【感想・ネタバレ】梶龍雄 青春迷路ミステリコレクション1 リア王密室に死す〈新装版〉のレビュー

あらすじ

発売2週間で、即重版した梶龍雄「龍神池の小さな死体」。
梶龍雄のリリカル路線のミステリ作品を集めた別系統〈青春迷路ミステリコレクション〉が始動──傑作ミステリとしても特に名高い「リア王密室に死す」が第一弾!
如才ないリアリストであるためリア王と渾名される三高生・伊場富三が下宿先の鍵のかかった倉の中で毒殺されていた。
盗まれたのは、ノートと作文帳だった。
嫌疑は同居者のボン・木津武志にかかるが、キレ者のカミソリ・紙谷達弘ら級友たちは無実を信じ、ボンを救うべく密室殺人の謎に立ち向かった。
終戦直後、焼け残った古都京都を舞台に、個性豊かな旧制最後の三高生たちが繰り広げる本格長篇。
「本格ミステリの中に、人間を生き生きと描きたい。それが私の変わらぬ願望だ」という言葉を遺した梶龍雄だが、
著者の作品の中でも特にリリカルな心情を掬い取った旧制高校シリーズ作品となっている。

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Posted by ブクログ

戦後の京都を舞台に、三高最期の学生達が経験した密室殺人と焼かれたノートの謎。
二部仕立ての構成は、青春モノというより過ぎ去った過去へのノスタルジーに溢れた懐古モノといったテイストだが、とにかく無駄のない物語と伏線の巧みさでとても面白かった。

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2023年10月29日

Posted by ブクログ

戦後直後、旧制三高生の木津武志は、同居する伊場富三(リア王)の怪死に直面する。アリバイが弱く鍵を持つ武志は疑われるが、三高の仲間達と真相を目指す。
龍神池〜で期待していたカジタツはやはりすごかった。後半の想定外の展開に心地よく翻弄されました。

カラバンやバールトなど癖が強いあだ名に辟易しつつ、郷愁を強く感じるラストは自分がアラフィフだから?
三高生達を活き活きと描きつつ、それらが事件の主要要素として無理なく無駄なく配置されているのはさすが。青春小説でもあります。

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2023年05月05日

Posted by ブクログ

● 感想
 時代背景としては、昭和23年頃。終戦直後、京都にあった三高において、「リア王」というあだ名で呼ばれていた伊場富三という学生が殺害される。扉が施錠されており、その鍵を持っていて、明確なアリバイがなかったのは「ボン」というあだ名で呼ばれる木津武志。ボンにも一応のアリバイはあるが、京都を案内した老夫婦と宴会をしていたというもの。しかし、その宴会をしていた場所では、そのような宴会はなかったという。
 三高のボンの仲間は、ボンの疑いを晴らそうとする。ボンは、何らかの企みによりアリバイがない状態で犯人にされようとしている。前半部分の探偵役である「カミソリ」というあだ名の紙谷達弘のおかげで、酒宴があった場所は、ボンが思っていた場所とは異なる場所であった可能性が出てくる。
 この作品は、「バールト」と呼ばれる菱川一造の家族が黒幕。三高に合格した真のバールトが死亡したために、菱川家を守るため、同じく秀才だった時川増夫を菱川一造として三高に入学させる。バールトの故郷から来た他の三高生が列車から墜落死したという事実を伏線として取り込み、これがこの入れ替わりを隠蔽するために、バールト(=時川)が殺害していたという構図になっている。
 ボンと菱川奈智子のロマンスも間に盛り込み、前半部分では、カミソリによるダミーの推理が披露される。ボンが犯人でない以上、密室殺人を実現するにはトリックが必要。そのトリックは、部屋の中に真犯人がいたというもの。リア王が死んだ部屋には奥に鍵が掛かった倉庫があり、その鍵は複製が可能だった。その倉庫に真犯人である「カラバン」という男が隠れていたというもの。カラバンは偽学生。偽学生であることがバレないようにリア王を殺害したという動機だった。
 リア王を殺害したのはカラバン。ボンと奈智子のロマンスはかなわず、奈智子はボンの前から姿を消す。
 舞台は30年後。「田中豊」という男の事故死の記事を見たボン=木津武志とその息子・秀一の会話から後半が始まる。秀一は、カラバンを犯人としたカミソリの推理に違和感を覚える。カミソリの推理には動機に疑問があり、何よりなぜ密室にしたのか。密室にした目的が解き明かされていない点がすっきりしないという。
 秀一は、ガールフレンドの藤木美弥子とともに、30年前の事件の捜査をする。そして、カラバン(=田中豊)とカミソリの事故死も殺人ではないかと疑い、併せてその犯人の捜査も行う。
 後半の中で、バールトは菱川一造ではなく、時川増夫だったという推理が明かされる。一造の父である菱川達平が計画しており、達平の性格や、電車内でのバールトと同郷の三高生の死亡、奈智子のセリフなどが伏線となっている。
 メディカル・プリンティングというカラバンが経営していた会社と、紅十医大の不正入学問題が出てきて、バールト、カミソリ、カラバンの三人が悪事に手を染めていたことが分かる。バールト(=増夫)は、カミソリを殺害し、悪事が明るみに出そうになった時点でカラバンも殺害した。それは、達平の思想の影響もあるという。
 密室殺人があった現場は資料会館として残っており、秀一が密室の謎を解く。リア王は空襲のショックで、火事を見るとパニックになる。寮の火事の際に、ドアに体を打ち付けていたことを知ったバールトは、クラーレという毒をドアに仕込んでいた。いわゆる、プロバビリティの犯罪。自動発火装置と電話により、火事があったと誤信させていた。
 バールトは、奈智子から来た手紙をボンに届かないようにしており、奈智子とボンは会えなかった。奈智子が息子に「武志」という名をつけていたことを知るという終わり方。
 リア王殺害の密室トリックは、犯人が密室内にいなかったという分類に入るトリック。火事になるとドアに体当たりをするというリア王の特殊な性格を利用したもの。ドアに毒を塗った針を仕込んでいた。バリバリの物理トリックであり、このトリックだけなら短編程度のものであり、さほど面白い仕上がりにはならない。もう一つはアリバイトリック。リア王を一人にするために、バールトの両親がボンのガイドを受けた後、酒宴をする。そのことを隠すというもの。このアリバイトリックも、トリックとしてはチープ。このチープなトリックを、バールトの人物すり替えという大きなプロットで包み、多数の伏線を張り巡らせている。
 30年前の密室殺人事件と、30年後の医学大学の不正入試事件を絡ませているのは、梶龍雄っぽい作風といえるが、30年後の不正入試事件はなくてもよかったかもしれない。30年前の密室トリックを、30年後にボンの息子が解き明かすという展開は面白い。
 トリックはチープだが、物語全体の雰囲気、構成、伏線の妙が通好みの作品だと思う。個人的にも文体などが肌に合い、すっと読むことができた。意外性はそこまででもなかったが、それなりに楽しめたので、ギリギリの★4で。

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2023年01月09日

Posted by ブクログ

過去編での解決が、現代編でひっくり返る仕掛けは少なくとも今ではありふれてはいるが、それでも楽しい。加えて、ハゥでもホワイとしても完成度の高い密室トリック。ミステリとしてはこれだけで充分だろう。それでも物語としての一番の美質は、青春物語としての部分にあるだろうね。現代編があることで、全てがノスタルジーの霧に包まれて、少々の美化は許されるだろう構造の勝利。

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2022年10月05日

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