神奈川新聞取材班のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
1996年7月に起きた障害者施設での殺傷事件のルポタージュ。
事件の経過、犯人との接見、被害者家族の感情、障害者福祉の現状など丁寧な取材が書かれていました。
当時のニュースを見て、秋葉原通り魔殺人事件、神戸連続児童殺傷事件など、何度も起きている殺人事件の延長で捉えていたと思う。理解不能な極端な優生思想によって起きた事件、気の毒だけれど自分の日常からは離れた所で起きた事件と認識していました。
「優生思想を突き詰めると能力主義にたどり着く」文中に出てくる言葉。現代社会ではあらゆる場面で生産性、効率化、能力を測る言葉を目にします。自分は上手くできない人々に苛立ち排除しようとしていなかっただろうか -
Posted by ブクログ
ネタバレ2016.7.26未明、神奈川県相模原市の「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害され職員2人を含む26人が重軽傷を負わされた、元職員植松聖による事件は記憶に新しい。事件の概要、植松聖という人物について、匿名での裁判のほか、優生思想、障害者(児)の教育や暮らしの問題などについて書かれている。事件後、そして現在でも植松の行為について称賛的な意見が少なくないのは事実。以下本文より(P337) 「当事者は差別されている存在であることを自覚した上で差別に対してもっと声を上げていく必要がある。一方、健全者(健常者)は自らが障害者を差別する存在であることと向き合うべきだ」(p356 ) 「地域に密着した生
-
Posted by ブクログ
元ライターです。
膨大な取材量かつ非常にわかりやすい文体。神奈川新聞記者の能力に感動。
植松聖を通して、社会の問題と矛盾を突いた一冊です。
・「生きる価値なし」と命の選別をした植松は、生きるべきではないと死刑をくだす矛盾。
・世間では命の価値は平等と謳いながら、出生前判断で染色体異常が見つかると9割は中絶する矛盾。
・障害がある人にとって必要な支援が受けやすいようにする特別支援学校が、健常者と障害者の分断を促進しているというジレンマ。
「どうして優生思想に傾倒していったのか」を裁判で掘り下げなかったことは、第二の加害者を生む問題に繋がりかねない。
我が心にもいる小さな「植松聖」と向き合わ -
Posted by ブクログ
事件についての詳細と、加害者や被害者の思考や、とりまく環境なども詳しく書かれていて、誠実で丁寧な内容でした。(丁寧すぎてちょっと長いけど)
また、優生思想についての問題も多く語られており、事件を通して障害を持つ当事者の差別問題も知れて大変勉強になりました。
優生思想については、両者の言い分のどちらにも正がある難しい問題だと思うので、反優生論のみではなく、より中立的だとより良かったのではないか。
近年の反差別や平等などの思想が一人歩きして、生活レベルでの実利との差が開きすぎて生まれた事件のような気がしました。
差別に対する怒りも理解出来るけど、平等が正当であるという、確固たる理由もないと -
Posted by ブクログ
個人による日本における大量殺人事件「やまゆり園事件」。元職員の男がなぜこんな凄惨な事件を起こしたのか、だけにとどまらず、この社会に潜む病理に切り込んだ一冊。
確かに犯人・植松の思考は、常人のそれとは違う。でも、異常者と言えるほど、突飛な発想ではないようにも思える。特に、障がい者の家族のしんどさや職員の疲れた様子を鑑みて、それを軽減させたいという思いはなんとなくわかった(だからと言って、勝手に命を奪ったり傷つけたりするのは言語道断だが)。でもこれが現実なんだろうなと。
そして、奪われて良い命などないという原則によって行われている裁判のはずが、死刑を求刑している(命をうばいにいっている)のが、 -
Posted by ブクログ
ネタバレずっと気になっている事件だった。「重度の知的障害者には生きる価値がない」という植松の主張への、明確な反駁を知りたかったからだ。人間の命の価値とは何か、という点に踏み込んで論じるものではなかったが、読みながら自問させられることも多かった。
本書の前半は、植松の生い立ちや凶行の顛末、遺族の心情や裁判など、やまゆり園事件という具体的事例について。後半は、優生思想や障害者を排除する分断社会、インクルーシブ教育などについて、日本の現状を解説している。
後半は、高度経済成長の中で生産性が重視され、障害者の隔離や不妊手術が行われてきたこと、対して80年代からの当事者運動の発展などにも触れられ、読み応えがあっ -
Posted by ブクログ
本の概要
2016年7月26日、知的障害者施設「津久井やまゆり園」で19人が死亡、26人が重軽傷を負った「やまゆり園事件」。犯人は植松聖、当時26歳の元職員だった。なぜ彼は「障害者は生きるに値しない」と考えるに至ったのか。地元紙記者が、37回の接見ほか丹念な取材を続け、差別を許容する現代日本のゆがみを浮き彫りにした渾身のドキュメント。
植松の犯行を行う前の状態や行動・言動までよく取材をされて書かれています。
ただ、後半の亡くなられた方のご遺族やら周りの皆様、亡くなったご本人の思い出や会話が何人分も記載されており、後半読めずにおりました。大変胸の痛い事件で、何て言葉にしたらいいのか分からない。 -
Posted by ブクログ
日本史に残る個人による大量殺人事件。
植松死刑囚がナチスのような選民思想というか大麻でネジが緩くなっていたのかは不明だが自意識過剰である事は疑いない。事件前に精神病院での退院をクリアしている辺り事件を起こして精神異常を訴え再度退院して娑婆に出ようと考えていたのではあるまいか。どちらにせよ彼にとっての格上でなく格下の人間を殺すという行為は卑劣卑小の極みであろう。本書の語録からは無感覚なものを感じるが死刑を迎えるその日にどの様な心境になるか…。
被害者が植松曰く「劣ったもの」として扱われ本名すら明かされない報道やこの事件をどう捉えて乗り越えていくか迄に筆は及んでいる。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ植松聖の動機は結局わからないという印象を抱く人が多いが、本人から説明されつくされているが理解できないという印象をいだいた。
この本を読んで衝撃だったのはメディアが被害者の実名報道にとても固執していること。実名報道が通例なのだとされているけど、筆者である神奈川新聞取材者が書いてある通り、被害者家族はメディアスクラムを恐れていた。
その気持ちを無視して知る権利という、主語が曖昧な権利を主張するのは、なんというか怖かった。
報道されることで、周りからの目線、取材攻勢、あるいは施設に入れてしまったという後ろめたさを抱えながら生きてきたことに直面する辛さ、肉親が殺されたばかりの被害者家族をそういった状況 -
Posted by ブクログ
神奈川新聞取材班『やまゆり園事件』幻冬舎文庫。
2016年に知的障害者施設で起きた悲惨な殺傷事件と犯人の心の内側に迫るドキュメンタリー。と、思って読み始めるが、事件と犯人の人物像に迫るのは前半のみで、犯人の心の闇が明らかにされることもなく、いつの間にか障害者問題を描くノンフィクションへと変貌してしまう。
再び、事件と犯人のことについて言及されるのかと読み進めるが、そういうこともなく、消化不良気味に完結してしまうのだ。
2016年7月26日、当時26歳の元職員の植松聖が知的障害者施設『津久井やまゆり園』に浸入し、19人を死亡させ、26人に重軽傷を負わせた最悪の殺傷事件。
植松は「障害者は