梶龍雄のレビュー一覧
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● 感想
時代背景としては、昭和23年頃。終戦直後、京都にあった三高において、「リア王」というあだ名で呼ばれていた伊場富三という学生が殺害される。扉が施錠されており、その鍵を持っていて、明確なアリバイがなかったのは「ボン」というあだ名で呼ばれる木津武志。ボンにも一応のアリバイはあるが、京都を案内した老夫婦と宴会をしていたというもの。しかし、その宴会をしていた場所では、そのような宴会はなかったという。
三高のボンの仲間は、ボンの疑いを晴らそうとする。ボンは、何らかの企みによりアリバイがない状態で犯人にされようとしている。前半部分の探偵役である「カミソリ」というあだ名の紙谷達弘のおかげで、酒宴があった場所は、ボンが思っていた場所とは異なる場所であった可能性が出てくる。
この作品は、「バールト」と呼ばれる菱川一造の家族が黒幕。三高に合格した真のバールトが死亡したために、菱川家を守るため、同じく秀才だった時川増夫を菱川一造として三高に入学させる。バールトの故郷から来た他の三高生が列車から墜落死したという事実を伏線として取り込み、これがこの入れ替わりを隠蔽するために、バールト(=時川)が殺害していたという構図になっている。
ボンと菱川奈智子のロマンスも間に盛り込み、前半部分では、カミソリによるダミーの推理が披露される。ボンが犯人でない以上、密室殺人を実現するにはトリックが必要。そのトリックは、部屋の中に真犯人がいたというもの。リア王が死んだ部屋には奥に鍵が掛かった倉庫があり、その鍵は複製が可能だった。その倉庫に真犯人である「カラバン」という男が隠れていたというもの。カラバンは偽学生。偽学生であることがバレないようにリア王を殺害したという動機だった。
リア王を殺害したのはカラバン。ボンと奈智子のロマンスはかなわず、奈智子はボンの前から姿を消す。
舞台は30年後。「田中豊」という男の事故死の記事を見たボン=木津武志とその息子・秀一の会話から後半が始まる。秀一は、カラバンを犯人としたカミソリの推理に違和感を覚える。カミソリの推理には動機に疑問があり、何よりなぜ密室にしたのか。密室にした目的が解き明かされていない点がすっきりしないという。
秀一は、ガールフレンドの藤木美弥子とともに、30年前の事件の捜査をする。そして、カラバン(=田中豊)とカミソリの事故死も殺人ではないかと疑い、併せてその犯人の捜査も行う。
後半の中で、バールトは菱川一造ではなく、時川増夫だったという推理が明かされる。一造の父である菱川達平が計画しており、達平の性格や、電車内でのバールトと同郷の三高生の死亡、奈智子のセリフなどが伏線となっている。
メディカル・プリンティングというカラバンが経営していた会社と、紅十医大の不正入学問題が出てきて、バールト、カミソリ、カラバンの三人が悪事に手を染めていたことが分かる。バールト(=増夫)は、カミソリを殺害し、悪事が明るみに出そうになった時点でカラバンも殺害した。それは、達平の思想の影響もあるという。
密室殺人があった現場は資料会館として残っており、秀一が密室の謎を解く。リア王は空襲のショックで、火事を見るとパニックになる。寮の火事の際に、ドアに体を打ち付けていたことを知ったバールトは、クラーレという毒をドアに仕込んでいた。いわゆる、プロバビリティの犯罪。自動発火装置と電話により、火事があったと誤信させていた。
バールトは、奈智子から来た手紙をボンに届かないようにしており、奈智子とボンは会えなかった。奈智子が息子に「武志」という名をつけていたことを知るという終わり方。
