武井彩佳のレビュー一覧
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歴史修正主義。著者はこれを、歴史的事実の全面的な否定や意図的な矮小化、一側面のみを誇張することなどと定義している。この主義に立つ人たちは、ランケ以降の可能な限り客観的にまた価値中立的に歴史を記述するという歴史学の合意事項を受け入れることがない。また主張の際にその証拠を示すことがない(むしろ、証拠を示せと繰り返し主張することさえある)。
従って彼らは、そもそも学問の枠内で議論する相手ですらないのだが、繰り返し主張することにより、当初取るに足らないようなものが「ひょっとして正しい主張なのかもしれない?」という印象をもつものに変化し得る。これは陰謀論などにも通じることであり、SNSなどで盛んに主張す -
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近年、「もうひとつの事実」「フェイク」「陰謀」という言葉がメディアに頻繁に登場するようになりました。また、今年5月の対独戦勝記念日で、米ホワイトハウスのサキ報道官はプーチン大統領を「歴史修正主義者」と批判しています。本書は「歴史とは何か」という切り口から歴史修正主義の実態、発生、法規制、司法での争いを記した中公新書の力作。歴史修正主義概論入門書というような性質の本ですが、事例が多く、面白く読みました。
著者の武井彩佳さんの専門はドイツ現代史とホロコースト研究。したがい、本書は主にヨーロッパで発生した事例がメインであり、慰安婦問題といったアジアにおける歴史問題は触れられていません。
本書で記 -
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「アウシュビッツにガス室はなかった」「南京事件は捏造」「慰安婦はみんな職業的な娼婦」といった話しを耳にしたことがあるだろうか?歴史的な事実の全面的な否定を試みたり、意図的に矮小化したり、一側面を誇張したり、何らかの意図で歴史を書き換えようとすることを「歴史修正主義(revisionism)と呼ぶ。日本の団体の中には「歴史戦」などと叫び、歴史修正主義を「戦い」とする愚かな発言が物議を呼んでいる。
本書は、世界史が専門の著者が、あえて日本の歴史には触れず、世界史の中での歴史修正主義との闘いを、各国の情勢や司法の判断などの事案も交えて紹介する。ニュンベルグ裁判、ホロコースト否定論者の勃興とツンデ -
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ヒトラー賛美、ホロコースト否定論を例に挙げながら、歴史修正主義の勃興、衰退について考察した新書。排外主義が台頭する近年において、この本は歴史というものがどのように形作られていくのか、なぜそれが真実として語り継がれることになるのか、手法的なアプローチを教えてくれる。
「フェイクニュースは無視」「ホロコースト否定=やばいやつ」のような雑な処理をすると、ますます勢力拡大を助長する羽目になるので、いかにして向き合っていくべきか、なぜこういった発想になるのかを理解する一助となる。歴史学は批判検証が絶えず繰り返されている学問だからこそ、陰謀論のような思考が停止した発想とも向き合っていく必要があるのだと思 -
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【感想】
日本では「歴史修正主義」という言葉を、日常の中で耳にすることは少ない。社会科教師の私がそう思うのだから、他の多くの人にとっては尚更だろう。
2022年度に、都立高校の附属中学校で時間講師と勤務した際に、育鵬社の歴史教科書が採択されていることに驚いた。もちろん、生徒には育鵬社の相対的・絶対的な立ち位置について説明したうえで、教科書を使用せざるを得なかった。
日本では、ヘイトスピーチに対する法規制も2016年になるまで行われてこなかった。今なお、十分な法規制があるとは言えない現状だ。
今後、日本でも歴史修正主義的な動きが出てくることは可能性として存在する。その際に、本書に出てくるよう -
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●所感
歴史修正主義者は歴史(過去)を現在または未来に使役させる。彼らの政治的、文化的イデオロギーに都合の良いように歴史認識を読み替える。しかし、歴史が「客観的な事実」として現前する術をもたず、「解釈」や「過去に対する表象」でしかない以上、修正主義とは無縁の私たちも無意識のうちに、都合の良い歴史認識に陥る危険性はある。
これはイデオロギーの問題ではなく、方法論の問題だ。歴史認識=物語に事実を隷属させるべきではなく、事実の連続を歴史として認識しなければならない。そうなると課題はいかにして物語の呪縛から逃れるか、である。無理ゲーか。純粋に客観的なナラティブなんてものはない。絶対的な「神の言葉」によ -
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ネタバレサブタイトルは「ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで」。著者は二つの理由で日本の歴史修正主義は扱わない、と言う。一つは、著者の専門が西洋史であるということ、もう一つはヨーロッパと日本では「枠組み」が違うと言うこと。
ヨーロッパでは、歴史修正主義の問題は「歴史の否定の法規則」とともに展開してきた過程を明らかにする。ホロコースト、ジェノサイドは否定することのできない事実であり、それを否定することは「ヘイトスピーチ」を禁止することと同意である。つまり、歴史を問題にしているように見えるが、実は人種偏見や民族差別、特定集団への敵意を煽る行為である、と言う。ヨーロッパはもうそこまで「行って -
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一読しての感想は、大変勉強になったということ。
歴史修正主義という言葉自体は知っていたものの、"アウシュビッツにガス室はなかった"などホロコーストを否定したり、自国の歴史に誇りを持つために"侵略"の語を避けたりといった動きの背景にある考え方、といった程度の知識だったので、本書を読んで、歴史修正主義の意味合い、社会に及ぼす深刻な悪影響、放置することなく闘うとはどういうことか等について、大いに考えさせられた。
まず序章では、歴史を再検証して「書き直す」ことと歴史修正主義とはどう異なるのか、学術的に許容される歴史の見直しと、批判される歴史修正主義と -
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高橋新書ガイドから。ドイツには、ナチス賛美やホロコースト否定に対する罰則がある、ってのはどこかで読んだことがあったけど、裏を返せば、そういう規則が必要ってことは、少なからずそっち系の論者がいるってこと。結局どこにでもいる訳だしという話ではなく、対内的のみならず、対外的にもその姿勢を示すということに異議がある。大前提としてのそれが、日本には足りない訳だけど、戦争を知る世代が確実に減っていく以上、ハードルは高くなる一方と言わざるを得ない。直接には知らなくても学ぶことは出来る訳だし、修正主義にノーを言い続けることが、戦後世代にも最低限求められること。戦争反対。