず、仕事全般にかなり通じる話だと思った。

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    2026年09月25日
  • ゾンビ回収婦

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    最初から世界観に引き込まれて、文体も読みやすくサクサクと読み進められた。

    子供の頃から感情を抑圧されながらも、周りを見回して努力して、最後には認められたいと思うのは自然なことだと思う。
    自分より強い存在から向けられた言葉が身体に刻まれてしまうのも分かる。

    そんな自分であっても、はっきりとした言葉ではなくても相手を思い通りに動かしたいと思うことってあるよなあと思った。

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    2026年09月22日
  • ゾンビ回収婦

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    第175回芥川賞受賞作である。著者は3作連続で芥川賞候補となり、3度目にして受賞に至ったらしい。まあ、芥川賞とはそういうものだし、何度も候補になりながら結局受賞できなかった作家も大勢いる。だからというわけではないが、本当にこの作品が賞にふさわしいのかどうか、ぼくには判断がつかない。
    そもそもゾンビものが大嫌いである。そして設定が意味不明だ。ゲームと現実が融合した世界のNPCとなってゾンビの残骸を清掃する? なんだそれ?
    『SAO』をはじめ、こうした題材に抵抗感はないはずのぼくだが、本作は受け入れられなかった。

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    2026年09月21日