リア王殺害の密室トリックは、犯人が密室内にいなかったという分類に入るトリック。火事になるとドアに体当たりをするというリア王の特殊な性格を利用したもの。ドアに毒を塗った針を仕込んでいた。バリバリの物理トリックであり、このトリックだけなら短編程度のものであり、さほど面白い仕上がりにはならない。もう一つはアリバイトリック。リア王を一人にするために、バールトの両親がボンのガイドを受けた後、酒宴をする。そのことを隠すというもの。このアリバイトリックも、トリックとしてはチープ。このチープなトリックを、バールトの人物すり替えという大きなプロットで包み、多数の伏線を張り巡らせている。
30年前の密室殺人事件と、30年後の医学大学の不正入試事件を絡ませているのは、梶龍雄っぽい作風といえるが、30年後の不正入試事件はなくてもよかったかもしれない。30年前の密室トリックを、30年後にボンの息子が解き明かすという展開は面白い。
トリックはチープだが、物語全体の雰囲気、構成、伏線の妙が通好みの作品だと思う。個人的にも文体などが肌に合い、すっと読むことができた。意外性はそこまででもなかったが、それなりに楽しめたので、ギリギリの★4で。 -
Posted by ブクログ
戦時中、疎開先で事故死したと思っていた弟。しかし母が死に際に、弟は殺されたのだと告げる。その真相を知るために山蔵を訪れた智一に降りかかる新たな事件。ばりばりの本格ミステリです。
一見したところ地味かなあ、という気がしました。こういうのっていかにも因習漂う村、とかを期待しますが、それほどでもないような。もっとどろどろしたのを期待してたんだけど、案外と読み口もライトだし、コンクリートの欠陥とかそういう要素はちょっと苦手だし、前評判の期待が大きすぎたかな、ってのでなかなか遅々として読み進まなかったのですが。
……いや、さすがの解決編でした。やられた! 伏線たっぷり、物理トリックはあるしそれ意外にもトリックいろいろ。そしてこの物語の終わり方も個人的に好きだなあ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ● 感想
1977年に「透明な季節」で乱歩賞を取っているが、著作が絶版で古書価格が高騰している梶龍雄の代表作の1つ。徳間の特選で復刊され、期待して読んだ。期待が高すぎたため、期待以上とまではいかなかったが、満足できるデキではあった。
メイントリックは、2つの人物入れ替えトリック。仲城秀二は妙見義典となり、妙見義典は「竜神池の小さな死体」となる。その後、23歳の頃に、大柏たえという人物の息子を殺害。別の人物=黒岩教授になりすます。
AがBになりすまし、さらにCに成りすますという二重の人物入れ替えトリック。
秀次の死の真相解明のほかに、コンクリートブロックの亀裂の実験があり、そもそも、この実験結果改ざんのために、智一を山蔵にとどまらせるという「赤毛連盟」的トリックが加わる。
この2つが有機的にかみ合う。すなわち、秀二の父は特攻の大熊弘三であるという「血」があり、秀二は母親を独占された智一に復讐をするために、同じ研究者として近づく。智一の研究を利用し、実益と復讐を行おうとする。
さらには、伏線を仕込みつつ、黒岩のアリバイ工作が披露される。バーでの偽黒岩のアリバイは、この作品全体の人物入れ替えとも関係する。龍神池での物理的なアリバイ工作はご愛敬だろう。
美緒による推理では、黒岩が犯人であることまでは辿り着くが、黒岩=秀二にまでは辿り着かず。
智一による、大熊弘三殺し、秀二殺しと、三沢ダム決壊まで暗示したラストにつながる。
印象としては詰め込み過ぎである。目新しい、斬新なトリックはないが、既存のトリックの組み合わせと、巧みな伏線がウリだろう。「やられた」とか、「えー」という印象まではないが、「うまい」、「なるほど」と感じさせる伏線が多数。玄人の評価が高い作品、売れないけど古書価格が高騰する作品っぽい印象である。
期待が高すぎたから、期待以上ではなかったが、がっかりするようなレベルではない。文体も読みやすく、驚愕はできなかったが、感心できた秀作。★4としたい。
