田中将人のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ平等ということについて、今まで言われていた単純な平等が問題であることを提起した本である。特に教育では能力主義が問題となる。最後の方で、能力主義が目指すのは平等ではなく不平等の正当化としている。教育では、能力主義が重視されてきて、テストで学習の成果が問われている。しかし、それは、能力に基づく不平等の正当化は多大な格差の方便となっているという指摘は考えなければならないことである。大学に行けるものと行けないもので、大学受験は能力と思われているが、それは勉強をできる環境が整い、それを補助する手段ある人と環境も手段もない人との格差になってしまっている。
こうしたことをさらに説明した本を書いてほしい。 -
Posted by ブクログ
『平等』の政治哲学を概説した一冊。
平等と聞くと、誰もが素晴らしいものと思うであろう。しかし、平等とは何か?という問いに答えられる人は多くあるまい。本書は、数ある平等の諸概念の中で、特に「関係の平等主義」に注目し、その軸に「財産所有のデモクラシー」を据えるものである。
筆者によれば、「財産所有のデモクラシー」とは、「自分自身であるためのデモクラシー」だ。一定の財産を持つことで、世界に自分の立ち位置を確保し、権力者の支配から逃れ自律することが必要なのだという。対等な人々による社会構築という筆者の理想に、私も深く共感するところがあった。
また、筆者の共同体を重んじる考えは興味深いと感じ -
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政治哲学。これまで何の違和感もない単語だったが、これを読むといかに座りの悪い組み合わせであるかがわかる。理想を突き詰める哲学と、現実社会においてある種の妥協を要請する政治。ただ政治も確固とした哲学を土台としたものでなければ安定性を欠いてしまう。ロールズはこの難しいバランスを哲学的な方法でバランスさせた。ただ、それも限界がある。運の平等性を追求していけば、やがて結果の平等につながり、共同体成員の承認が得られなくなる。最後は「まぁこれなら多少自分に不利でも納得できるかな」と言う感覚的な落とし所を探ることになる訳で、政治への哲学の受け入れは八分目くらいに留めておかないと、いつかおかしな方向に進んでし
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「政治哲学」として、「平等」を論じた本。
本を読む中で、しょせん「理念」の話では?そんなに平等を論じたところで、実現不可能なんじゃないの?机上の空論ではないのか?と思うこともあった。例えばベーシックインカムやらクォーター制を現実の社会に適用しようとしたときには、とんでもない苦労が生じる。
しかし、この本の最後に書いてあることには納得した。
それは、「そうした理念への賭けや祈りが現実を凌駕してきた。」ということ。
つまるところ、こうした理念を現実に持ち込もうとすると、確かに問題やら苦労は生じる。ただ、根底にある「理念」は忘れてはならないということ。小手先の「平等」だけ唱えていくと、最終的に何が -
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同じものを見ていても人によって違うものを指して話をしているのが平等の難しいところだと思います。
本書は『平等とはこうである。』と言うような本ではありませんし、平等と言う言葉は主語が大きいので、思っていたのと違うと思われる方もいるかもしれません。
能力主義は不平等の正当化として明確に否定されていますし、一元的な価値(能力主義)ではない多元的な価値を持つと言う点も理解はするのですが、今の世の中では人の多くが多元的な価値を認め合うと言うよりも、自分に都合の良い別の一元的な価値を押し付け合っているように思えます。
多様性などは間違いなく正しい価値観だと思うのですが、それが押し付けられた途端に気色の -
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自分の人生について、努力の結果が平等に報われないと感じており、本書が目に留まった。
現代の社会は格差が広がるように進んでおり、建前上は自由や平等を民衆に唱えても、結局持てるものが得をするようなシステムになっている。
能力主義は平等の精神に基づいているように見えるが、そもそも平等とは相いれず、自己責任論が猛威を振るっているが、同じ努力をしたら同じように成功するかは運次第だ。だからこその社会保障である。
さて、現代の平等の穴、特定の価値や能力だけが評価される能力主義で敗れた者は、できるだけ多くの価値観が認められ、すべての人が自尊心をもちうる社会を目指さなければならない。
具体的には、自分に -
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正義論や政治的リベラリズムを紐解くのは荷が重いなか、功利主義以外の妥当な政治哲学のオプションとして外せないジョンロールズを一旦俯瞰することができた。
読んでみると、上記に該当するロールズの試みは特に正義論という感じであり、射程の長い基礎理論として、分析哲学的道具立てからアプローチしているように思える。
他方、実際の政治的複雑さは当然にシンプルな前提から導出される正義論の範疇には収まらず、以後の著作で射程を限定したなかで立憲デモクラシーを擁護することになったと解される。
リベラリズムというイデオロギーの擁護(もちろん、リベラリズムがその性質上特定のイデオロギーの擁護を所与とせず、ロールズ流 -
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個別事例に功利主義を直接適用することは、カテゴリーミステイク(行為功利主義)
個々の事例を意味づける制度やルールの評価にこそ功利主義は有効(規則功利主義)
ロールズにとってあるべき社会とは、個人を超えた有機体や、個人をパーツとする機会ではなく「公正なゲーム」とのアナロジーで捉えられる。
各人に自己実現のチャンスを公正な仕方で与える場合、社会は理にかなったものになる
ロールズは功利主義の擁護者から批判者に
「無知のヴェール」
「コミットメントの負荷」
「功利主義は諸個人のあいだの違いを真剣に受け止めていない」
どのような善の構想を持つ人であっても受容可能な「公正としての正義」
実際 -
Posted by ブクログ
みんな大好き無知のヴェールで有名なロールズだけれども、その生涯はほとんど知らなかった。リベラル・コミュニタリアン論争の印象に比して若い頃は神学を修めていたというのは意外だったけれど、従軍含めた戦争体験を通じて神の完全性を掲げるキリスト教から離れたというのは納得。
相対主義からの決断主義が跋扈する時代に公正や社会的正義というものを正面から論じたということの意義は、格差の拡大が進む現代人においてますます大きくなっているように思う。
ボードゲーマーとしては無知のヴェールあたりの議論がボードゲームデザインの話にも通ずるというかこの辺からもう少し親しみやすい論じ方を自分なりにできないものかと思う -
Posted by ブクログ
ロールズ
・正義論は3つの原理の明確な優先順位で構成されている。これがあらゆる人/社会にとって前提にできるかが問題になった。
1.自由な平等の原理(ただし、あらゆる自由ではなく、道徳的能力実現の要請と過去の歴史から選ばれた限定列挙された自由)
2.公正な機会平等の原理
3.格差原理
これには、本質的な矛盾がある。多元的な善を構想することが目的なのに、唯一の正義を必要としてしまう。
この問題について、唯一の正義を前提にするためカントの議論に深化していったのが初期、政治的転回で政治的の問題として、かさなりあうコンセサスにシフトしていったのが後期という説明はクリアで分かりやすかった。
万民の法で -
Posted by ブクログ
「平等」と簡単に言うが、難しい。
著者はその「平等」について論を展開する。
本人も、「実証的研究」でなく「規範的研究」といっており、われわれの日常から帰納的に平等について論じるのではなく、過去の平等についての研究から筆者の考える最強の平等を提示する。
そんな本だから「平等」について研究する人にはいいのかもしれないがちょっと読みたいものからは道を外れていた。
色んな「平等」を上げたうえで、私が推すのはこれだ、という話なのだけど、ある意味潔いのだが恣意的な面は否めない。著者と考えの違う人は当然想定しているはずだし、議論できるという前提だろう。
成功という基準が一律だし、敗者は必ずひねくれると