※ゲラ版先読み企画の感想を転記
ミステリというよりスリラーに近い内容で、残虐なシーンも出てくるので、読む人を選ぶ小説かもしれません…。
全体的に重苦しく、過去の事件の真相に迫っていくワクワク感は少ないです。主人公はネガティブな性格だし、最後まで読んでも爽快感はあまりありません。個人的には苦手な部類
...続きを読むですが、そういうのが好きな人にははまるのではないでしょうか。
一章が非常に短くまとめられているため読み進めやすかったです。反面、リーダビリティはそれほど良いとも言えず、何度読んでも理解しづらい文章がいくつもありました。特にカウンセラーのベティとの会話は漠然として捉えどころがないので尚更でした。
通常は否定文で終わる接続詞なのに肯定文で終わる、といったような文章のクセの強さは原文のせいなのか翻訳のせいなのか気になるところです。
現在と過去を行き来しながら少しずつ事件の全貌があきらかになっていくのですが、過去の語りが現在に追いついたときにクライマックスを迎えるのかと思いきや、途中から過去ばかりになり、現在に追いついても今ひとつ盛り上がらないまま真相はすべて事後に説明、というのはもったいないなと思いました。第二の真相についても「そうだったのか!」という驚きにはいたらず…。
ニュージーランドが舞台ということで、欧米との違いも楽しみの一つでした。何かが大きく違うわけではありませんが、しいて言えば人生におけるモチベーションが違うような気がしました。
タイを筆頭にいいキャラクターが揃っているので、もう少し掘り下げてほしかったです。マーダーボールも冒頭から出てきたわりにはプレイシーンがほとんどなかったのが残念です。タイがフィンに車椅子を作ってあげるシーンなんかがあってもよかったなと思いました。
個人的に印象に残っているのは、141ページの後半の下記。
「相手を悪人とみなせば、悪に立ち向かう自分は正義の味方。わかりやすく、単純なとらえ方だ。自分自身がどうあろうと関係ない、敵と立ち向かうだけでいいのだ。(中略)憎きドイツ兵が、あんなひどいやつらでよかった。あいつらが善人だったら、自分たちがやったことを悔やんで生きていかなければならないからな」
そんなに単純ではないから、生きるのは大変なんだよね、としみじみ思ったシーンです。