● 「赤毛連盟」的構造
仲城智一は、ダム建設のためのコンクリート関係で重要な実験を行っている。その実験結果を改ざんするために、仲城智一の弟でもある黒岩教授は、自分の弟は死んだと思っており、その死の真相を調べるために山蔵という土地に向かった仲城智一を足止めしようとする。
コンクリートには、仲城智一の予測どおり、亀裂が入っていたが、そのコンクリートはすり替えられていた。
● 人物入れ替えトリック1
戦時中、疎開していた際に、仲城智一の弟、仲城秀二は、妙見義典と入れ替わる。妙見義典は「竜神池の小さな死体」となり、秀二は、妙見義典として育てられる。
● 人物入れ替えトリック2
妙見義典として生きていた秀二は、大柏たえという人物の息子を自分として殺害し、村を出る。その後、仲城智一に復讐するため、同じ研究をし、仲城智一を失脚させようとした。今回のコンクリート実験は、自分の手柄という実益と仲城失脚という復讐を兼ねた計画だった。
● 秀次の出生
秀次の父は、特攻の大熊弘三。大熊は父として秀二を疎開先に尋ねるなどしていた。
● 黒岩教授のアリバイトリック
バーで自分の名をかたって、つけで飲んでいた人物を脅し、アリバイ工作に使った。この男については伏線がある。
● 時系列
S43/9/2
仲城智一、黒岩に授業を代わってもらい、弟、秀二の死の真相の捜査を始める。
S43/9/3
智一、麻川マキ子、青田京子、本庄明と会う。同日、麻川マキ子は黒岩教授の依頼を受け、夜、智一と食事をし、探りを入れる。
山蔵でひき逃げ事件。犯人は花島医師
S43/9/4
智一、秀二の疎開先で教師をしていた工藤という老人に会う。
S43/9/5
智一、山蔵に行く。駅で、黒岩の依頼を受けていた花島医師に出会い、花島医師宅に泊まることになる。
苗場鏡子から話を聴く。鏡子の案内で龍神池を見る。
吉爺と呼ばれる井葉吉助だと誤解して、大柏辰平に会う。
S43/9/6
栗田巡査の話を聴く。
秀二が疎開していた頃、疎開先と別の旅館の女将だった小谷直子の話を聴く。
郷土の研究家の苗場浩吉に話を聴く。
智一の荷物が、花島医師に荒らされる。
S43/9/7
智一が黒岩に襲われ、頭を打つ。
S43/9/8
智一の療養開始
仲城の大学で学生運動が行われる。
S43/9/9
智一の療養2日目
S43/9/10
智一の療養3日目
S43/9/11
智一の療養4日目。佐川美緒が山蔵に来る。
学生大会開催、封鎖解除の決議
S43/9/12
レントゲン結果報告。智一、翌日に帰ることになる。
S43/9/13
黒岩による伊葉吉助殺害。智一、容疑者となる。
S43/9/14
智一の取調べ。容疑者となった智一は、山蔵を出れない。
花島医師が、黒岩に殺害される。
S43/9/15
新聞の切り抜きから、花島医師の家にあるはずのない新聞が見つかったことから、智一以外の者が犯人だという疑いが強くなる。
智一、美緒、山蔵を離れる。このとき、智一は、秀二の父親が特攻の大熊弘三ではないかという疑惑を持つ。
智一は、大学時代の友人で、警視正である高峰雄一に大熊弘三の行方の調査を依頼
智一、研究室で、コンクリートのすり替えがあったことに気付く。
智一、大熊弘三に会い、弘三が秀二の父であることを聞く。智一、弘三を殺害
S43/9/16
美緒による推理。美緒は、花島医師が、薬を飲まなくてよいといったことを聞き、推理小説でいえば、ここで犯人を推理するデータはぜんぶ出つくしたというところよ、と発言
智一と、美緒が、黒岩の名をかたってバーを利用している男を発見。黒岩のアリバイを崩す。
美緒は、智一が、吉爺である伊葉吉助と大柏辰平を取り違えていることを知る。これがアリバイトリックに使われていた。仕掛けを利用し、発見を早めさせ、アリバイ工作をした時間が犯行時間と予測されるようにした。
