各章立てを一人、あるいは数人のチームで取材したもので構成しているためか前半は内容の重複や繰り返しが多く読みにくく感じた。
取材したものをふんだんに盛り込もうとしてこういう構成になったのだろうがもう少し内容を整理した方が良いのではないかと感じた。
後半はこの事件から見える社会の障害者に対する問題について前半よりは内容の深まりを感じた。
終章とまとめは新聞記者らしく前向きに、障害者に対する差別や排除のない社会の実現を目指して取材を続けて行くと言うように締めているが、まとめとしてはそうなるかも思うものの残念ながら実現は難しいと思う。
今のコロナ禍の中で罹患した人たちに対する差別や排除の様相を見てもそれは無理だと考える。
本書にも書かれているが、新出生前診断で障害の可能性のある子どもが生まれる率が高いと診断された妊婦、家族の9割が妊娠中絶を選択するという現実を考えても、今の社会が障害者が社会で「普通に」生きるには困難な現実があると考えている人が大多数であることを示していると思う。
絵に描いた餅という例えがあるが現実はそれ以上に希望が持てない現状だと思う。
この犯人を死刑にしたならば「生きるに値しない命はある」と主張するこの犯人の考えを支持することになる、という視点は死刑制度について考えを深めるきっかけになった。(自分は死刑制度については、そのような考え方で向き合うことではないと思うが)
この事件や障害者が社会で「普通に」生きていくということについて、自分には関係のない遠い話だと考える人たちが大多数だと思う。生きづらさを抱えた人たちに対する関心を持つ人が少なすぎるということがそもそもの大きな問題なのではとも思う。
どうしたらそういう世の中を目指せるかの前に、自分ごととして関心をもってもらうことから考えないとならないのでは。
この本を最も読むべき人たちにとってこの本は、残念ながら最も遠い一冊なのだと思う。