イスラエルSF&ファンタジー界の中心的人物らによる
SF短編選集。
原文が英語の作品[*1]あり、
ヘブライ語→英語→日本語[*2]、
あるいはロシア語→英語→日本語[*3]という重訳もあり。
訳者あとがきを含めると700ページを超す大部。
収録作は、
■ラヴィ・ティドハー「オレンジ畑の香り」
...続きを読むThe Smell of Orange Groves(2011年)[*1]
■ガイル・ハエヴェン「スロー族」
The Slows(1999年)[*2]
■ケレン・ランズマン「アレキサンドリアを焼く」
Burn Alexadria(2015年)[*2]
■ガイ・ハソン「完璧な娘」
The Perfect Girl(2005年)[*1]
■ナヴァ・セメル「星々の狩人」
Hunter of Stars(2009年)[*2]
■ニル・ヤニヴ「信心者たち」
The Believers(2007年)[*2]
■エヤル・テレル「可能性世界」
Possibilities(2003年)[*1]
■ロテム・バルヒン「鏡」
In the Mirror(2007年)[*2]
■モルデハイ・サソン「シュテルン=ゲルラッハのネズミ」
The Stern-Gerlach Mice(1984年)[*2]
■サヴィヨン・リープレヒト「夜の似合う場所」
A Good Place for the Night(2002年)[*2]
■ペサハ(パヴェル)・エマヌエル「白いカーテン」
White Curtain(2007年)[*3]
■ヤエル・フルマン「男の夢」
A Man's Dream(2006年)[*2]
■グル・ショムロン「二分早く」
Two Minutes Too Early(2003年)[*1]
■ニタイ・ペレツ「ろくでもない秋」
My Crappy Autumn(2005年)[*2]
■シモン・アダフ「立ち去らなくては」
They Had to Move(2008年)[*2]
「おお」と唸らされる佳品もあれば「で?」と
首を傾げたくなる話も。
かの地の歴史と文化に造詣が深ければ、
もっとピンと来るものがあるのかもしれないが。
ほとんどが21世紀に入ってから書かれた小説だが、
意外にアナログ&ローテク感が強く、
最新(を超えた)テクノロジーへの言及も
ほとんど見られないし、
訳者代表があとがきに記しているとおり、
宇宙空間を舞台にした物語も含まれていない。
これはイスラエルSF界が「SF」を
サイエンス・フィクション=空想科学ではなく
スペキュレイティヴ・フィクション(speculative fiction)
=思弁的空想と認識しているためだそうで、
なるほど本書の原題も
"A Treasury of Israeli Speculative Literature" だった。
一番私の好みに合っていたのはガイ・ハソン「完璧な娘」。
超能力者がトレーニングを受ける
全寮制のインディアナポリス・アカデミーに入学した
アレグザンドラ・ワトスンは、
厳しいルールとカリキュラムに耐えようとする中、
実習で、真新しく美しい遺体に触れて
残留思惟を読み取ろうとする。
ところが、アレグザンドラは
彼女=ステファニー・レナルズの境遇に
共感を覚える点が多いせいもあって深入りしてしまい
……という、アメリカのサイコホラー風の雰囲気。
パーフェクト・ガールすなわち完璧な女の子、つまり、
若く美しいまま既に死んでいる
無敵の少女に振り回される生者の話。
日頃縁のない異文化社会の文学に関心があるので、
興味本位で。
帯には来年刊行予定というギリシャSF傑作選
『ノヴァ・ヘラス』の告知が。
こちらも読んでみたいと思う。