智一は、美緒の話を聴き、自分の推理を構築して麻川マキ子のところに。マキ子と秀二が知り合いであること、秀二が生きていること、秀二が黒岩医師であることをマキ子に伝え、マキ子のところにいた黒岩医師と対峙
智一は、秀二を殺害
智一はコンクリートの実験の結果を計測する。亀裂は入っていた。
智一のところに美緒、高峰雄一が来る。智一は、黒岩教授と大熊弘三殺害について、高峰に話すという。そこに、三沢ダムのクラックについての電話がある。 -
Posted by ブクログ
第23回江戸川乱歩賞を受賞した梶龍雄氏の長篇第一作。太平洋戦争末期、中学の配属将校が射殺された事件をきっかけに、主人公・高志は彼の妻である薫に淡い恋心を抱いていく……推理小説の形式を取りながらも、卓越した筆力で戦時下における青少年の心理状態を鮮烈に描き出した名作である。本作では《戦時中》という特殊な状況が作品全体を貫いて作用しており、時局の変化に左右される国民の姿が生々しく描かれている。当然、そうした背景は殺人事件にも大きく影響している。序盤こそ諸田少尉の死を中心に物語は展開するが、中盤以降は主人公が抱く未亡人薫への恋慕が物語の軸となる。戦局が激しくなるにつれて所轄署の捜査も中断を余儀なくされ、一人の刑事が個人的に捜査活動を継続するといった状況になってしまう。数百万の死没者を出した戦時下という異常な状況において、個人の死がいかほどの重みを持つものだろうか? 現に、作中では被害者である諸田少尉以外の登場人物たちが戦火の最中で多数亡くなっている。著者はこうした問いかけに対し、思春期の主人公に《戦争による死》と《悪意ある死》を明確に区別させることで一つの解答を与えている。
ラスト一行で明かされるタイトルの意図が胸に響く。
一方で、本作を純粋にミステリとして見ればその平凡さは否めない。事件の推理はアリバイ考証が主であるが、証言がいずれも曖昧であるため、やや冗長に陥ってしまっている。終盤で明かされる真相にもさほど新奇さはない。しかし、後年の著者作品でより顕著になる伏線技巧は、本作でもその片鱗をのぞかせている。修練時のエピソードや子供同士の他愛ない噂話など、随所に犯人の動機を示唆する伏線が敷かれており、終盤で一気に回収される手腕は見事という他ない。自らを「状況設定がトリックに先立つ《アト型作家》である」と称する著者だが、日常の些細な謎が意外なところで真相と繋がっているという創作スタンスはこの時点ですでに確立されている。
絶版作品の価格高騰が著しい梶龍雄氏だが、本作は『江戸川乱歩賞全集(11)』に収録されているためか、現在でも文庫版を安値で入手することができる。また、八二年には藤田敏八監督によって映像化もされているようだが、未見のため詳しい言及は差し控えさせていただく。梶作品の最高傑作とも評される二作目『海を見ないで陸を見よう』は本作の直接的な続編にあたる。『透明な季節』で描かれた関東大空襲から三年後の昭和二三年、高志は東舞子で再び事件に遭遇することになる。プロット上の関連はないので二作目から読み始めても問題ないが、やはり戦中戦後と移り変わる時代背景や主人公の成長をかみしめるため、一作目から順に手をつけておきたい。 -
Posted by ブクログ
ことに会話文がそうなのだけれど、文章が少し生硬な感じで、ちょっと読みにくい気がする。昔の国産ミステリは女性の描き方がめちゃくちゃなことが多いが、本作はそういうことはなく、探偵役を務める美緒嬢など魅力的。その代わりというのも変だが、主人公の感情の振り幅が大きすぎて、ついて行けないところがある。終盤、主人公はある人物に怒りを爆発させるのだけれど、それが唐突に過ぎる。確かに相手の人物は怒られても仕方のないことをしているのだが、それまで主人公がむしろ家族に対しても冷淡な人物として描写されてきただけに、無理矢理な感じは残る。ミステリとしては、意外な動機+大ネタで、そう来るかという感じ。